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忌祓の守人~元ダメ人間の異界転生譚~  作者: 中野 元創
第一章:沈んだ先の戦世界
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第六話:英雄と転倒

 状況について考えを巡らせたりしながらも、30分程経っても誰一人として迎えに来る人がいなかったので再び外に出る。


「うーん、結局さっきの試合はどうなったのだろうか…。いや,そもそもここはどこだ?」


 結構広いのでギルドの建物(正式名称聞いてない)の中だろうとは思うけど…。しかし今までこの建物の奥にまで入ったことは無かった。つまり、自分の現在位置が分からないのだ。もちろん大きい建物とは言え限度があるし、救護に必要な道具なども置いてある部屋を奥の方に作るとも思えない…案外うろつけば出られるかもしれないけれど、やっぱり入っちゃあいけない部屋もあると思う。

 出て来たばっかりではあるが、ここは一度戻っておいて、誰かが来るまで大人しくしておくべきかな…。


「おお!もう外に出れたのか!それなら着いて来いよ!もうさっきの試験の結果が出たぜ!」


 この常時テンションの高い感じはエリクスさんだろうか?しかしどうにも声が高い気がする…?


「エリクスさ…え?」


 振り返った俺の目の前にいたのは、俺よりほんの少し小柄なエリクスさんと同じきれいな金髪の…美少女でした。


◇◇◇


「…いやいや、エリクス兄ぃじゃねえよ。声で判別とか付かなかったのか?…まあいいよ。とにかく、さっきの模擬戦の結果が出たから来てくれよ。ほんとはミディリア嬢が連れてくる筈だったけど、な~んか目を反らして『まだ寝てます』としか言わないし、なんだか動きたくなさそうだったからアタシが来たんだよ。」


 …“エリクス兄ぃ”という事は妹さんなのだろうな。まあともかく結果を聞きに行くことにしよう。


「ああ、ごめんなさい。まだ少しボーっとしてて間違えました。ところで模擬戦の結果が出たんですか?どこに行けばいいんでしょうか?」

「…ほ~う?なんだよ新人が粋がってるんだと思ってたら、ちゃんと礼儀もなってんじゃないか」

「はい?えーとそれは、どういう?」

「いるんだよ、そういうやつが、特にお前みたいな新人のくせに無駄に実力のある餓鬼とかな。そういうやつはアタシみたいな女は自分よりも上のランクだろうと女だってだけで下に見る。まあ、そういうやつの伸び切った鼻ぁへし折ってやるのも仕事なんだけどな。ま、お前はその辺り、合格ってこったな。さっきのエリクス兄ぃとの模擬戦からも分かってはいたけどな。さてさて、それじゃあ着いて来てくれ。結果は何とギルド長が直々に伝えてくださるそうだぜっ」


 …ギルド長?………つまり、このギルドの中で一番偉い人…?


「えっ!?何でそんな大事に!?別に多少例外ではあったかもしれないけどギルドで一番偉い人が出てくるなんて、そこまでとは思ってないんだけど!?」

「お~お~驚いてる驚いてる。…ま、皆に同じことしてるんだけどな」

「え?あ、ああ。なるほど、恒例行事だったんですね」

「おお、毎年新人を大量に加入させるっつう日が…まあ恒例行事みてえなもんなんだけどよ、そこでギルド長が一人一人に合格不合格を伝えてんだよ。だからそれ以外の時でもちゃんと顔を合わせているんだよ」

「…随分とフレンドリーなんですね。でも大丈夫なんですか?それ不合格だった人が逆上したりすると危ないのでは…?」

「初っ端から落ちるような奴にうちのギルド長がどうにかされるわけねえだろ?そもそもギルド長って役職はギルドそのものに対して畏怖の念を抱かせるためにも使われてるんだ、もともとはどこぞの騎士団の団長だった~とか、有名な流派の師範だ~とかってな。そのうちのほとんどが『生涯現役』って感じだし」

