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忌祓の守人~元ダメ人間の異界転生譚~  作者: 中野 元創
第三章:暗中の白、浄化の光
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第二十二話:白の雫

「瘴気はほとんど漏れてないから、壁にそっと触れてみて」

「うん。…これで」


 壁に触れるまでに変わったことは何もない。カルスも、浄化の力を扱うことに負担は感じていないらしく、その右腕をそっと伸ばした。


「…あ」

「…おお」


 暗い中、少し距離間の掴み辛い瘴気の壁に触れるため、指先までを伸ばしたカルス。まさにのその指先が壁に触れて、そして、穏やかに、そして鮮やかな色の光が溢れだした。

 赤、青、黄、緑…主には四色。それ以外の物が無いとは言わないが、しかし厳密に何色と表す事が出来ない程度のおぼろげなものだった。

 形も無く、浮かんでは消えていく光の乱舞。それは、数ヶ月前にロルナンで見た光景と酷似している物だと気がついた。

 …そう言えば、あの時の光はおかしかったんだっけ?

 レイリがそんな風に言っていたと思う。紫や桃色、灰色はおかしいんだったか?

 見る限りその色は感じられない。形状の定義も難しそうだし、恐らくはこれが本来、忌種の死体を焼いた時に見られる光景なのだろう。

 ―――炎に神の力が宿っている、なんて風に考えてしまった。いや、この場合、結果を見れば間違いでは無いのかも知れないけれど。


「タクミ、これ」

「成功だ…!やっぱりそれが浄化の力で間違いない。

 そうだ、その力、減ったような感覚はある?」

「う、―ん。多分有るよ。瘴気に触れた所に、新しい力を流し込んでいくような感覚があるから。…あ、短刀からじゃなくて、直接身体から取り出せてる」

「無意識のうちにそこまで出来るようになるんだ…」


 なんだかもう、呆れるほどに成長して行くな、カルスは。スポンジが水を吸うさまに例えられそうな様子だ。

 指先の触れる壁を観察すれば、僅かにへこんでいるようであるが…瘴気は常に浄化され続けている。それはつまり、そこに空いた穴を埋めようとする動きは常に存在し続けているという事なのだろう。


「ただ、一人だけで壁を抜けるのは難しそうだね。少なくとも、とても安全とは言えない」

「う、うん…。僕の方でも、何かが身体の中から減っていっている事が感じられるようになってきたし、全身でこの力を消費し続けるとなると、厳しい面も多いと思うかな」

「うん。壁を越える途中でそんな事になったら、もうそれだけで命取りだ」


 とはいえ、いざとなった時に命を拾う方法が一つ増えたわけで、喜ばしい事にかわりは無かった。

 壁を壊すという計画そのものに変更はなさそうだと思いながら、カルスに提案する。


「何だかあっけないけど、きちんと瘴気の浄化については確認できたし…帰る?」

「そう、だね。あんまり長居しても意味はなさそう」


 カルスとしてもあっけなさは感じていた様だ。だが実際、危険を伴うほどの実験に関しては本来即時に行うべきではないと思うし、いくら脱出を急ぐ時とは言え、まずは報告が先だろうと判断してフィディさんの元へと戻る。

 しかし、歩く先から驚愕を表す声が漏れだしている事に気が付く。それは、ナルク夫妻からの物だけのようで、師匠の物は混じっていない。


「どうしたんだろう…ちょっと急ごう」

「何かあったのかな…?」


 恐怖などは含まれていない様で、少し安心させられる。実際、危険な事が有った訳ではないのだろうと、太い木を避け、元来た場所へと視線を向ければ、そこには白い光が。

 但し、魂光のそれよりも大きな、正しくカルスの浄化の力と同質のものだと分かる光が。


「え?」

「ちょッ!?」


 カルスは驚きの声を上げる。俺だって正直な所驚いた。そこまで大きな反応は出なかったものの、カルスの習得速度が最たるものと思っていたので、それとほとんど同じ、いや、元の技術で力を扱っていなかったことを含めれば更に早く扱うことに成功できるとは思わなかった。

