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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魔術学園世界記童話

絶対の運と導きの力、戦の女神。その名は――

作者: RYUITI

 【舞台は右部大陸の主要都市から離れた、

赤茶の土と無数の岩山がそびえ立つ荒廃した大地】


広々とした岩々を、カアカアと禍々しい色をした鳥達が周りを囲み、

地に居る獲物を虫けらと嘲笑するかのように下卑た眼で眺めていた。


――――

――――――!!


シンとした空気の中、禍々しい色をした鳥達が、

一斉に大きく鳴いた時。



その鳴き声が合図となったのか、

魔族が荒れに荒れている山々を越えて突撃を開始する。



毒々しい色の肌をした大小の魔族、

艶めいた肌を持つメスの魔族、

様々な魔族がゴツゴツとした地形を苦ともせず、

獲物であり敵でもある人間へと向かって行く。




最初こそ余裕を持って構えていた人間達も、

交戦する度に波のように力を増していく魔族たちの動きに圧されて。


その事態は、次第に人間側の戦況を悪化させていく。


「だ――誰かっ!!援軍を……い、死にたくない!!!!ああああああ」


飛び交う断末魔、


肌に流れゆく血液。


「いっ嫌ぁ……やめてっ!はなして……! 」

懇願する弱者の声、

眼の前に迫る恐怖に光を失いかけて行く瞳。


「全四十団……全滅も近いか。 」

悲観のため息、

諦めと絶望の声。


「応援はまだかっ!このままでは我々の大地が魔物にっぐ――やめろおおおおっ……!!」


大地を染め上げていたのは美酒ではなく無念の血。


「応援なんて来る訳がないよっだって私達の団はもうすでに――」


そう、既に敗北の道しか残っていない。


けれど唐突に、


「ノワール。

転移先の状況把握、頼むぞ。」


突如として悲観的な空気を打ち破ったのは、

戦場の中央に現われた大きな魔術陣。


そして――そこから聞こえた二つの異なる声だった。


「戦闘状況把握済みだよグロリオっ!

現時点での最優先事項は、

大陸を取り囲んでいる魔族の殲滅と少しでも息のある人間の治癒及び離脱の為の時間確保ねっ! 」


低い男の声に応じるのは、

なんとも強い意思を持ったある女の声。


陣から出現したのは、


多量の黒い羽に塗れている、

黒スーツに身を包んだ一人の男と。


一目視界に入れてしまえば、

立ち止まってしまう程に見事な美しさの、

白銀のドレスに身を包んだ黒髪の女だった。


陣から少し浮くようにして、

トンッと大地に足をつけた男女は、

何処か呆れたような顔と真剣そうな顔という対照的な表情をしていたが、

「あれは――」

何かを見つけた黒スーツの男がすぐさま、

魔族に蹂躙されそうになった団所属の女性を抱え、

片足で魔族を蹴り上げた。


蹴り上げられた豚の様な姿をした黒い魔族は、

フギィ!!と言う叫び声を上げながら、

物凄い速さで戦場から空に打ち上げられ遠ざかっていく。


「まったく、面倒だ。

――この姿で動くのは久しぶりだと言うのに。 」

魔族を蹴り上げた本人は呆れたように不満を零し、

一瞬という時を用いて団所属の女性を、

ノワールと呼んだ女の元へと運んだ。


助けられた団所属の女性は、少しだけ呆気に取られながらも、

「あ、ありがとうございます!!

まさか応援に来て頂けるなんて――

しょ、所属はどちらでしょうか!? 」と口にしたので、

黒スーツの男は、

「中央大陸特殊討伐隊の一人、

アグウェイン・グロリオだ。

あっちは特殊討伐隊のリーダー、

アリス・ノワール。

怒らすと怖いから注意しといた方がいい……っと

ノワール!剣を抜いて左側の殲滅を頼む。 」


所属と名前を言ったグロリオと言う男は、

魔族に囚われている人間を素早く救い、

残った魔族をその拳と足で殲滅していく。


一方、ノワールと呼ばれた彼女は、

短く「了解っ」と呟いて、小さく息を吐きだした後。

鞘から引き抜いた白銀の剣で、

素早く敵を斬り付け動く。


その姿と動きは、ゆるやかに動いているようでいて鋭く、

天使のように柔らかく太陽の陽のように力強い。


彼女が動くたび、

空気が澄んでいくようなそんな気さえする。


救われた先遣団の人間はそんな彼女の姿を見て、

呆気にとられたように立ち尽くしているだけ。


彼らが皆、今ここで動いている二人の邪魔をしてしまいかねない。

とも思っているのかは分からないが、


討伐先遣団を多い尽くすほどに居た魔族の姿も、

気が付けばポツリポツリと残る程度に減っていた。


その結果、

魔族に捕らわれていた先遣団を解放したことにより、

傾き続けていた全滅と言う事態を回避できたように映っていて。


戦況が見るからに変わったことで、

気分を良くした団員達が声を上げて残った魔族に対峙しようとした時、


一度だけの大きな突風が吹いて、

人よりも大きな影が、

空から静かに舞い降りてきた。



そしてゆっくりと地に足をつけて、

下卑た笑い声と共に大きく叫び、また笑う。


「ゾヒャヒャヒャ!!!!

