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忌祓の守人~元ダメ人間の異界転生譚~  作者: 中野 元創
第三章:暗中の白、浄化の光
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第二話:行動開始

 朝だ。多分。

 扉を開けて外に出ても、景色は昨日のそれと何ら変わりない。むしろ、月もないのに何となくそこに有る景色が見える程度には光源が存在しているという事に疑問を感じるが、これまた俺が調べても何も分からない事なのだろうな、と思う。

 さて、今日は、今日こそはこの村の人たちとコミュニケーションを取ろうと決めた俺は、運ばれてきた朝食を受け取り、それを急いで食べ終えて、いつもは食器を回収に来るあの男性に先んじて外に出ることで、自らの行動範囲を広げる事を第一の行動とした。

 何をしろとも言われず、ただ運ばれた食事を食べ続ける………その生き方とはお別れすると決めていたのだから、当然だ。この数日間が異常だったという話である。

 盆にのせた空の食器を、広場の方へと運ぶ。案の定、例の初老の男性と途中で遭遇、彼は、こちらを見て驚いたような表情になった。


「…お客人、どうされました?」

「いえ、俺だけ何もせず食事ばかり、って言うのはおかしいと思いまして。まずは、自分の食べた食事の後片付けくらいはしようと思ったんです」

「おや、これはこれは。ですが、お客人が、そのようなことする必要はありませんよ」

「いえ、俺も、持て成されてばかりじゃあ居心地も悪いです。結局ここで暮らしているんですし、何かの雑用とか、そのくらいの事ならいくらでもしますよ」


 言ってから、ああ、居心地も悪い、なんて言い方はまずかったかな、とも思った。もてなしている側に言う事じゃないだろう。

 さて、先ずは皿洗いからだ。


「それで、これはどこに持っていけばいいでしょうか?」

「………分かりました。それでは、こちらへどうぞ」


 男性の後ろを歩いて、今度は村の外へ。

 するとそこには、川が流れていた。

 …川が流れている、という事は、つまり上流となる山が有る、ということになるような気もするのだが、ここから見える限りにそんなものはない。…不思議だ。


「食後の食器に、衣服など、全てこの川で洗浄しております。食器で有れば、もう少し下流に。衣服で有れば、もう少し上流に、といった具合です」

「なるほど。それじゃあ、俺、洗ってきますね。あ、洗い終わった食器はどうしましょうか?」


 俺がそう聞くと、男性が、少し呆れたような目でこちらを見て来たような気がした。

 …いや、ここまでやって、後はお任せなんて言う方がおかしい話だと思ったんだが。

 しかし、男性の方も諦めてくれたらしく、村の中心、広場に向かえば誰かが教えてくれると言ってくれた。…誰かが教えてくれる、と、少し他人に責任を投げた様な所が有ったので、もしかしたら俺は呆れられた上に諦められたかもしれない。


「まあ、良いよ。今日は、とにかくいろんな人とコミュニケーションをとって、今の俺の状況とか、この場所についてとか、しっかり調べないと」


 川に食器を浸け、指や葉っぱなどで試行錯誤しながら汚れを落としつつ、そんな事を口にする。

 今日のうちに、親しい…世間話程度はする関係の人を作ろう。出来れば同年代が良いとも思う。友達になれれば、一番いいだろうし。………ああ、同年代と言っても、十代後半という意味だ。もう、二十代前半ですら自分より年上としか思えないのだから。


「年齢と言えば、この顔だよな…」


 川の流れを見て、思う。

 髪の色は、黒。肌の色も変わっていない。瞳の色も黒で、まあ、日本人と言っても通じる顔だろう。

 だが、そう、『通じる』と言った程度で、微妙に外国の気配がするのだ。どちらかと言えば、欧州系。前世よりも、少し瞳が大きく、また、鼻が高いような気がする。

 十代後半の俺がこんな顔だったのか、と言えば、そんな事はない筈なのだ。

 アリュ―シャ様は一体、どうやって俺の顔を作ったというのだろうか。変にいじくったり、と言った話はなかった筈だし、若返ったことについては………まあ、俺も、人生をやり直したいと思っていたのだから、文句など全くないけれど。