 それも、カルスのそれより体積という面においては大きそうである。


「…というか、この光を出した人って、もしかしなくても師匠…?」


 壁を壊しに行く前の不可解な行動が頭に過ぎる。先程の驚きが、師匠以外に二人だけだった事からも、ほとんど確定的だ。

 近づいて行けば、状況も良く分かる。夫妻はその光を取り巻く様に立ち、見つめている。

 ああ、間違いない。あの光の中心に居るのは師匠だ。

 俺とカルスが夫妻と同じ程度の距離まで光の外縁に―――当たりも白く照らされているというのに、この浄化の力は形が認識できてしまう―――近づいた時、揺らぐように僅か、光が収縮し、数瞬の停滞の後、上方へと延びるように細く、長く形を変えていく。

 半径一メートル未満という程度の太さとなった光の柱の中心へと立つ師匠は、瞳を閉じ、そして一度、息をゆっくりと吐いた。

 すると、光の柱は幾筋もの光の線へと変わり、ゆっくりと、しかし加速度的にその速度を増しながら師匠の身体や、その周りへと降り注いで行く。カルスが光を抑える時は、ゆっくりと光度を抑えながら体に吸い込まれていくように見えたが、一体何の差があると言うのか。

 そんな事を考えているうちに全ての光は降り注ぎ、そして、師匠は瞳を見開く。その視線は、俺と、その隣に立つカルスへと向けられたもの用であり、また、―――どこか誇らしげな、受け取りようによっては挑発ともとられかねない様な光を宿していた。


「う…」

「得意げにしていられるのも、もう終わり―――私の血筋を考えれば、当然の事」

「え?…あ!」


 そうか、失念していたが、この村における族長というものが投票な度で選ばれる訳ではなく、古き時代の、一種貴族制度のごとき体勢で有ったとしたら。

 ―――きっと当然のように、神の血を濃く受け継ぐ者が、その地位についたのだろう。

 となれば話は簡単だ。もっとも神の血を受け継いでいる家系である師匠は、恐らく村の中でも有数の浄化力を持っているに違いない。


「…白の、雫。昔聞いた、私の名前の由来と同じ」

「白の、雫…」


 それは間違いなく、先程に光が分解され、消えゆく様の事を指しているのだろう。なるほど、言われてみれば正しく白の雫。浄化の雨というところか。

 きっと、この力を忘れられる前に生まれた名前だったのだろう。それを確実だと言い切れる光景だった。


「得意げな顔で、ふんぞり返っていられる期間も、数分だったね、カルス。…本領、発揮しても?」

「………お手柔らかにお願いします」

「え、えと、カルス?何か勝負でもしてたの?」


 浄化の力をどちらがよく使えるか、という内容で勝負でもしていたのかと思ったが、どうやら違うらしい。そんな雰囲気を感じる。

 だとすれば一体何なのか。はっきりとは言えないのだが…若さから来る、健常的な何かなのだろう。

 結局本気のいさかいの気配は感じない。

 そんな光景を横目に、フィディさんへと話しかける。


「俺たちの方では、この光が確かに浄化の力を備えている物だと確認できました。…俺としては、村人や、何より族長に対して事態の説明、及び浄化の力の発現を目指して行くべきだと考えますが…どうしますか?」

「そうだな…。現在の方向としてはそれで問題ない。だが、壁を壊す際には全員の力の覚醒は待たないことにするよ。…元からして瘴気を私たちへとぶつけない方策を固めなければいけないことにかわりは無い。ならば、力を持つのは習得の早い物だけにし、それ以外は壁の外へ出てからでも問題は無いだろう。

 ―――女神アリュ―シャも、力を失ったと知った上で、脱出を最優先にしたんだろう?」


 時間がない以上、出来ることには限りがある。確かにそれについて、少し考えが足りなかった。

 アリュ―シャ様も脱出最優先だとおっしゃられていたわけだし、ここはフィディさんの言に乗ろう。


「分かりました。俺もそれに賛成です。…それで、壁を壊すのはいつにしますか?」


 そう遠くは無いだろうと思っている。フィディさんは計画を急いでいて、そこに安全性を高められる力まで増えたのだ、恐らく内心の、元から少なかった躊躇は、そのほとんどを失っている。


