第七話:覚悟と結果
今回の話は無駄に長く書いてしまった気がする…文字数的にいえばいつもの1.5倍だし、もう少しコンパクトにまとめられるようにしなければ…。
「俺は、その覚悟を持ちます。たとえ自分が人の命を奪う事になっても、そうするしか無いならば躊躇わず、後悔もしないように生きることを選びます。俺が今ある自分の力で生きていくのならば、そうするのが一番なんです。何より、この世界で生きていくための力をつけたいのです。だからこそ、俺はその覚悟を持ちます、持つんです」
「ほう…しかし、そこまで言う理由、と言うのは何かな?
いやいや、確かに君は優秀だ。魔術の適合は全属性、初心者のようだとは聞いていたもののエリクスとの模擬戦もいやはや、なかなかに堂の入った戦いだったと思う。だが、だからこそ、と言う事なのだよ。例を挙げれば魔術の才能、これは鍛えあげれば国家直属の王宮魔術官に所属…いや、その中でも上へ上へと上り詰められる」
「その初心者とは思えない剣を握った際の思い切りの良さ…これを使うならば、軍隊だろうね。口ぶりからして積極的には人を殺せはしないと聞こえるが、それでもいずれ“そう”なるならば、軍隊も冒険者も変わらない。強いて言うなら冒険者は『自由の人』と呼ばれる程度には自由、という事かな?『冒険者(爆)』なんてのもあるけど、これは皮肉なんかも込なんだよね。本気で別大陸まで冒険に行ったりする奴とかいっつも突貫ばっかりする様な奴らに対して死後の世界へ冒険しに行った~なんて小馬鹿に…ああいうのがいるから冒険者はアホだと言われ…いや、すまない。少々愚痴ってしまったな、忘れてくれ」
何かしらのストレスが噴き出したらしいギルド長は、一度自分を落ち着かせるように深呼吸をし、再び話し始める。
「基本的には忌種討伐専門家と呼ばれる守人だって相当な実力が保証されなきゃ選ばれない。
…生きていく力が欲しいだけならば決して冒険者でなければいけないわけではない筈だ、という事は分かったかな??」
…正直なところ痛いところを突かれた、と思う。軍隊に関しては考えてことも無かったけれど、ギルドの登録に行った時に一瞬聞いた王宮魔術官、という言葉は少し気になっていた。
だが、それでも冒険者という仕事を選ぶ理由はある。それは登録をした時も考えたことだし、今もギルド長が行っていた事だ。
だからこそ、俺が選ぶ選択は冒険者一筋になる。その覚悟は今示すべきだろう。
「俺は自由を失いたくないんです。今までの自分の生き方とは違う、自分で行動して、選びとる、そんな自由を得たい、と、そう思って生きています。俺は海で拾われてここに来ました。故郷に帰る方法なんて知りません。だったら、これからの人生を後悔しないように、自由に生きよう、とそう考えたんです。
だから、これが俺の覚悟の形です!お願いします!俺を、冒険者にしてください!」
…言った。
正直、これでも覚悟が足りない、と言われたのならば言い返すことはできない。なにせ俺はこの世界に来たばかり、覚悟を決めた、と自分では考えているけれど、恐らくは余程楽観的な考えをしていない限りこの世界の人は当たり前のように持っているんだと思う。
それでも今自分の持った覚悟、そのすべてを口に出して伝えることはできた。…これで駄目だったなら、その時はその時、冒険者として組織に所属していないことは危険だろうけれど、一度安全なこの町から出て自分の思いを再確認するべきだろう。
…何秒たったのだろうか。もしかしてダメだったのか、と俺がそう考えそうになった時、
「………うむ、よくそこまで言えた。ここまで堂々と自分の覚悟を語れるならば、何も問題は無いよ。今日、この瞬間から、君も…冒険者の、一員だ」
「………!はいっ!有り難う、御座いますっ…!」
…後悔しない人生を歩むと決めたこの二度目の人生、俺は遂に、前世ではできなかった就職…これは、前世とは少し形が違うかもしれないけれど…就職をすることができたのであった。
