閑話1:ギルドの裏側
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新人冒険者タクミ・サイトウが会議室から出ていった後のこと。
会議室に残っていたロルナン冒険者ギルドギルド長ガーベルト・エリアスと副ギルド長のアケイブス・レイダー、その二人は闇に包まれた部屋の中で密談を始めようとしていた…。
「…フッフッフ、さあ、今日もまた新たな冒険者が生まれた。これはわれらの宿願の達成も近い、というものではないかね?アケイブス」
対するアケイブスは少しばかりの疲労感をにじませながらも答える。
「…あ、ああ、そうだな、このまま順調に“計画”を進めていけばきっとあと一年もせん内に世界をわれら冒険者の手の内に収めることも可能になるだろう。うむ、我らが世界を覆う時、それが世界が新に救われるときなのだ…」
やはりどこか否定的な表情、雰囲気を表すアケイブス。そんな彼に対してガーベルトは詰め寄り胸ぐらを掴む。
「おい!この計画の実質的なナンバーツーであるお前がそのような煮え切らない態度では部下たちにも示しがつかんであろうが!今は皆がどんな形であれ何らかの不安を抱えているのだ、それをわれらが先導し、扇動する。それもまた計画の重要なキーであろう?なに、それさえ出来ておれば我らの計画がとん挫することは無い!ゆえにわれらがここで止まることは許されないのだよ」
そう言われたアケイブスは少しばかりの迷いを孕む瞳でありながらも何か決意を固めたような声音でこう言い返した。
「だがっ!だが、ガーベルトっ、この計画を続けていくのはあまりにも危険だ。いや、そもそもとして前提とされる被害者、いや、死亡者数があまりに多過ぎるのだ!この計画を成した後に幸福な世を残すためにはこんなやり方ではだめなんだよ!」
しかしガーベルトは小揺るぎもしない瞳でアケイブスを見返し、そして、
「そうは言うがな、アケイブス、君の言う事は計画を実行しないことで死んでしまう人々を見捨てることと同義だ。その命を奪う覚悟、君にあるのか?」
「………まだ、続けるのか………くっ…だが!それとこれとは話が」
しかし、アケイブスの思いをガーベルトが汲み取ることは無かった。
「同じだろう!?そして私にはその覚悟がある!その覚悟を示せない今の君に何かを選ぶ資格など、存在しない!」
「……………」
絶句。
まさにその物であるアケイブスをよそにバルエドは恍惚とした表情で身もだえる。
「ああ、素晴らしい!私が!この私が!世界を救うのだ!これほどの喜び今までの人生で感じたことなど無かった!」
異様な雰囲気に包まれる会議室。しかし、突如室内が光に包まれる。
「なっ!この部屋に侵入者だと!?密偵がいたとでも言うのか!?」
しかしそれを成したのは二人も良く知る人物であった。
「な!なぜっ!なぜお前がここにおるのだっ!」
その人物とは
「ミディリアっ!」
室内は再び静寂に包まれる。それを破ったのは静寂を作りだした本人であるミディリアであった。
「………………いいかげんにしてよ。父さん、叔父さん。」
「な!何を言うか!お前とてこの計画には最初から賛成であっただろうが!それを今更」
しかし、ミディリアは止まらない、ここで二人を止められるのは自分のみだと腹を括り、現実を突きつける…。
「………だ!か!ら!そうやって仕事さぼって、叔父さん巻き込んで、変な遊びしないでって言ってるの!最近は仕事多いんだからさっさと働いて!秘書官さん達はもう限界よ!」
「…はあ、分かった分かった。全く、もう少し遊ばせてくれてもいいだろうに…娘よ、もっと父親に優しくすべきではなかろうか?」
「しっかり仕事を終わらせてからなら十分優しくしています。…すみません伯父さん、いつもいつも父が迷惑を掛けて…」
「あ、ああまあ特に問題はないよ。(…私もこれで少し息抜きをしているのだが…言わぬが仏、というやつか)それでは仕事に戻るよ」
「はい、ありがとうございます。ほらお父さんも!」
「ああ、もう分かった分かった。仕事はちゃんとする…って、おい押すなよう、ふつうに出るから」
そうして会議室から出ていく三人。これがロルナン冒険者ギルドの日常である。
「もう少し、真面目に働いてくれれば完璧な父親、って胸も張れるのに………、ま、それを含めてお父さん、って感じなんだけど」
…こんな話です。