第二十八話:総力戦と合流
「………やっぱ離されちまったぜ畜生!」
「追いつくのは厳しいね。………港まで最短の道のりを通っているから、先回りも難しい…というか、もうすぐ港にも着くし」
何時の間にやらヅェルさんが居なくなっていたのだが、撤退したのか、別の道で港に向かっているのか。
どちらにしろ、今は俺とレイリだけで走っている。
港まで…一分も走れば到着するだろう。そして、司教たちはずっと先を飛んでいる。もう時間は無い。
「急ごう。………逃げられる」
「ああ。走るぞ!」
再び全力疾走。追いつけなくても、せめて距離は縮めなければ。
この先にも、少なくとも先行した冒険者はいる。そして、恐らくは衛兵も陣を敷いている筈。さっきの所でうずくまっている人たちもどうせすぐに起きてこちらへと向かってきてくれる筈だ。大丈夫、何とかなる。
というか、なんとかするために急いでいる訳で。
「ここ曲がったらもう港が見える筈だよね!?」
「おう、走れ走れ走れーーー!」
そして、曲がった先に見えたのは、司教に向かって飛ぶ魔術の数々。海だから、という事も有るだろう。水を何らかの形で制御している物が多いようだ。
その中には、以前海に現れた忌種を退治する時に見た魔術…恐らく、本来の形としての『水槍』もあった。という事はここに、レッゾさんもいるということだ。少なくとも衛兵側の人員配置は終わっていると考えても良いのではないだろうか。
更によく見れば、近くの家屋の屋根に他の邪教信者が佇んでいたり、この現場を撹乱しようと走りまわっていたり…なかなかに混沌としてきている事が伝わってきた。港の一角に集中し過ぎた結果だろう、何が何だか分からない。
「どうするレイリ」
「とりあえず、さっきみたいに後ろからぶつかってみっか?今は前側に集中してるし、ちょっと抑えりゃ足音も聞かれねえだろうしな!」
「そりゃあいい。俺もやるぜ」
その声に驚いて振り向けば、そこにいたのはエリクスさん。
更に、シュリ―フィアさんもそのすぐ後ろで戦況を確認するように目を細めて立っていた。
「某が介入するのは危険そうだな。こちら側の陣営に危険が加えられてしまうだろうし」
そう言ってシュリ―フィアさんは、その手に握る杖を僅かに揺らし、『攻性光』とつぶやく。そして、やはり杖の先から光線が放たれて、先ほど見た、屋根にたたずむ邪教信者に飛んでいく。
しかし、それは寸での所でその邪教信者が下へと飛び下りていくことで避けられてしまった。
「…このように、狙い撃とうとも効果はなさそうなのだ。皆には悪いが、某は事態が動くまで、静観させてもらうぞ」
「分かってますって。………シュリ―フィアさんが戦うとなれば、この辺ではもう、会場に出るしかないでしょう」
「じゃあ、アタシ達三人で行くぜ」
「うん。…行こう、レイリ」
「もう口に出す必要すらないかもな。………行くぜ」
走る。目的は目の前、衛兵たちが再び設営したバリケードにてこずっている司教に痛撃を与える事。衛兵はバリケードの向こうで、これを超えて来た後の対応をする組と、それ以前に妨害をするかかりに分かれているらしく、魔術士や弓兵などがこちらに攻撃をしている。
それも、俺たちが攻撃する姿を見て一時中断するということか、少しずつ密度が減り、
「そおりゃィ!!」
エリクスさんが司教の側面に回りながら剣を振りかぶる頃にはもう止んでいた。そして、敢えて―――敢えて、の筈―――大声を出すことで、エリクスさんは意識を引き付けている。
ほとんど間をおくことなく前進したレイリが、司教をはさんでちょうどエリクスさんの反対側へ、姿勢を倒しながら踏み込み、剣の柄を握る。
俺もまた、どういう軌道で『風刃』を当てるのかを決めて、そして起句を唱える。
