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忌祓の守人~元ダメ人間の異界転生譚~  作者: 中野 元創
第三章:暗中の白、浄化の光
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第六話:壁の謎と、これからの方針

「ぞ、族長!この壁、瘴気で出来ているんですかッ!?」


 その事実に驚き、族長に確認を求めて声を上げたが、しかし、帰ってきた反応は鈍いものだった。


「…瘴気とは何だ?私は、その壁そのものの正体については分からんが、君は何か分かっているのか!?」


 …どうやら、族長は瘴気についての情報を持っていないらしい。

 謎ばかり、というほかないだろう。そもそも瘴気というものがどういうものなのか、ということすら分かっていないというのに、今度はそれが、見た事もないほどの濃度で壁を作っているっていうんだから。

 …ふと、脳裏に先日の光景―――先日の筈の―――が、浮かび上がる。

 それは、司教が操った瘴気を、俺が魔力で動かした時のこと。瘴気だと言うのならば、今回も同じようにしてしまえばいいのだ。

 あの日と同じように、体の中からかなりの量の魔力を外に放出。ただ、あの日は空中に浮いていたから良かったものの、今日は固まってしまっているので、網目状では無く、単純に固めてぶつける…が、わずかな揺れを、その表面に発生させただけで終わってしまった。

 この瘴気は、空気中に分散しているのではなく、ある意味で言えば瘴結晶のように、物質として、いや、固体として存在しているのだろう。

 だとすれば、魔力で操るよりも、他の何かをぶつけ、その衝撃で瘴気を吹き飛ばす方がいいのではないだろうか?

 …『水槍』では駄目だろう。水位が変わっているという事は、多かれ少なかれ水は外と内とを行き来しているのだろうから。ならば、効果のほどは怪しいけれど、『風刃』ならまだ、試す価値が有る、といったところか。

 強風程度なら、この瘴気の壁にも吹き付けている事だろう。その程度では、意味がない。だが、これはあたりの空気を密集させて使うのだ。これなら、壁の耐久力を『風刃』の切れ味が上回り、人が通れるほどの穴が開くという事も有るだろう。

 出来る限り鋭く、空気を凝縮させて、ぶつける。


「『風刃』」


 『探査:瘴』を使ったままの視界には、『風刃』によって深い切れ口が壁に生み出された所が映り、そしてそれが、風が通り過ぎた所から順に、しかし一瞬で埋まって行く所まで俺に見せつけてきた。

 これを見るに、潮位の変動についても海水が通過したのではなく、むしろ液体にも近いこの瘴気が、海の満ち引きと共に上下していると考えた方がいいのではないだろうか?

 だが、それを正しい事とすると、今度はもっと不可解な事も出てくる。

 つまりは、俺がどうしてこの壁を突破して、この海岸に流れ着いたのかという事だ。

 あの時の俺は意識を失っていた。そんな状態の俺が、この壁を突破できる理由は存在していない筈なのだ。だって、意識を保って、突破を試みている現状では失敗ばかりなのだから。

 壁に隙間が有る、という可能性はある。実際にそうだとしたら、気の遠くなる話ではあるが…海中に潜って『探査:瘴』を使い、壁のある場所を見ていけば、見つかる可能性もあるだろう。

 その後何度か『水槍』を撃ち込んでみたが、あまり結果は変わらなかった。ただ、最初に水は通過するという勘違いで『水槍』を考慮していなかったが、こちらの方が効果は高かったようにも思える。『風刃』と『水槍』の違いなんて、せいぜい重さ程度のものなのだから…つまりは物理的に動かせないわけではないと言う事だろう。もちろん、生半可な威力ではこの壁を壊すことなんてできないだろう。

 とりあえず、今の状態で俺に出来ることはなさそうだ。後は、対策を考え、試し、再度修正する、まさに試行錯誤の時間になって行くだろう。

 だから、一度海から出て、族長に今分かった事を報告しよう。そして、二人で…出来れば、他の人にも事情を伝えて、そして頭を突き合わせて対抗策を出さないといけない。

 そう考えながら、実際に身体を動かして族長のもとへと向かう。最初は、まだ体にだるさに近い様なものが残っていたが、その内消えた。…ここに来る時よりも長くそれを感じていたので、その効果は残留するものだったのかもしれない。

 こちらが歩いて帰ってきた事を見て、壁を破壊することに失敗したと察したのだろう。族長は、残念そうな表情を顔に浮かべ、しかし、それを再度引き締める。当然だ。彼が諦める訳もないし、こちらは願望でしかないが、俺もそこまで簡単に諦めてしまうような奴とまでは思われていない筈。


