2 女人間は美少女に進化した
女人間は最初こそクマの解体に悲鳴を上げていたものの、肉が焼けるとただでさえ泥にまみれていた顔を血と油まみれにして貪り食った。
顔中を口にして肉をむさぼる姿は最近の草食系オークよりもオークらしい。
「ごちそうさまでした」
小さなお腹をパンパンにしてそう言った彼女の眼にはもう、私に対する不信感や恐怖感はなった。以外に単純だなこの人間。太らせて食うタイプの怪物を知らないんだろうかと少し心配になる。
しかもこの女人間、地面に寝転がってそのまま寝やがった。吠えて食って寝るという実に野性的である。
着ていた毛皮をかぶせて私はこの女人間の素性について考えた。言葉を話せるあたり、動物に育てられた野性児というわけではない。でもこのワイルドすぎる行動からみるに、高い身分ではないだろう。狩りではぐれた猟師や農民の娘だろうか。
女人間の口元によって来た毒虫を振り払っていると獣と虫と泥のにおいが漂ってきた。起きたら水浴びさせよう。
「お腹がすいたわ!」
あれだけ食ってまたお腹を鳴らして起きた女人間に若干引きつつも、サービスで使いようによっては石鹸代わりになる毒草も持たせて比較的きれいな沼に連れて行った。ちなみにきれいといってもあくまでオーク基準なので異常にきれい好きな人間が見たら怒り出すかもしれない。
「水よ!水だわ!久しぶりの大量の水!」
「ジャッジ基準が犬以下で助かりました」
「ここで体を洗っていいのね?嬉しいわ。五年ほどお風呂に入っていなかったから」
「早く入ってください」
毛皮貸さなきゃよかった。
なんとなく見張っているのもあれなので、私は池のふちで後ろを向いて待った。これで女人間が逃げ出したらそれまでだ。
「あがったわよ。早く昼食にしましょう」
振り返ると、薄汚れた女人間はいなくなっていた。
いるのはエルフもフェアリーもマーメイドも裸足で逃げ出すような、美しいいきものがいた。
「失礼ですが、あなたは?」
「ああ、まだ名乗ってなかったわね。私の名前はルナよ」
かろうじて声から同一人物だとわかった。こいつは白鳥から美しいお姫様に化ける怪物ならぬ、野獣から美女に化けるタイプの怪物なのだろうか?
女人間もとい野獣もといルナは、私の毛皮を羽織ると、歌を歌い始めた。水浴びをする前だったら珍獣の珍行動としか思えないが、身なりを整えた今は一枚の絵のように様になった。もしかすると、彼女は私が考える以上にやんごとなき人間かもしれない。貴族の令嬢か、名のある歌姫か。
毒虫を啄み死体を食らう怪鳥すらルナの歌に引き寄せられ、肩で羽を休めた。
ルナはそっと鳥を胸に抱き寄せ、
グエッ
その首をぽきりと折った。
「昼食ゲットよ!」
やっぱり野獣だろうか。