「『風刃』…『風刃』!」
二回分、実質的なタイムラグを一度目の軌道を変える事で解消し、放つ。二発目は単純に真っ直ぐ、そして一発目は、上方へ弧を描いて、司教の少し奥に落下するような形だ。
本当は、レイリやエリクスさんが戦っている所に、基本的に不可視の筈の『風刃』を撃ちこむのは避けるべきなのだろうが、しかし二人からは、『撃つと分かっていれば避けられる』という、頼もしいんだか、馬鹿にされているんだか、な言葉を聞いている。
ならば、俺はそれを信じようではないか。
「………!司教様!後ろです!」
「ムッ!?…く」
惜しい所でクヴィロにレイリの行動に気付かれ、そしてレイリの攻撃は僅かに脇腹へと傷をつけただけに終わる。そして、エリクスさんの剣は、瘴気らしき紅の揺らめきが包んだ右腕に止められてしまう。その剣も食い込んでいたし、十分深手と言えるものなのだが、………いや、おかしい。
さっきおれは、司教の右腕に『風刃』で、かなり出血するだろう程の傷をつける事は出来ていた筈だ。なのに今は、エリクスさんの件を受け止める事が出来るほどに素早く動かしていたわけだし、その上、今のエリクスさんの剣の傷以外には目立った外傷はないようにも見える。
………回復能力、という事だろうか?瘴気をまとっているという事は、…やはりそれも、瘴気の奴らなりの活用法という事なのかもしれない。エリクスさんが振った剣で腕を切り落とせていない、という事が既に驚くべき事でも会うが、よりまずいのはこちらの事実だろう。
「ぐはぁッ…!」
そして、俺の『風刃』も司教に命中。胴体に、その全長とほぼ同じ長さの傷を刻むことに成功した。
痛みによろめき、司教が俺たちから離れるように一歩、俺から見て奥へと足を動かす。
………当たるだろうか?上手くいってほしい、と思いはするが。
――――――ズサァッ!と、そんな音が聞こえて、俺の放った『風刃』は命中した。
だがしかし、その対象は司教では無く、
「ウガァァッ!」
「…!大丈夫ですか!?同士!」
クヴィロである。左肩から深々と肉を抉られて、かなりの出血量だ。………自分がやったこととは言え、見ていて気分が悪くなってくるのを感じた。
「………おいタクミ!?追撃かけんぞ!」
エリクスさんからの声に、再び身を引き締める。
「はい!」
司教は、なりふり構わず、と言った感じで声をあげながらバリケードを越え、その奥の衛兵たちを巧みにかわしながら奥へと進んでいく。
俺たちもそれを追って走る。だが、如何ともしがたい乱戦模様というか。
他の邪教信者と戦っている人も、そのサポートに周っている人も、いろいろな所を駆け巡るせいか、最早自分がどっちに走っているのかが分からなくなってきた。
「くっそ!どうなってんだぁこりゃあ!」
「いくらなんでも、ここに集まった人数が多過ぎなんです。………港の面積もかなり広いけど、もうここに衛兵、近衛兵、やる気のある冒険者…集結してますから」
「………あんまし無茶に走ってると、人にぶつかって余計に進みずれえぜ、タクミ、兄貴」
実際そうだ。
というか、感覚的な話でしかないが、何となく、全員こっち側へと動いていないだろうか?…いや、やっぱりそういうふうに流れが出来ている気がする。
「―――止めろぉッ!!」
そんな声が聞こえたのは、その違和感について二人の意見を聞こうと思った時。
何ごとかと思いそちらを見れば、恐らく現状一番俺たちから見て後方にいたのであろう邪教信者が、ここから分かるほど高く跳躍…二、三メートルは確実な、そんな高さの背面跳びをして、こちら側に着地して、やはりこちら側へと走ってきた場面を目撃する事となった。
止めろ、というのはつまり、そのままの意味だろう。だが、なぜあの信者は一直線に走るのだろうか?