「…おいおい、喜んで貰えるのは嬉しいことだが…さっきも行った通り、この会の主目的は君のランクの発表だぞ?喜ぶのはそのあとにしたまえ」
…冷静な副ギルド長の声で少し落ち着く。よく考えれば先程のギルド長の質問は簡単に言えば俺に対して心構えをおしえてくれたようなものだった。確かにここで喜んだり…感極まって泣きでもしたら相当に恥ずかしいことになっていた。
と、こんなことを考えているうちにだいぶ落ち着いてきたので、ギルド長のお言葉を待つことにする。
「あー、うむ、それでは気を取り直して、ランクの発表をするぞ。今回の試験内容はエリクスとの模擬戦だったが、もちろん合格点はエリクスに勝利することではない。いくらあの剣を使っていなくてもエリクスを倒せるのならばそれはもうCランクの実力だからな。逆にいえば、どれだけ強かろうとAランクにはなれな…関係のない話か。ああ…つまりどのくらいの実力差か?という事なのだが。悪い知らせになるだろう。最高評価という事は無かった」
…まあ、正直言っていろいろ頑張ってみたけれども結果的には圧倒されて終わったのだ。当たり前の結果だろう。これはもとから分かっていた。
しかし、一つ疑問がある。
「一つ聞きたいのですが『最高評価ではなかった』というのはどういう事でしょう?DランクかHランクか、という話ではなかったのですか?」
「ああ、その通りだとも。そもそもDランクはHランクより4段階も階級が上なのだ。その二つのどちらかで判断しろ、というのはいささか判断に困る事態になってしまう」
「…その話し方から考えて、多少は、期待してもいいので…しょうか?」
…まだ結果を知らされた訳でもないのに、顔がにやけてしまっている。しかも、抑えることはできないようだ。こちらを見たギルド長が微笑んでいる。また素晴らしく人に安心感を与える笑顔だが、今は静かに、返答を待たねば。
「もちろんだ、ふっふふ、期待がそのまま表情に表れている、いいぞ、若さの証だ。若さは首を絞めることもあったが、今思えば、それに随分と救われたものだ。君の今の心、あまり早くに無くしてはいかんよ?…いやはや、どうにも無駄話が過ぎるな、今日の私は、早く結果を伝えなければいつまでも本題に関わらない話をしてしまいそうだ。というわけで結果を伝えよう。副長、君はあれを渡してくれ」
「了解しました」
そういった副ギルド長は会議室の奥の机に歩いて行った。あれ、というのが何かは分からないけれど、きっと冒険者なら持っていて当たり前、そんなありふれたものだからこそあれ、という言葉が出てきたに違いない。つまり心配は無用、という事だろう。そんなことを考えていると俺の近くにいつの間にかギルド長が来ていたと言う事に気づく。近くで見るとやはりかなりの貫録がある。分かってはいることだが、
…人生の“重さ”が、違うのだろうと。
嫉妬や羨望等ではなくただひたすらにその事実が自分の中に…それこそ、魂にまで伝わってくるのを感じる。
「長々と待たせてしまったが、結果発表をさせてもらうよ。君のギルドランク、聞きたいよな?」
「もちろんです。言ってしまえばこれは俺の二度目の人生が始まる、ということと同義なんです。今更尻ごみするなんて愚行、出来はしません」
「うむ、良く言ったな。そこまで言えればもう何の問題もあるまい。君のギルドランクはF、だ」
「F…。ですか」
F、Dランクになれるかもしれなかった、という事を考慮すれば、少しばかり残念な気持ちがあるのは事実である。浮かれている気持ちも、やはり少し沈むわけだ。しかし、しかしよく考えるのだ俺。そもそも皆最初はHランクからのスタートなのだ。ならばその2つも上のランクからのスタート、これはなかなか凄いのではなかろうか、そう思えば気持ちがまた浮いてくるのである。自分の単純さに初めて気がついた。
と、そこまで考えていた時、副ギルド長も近づいてくることに気付いた。その手には小さな板状の物が…!?