くだらない下等生物が、

またココを攻めに来たのかよッ!?

ハッハッハッハア!!」


ノワールと呼ばれたていた彼女は、

地に足をつけたモノを強く睨んで、

銀色に輝く刀剣を構えて叫んだ。

「――――魔族位8位……っ、

アンタだけは……絶対許さないっ……!!」


鋭く辺りに響いたその声に、

錆びれた赤色の二枚の翼と同色の肌。

そして濁りきった緑色の双眼を持つ大きな魔族は、欠伸をしながら口を開いた。

「ンフーン、ゾヒャハッ!

なんだア小娘?

オレにィなんかようかア?」

魔族が喋る度に濃い圧力が人間である団員達とノワールに重く沈んでいく。

歯を食いしばる彼らの口の端から小さく赤色をした血液が滴り落ちようとしている中、

たったヒトリだけ、

魔族から感じる圧を、重さを自らには関係ないという風に平然と進みゆく姿があった。



ゆっくりと自らに近づいてくるそのヒトリに首を傾げながら、

「オマエ、なんで動けるんだア?」と魔族は声を零し尋ねた。


けれど――圧力に左右されないそのヒトリは、

下を向いて表情を見せることも無く何も言わずに口を結んだまま魔族の下へと歩き続けている。


しばらくして魔族の眼の前に辿り着いたその誰かは、

深い紅に染まった二つの眼で魔族を睨みながら一言だけ、

「お前は、サングリエだな――」と問う。


そう問われた魔族は不思議な顔をした後、

「ゾヒャハアアアア、オレノナマエナンテどうでもいいじゃないかア」と笑いながら、

大きな拳を、

眼前にいるヒトリへと向けて放った。

【重々しい魔族の拳が、小さなスーツを着た一人の男へと勢いよく向かっていく。】

――。

――――。

――――――。

――――ググググ。

「貴様に取ってはどうでも良いだろうが……

オレにとっては重要なんだよ」


魔族が放った大きな拳を、

片手で受け止めながら男は静かにそう、口にした。


大きな拳を受けた魔族は不思議そうに首を傾げる。

「オカシイなア……

何で吹き飛ばないんだア?」

そう口にした瞬間、

魔族の腕に亀裂と鈍い痛みが走り、

「グガアアアアア!!!!」

叫び声と共に眼を大きく見開くと、

先ほどまで対峙していた男の姿は無く、

静かに流れる赤々とした雫がだけが魔族の、サングリエの思考を、身体を熱くさせていった。

自らの後ろに気配を感じたサングリエはその気配を破壊しようと向きを勢いよく変えようとした――が。

「地元を好き勝手に攻撃された恨みは、ここで晴らせて貰うぞ、ノワール――――討て。」

サングリエの後ろからグロリオの声が聴こえた瞬間。


重圧から解放され、グロリオから呼ばれた彼女は。

白銀に染まった剣を構えて、

吹き荒れる風のように錆びれた赤色の魔族へと詰め寄り、剣を振り切った。


「 !!――オマエ達ナニモノだア――!!」

血だまりを吐きながら尚も、グロリオとノワールを睨み続けているサングリエの問いに、

魔族の血に塗れたスーツの男が答えた。

「生憎、オレはただの相棒でしかないが、

オレの横にいるのはただの女の子なんかじゃない。

我が国最高の戦の女神、――アリス・ノワールだ。」


「――アリス・ノワール……そうかア。オマエがアノ……」

そう、呟いた魔族はニヤリと口元を歪めた後に砂と化した。


「任務、完了かな ?」戦の女神と称された彼女が、相棒たる男へと尋ねる。


「ひとまずは、終わりか、帰るぞ。」 尋ねられた男が静かにそう答えた。


そうして、大勢の歓声や安堵の声と共に中央大陸へと帰還した彼らの中で、

無断で転移した事がばれたグロリオとノワールだけが、始末書との格闘、

および多くの説教をくらうことになるのだが、


それは少しばかり後の話。







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