 まあ、もう今更か。そもそも、特に問題にもならないと思ったからこそ今まで深く考えても来なかったわけなのだし。

 と、考え事をしながら手を動かしているうちに全ての食器を洗い終わっていた事に気がつく。

 再びお盆に食器を乗せて、今度は一人で村の広場まで戻る。


◇◇◇


「あ」

「…あぁ」


 広場で出会ったのは、昨夜、家の前で出会った女性。壺を持って、こちらへと歩いてきたようだ。………つまりは水汲みだろうか?彼女から見て俺の方向にはあの川が有るわけだし。

 だとするのなら、手伝って、そして親しくなるのはいい事だろう。ちょうど同年代だ。…いや、今は食器を片づける方が先か。


「すみません、このお皿って、どこに片づければいいんでしょうか?」

「…ああ、それなら、そこの家の庭に棚が有るから、そこに入れておいて」

「分かりました。ありがとうございます」


 言われたとおりの場所を見れば、確かに棚の中に皿や湯飲みなどが置いてある。………何故外なのだろうか。食器は陶器な訳で、つまり衝撃には弱いのだ。そう言う意味で危険な野外にわざわざ置いておく理由がわからない。

 食器棚の前まで来て、ふと、気がつく。この皿、拭くの忘れた、と。

 もう長い間、…本当に長いあいだ自分で食器を洗っていなかったので忘れていたが、普通は拭く。そうじゃないと汚れになっていく。

 だが、何となく見た棚の中、そこに有る食器からは水が滴っているのがわかった。………放置していいのか?そう思い、更に棚に近づくと、各所に隙間が作られていて、水を外へと排出する作りになっている事がわかった。先入観を持っていたがために、木製の棚だと思っていたが、これは石で作られたものらしい事も。

 つまり、もとからこういう形で食器を洗ったまま収めるものだったらしい。まあ確かに、汚れた布を洗っても、乾かすための日光が無いのだから、たくさん洗い物を出す訳にはいかなかったのだろう。

 ………しかし、日光が有れば効率的に皿を乾かすこともできそうだな。…って、そうだ、それも含めて、今日は俺自身の状況を把握することにしていたんだった。

 皿の種類ごとに分けて、棚に食器を収納する。

 そして、町の広場の方を振り返り、…先程の女性が、水をなみなみと溜めこんだ壺を抱えて、歩いているのが見えた。


「………早くないか?帰ってくるの…」


 もしかしたら、俺が思っているよりも長く食器棚を眺めていたという可能性も…いや、やはりそれはないだろう。どれだけ長くても、ここで突っ立っていた時間は二分を越さない筈。

 あの川まで、あの男性と同じ速さで歩いて片道二分だ。仮に彼女が息の道を走っていたとして、帰りは壺の中に水が入っている。同じ速さでは帰って来られない。

 ………ああいや、仮にあの壺をレイリが持って行ったとすれば、別段不思議にも思わなかっただろうな。つまり、彼女も同じくらいの身体能力を持っているという事なのだろう。

 そう思って、しかし、当のレイリ本人には会えないのだな、と思い、僅かに郷愁にも近い感慨を得た。だが、僅かに、だ。きっとまた、ロルナンに帰る事はできる。何時になるか、までは分からないけれど、でも、自分の力で、できる限り早く帰ってやる。

 そのためにも、この村でも人間関係を気付いて行くことが必要だ。

 まずは、この夜しか来ない村を出て、一体自分がどこにいるのかを知る。…それができなければ、ロルナンに帰るなんて夢物語だ。

 …さて、自分から誰かに話しかけるとして、どんな風に接して行くべきだろうか?

 基本的に、人間関係構築が上手い人、というのは気さくに話しかけられる様な人が多いと思う。だがしかし、それが俺に出来るのかと言われれば甚だ疑問…というより、不可能に近いのではないだろうか。

 となれば、もう開き直りに近いが、素の俺に近い感覚で、でも精神的な距離を生み過ぎないように話しかけていくべきだろう。


「となると、一回堅苦しく接してしまった彼女は避けた方がいいのだろうか?でも、一番親しい、というか、自分から話した年の近い人って彼女だけなんだよな…」


 また、優柔不断になってしまいそうである。

 と、とりあえずは、彼女以外に話しかけやすそうな人を探してみよう。本当に事情を聞こうと思うのなら、村長さんに聞くのが一番だとは思うのだけど…流石にそれは、非常識と言われそうな気がする。やはりここは、同姓・同年代の人物を探すべきだ。