「………一週間後には。それより早く全てを終わらせることが出来るのなら、その時点で」

「…分かりました」


 ならば、俺も準備を重ねていくとしよう。いや、俺自身が身につけることはもうかなり少ないのだが…練習できる事ならあるのだ。飛翔中の魔術行使は完璧にするべきだろうし。

 と、一週間かそれ以下に帰還における決意を新たにした所に、いつの間にかカルスと師匠が俺の方を見ている事に気が付く。

 はて、先程までの掛けあいはもう終わったのだろうか?それとも、もう終わったということか。


「ねえタクミ、こっちほっといて真面目な話するの、やめない?」

「…参加してくるのか、止めに来るか、どっちかを待ってたのに」

「え?俺も参加するんですか?」

「何だと思ってたの…?」

「いや、戯れてるのかなって」

「戯れてないし師匠にその言い方」


 師匠の滅多にない澱みない言葉に一瞬背筋が伸びた。ちょ、ちょっと感覚がおかしくなってた。


「す、すいません師匠。ちょっと気が緩んで」

「…緩んでもいい」

「え?」


 師匠に謝罪すれば、思ってもみない答えが返ってきた。


「そもそも、今の私に、特別教えなければいけないことは、もう残っていない。

 …初めは形式からそうしたけれど、同年代で、これだけ長い間一緒に生活しているんだから。…今更その関係にこだわる必要はない。これからは、友人として」

「え、えと、それじゃあ、師」

「師匠ではなく、名前で」

「…ラスティア、さん」

「…及第点」


 そこで師匠としての顔をのぞかせるのはずるい。というか、師しょ…ラスティアさんも気分抜けきってない。

 すると、何故かカルスがその背後で満足気に微笑んでいる事に気が付く。


「どうしたの、カルス(・・・)?」

「いや、時間とか、密接さとかで差がついたんだろうなって」

「そんな所で、張り合わない」

「…えーっと」


 なんだかんだと俺はまだ、友人たちの思考回路を理解しきれていないらしい。

 二人にからまれながら昔の気持ちへと思いをはせそうになっていたが、良く考えたらまず村へと戻るべきだ。

 という訳で村へと全員で向かう。

 俺の両隣で歩き続ける二人は、それぞれが浄化の力を手の上で様々な形に変えていく。先程のような物ではなく、単純に自分の力を確認しているかのような感覚があるので、先程のように俺が対応を考えないといけないなんて事は無いだろう。

 …俺の数少ない、ここでは立った二人の友人。その両者が浄化の力を既に体得した。それもごく短期間で。

 既にカルスの師匠が浄化の力を扱えることはわかっている。となれば、村には思っているより多く、浄化の力を扱う才能を多く持った人が居るのではないだろうか。


◇◇◇


「…浄化の力、か。それが、私たちが神の子孫であるという証明なのだな」


 族長への報告。

 村へ帰れば即座に行うべきとしたそれを、俺はそのままに果たしていた。

 とはいえ、俺だけで行っているという訳でも無かった。師匠とカルスは、浄化の力の実例として、ナルク夫妻は、俺以外の魔術士として、また、現場に立ち会った人間として。要するに、先程から顔ぶれに変化は無い。

 ―――実のところ、ナルク夫妻が魔術士であるという事実は、今回の説明内容そのものには関係ない。浄化の力を使えない夫妻は、瘴気の浄化される様を見たわけではないのだし、魔術的な証明は行えていないのだから。

 だが、神の力も魔術も、触れられない、定義の難しい力を扱うという意味で、それを体感できない人間には同一視されがちなものだろう。カルスの先の発言からも、それは少し伝わってくる。