あ、あれは!異世界ファンタジ―のテンプレであるギルドカード、まさにその物ではなかろうか…っ!
「Fランク冒険者タクミ・サイトウ、君に冒険者の証明であるギルドカードを授ける。このカードは君の冒険者としての覚悟と誇り、それを示す物。君がそれを持ち続ける限り、ギルドは冒険者としての君の存在を保障しよう。これからの人生を冒険者として生きると言う覚悟を認め、ここに大港湾町ロルナンのギルド長ガーベルト=エリアスが君を冒険者として認めよう。
…冒険者として、生きることを選んでくれるね?」
…何度聞かれても、答えは変わらない。
「はい。俺、西鐙卓克は冒険者として生きることを選び、そしてその誇りを持ち続けることをここに誓います」
「うむ。それでは受け取ってくれたまえ、君が冒険者であると言う証明するために必要なのがこのギルドカード、そして君の覚悟を表すものだ、大事にしてくれたまえよ?」
そういったギルド長…ガーベルトさんが差し出したギルドカードを受け取る。書かれているのは左上に大港湾町ロルナン(レイラルド王国)…これは所属や出身を表しているのだろう。中心近くに名前、年齢、そして右下にFの文字。全体的には少し寒色系でまとめられた重めの金属板だ。実物を見ればそれが昨日からギルドや赤杉の泉で何度か視界に入れていたことも思い出す。それを考えれば、冒険者の証明、まさにその物だと言える。日本で言うなら社員証、つまりは初就職。
…感慨深いなあ…。
なんせ初就職だ。イマイチ今の体の年齢は分からないので外すにしても37年間無職、その上世界を一つ越えた先での初就職。それに一つの思いも抱かない人間などいるだろうか? いや、いない。
と、なんだか変なテンションになったが、簡単に言えばこれで俺も真人間、という事だ。遂に人目を気にせず堂々と外を歩ける。いや、別にここでは気にすることは無いのだが、まあこちらのメンタルの話だ。
その時ギルド長が話しかけて来た。
「ところで、だ。今日はどうするのかね?もう昼を過ぎて時間も経った。模擬戦もあって疲れただろうしもう宿に帰るのか?それとも何か依頼を?」
「…そうですね、まあ外を見る限り日が傾いてきていますし…いえ、体の方はもう治ったのでこの町のことを知る為に散策しようかと思います」
「そうかね、ふむ、そういえば君は海に浮いていたのだったな。まあ自慢ではないがこの町はこれでも大港湾と呼ばれている訳でかなり栄えている。住んでいるだけでは覚えきれない程度には様々なものが溢れかえっている。結構楽しめるものもあるあたり相当暮らしやすい町だと思う…。…迷うなよ?」
浮いていた…。まあ、その通りである。
しかし言われてみれば少し不安だ。昨日来たばかりの町を一人で散策…。よく考えるとクリフトさんとばっかり町を歩いている気がする。これは早く道を覚えないと自分で行動できなくなってしまう。今日のところはとりあえず裏通りなどには入らないでおこう。
「…いえ、別にそんなに方向音痴というわけではないので大丈夫ですよ。まあ今まで見た限りでも大通り以外を通るのは危なそうでしたけど、今日はもう大通りを見て回る程度に留めておきます」
「であれば、特に問題は無いな、うむ、もう君も正式に冒険者となったのだ。この部屋ですることも特になし、退室してもかまわんよ」
「はい。それでは失礼いたします」
こうして俺は職を得た喜びをかみしめながら、町へと繰り出すために廊下を歩き始めたのだ…が、
「…あ…ここ、どこなんだろ?」
それより先に、ギルドを脱出しなければならないようだ。
◇◇◇
あの後、思ってたよりも更に構造が複雑なギルドと言う名の迷宮に悩まされた俺がギルドで休憩中の眼鏡をかけた男性職員さんを見つけ外に案内(強制排除?)されたのは約30分程後であった。どうにも不審者扱いされていた気もしたが、それほど手荒に扱われなかったのは幸いである。まあ、俺は新入りなので顔を覚えられていないのは当然(むしろ覚えられている方が怖い)なので気にしない。
空を見上げれば、ある方角(きっと西)から茜色に染まっているのに気がつく。随分と美しいグラデーションだ。外壁の上にクリフトさんと同じような服を着た人が幾人か並んでいるのも見えた。あの上からならきっと沈みゆく夕日も見えるのだろう、皆楽しそうに笑っていて、充実しているなぁ、と思う。あんなふうに仲間と笑いあう、っていうのも夢の一つになった気がする。
そこまで考えたところでふいに気付いた。
「…視力、良すぎじゃないか?俺」
いくらなんでもこの巨大な町の中心付近から海以外の町の周囲を囲む外壁の上にいる人たちの表情が確認できるっていうのは異常ではなかろうか?それとも前世でも視力がよかった頃ならこのくらい普通だったのだろうか?