 昨晩の晩餐に、村人全員が集まっていたとすれば…記憶の中に、当てはまる人物は二、三人と言ったところか。

 幸いにして、この村の住人は温厚…というよりも、少し反応が薄い所がある。こちらがゆったりと話しかけても問題はない、いや、そちらの方がいいだろう。

 という訳で、村中を歩き回って若い男を探す。ああ、この言い方は少し危ないな。だが事実だ。

 ………しかし、意外と見つからないな。外に出て働いている訳ではない…?いやいや、この世界の労働開始年齢はどう考えてももう少し早いぞ。内職やっている訳でもないだろうし、となると、この村の中にはいないという可能性の方が高いか。

 狩り、そう、狩りを行っているという可能性は高いのではないだろうか。朝食には、鶏肉のような物が使われていた。当然、それを獲ってきたのは村の外だろうし、罠によるものだとしても、直接捕らえるにしても、恐らく、この日中…とは言えないが、とにかく村人が活動している時間尚は間違いない。

 また、村の外に出るな、とは言われていない。近くの浜辺に流れ着いた時も、武器などを持っていない村人がそのあたりを歩いていたのだから、大きな危険はない筈だ。

 だが、そこで気がつく。狩りともなると、獲物に自分の存在が察知されない事が重要な事項になる筈。そうなると、話したりしている暇なんて皆無だよなぁ…。

 しかし、結局の所何もせず今日という一日を放棄してしまう訳にはいかないのだ。今日の、いや、今日からの俺はアクティブに動くのだ。そのためにも、村の外へ出て活動範囲を広げるのはいい事だろう。

 という訳で、数日前に村人に囲まれながらくぐった村の門を、今度は外へとくぐり、そして、外の森へと抜ける。

 景色などは、ほとんど初日に見たそれと変わった様子はない。日光による変化が無いというだけで、景色はこれほどまでにつまらないものになるのか…、と思う。

 しかしこの暗い中、どうやって鳥なんて見つけたのだろうか。むしろ、彼等の白さ、微妙な輝きが、獲物を遠ざける結果になってしまうのではないのだろうか。

 現に、ここからでもぼんやりと白い光が見える。恐らくは、一か所に集まっているのだろう。

 そっと近づく。足音を限界まで抑えて、呼吸も小さく、気配を消す。

 だがしかし、彼らの姿が見えた時には既に、全員が俺の方を見ていた。


「へ…?」


 一人の若者―――俺と年はそう変わらない筈―――が、こちらへと近づいて来て、口を開く。


「どうされました、お客人。村の外に、何かご用でも?」

「あ、ああ。俺一人だけが村の中でゆったり過ごしてるなんて、おかしな話だと思ってさ。だからせめて、何か作業だけでも手伝えないかと思ったんだけど」

「…そう、ですか。しかし、お客人を働かせる訳にも」


 そんな事を言う彼に、しかし、俺は感じていた疑問をぶつけることにした。


「そこなんだけどさ、俺は何で『お客人』って呼ばれているんだ?………この村に知り合いとかはいないし、俺の存在が何か利益をもたらしているとも思えないんだけど」


 俺がそう言うと、青年は、少し考え込み、答えを返してきた。だが、それは質問への回答というよりも、


「族長がおっしゃられた事ですので、私には、はっきりとした事は、何もわかりません。…族長も狩りに参加しています。ここで質問なされては、どうでしょうか?」

「本当に?…だったら、そうしてみようかな」


 青年と共に、集団に合流する。…だがそこに、村長、いや、族長の姿はない。

 こことは別に、班を分けて狩りをおこなっているのかもしれない。まあ、後で合流はできるだろう。その時に、族長本人から話を聞くか。………後回しにしていたのだが、まあ、そう言う事もある。


「…どうやって、この暗い中で獲物を捕まえるんですか?俺の眼には、木が有る事は分かっても、生き物が何処にいるのかまでは全く分からないんですけど」

「…え?何故でしょうか?」

「え?何故って………暗いから、ですよ?」


 彼は何を言っているのだろうか、と思って周りの人を見ると、そんな視線を向けられているのは俺の方だった。

 …彼等は暗視ゴーグルでも持っているのだろうか?なんてふざけた考えまで首をもたげるが、いやいや、そんな筈は無いのだ。

 …そうなると、肉眼でも僅かな光源のみで視界を確保できる、ということになるのだが、もしかして、この太陽のない場所で暮らし過ぎて、進化してしまったのだろうか?