 だから、少し卑怯ともとれる方法ではあるものの、これは説得力を増すのに重要なものだった。


「だが、この際それはどうでもいい。瘴気に対抗する力があるのならば、壁に対しても新たな方法をとることも可能だろう…さて、晩餐でまた、皆へ伝えないとな」

「はい。…それと、フィディさん」


 もう一つの事も、きちんと族長へと知らせておかなければいけないだろうと思い、確認をとる。

 フィディさんは一度頷き、そして立ち上がる。

 それを、自分の口で説明すると言う意志の表れだと判断した俺は、位地を交換するように動く。

 そうして俺は族長から離れ、フィディさんの背後に座り直す。

 フィディさんは族長と正対する。その口から語られることは、もう分かりきっている。


「族長、僕は、壁の破壊を最長でも一週間後までに、出来る限り早く行うことに決めました」

「…性急過ぎるのではないか?」


 族長の言うこともわかる。俺だってそう考えていたのだから当然だ。今となってはアリュ―シャ様の意思もあり、最低限の安全―――全員の“無事”―――さえ確保できるのなら、一刻も早くそれを行うことに否やは無い。

 だがしかし、フィディさんにはそれ以外の考えがあるのだろう。俺には伝えられていない、しかしその想像は容易なことが。

 族長に外の世界を見せるため、急いで脱出しなければいけないというのならば…きっと、命が長くないということだ。

 だがしかし、俺としては容易にそれを信じることはできない。何度も修行をつけてもらったし、そのたびに激しい動きを見て来たのだ。余命幾ばくもない人間の動きなどでは無いということは間違いない。

 だが確信を持って話しているのだということも伝わってきて…実際の事はやはり、分からない。こんな事簡単に聞けないし、やはり深く触れないでおく方が良いのだろうか。

 そうやって考えている間に、族長の表情が今までに見たことのない、申し訳なさを混ぜた、しかし悔しげなものに変わっていく。

 やはり、そういうことなのだろうか。それを前提として考えたのならば、悔しげな表情を浮かべてしまうことも、計画を急がせること、そうでもしなければ自分は外に出られない事、しかし僅かな危険を産む事…複雑な事情からだろう。

 勿論、内心を完全に窺い知ることは出来ないのだが。


「…すまない」

「いえ、これが僕たちにできる恩返しです。………大丈夫、ですよね?


 そう話す二人の語尾は揺れていて、含まれる感情の大きさが伝わる。

 俺の隣に座ったカルスの眼は驚愕に見開かれ、俺と同じ結論へと至ったであろうことがわかる。

 では、反対へ座ったラスティアさんは?

 ………振りむいてその表情を見ようなんて気は起らなかった。いくらなんでも非常識だし…大体、そんな所を人から見られたくは無いだろう。友人であればそのくらいの気遣いは当然だ。

 フィディさんから問いかけられた族長は、ややバツの悪そうな顔で、


「ああ、実際、そこまで心配されることも無いのだがな。…数年は余裕の筈だ」

「貴方がそうやって強がりを続けうこと、知らない大人はいませんよ。…それでは。壁の瘴気に対抗する方法をまとめにかかりますので」

「ああ。よろしく頼むぞ」


 その言葉を背に、フィディさんは外へと出ていく。俺たちもそれを追って外へと出ようとし、

 話しあっていた部屋を出た所で、フィディさんが族長の妻―――ニールン・ヴァイジ-ルさんの持つ槍の石突きを向けられている場面に出くわす。


「…お母さん?」


 俺の隣でラスティアさんがそう零す。それは状況に追いついていないが故の、脳内で状況を整理する為に出た言葉だろう。


「ッ!」


 遅れて出て来た筈のミィスさんは、俺もまたそんな事を考えて落ちつこうとしている内に、身体を押しのけるような無理のある軌道でフィディさんの前へと躍り出る。

 女性二人の鋭い眼光が交錯―――しかしそれも一瞬、ミィスさんの肩へとフィディさんが手を掛け、回転するように位地を転換する。

 すると当然、反動の分も合わせて医師付きとフィディさんの距離は近まり、首元へと接触しているとしか思えない状態になった。


「余り見縊ってくれるな」

「…どういう意味、でしょうか」


 ニールンさんの双眸には剣呑な光が爛々と輝き、内なる激情を映しているのだとわかる。

 いつしかその迫力に呑まれ、俺は動けなくなっていた。その視線は決して、こちらを捉えてはいなかった筈なのに、である。


「あれでも、私が選んだ男―――そう簡単にくたばりはしない。私の見る目が正しいことくらい、知っている筈だろう?」

「…姉さんこそ、そんなに怒るなんて珍しいって、自分で思わないの?」


 …姉さん?