いや、前世では確かにメガネと裸眼の中間点の様な視力ではあったが、試しにメガネをかけたときだってこんなに遠くを見れはしなかった。つまりこれは身体能力強化、の一つなのだろう。正直何かを言われたわけではないが、どこかで筋力しか強化されていないと思ったのだが、この感じであれば取りあえず五感は鍛えられていると思ってもいいのだろう。何かの本で筋肉だけ鍛えても内臓が着いてこない、と読んだ事があるし、内臓も強くなっているのだろうか?
…頭、良くなっているといいなあ。
と、こんな道端で考え込んでいても時間の無駄なので本来の目的を達成するため俺は道を歩き出した。この道はギルドの目の前の道なので、赤杉の泉亭に行く方向とは逆の方向に歩きだす。
とはいえ、さして目新しいものがあるわけではない。まあ、朝も一応街並みを眺めて歩いて履いたが、一つ一つの店の中身を覘いたわけではないからきっと近くの店でも知らない者を売っていたりしたのだろうが…
(…今は道を覚えることが先決だもんな。もっと今の生活に慣れてからでも店の観察は遅くないと思うし。)
しかし冷静に考えれば、あまり遠くに行くのは、基本の道さえ碌に覚えていない今、得策ではないだろう。大きく道を外さず、とりあえずはこの町の逆側まで行ってみよう。片側が完璧に海に面している以上こっちの道を進んでいけば内陸方向に向かう事になると思う。パカルさんの船の上から見た時港以外は高めの壁に包まれていたからこの先にも壁があると思うし見に行こう。
◇◇◇
その後町の作りを眺めながら30分程歩いていると、ようやく町の逆側に着いたようだ。回りより少しだけ高い壁と、その中、下ほどに家と変わらないサイズの門がある。その門をくぐってきたのであろう多くの馬車や人々は夜が近いにも関わらず非常に活気づいている。馬車にのせてあるものが見えている限り服や香辛料、それに…武器?と、腐ったりしない、長持ちしそうなものが多いことを考えれば彼らは旅をしてきた商人ということだろう。活気溢れているのは、この町での商売に期待して、だろうか。店ではなく屋台車を使い商売していた人たちはきっと彼らと同じ立場なのだと思われる。今日町を見て回った時はお店に人がごった返していたので儲けも実際相当なものだろう。彼らのテンションの高さは、事実に裏付けされたもの、というわけである。
そしてもう一つ、町から出ていく馬車の積み荷だ。確かにこの町は“大港湾町”、特産物がなんなのか、と言われれば、必然、これだろう。だが、決して馬車を使って輸送するものではないと思うのだ、魚は。しかしここで一つの違和感。どうにも魚を詰めた樽に細かい記号や文様の様なものが彫られているように思えるのだ。それも、なんだかおどろおどろしい字で書かれているのである。
あれはひょっとして魔術的な何かではなかろうか?こう…物を腐らせない、みたいな。だとすれば―――予想は着いていたけれど―――この世界において、魔術は一般の生活においてもありふれた物、という事だろう。今考えればギルドや赤杉の泉の照明はランプなどの火を使った物ではなくではなく白い光だった。電気なんかの設備は無いように見えるし、あれもやはり魔術が絡んだ品だろう。ああいう物を売る店はまだ見ていないし、そんな安物ってことは無いと思うけれど、何だろう、魔術って物がホントにあると分かるとやはりドキドキする。明日は魔術の練習をしてみよう。夢の中で使うのとは勝手が違うかもしれないけれど、とりあえずは努力、だ。
さて、そろそろ暗くなってきたし引き返すことにしようかな…。
