第二十三話:寒空に熱
「あっちに二人、か。…でも、他に来るかもしれないから一応ここで見張ってよう」
背後で道を見ているであろうレイリへと声を掛ける。俺の場合,ここから戦闘地点を眺めていると物理的に高みの見物だ。後で誰かに見つかったら、気まずい。
「そうだな………何というか、やっぱりこの町って人が多いんだよ」
「え?………そうなのかな?」
「そりゃ、タクミからして分かるもんでもねえかもしんねえけどさ」
陽もぐっと沈み、半分以上は地平線まで続く森に消えている。…地平線ってどのくらい遠いんだったろうか?記憶にないが、きっとこの森はとても広大なんだろうな…。あれ?そんなに距離も無いんだっけ?
「おい聞いてんのかよタクミ!」
「ウォヮッ!………ごめん、ちょっと思考がそれてた」
「何だよその声…。んで、だ。人が多いから、どうしてもこう…あぶれるんだ」
「あぶれる…確かに、今の俺たちの現状はそれかもね」
「その上アタシ達は空回りまでしてる…一日で二度!恥ずかしいとか、もうそういう次元じゃねえよ」
「………確かに、結構大事になって行ったから余計に恥ずかしい。こう…もうちょっと、上手くできただろうって考えられちゃうところもあるから、さ」
俺がレイリにそう返すと、レイリは『そうそう!』と言った。考える事は近いか。
「だからさ、もうちょっとこう…上手くやれねえもんか?ってな。ああ、タクミとおんなじか」
「まあ、コンビで考える事が同じって言うなら良い事でしょ?」
「ん…まあ、そうなんだけどな。だからこそ、その利点をもっと生かせねえのか?とか考えたり」
「………そうなってくると、やっぱり息の合った行動をとれるか、とか、互いの気持ちがわかったり、とか?」
「それはほら、戦ってる時の話じゃねえか。もちろん大事だけど…アタシは、意外と悪くねえな、とは思ってる」
「………うん。そうだね。何度も一緒に戦った訳じゃないけど、俺も、かなり互いに邪魔せずに戦えたんじゃないかと思ってる。」
「思うように動けた、って気持ちがタクミと同じなら、やっぱり戦いに関しては結構いい線いってんだと思うぜ。………まあ、後は実力そのものが上がるかどうか、って話なのかも知んねえけど」
「それが一番難しい所だよね…」
実際、俺とレイリで一緒に戦った時はよくできたと思う。互いの死角にいる敵に対応したり、相手の動きを誘導したり…うん。ちょっと自分でも誇れるくらいに良い動きだったんじゃないか?
「んで、アタシが言いたいのは、もっとこう…頭を使う所、というか」
「………それはつまり」
「………あんま言いたくはねえけど、やっぱ足りねえよ」
「ぬおお…!」
ショック!………頭が良い、とまで思ってもいないし、実際ここ最近頭を働かしたことでばかり空回りしている気はしていたが。
だが、
「いや、タクミがどう思ってんのかは分かんねえけど、一番気にしてんのはアタシの方だぜ」
「…レイリが?」
レイリって、そんなにこう…言い方は悪いが、馬鹿な所なんてあったっけ?正直覚えが無いのだが。
「いや、…タクミが、結構すげえことやってたろ?瘴気の摂取元を突き止めたり、瘴気汚染体を見つけたのもタクミだったし。だからこう…焦ってたって言うのかな」
「焦ってたって、そんな。俺のやった事なんて、結局の所運みたいなものだけど」
「運だって言うなら、尚更なんだぜ…」
そういうものだろうか?とも思うが、レイリ自身が言うのだからそういうものだろう。
しかし、レイリはそういう事をプレッシャーに感じてしまう性質だったのだな。知らなかった。
「で、クヴィロの話をタクミから聞いて、その後のクリフトさんと近衛隊長の話聞いて、これだ!って思っちまってさ。でも結局違って、盛大に空回りだ」
「それこそ、俺の責任が多分に含まれていると思うけど?クヴィロさんを意味無く疑って、その後話を大きくしちゃったのも俺だったし。それでレイリが落ち込む事無いよ」
「………はぁ…」
「う…」
結構大きめのため息だった。レイリにとって気に入らない事を言っただろうか?