「どうだった?何か、今は壊せないにしても、いつかの為の手がかりになる様な事は、有っただろうか?」

「手がかり、とは、まだ言い切れないほどの情報ですが、何個かは、見つけました」

「…ここで話すのもなんだな。何度も行き来させて悪いが、私の家に戻って話を聞かせてくれ」


◇◇◇


「―――それで、何がわかった?」


 村に戻り、そして族長の家に入って、すぐこの会話を始めた。族長の部屋に入るよりも早く始めたのだから、彼の思いの強さというものが伝わってくるという物だ。


「まず、あの壁を作っている者がわかりました。まず間違いなく、瘴気ですね」

「先ほども聞いたが、瘴気というものが私にはわからない。…壁の外では、ありきたりなものか?」

「有り来たり、というべきではないのかもしれませんけど。…基本的には、忌種と呼ばれる化け物の体の中に含まれている物質ですね。接種しすぎると、人体にも害をもたらします」

「ブッシ…まあとにかく、毒物のような物だな。…となると、私たちがあの壁に無理やり触れると傷つくのは、そのせいと見ていいのだろうな」

「今のところ一番可能性は高いですね。ただ…俺は体の前側を思いっきり壁にぶつけたみたいでしたが、特に傷ついては居ないみたいです…血とか出てないですよね?」

「ああ、問題ないぞ。…そのあたり、外の人々と私たちの間には、無視することのできない差異が存在しているらしいからな」

「らしい、という事は、伝聞ですか?」

「ああ、父からな。私は、ここが壁に包まれる少し前に生まれたらしくてな。語られる内容に、現実味はほとんど持てては居なかったのだが、…その話だと、魂光を纏うのは私たちの一族のみだったらしくてな」

「もともと、特徴的にも過ぎる一族だったんですね」

「だからこそ、ここに囚われたのではないかとも父は言ったが、しかしその真実などは追求できる物でも無い。まずは脱出だ」

「ええ。それでは、もう一つ。私は壁の外で、瘴気を操る男と戦った事が有ります。ああ、そうは言っても、あんな壁まで作れるような技術は無かった筈ですけど」

「ほう、それで?」

「その時、相手が動かす瘴気を、こちらで動かして制御できないようにしようとした事が有ったんです。その時は、魔力で網を作って、そこに瘴気を引っ掛けることで動かしていたんですが…今回の物は、泥のように触れる、そして重みを感じるほどに凝縮されているんです。それを動かすのはかなり難しそうでして、…脱出するためにはかなりの威力で魔術を当てて、無理やりに穴をこじ開けるくらいしかやり方が無いと思います」

「そのような言い方をするという事は、今の君にはその魔術は、使えないのだな?」

「…はい。まだ、魔術士としてはかなりの若輩でして。そもそも、完全に我流、独学でしかないんです。同じ魔術を使っているつもりでも、相当に威力が劣ってしまうみたいです」

「…この村の魔術士も、父達の話によれば、壁に囚われてからは随分と弱体化してしまったというしな…ぬう、どうすればいいのか」

「…弱体化、した?」


 壁に囚われたせいで、魔術が弱くなった?…いや、そんな事は、なかった筈だ。

 だとすると、これもまた彼等特有のもの、ということになるのではないだろうか?


「族長、俺の魔術は、この壁の中と外の差には、影響されていないみたいです」

「…本当か?」

「はい。…あの、この村の魔術士という方から、魔術の教えを受けることはできませんでしょうか?」

「…良いだろう。君の魔術が弱体化していないのなら、そして、これから高度なものになる可能性が大きいのならば、そこに力を注ぐ理由にもなる」

「…ありがとうございます」


 ずるい話だが、俺には『術理掌握』が有る。今まで活用してこなかった能力だが…きっと、役に立つ。ならば、使おう。…人の努力の積み重ね、という物を否定して行く様なものなんだよな、これ。


「…今日はもう、魔術の話をするには遅いな。いつも話を聞いているが、随分と長引く物のようだ。明日からにしようと思うが、それで良いか?」

「はい、俺は問題ありません。この後は、どうしましょうか?」

「今日はもう休んでいいぞ。…しまった、昼食をとりそびれたな。しかし今はもう夕刻、…お客人、すまないが、夕食まで食事は我慢しては貰えないだろうか?」

「あ、はい。そこまで空腹にもなっていないですし、分かりました」


 ただ、一つ気になった事が。


「族長、俺の事は、お客人なんてよそよそしい呼び方でなくて構いません。もう、そんな関係でも無いでしょうし…先程までの、『君』で」

「………ああ、分かった。それでは、君も少し、休みたまえ」

「はい、族長。それでは、失礼します」


 そう言って、族長の部屋から外へ出る。娘さんと奥さんにも挨拶をして、そのまま家の外へ出る。

 …暗い中でも夕刻だということを示すかのように気温は下がっていたが、心が冷えることはなかった。


 ずっと大勢を閉じ込めてきた壁が、ふらっと現れた人にあっさり壊されてしまう…と言う事にはならないという話。そこまで主人公を優遇しきったりはしたくないな、という思いがあったり。

 次回からは特訓会、と言うより勉強会の方が近いかもしれません。


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