「な、なるほど…今でもそれほど強いのでしたら確かに逆上されたからってどうってことないのでしょうね」

「そうそう。ま、そもそもこの町…いや、この国中探したってそううちのギルド長に剣を向けるやつはいねえだろうけどなっ」

「へえ~そんなに有名な人なんですね。一体何をした人なんですか?」

「…お前、本気で言ってんのか?そんな笑えない冗談を言うとは思ってなかったぜ…いくらなんでもあの10年前の対ミレニア帝国の戦においてわずか数百名の軍を率いて帝国の軍隊を二日間以上も足止め、その後の勝利にも多大な貢献をした百戦錬磨にして一騎当千と謳われる『救国の英雄』ガーベルト・エリアスだぞ?…一部の猛烈な信奉者連中に聞かれてたら石でも投げられ…いや、殺されかねねえぜ?」


 そ、そんなにすごい人なのか…先に聞いておいてよかった。でも、さっきからこの人の雰囲気もかなりぴりぴりしているし、この人、猛烈とは言わないまでもガーベルトさんの信奉者なのではなかろうか…。

 ちょ、ちょっと言い訳しよう。今のこの感じのまま二人きりで移動するのは辛すぎる…。


「す、すみません…。実は俺相当な田舎からきていて、そういう常識的な知識でもあまり知らないんです…。それに、海から引き揚げられたらしくて、もしかしたら違う国に住んでいたのかもしれません。」

「ん…まあ、そういうことなら仕方ねえか…。それならそうと早く言ってくれればいいものを…まあ、あたしは初めて見たが、船が転覆して自分の知らない国に流れ着いたって奴も偶にいるらしいからな、そういう意味ではちゃんと大陸共通語が使えるお前は幸運だな」


 大陸共通語?自分たちのいる場所のことを“大陸”と表現していると言う事はここ以外にも他に大陸があるみたいな言い方だな…。


「まあ、こんな廊下でいつまでもだらだらとしゃべってないでさっさと行こうぜ?いい加減に待たせてるしよ」

「はい。結果をギルド長から聞く場合はどこで聞くのでしょうか?」

「今回は会議室だな。…ああ、そんなに緊張すんなよ。会議室っても別に何人も人がいるわけじゃあねえ。そうだな…たぶんギルド長と、今回の試験を決めた副ギルド長。ミディリア嬢と兄ぃがいるかどうか…ってところだと思うぜ?」

「ギルドのトップ二人と自分より確実に強い先輩がいる時点で緊張せざるを得ない気がするのですが…?というか、やっぱりもとからこんな大事にならなければよかったのに…」

「いや、別にさっきはあまりに分かってねえ奴だな、と思ってギル長のこと話してたけど全然フレンドリーな人だから心配すんなよ。それこそさっきまでのお前みたいに“救国の英雄”って物を知らねえ奴なら会ったところでどれだけ凄ぇーかとか強ぇーかとかも分かんねえだろうからさっ!…いや、だからほんとそんなに緊張すんなよ。何でまだ着いても無いこの時点から手と足同時に出してんだ」


 そんなことを言われたところで緊張するものは緊張するのだ…。“救国の英雄”、そんな二つ名がつく程の武人である。そんな人と会うなんて日本で生きていた頃はありえない(そもそも救国の英雄なんて生まれる時代ではないけれど)。

 フレンドリー、と言うくらいだ、別にそこまで怖い人ではないのだろうけれど…。正直な所、人としての生き方や、その行動力、人生経験など全てにおいて自分とは天と地ほどの開きがあるのだとその言葉からもひしひしと伝わってくるのだ。