疑問に思い、その進行方向へと視線を向ける。
そこに有ったのは、一つの船の周りを取り囲み、その船に乗り込もうとしたり、その船そのものを壊そうとしていたりする一団。
そして、その船の中にいるのは紅い服の一団で…つまり邪教信者があの船を占拠しているという事だろう。
ということは、だ。
「あの船をつかって脱出しようとしてるのか…!」
それに気がついたとき、俺たちから少し離れた所を先程の信者が走り抜けていく。
ほとんどその足取りを止める事は出来ていない。せいぜい、人混みがその役割を担っている程度だ。なぜならば、最早この状況で剣を振れば、他の味方に当たってばかりだという判断が皆の腕を止めている。
………船を破壊するのも、あまりうまくは行っていないようだ。そこまで大きな物でも無いので、大剣やハンマーなどで殴っているような状況を見る限りすぐにでも大きな損傷が生まれそうなものだが、何故かそれが無い。
それすらも瘴気の影響だ、なんて話になってしまえば、最早瘴気の使い勝手が良すぎるという物だが…ありえない、と切り捨てる事は出来ない。
どちらにしろ、この状況で船と戦っていても芳しい結果は得られないだろう。
「どうする?…身動きとりづれえこと仕方ねえな。…よし、二人ともついて来い」
「どこに行くんですか?エリクスさん」
「こっから見る限り、あいつらが出港すんのは時間の問題だ。なら俺らも海に出るぞ」
「ああ、なるほどな………兄貴、海はさすがに船の数が少ない。シュリ―フィアさんを呼んでも良いんじゃないか?」
「だな…よし、レイリとタクミで船を一隻確保してくれ。俺はシュリ―フィアさんを連れてくる」
そういってエリクスさんは走って行った。
………確保?
「よし………………船を奪うぞ、タクミ」
「確保ってそういうことか…!いやまあ、………緊急事態って事で」
「おお、…成長したな」
「成長って呼んでいいのかは甚だ疑問だけどね」
周囲を見れば、他の冒険者たちもその発想にたどりつき始めたようで、船を探そうとしている人もいるように見受けられた。
「…急ごう」
◇◇◇
「お、ちゃんと船確保できたんだなお前ら。偉い偉い」
シュリ―フィアさんと帰ってきたエリクスさんの反応は、そんなものであった。行動的に偉くない気がする、とか、そんな事を普段なら考えた事だろうが、しかし、少し前に有ったとある事態により、それに対してあまり思う所が無かった。
というのも、だ。
「おう、遅かったなエリクス、それにシュリ―フィアさんも」
「………な」
「………………ボルゾフ殿?」
「おう!俺も合流するぜ!」
………奥さんの体調は、良好になったのだと。
そんなボルゾフさんが、俺たちが確保した船に一緒に乗る事になったのだ。
「うちの妻も、大分症状が軽くなってな。そんなら、…元凶に痛い目見せてやるってのは有りだろ?」
「なるほどな…頼りにさせてもらいますよ?」
「うむ、ボルゾフ殿に御助力願えるというのならば、これ以外に取りうる選択肢などは存在していないな。惜しむらくは、これからの戦場が地上では無いということか。やはり、不安定な上、狭い船の中では機動力が殺されてしまいますからな」
「いやいや、その程度で泣き言言ったりする気はありませんよ。自分の手で一発………気の済むまで殴らねえとな」
気の済むまで…それって、まさか………。
「………まさか、その為だけに武器を持たずに来たんですか?」
「正解だぜタクミ。普通に斬りかかっっちまったら一撃だからな」
………邪教信者、特に司教の回復能力が異常なほどに高いという事を考えれば、武器を持ってきた方が良かったのでは?とも思うが、実際の所、奥さんのお見舞いに武器を持っていっていなかった、という事なのではないかとも思う。
まあ、ボルゾフさんの拳で何度も殴られて無事でいられる筈も無いとは思うので、目的には合っていると言えるかもしれないが。
「…早く船を出そうぜ兄貴。もうあちらさん、出港してやがる」
「まじかよ!?急げ急げ!」
エリクスさんはもやい綱をほどきながら、こちらの船へと飛び乗ってくる。数秒と立たないうちに全員が乗り込み終わったので、そのまま出港…出港………。
「どうやって船って動かせばいいんですか!?」
「漕げ!」
「マンパワー頼り…!櫂は!?櫂は何処に!?」
「どっか落ちてるだろうよ!探せ探せ!」
実際落ちていたので、それを船体の横部分に有る窪みに設置して、漕ぎ出す。
しかし、操舵技術なんて俺は知らない。というか、皆知らないみたい何だが、これでちゃんと進むのか?
………見れば、もう邪教信者が乗った船はするすると水面を進んでいる。あちらも、櫂でこいでいる以上こちらと条件は同じの筈なのに、………技術が足りない!技術が足りない!