………言っちゃあなんだけど、こうして一本道を通ってくるだけ、って言うのは道を覚えることにはなっていないよなあ…。
まあ、あまり気にすることでもないだろう。ゆっくりと覚えていけばいいのだ。時間はたっぷりとある。
取りあえず赤杉の泉に帰ろう。どんどん暗くなっていく。
ま、迷う事は無いんだけどね。どうせ道は一本だけだし。
◇◇◇
そんなこんなで赤杉の泉。先程までは多少明るさを保っていた空も完璧に黒く染まっていた。まあ初日に着いた時と同じくらいの時間と思われる。昨日程ではないが声が外まで聞こえているのを考えれば食事時を外してもいないだろう。とはいえあまり遅くなるのはいただけない。とりあえず中に入ろう。
「ふう、ようやく辿り着いた…。疲れては無いけど、お腹がすいた~…」
そして扉を開けて中に入ってみれば昨日程のカオスっぷりはないものの、十分活気にあふれた店内。部屋の数よりもお客さんが多いあたり食事のみ、というのも有りなのだろう。座るところも無いのでおやじさんにあとどのくらいで席が空きそうか聞いてみる。
「あ~、そ、うだなぁ…すぐ前に入ってきた客もいるし…早くても二十分くらい要るんじゃないのか?」
とのお返事が返ってきたのでもう一度外へと出る。この少しの間でかなり肌寒くなっていた。日本と比べるとかなり昼と夜の温度差が大きいように思える。通りを行き交う人も、心なしか厚着に、そして早足になっているようだ。彼らもそれぞれが自分たちに家や宿に帰るのだろう。
しかし、だ。
『ケッ、ケケケ、ケケケケェッ』なんて奇声を発しながら向かいの裏路地を這ってる男性や、以上に目を血走らせながら上ずった声で『あれだけじゃ…足りないぃぃ…』なんて言いながら何かを探す20代後半の女性、赤黒い色をした外套を羽織った、よく聞き取れない言語で会話する集団なんて者もいた。
…昼と夜とで治安に差がありすぎるのでは?ひょっとしてクリフトさんの主戦場はこの時間?
とにもかくにも危ない雰囲気だ、中で席が空くのを待つことにしよう。そう考えてもう一度扉を開いた。
やはりこの時間の喧騒はすごい。外で聞こえる音との差が大きい事から考えて、実はこの宿木製に見えてもなかなか防音性の高い素材を使っているようである。でなければこの上にある部屋で寝ることはできないであろう(これも魔術だ、と言われる可能性もある)。ふと見れば席が幾つか空いていた。外にはだれも出て来なかったから泊まりのお客さんだったのだろう。おやっさんにひとこと言ってマリアちゃんに定食的なお勧めのメニューがあるらしいのでそれを注文。席に座って待っていると、いつの間に入ってきたのだろうか、既に若干酔いかけているジョッキ片手のボルゾフさんに出会った。
「おおっ、タクミじゃねえか!お前今日ギルド入ったんだってな!しかもFランクで!すげえじゃねえかよ!俺が入った時と同じだぜ?俺は今Bランク、そしてこの調子でいけばもうすぐAランクに成れるっつうお墨付きもバルエドさん直々に貰ってるんだ!仮にお前に俺と同じ才能があれば9年間で此処まで来れるっつうわけだぁ、誇ってもいいと思うぜ?」
「ううん…そうなんでしょうか?正直皆さんがどのくらい強いのかって分からないから何とも言えないんですけど…それに、なんだかFランクって正直に言うとあんまり強そうでもないし…」
そう、もともと提示されていた最高条件であるDランクから比べると2つ下、最低のHランクから比べれば2つ上ではあるものの…F、という響きには、あまり期待感など感じないのが事実でもあるのだ。