 正直なところ、かなり委縮してしまっている。


「ああ、ほらそこの扉の奥が会議室だぞ、私は別に中まで呼ばれたわけじゃあないからここから先はお前一人で行けよ」

「!?俺はまだ心の準備が…」

「………お前、なんでそんな捨てられた子犬のような目をしているんだ?いいから行けよ、ほらっ!」

「うわあっ!?」


思いっきり足裏で蹴られた俺は、その扉の中へ転がり込んでいくことになるのだった…。


◇◇◇


「…あの、なんで入ると同時にいきなり仰向けになってるんですか?タクミさん。あなたの故郷はこんな形で様々な場に出ることをよしとする文化なんですか?」


 光源の少ない薄暗い部屋…会議室に蹴り入れられた俺は仰向けになった状態でミディリアさんと目を合わせることとなった。

 何だかさっきからミディリアさんにばかり奇行を見られてしまっている気がする。これはもう既に人間性を疑われている段階ではなかろうか?その証拠にこちらを見る彼女の瞳の中に光を見出すことができない。

 って!よく考えればここはもう会議室、ミディリアさんだけではない、ギルド長たちももう来ているのでは?こんな体勢でいるのはいくらなんでもまずい!

 そう思いながら体を起こして部屋の奥をみると…。

 口の端を盛大に引きつらせこちらを睨む副ギルド長と、もう一人、服の上からも伝わってくる鍛えられた体と、大樹のような懐の深さを感じさせる雰囲気を持つ男性が立っていた。。…その表情は、まごう事無き苦笑いではあったが。


「…き、君が今回の試験の対象者だったタクミ・サイトウだね?と、とりあえず立ち上がってこちらの方まで来てくれるかな?」

「は、はいっ!すいません!」


 あわてて男性の元へと向かう。おそらくは…と言うか、確実にこの男性がギルド長なのだろう。さっき聞いた特徴と同じだし、何よりも威張ったり、相手を圧倒するような言動をしている訳でもないのにひしひしと威厳や凄味が伝わってくるのだ。

 もう中年と言っていい年代なのは表情などから分かるけれど…、今でこの迫力だ、最盛期は一体どれほどすごい人だったのだろうか?


「こ、こいつ…そもそも不合格にするべきだったんじゃあないのかっ…!」


 副ギルド長から何やら不穏な言葉が聞こえた気がするけど気にしてはいけない。今はさっきの大失態をなかったことにするためにも真面目にしよう。

 …俺自身は一応真面目にしてるつもりなのだが…。


「そ、それではタクミよ。今回の冒険者登録とそれに付随する適正ランク試験の結果発表を行う。…まあ、肩の力を抜きたまえ、別にそこまで緊張する必要はないだろう?」

「は、はい。」

「それでは今回の試験についての説明も詳しくさせていただこう。そもそもの発端は冒険者登録時の魔術適合計測だ。君は全属性に適合すると言うかなり珍しい結果を叩きだした。その結果としてHランクではなくDランクに登録するべきだ、との声が一部で上がったのだよ。まあ、一つの国に一人か二人程度しかいないほどの才能だ。厚遇することでこの国から離れないようにしたかったのだろうね。だが、原則として登録したばかりの冒険者は皆Hランクから始める事に決まっている。その問題を解決するために間を取る形で、…ここにいる我が副官の意見でもあったが…Cランクの冒険者であるエリクスとの模擬戦で実力を測ることとしたのだ。…ここまでは、分かったかな?」

「はい。つまりは『こいつ俺らの敵にまわられるとまずいかも知れないし、先にこちらに引きずり込んでいこうぜ?』っていう意見と『いやいや、ちゃんとギルドの規則にのっとるべきだ』っていう意見の結果が先程の試験だったと言う事…ですよね?」

「ああ、そういうことだ。…しかし君はなかなか言いづらいこともはっきり言うね?それはなかなか好感触だよ」

「そうであれば嬉しいです。正直言ったあとは内心ひやひやしていました」


 気付けば緊張が解けている自分がいることに気がついた。ギルド長本人から緊張を解くよう言われたことや単に時間がたったからってだけじゃあない。むしろ長の語り口が相手に自分の言葉をより深く聞かせるような妙な魔力を持っているような感覚であった。