誰かから、せめて基本だけでも教わらない限りはアリュ―シャさまから貰った『術理掌握』もほとんど意味を成さない様に感じるし―――いい加減、誰かから戦いに限らず何らかの技術を学ぶべきだろうが―――今はあまり意味がない。
どうするべきだろうか?力いっぱい漕いでも駄目、というのは流石に分かっている。しかし、いまでも声を合わせて漕いだりはしているのだ。それでも思ったほどの推進力を得られない。
………邪道だろう。邪道なんだろうけど………。
「………うん。まあ、『操水』!」
「はあ?いきなり何言ってんだタクミ!そんな事言ってる暇が有るならもっと漕…うおッ!?」
水を操るから、『操水』………単純なネーミングだが、まあそんなものにこだわって時間を浪費するのも馬鹿らしい。
船の周りの水を前に押し出して、逆にそれとすれ違う用に更に外の水を逆側へと流す。勿論その時、単純に真っ直ぐ流すのではなく、少しそれるように流すのだが。
ここに櫂で船を漕ぐ力を足す事で、かなりの速度を出す事が出来ている。…おぼつかない記憶だが、確かパカルさんの船もこのくらいの速さじゃあ無かっただろうか?本職のそれと同等だというのならば、まあ及第点と言える筈だ。
「おお!魔術を使って船を押しだしたか!その発想力は良いな!流石だぞタクミ殿!」
「………シュリ―フィアさんは、魔術でどうにかできたり…?」
エリクスさんがそう聞くと、シュリ―フィアさんはそっと目をそむけた。
「………………某が下手に手を出すと、転覆しそうなのでな。多少はましになったが、未だに魔術の出力を抑えたり、分散させたりと言った細かな制御が苦手でな」
「…すいませんでした。でもその分、奴らの船への攻撃、お願いしますよ!」
そう言う所でしっかりとフォローを入れられるのが、エリクスさんの凄い所なのかもしれないと思う。
だが、それは今すぐ行う、という訳にも行かないようだ。衛兵隊の乗った船が邪教信者の船へと向かっていく。更には冒険者たちの乗る船も出港し始めた…もう皆見境なしだ。やはり自分の町に危険をもたらす者たちは憎いのだろう。更に言えば、その中にはきっとボルゾフさんのように家族を脅威にさらされた人だっているのだろうし。
さて、俺たちの乗った船の進路は、奴らの船を港から出さないように港の入り口をふさいでいる衛兵隊の船の方向だ。
だが、まあ、それは俺が今独断で決めたものなので、ここはやはり全員に意見を聞いた方がいいだろう。
「どこに行きますか!?今の所衛兵の船と同じで、港の入り口をふさごうと思っているんですけど!」
「なら進路変更だ!あの船にブツけちまえ!」
「いやこれ人の船ですし…!ならボルゾフさん、せめて並走するくらいで」
流石にまずいと思い妥協案を提示するも、ボルゾフさんは不服そうだ。
いやしかし、こうやって他人の船を無理やり動かしている時点で十分法に触れているだろうに、それを壊してしまうというのは。
「そうでもしなきゃ止まんねえだろうし、並走なんてしてみろ?間違いなく奴らはこっちの船にまで乗り込んでくる。負けるなんて言わねえが、乱戦は面倒くせえな」
「………ええ…?」
いや、やっぱり拙いと思うんだけどな…。
「他に何か案ってありませんか?正直俺、船ぶつけるの嫌です…個人的な理由を言えば、冬の海に投げ出されかねないように感じますし」
「………いや、往こう」
「シュリ―フィアさんまで…?」
「やっちまえタクミ。…今この瞬間だけは、奴らを取り押さえることに関して最終的に何でも許されると俺の感は言っている」
「………レイリはどう?」
「いいんじゃね?」
「適当!………じゃあもう、どうなっても知らないから」
「お、良いなそう言うの!」
全然良くない。全然良くないが、俺以外の全員が衝突コースを望むなら従ってやろう。
『操水』で操る水の流れを少し曲げて、邪教信者たちの乗る船が向かう先、ちょうどその側面に当たるように船の針路を変える。
皆、それぞれの武器を構えた。………いい加減に俺も武器を買おう。何なら、シュリ―フィアさんみたいな杖でも良いから。俺だけ船を漕いでいるのは、きっと傍から見たら間抜けな事だろう。
「…!止まれ!漕ぐのをやめるんだ!」
邪教信者の一人がそう言っているけど、もう遅い。二隻の間に差はほとんどないのだから、今更あちらの船が減速しても、少し進路をいじるだけで激突する未来には到達するのだ。