 だとすると俺ではとても、適応できない。それは多分、世代を超えて少しずつ備わって行った能力なのだろうし…。


「暗くとも、生物の居る場所ならば感知できるでしょう?…例えば、ここからまっすぐ五本分前に生えている、木の梢に、ラトゥイスが止まっているでしょう?あれは、食べる部分が少ないので、狩ろうとも思いませんが」


 そう言われても、肉眼で見える筈もない。

 だが、彼は気になる事を言ってくれた。

 『生物の居る場所なら感知できる』…見るのではなく、『感知』といったのだ。ならば、単純に肉眼に頼るのではなく、もっと魔術的な効果を以って、生物を感知するというのだろう。

 俺が思い当たるものと言えば、『探査:瘴』が近いだろうか。そこまで離れた物でも無いと思う。つまりは、魔力によって見つける物が、瘴気では無く生物になるという話だ。

 だが、生物を探査すると考えても、いまいちどうしていいか分からない。生物と非生物の違いは…魂、だろうか?ただ、それを探査すると言われても、という所で、全くやり方がわからない。


「すみません、一体どうやって、生き物を感知すればいいんでしょうか?」


 困った俺がそう聞くと、青年は少し悩み、そして、


「お客人は、子供のころにこの方法を習っていない、という事ですか?」

「はい。なので、こんな暗い森の中だと、動物を見つけるのはほとんど無理ですね」

「そうですか………それなら、私が母から教わった方法を試してみてください」


 そう言って青年は、俺の前から一歩、後退した。


「…お客人は、魂光(こんこう)を纏っていないんですね」

「こんこう…?………ああ、はい。そうですね」


 こんこう、というのは、彼等の体を包む、うっすらとした白い光の事でいいのだろうか?彼等と俺の、一番大きな差がそこだという事は、間違いないと思うが。


「それではお客人、私の魂光に集中して下さい」

「はい………」


 彼の体を包む光へ、意識を向ける。


「お客人が魔力を扱えるのであれば、それを魂光に当てることで、魂光とそれ以外を見極めることもできるようになる事でしょう」

「魔力を当てる…」


 そっと、魔力を放出する。波長として、そして直線として、勢いや量も、少しずつ調節する。

 こんこうの、その僅かな体積に魔力を当てようとするが、それ以外の場所へも向かってしまう。

 だが、結果的に言えば、それが良かったのだろう。

 魂光と、地面や木々に当たった魔力の反応に、差を感じ取ることができたのだから。


「………魂光に魔力を当てると、魔力が変に揺れる、と感じたんだけど…」

「ええ。それで初歩としての感覚は十分な筈ですよ。それではもう一度、ラトゥイスは、今も梢に」


 言われて、五本先の木の梢を見上げる。そこにラトゥイスという鳥が居るのならば、と思い、魔力を放出。

 すると、先ほどよりもずっと微弱、というよりも、ほとんど違和感程度でしかなかったが、何かを感じる事ができた、


「おお…」

「と、まあ、こんな感じでしょうかね。お客人にも、手ごたえはあった様で、喜ばしいです」

「ありがとうございます。…俺も、このまま合流してもいいですか?」

「はい。構いませんよ」


 こんこう、それを表す漢字が魂光だとすれば、俺が感じ取ったのは魂ということになるのだろう。

 生物の魂を、魔力で感じ取る技術、………もし、忌種にも通じる物ならば、これはきっと、ずっと俺の力になってくれるに違いない。

 気になる事が有るとすれば、彼の口ぶりだと、彼等は魂を魔力なしで感じ取っているようだった事だが…。

 いや、今は、いずれ合流するだろう族長に、話を聞く事を優先するべきだろう。

 それまでは、彼と交友を深めておくとしようか。


 第三章は、出来事は多いけれどその分経過する時間も長くなる予定です。


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