「ふっ、そのくらいでいた方がいいよ。冒険者はその特性上決まった後ろ盾なんてほとんどの場合持てはしないが、それならそれで足元を見られないようにしなければいけない。墓穴を掘るようではいけないが、嘗めてかかられないようにするべきだからね」


 …何だか若干『墓穴を掘った』と言われた感じがした。いやまあフォローしてくれたのだと思うし…よく考えればこういう場で最初っからあんな行動をしていれば信頼なんてされない気がする。と言うか立場が逆ならそうなる。

 フォローがあるだけ感謝か………。でも、いつかは信頼とか、されたい。日本人だった頃は優しくしてくれる人はいても信頼してくれる人はいなかったし…。まあ、原因は自分にあるけれど。優しくしてくれるのも両親だけだったけど!

 もう、後悔なんてしたくはない。…今は、何をしても意味は無い気がするけれど。


「それでは、結果の発表だ。まあ、あの模擬戦をしている時点でなんとなくわかるとは思うけれど、冒険者試験そのものは合格…とはいっても、あれはあまりにも冒険者に向いてなさそうな人物のみを辞退させる理由づけのような物だしね。と言うわけでランクの発表から始めさせて貰うけど….

一つ質問だ。君は、この冒険者と言う仕事の危険性を理解した上で、それでもこの職業に就きたいのだと思えるのかな?ここに来た理由は問わないよ。君は海に浮いていた所を保護された、と聞くし、誰かに言われてきたのかもしれない…他の仕事と違って冒険者という職業に着くのは簡単だし、仕事だって多岐にわたっている。少し矛盾しているようだが、別段腕っ節が強くなくたって出来る仕事だって数あるんだ、一部の人は別の職業の方が自分に合う、と感じてこの職業から離れていってしまうからね。

 だが…冒険者、というものに最も期待されていること、それはその名に表される“冒険”ではない。むしろ身近に迫る危険…人を食らう忌種の討伐や、それこそ他国との戦争に傭兵のような立場で駆り出されることだってある。今なら…ミレニア帝国、と言う事になるかな?」

「ギルド長、あまりそういう事を明言すべきではありませんぞ」

「ああ、すまないね。昔からどうにも一言多いと言われるんだ…。まあ、とにかく私が言いたいことは“冒険者”であることで求められるのは戦いだ、と言う事だ。これは子どもが夢に見るような綺麗なものでは決してない。血と泥にまみれた終わりのない醜悪な物なのだよ。別に今その覚悟をしろと言うわけではない。これは勝手に出来上がるものだからね。でも、いずれ自分がそんな覚悟ができてしまう人間になる、と言う覚悟は持っているかい?」


 …覚悟、か。

 正直なところそれは今まで深く考えないようにしてきたことであった。

 今までの自分の生活とは違う、世界が変わって…文字通り、異世界に来て。今までの自分の考え方では生きていけないのだろうと少しくらいは考えていた。

 だが、こうして正面から問われて理解した。まだまだ軽い思い、考えでしかなかったのだ、と。

 この世界は地球ほど優しくはない。それこそ地球にも戦争はあったけれど、この世界ではきっと世界中が人間や他の命にとっても戦場なのだ。

 ギルド長が今話していた忌種…きっとそれは地球でゲームや漫画などで人類の敵として現れる魔物の様な物なのだろう。だがゲームなどではない。それらは実際に人の命を奪い、喰らって生きているのだろう。

 正直なところ、自分はまだ相手の命を奪う覚悟はできていない。それにいくらアリュ―シャ様から力を貰ったからって、使うのがこんな元ニートでは碌に生かせやしないだろう。実際エリクスさんには圧倒されたのだ。きっと軽い気持ちで忌種との戦いや戦争に出てしまったらすぐに死んでいただろう。

 でも…


「俺は…」



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