数秒後、当然のように俺たちの乗った船の舳先が奴らの船にめり込み、そして砕かれながらも、相手の船体側面に、大きな亀裂を生むことに成功した。
それとほぼ同時、舳先のすぐ近くに立っていたボルゾフさんが、船に飛び乗りざまに先ほど船の停止指示を出していた邪教信者の腹を殴り飛ばす。
レイリとエリクスさんも剣を構えながら飛び乗り、あちらの船の舳先にいた邪教信者へと斬りかかりに行った。
と、そこで感じる違和感。
「………あれ?人数多い?何で甲板に七人もいるんだ?」
司教も含めれば最低三人。聞いていた人数よりも多いが………まあでも、今のこの状況で船を止められたのだからどうにかなるだろう。他の船も、こちらへとどんどん近付いて来ているのだし。
なんて事を考えながら、俺も船に乗り込もうと立ちあがると、頭のすぐ横をすさまじい勢いで光が走って行った。
「…すまないタクミ殿ぉ!当たってないか!?当たってないな!よし!」
「当たってないですけど…。シュリ―フィアさん、さっきからなんか変になってませんか?」
「戦場だからな。仕方ないだろう。それよりタクミ殿、貴殿も魔術士だろう?変に近寄らず、ここで遠くから攻撃した方がやりやすいぞ?」
「え?………いや、でもなんというか」
「気分で自分の身を危険にさらすことは無いだろう。それに、広く戦場を眺めることで仲間に危険を伝えることもできるのだからな!仕事の一環だよ!」
「………だったら、まあ」
上手く乗せられた気がしなくもないが、実際俺としてはこちらの方が安全だし、シュリ―フィアさんの言っている事は間違っていない。
ちなみにさっきのシュリ―フィアさんの魔術は、船の上部分に有った屋根つきの船室、その上部分を綺麗に消し飛ばしていた。そこに誰か立っていたのならば、上半身を屋根と同じようにされていたのだろうが、どうやらそこには誰もいなかったらしい。
「ああ…少し先に船ごと消し去れば話は早かったというのに。いやしかし、ボルゾフ殿の望みを叶えるためだからな。仕方がない」
「………『水槍』」
一体どちらが邪教信者にとって幸運だったのだろうか、なんてことを考えながら水槍を使い、船の反対側からこちらの船に走ってきていた邪教信者を弾き飛ばして海の中へ。
俺だけ手を汚さない、とかそんなことはしたくないし、そんな奴だと思われるのも嫌だから斬りつけるように力も加えた。その結果かなり大きな傷口が生まれたし、その男を落とした場所は、これから他の冒険者が来るだろう場所だ。………自分でも、なかなか恐ろしい事をしているとは思う。
「…とりあえず、某は例の司教と呼ばれた男を探しに行く事にしよう。まだ船そのものを沈めるには早いだろうからな」
「あ、分かりました。とりあえず俺はここから、船を囲むように『水槍』で攻撃していきます」
「ああ。表にいる奴らは任せた。…某の予想だと、恐らくまだ中にいると思うのだよな…」
「今でさえ元より多いのに、これからまだ………うわ」
ちょうどその時、船室が有った場所から肩から上だけが見えてる三人の邪教信者が出てきた。結構大型の船だとは思ったが、船の中の船室にもかなりのスペースが有るらしい。
…しかし、何でこんなにごろごろ出てくるのか。まさかこんなにロルナンに潜伏していたのだろうか?いやいやまさか…まさか。
「それでは、某は行くぞ」
「気をつけて下さい…って、俺が言うような事じゃあ無かったですね」
「はは、そうかもな。タクミ殿も気をつけろよ」
そう言ってシュリ―フィアさんも船から降りて、杖で邪教信者を殴りながら船室へ続く階段が有るだろう場所を目指す。
…先程までは自分で、危険に近づく必要が無い、なんてことを言っていたが、あれは俺を遠ざける為の言葉だったのだろうか?いやまあ実際、俺は体力はついても体術は無いから、咄嗟の事には対応できない。
いやはや、実に慧眼…。
そんな事を考えながら『水槍』を複数配置して、戦場でシュリ―フィアさんに殴られて呻いていた邪教信者へ放っていると、
―――再び、あの吐き気が俺の身体を襲った。
後二話+エピローグ、と言ったところですね。二章は。
ボルゾフさんの奥さん(シルさん)の体調はある程度快方に向かっています。
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