「ぬう…いや、確かに響きからはそんなイメージを受けちまうかも知れねえがな?GやHから入ってきたやつらとは扱いに天と地ほどの差があるっつっても過言じゃねえんだぜ?何せGやHはまだ忌種との戦いには耐えられない…行っちまえば、戦力外通告を受けちまってるようなもんだ。町中で雑務をこなして日銭を稼ぎ、合間を縫ってギルドで戦闘訓練…ここから上に上がるのを諦めて、止めちまうやつが8割超えるような環境だからな」
「…じゃあ、Fランクって言うのは、それなりの期待をかけてもらっているって考えてもいいんでしょうか?」
「おうよっ!そのまま実戦投入したって問題ないっつう判断の結果がそのランクだ。つまり、俺たちは冒険者でありながら人々を忌種や瘴災から守りぬく『守人』の一員…いや、さすがにそれじゃあ盛りすぎか。まあいい、どっちにしたってすげえのは分かんだろ?」
ううむ…何となくは理解できたけれど知らない単語がちらほらと…瘴災、って言うのは、まあ、きっとファンタジーな要素がからむ大災害みたいな物で、守人は…何だろう、災害時の自衛隊みたいな物なのだろうか?
「ボルゾフさん、守人、と言うのは何なんでしょうか?」
そう聞くと、ボルゾフさんは急に、ポカーンと言う擬音が聞こえそうな表情になり、
「………は?いやいや、さすがにその冗談じゃあ笑えねえって、あんまりアホな事言うなよル、タクミぃ」
…ああ、また何か常識知らずな事を言ったんですね…。
あの後はずっとボルゾフさんから守人についての話を聞いていた。マリアさんが料理を運んできてもその勢いはとどまることを知らず、周りにいる人々もいつしか呆れて様な視線を送ってきていた。
ボルゾフさんから聞いた守人の説明…要約するならば、こうなる。
曰く、人が住めなくなった忌種の跋扈する瘴災の現場から命がけで生き残りを救出する英雄。
曰く、一つの町を滅ぼしかねないような強大な忌種にも怯むこと無く立ち向かい、自らの仲間たちと協力し、遂にはそれを屠る英雄の集まり。
曰く、各国の名のある騎士、傭兵、そしてAランク以上の冒険者など、本当にわずかな人々にのみもたらされる称号。
全体的に英雄推しをし過ぎなような気もしたが、実際のところそれほどすごい人々なのだろう。よく考えればボルゾフさんは今日模擬戦をしたエリクスさんよりも強いわけで…そんな人がここまで熱中して話す相手だ、ある意味、考えるまでもないのかもしれない。
しかし、そろそろ空腹が限界である。料理が冷える前に食べたい。
ここまで話してようやく少し落ち着いたらしいボルゾフさんに取りあえず一言感想を伝えてみる。
「…そ、そんなに、凄い人達だったんですね…ボルゾフさんが尊敬している理由も、何となくわかった気がします」
「おう!そうだろ?…まあ、25年前の絶忌戦争の折り、群れを成した【滅亡級】忌種や異界に巣食うその親玉の討伐戦で、人数その物がかなり減ってしまったんだけど、な…俺もあの頃は生まれたばっかりの子どもでよぅ、その戦いを見てたんじゃなくて、同じ戦場にいたって言う両親に話して聞かされていてな、それですっかり憧れて、本物の守人の強さをじかに見て、その上『いつかはなれると思う』なんて言われちまってなあ…、こうなりゃ自棄だ、と本気で修行して、ギルドで成りあがって…気付きゃあ、あこがれた物が目に見える…。随分と遠くに来たと思うが、ここまで努力を続けたことは、実はもう誇りの一つだったりするん」
………ぐ~。
そんなのんきな音をたて、腹が鳴る。…体は正直だった。
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