「愚弟が無駄な心配を人の旦那に向けていれば、やきもきもするものさ。…彼には私が付いている。お前がそれについて心配することは無いさ」

「…分かったよ。でも、壁を壊す事が早くなることにかわりは無いからね」


 そう言うと、ニールンさんは槍を引く。もともと石突きを向けていた事から、本気で気づつける気は無かったのかもしれないが…やはり(・・・)物騒な人だ。修行中の姿からもうかがえるが、直接的に触れ合えばこれほどまでに恐怖を感じるとは。

 いや、それ以上に姉弟の関係性が二人の間に有ったって事の方がずっと驚きだ。今までそんな事、全く聞いた事がないのに。

 ニールンさんと入れちがいに、家の外へ今度こそ出る。ラスティアさんも勿論ついて来ている。これから瘴気対策の話し合いをするのだから当然だ。

 とはいえ、それより先に昼食だろうか?

 そんな事を考えていると、ミィスさんが誰にともなく呟く。


「ニールンさん、悪い人じゃあ無いのは分かるけれど、いくらなんでも物騒すぎるわ」

「まあ、姉さんはあれで良いんだよ」


 即座にそう返すのはフィディさんだ。兄弟間にしか見えない良い点というものも、確かにあるのだろう。

 そういえば、


「ラスティアさんとフィディさんって、叔父と姪の関係に当たるんですか?」

「ああ、そうなるね」

「うん。叔父さんって呼ぶと、嫌がるけど」

「…全然知りませんでした」

「あー…村の中では常識だし、説明する機会がなかったんだろうね」


 カルスに言われて、それもそうかと思った。村社会の中で、誰と誰が血縁関係か、なんて訊くまでも無く分かるのだろう。


「でも、少し苛つけば貴方を叩いたり…そのたびに体調が悪化しているのに、私…」

「…あれでも僕の姉だからさ、そこまで言わないであげて」


 そう言ってフィディさんは、少し肩をいからせながら数歩前を進んでいたミィスさんを後ろから抱きしめる。

 …おお。


「へ…?」

「まあ、あれだよ。僕を守ってくれてるのは嬉しいし、感謝もしてるけど…僕自身がどうにかするべき事なら、任せて、背中を押して欲しい。

 僕が帰る所は君と住まう家だって決まってるんだから、君が無理をしちゃあ駄目なんだよ、ミィス」

「…フィディ」


 小さく夫の名を呼び返すミィスさんは、自らの体へ回された腕をそっと、頬をこの暗い中でもわかるほどに染めながら指で触れ…ああもう、見ていられない。


「ねえ二人とも、もう行かない?」

「そろそろ昼食だしね、頃合いだよ」

「…賛成。早く食べよう」


 こんな甘い空気の中、二人が満足するまで待っていられるかっていう話だ。遠慮していない声量で話したって聞こえていない二人は、自分たちの世界の深い所へと沈んでいるのだろう。もう気にしない。


『はぁ…』


 ため息が三つ重なることも、偶然などでは無かっただろう。



『白の雫』に関して、どうにも都合よく開設する機会がなさそうだったので。

→名前の決定時、名字と名前それぞれにランダムな国家の言葉に翻訳し、その発音を耳で聞きとり、纏めながら文字に起こすと言う作業を行っていました。

 ラスティア・ヴァイジール二は、そういう意味が込められていますが、正確なところに関しては三章終了後か完結後に書かせて頂きます。

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