「…まあ、そういう所含めてタクミ、か」
「そういう所って何…?」
「気にすんなよ」
「………あ、一人取り押さえられた」
「まじでか!?」
レイリはそう叫んで、こちらへと走ってきた。
しかし、ここでしっかりとした足場など確保できない。本来ならそれでもレイリならどうとでもしていたんだろうが、今は驚きと共に、反射的に走り出している。
つまり、
「うおッ!」
転ぶ。
こんな所で転んでしまっては、落ちてしまうかもしれないと思い、支えようと、両腕をのばして、………転倒する方向が、完全に俺の身体の上に重なるという事に気がついた。
ならば、と、僅かに身体を前に出して、両足で屋根に身体をがっちりと固定。そのまま倒れ込むレイリの身体のクッションになる形だ。プレストプレートについては、突然の事なので勘弁してくれると信じている。
のばしたままの両腕で、抱きとめるようにレイリの身体を抑える。
「ウグッ!」
レイリの剣の柄が俺のわき腹をこすっていく。服の上からではあったが、なかなかの傷みに目を閉じてしまう。そして、その目を開くと、
「う…」
「…あ」
―――いっそ、触れていない事に違和感すら感じるような近距離に、レイリの顔が有って。
その顔が少し紅潮している事と、自分の頬に熱さを感じたのは、どちらが先だっただろうか。
「「―――ッ!」」
多分、全く同じタイミングで視線を反らした。その視線の先に、どうやら完全に衛兵側が優勢に転じたらしき戦闘現場が見える。
今更視線を戻せず、そのまま眺める。
「………ああ、なんか捕まった方の奴口に指突っ込まれてる。あれ、多分毒取ってんだな」
「うぇ!?あ、ああ、うん。そうだね」
「………」
「………」
「………………」
「………………」
「………………………」
「………………………」
ち、沈黙が痛い。痛すぎる。でも、だからと言ってこの状況をどう打開すればいいのだろうか?…取りあえず、体勢を立て直す事が必要ではあるだろうが、それが簡単に出来るのであれば苦労もしないのである。
と、とにかく何か話をしなければ、とは思うのだが。
「レ、レイリ、その…取りあえず、一回立たない?」
「………」
………無反応。脳裏に、そんな、まさか、と言った言葉が乱舞する。何の反応も無い、というのは流石に想定外。
どうしよう。なんて考えている間に視線の先で遂に決着がついた。今も戦っていた方の邪教信者も取り押さえられ、どうやら毒も外された様子。猿轡をかまされているように思うが、あれはもしかして舌をかませないように、とかそんな意図が有っての事だろうか。
「タクミ」
唐突にレイリから名前を呼ばれて、尋常でなく鼓動が早まった。何故だ?こうなるとは思っていなかった。
「…なに…?」
何故だか弱弱しい声しか出て来ない。最初に呼びかけた時点で、俺の気力は尽きたとでも言うのだろうか?
「こっから見てると分かりやすいんだけどさ、………意外と、怪我人出てるぞ」
「え?………余裕を持って戦っていたように思えたんだけど」
「みてみろよ」
「………あの人って、確かさっきの」
「リバ、っていう女の衛兵だな。とすると、その看病してんのはヅェルさんか」
「…だね。………あの二人」
何となくいい雰囲気で、
「ああ、恋仲なんだろうな」
「………うん」
「………うああ…」
「ええ…?」
何この空気。死にそう。誰か助けて。
そんな願いが届いたのだろうか、建物の下で、誰かの足音が止まった。
「………お前ら何やってんだよ!」
「…兄貴か」
「エリクスさぁん!」
必死に下へと視線を向ければ、雁字搦めにされた邪教信者を引きずるエリクスさんの姿が有った。
「おりゃッ!………とうッ!」
「…ウグッ!」
放り投げられた邪教信者が俺の足首の上に落ちてきた。そして、すぐ横にエリクスさんが飛んでくる。ここまでおおよそ十秒。早い。
「………いやマジで何やってんだお前ら。邪教信者どもはあっちだぞ」
「………他の信者が助けに来ないかどうかを、見張っていまして」
「それでなぜこうなる…?」
何故、という思考は、この数分の間に恐らく何十回と考えたように感じる。
「ああもう、とりあえず立てよレイリ…おお」
「…おお、分かった…何だ兄貴、おおって」
「いや、なんか顔が…まあ良いか。ほらタクミも…お前も?」
「あ、ありがとうございます…俺、なんか変ですか?」
「…いや、もう良いわ。下りるぞ」
そう言ったエリクスさんは、足元の邪教信者を放り投げ、それとほぼ同時に自分も飛び降りた。………五階の高さから。
「え」
「よし、行くぞタクミ」
「え?ちょっと待ってレイリ。登るのはともかく、ここから普通に下りて無事な理由が俺には全く分からないんだけど」
「いけるいける」
レイリも飛び出した。…よく見れば、途中で壁をけったり、足場を蹴ったりして。真っ直ぐでは無く横にジグザグと下りているのが分かった。………俺にもできるだろうか?
………頭がのぼせたままの様な感覚がする。冷ますためにも、ちょうど良いだろう。
「ふっ」
壁の足場を少し力を込めて上側にける。体重を横に傾けて、その次の足場へと向かう。
が、
そう何度も、うまくいく筈も無く。
「ウベァッ!?ちょッ!痛!」
ベランダの手すりに足を滑らせ、腹を強打、そのまま何度か障害物に当たりながら、速度を落とすという目的だけを達成しながら地面に接触した。瞬間、全身へと激痛。
………あまり心配されていなさそうなのは、信頼の表れという事で良いのだろうか?
………十数秒ほど地面で呻いていると、二人が助けに来てくれた…のだが何故かポーズと取られている気がする。やれやれ、とか、そんな雰囲気だ。
しかし、…俺、三階くらいからはもう自由落下になってたよね?………しかし出血はゼロだ。これも有って二人は俺がふざけていると思っているのだろう。
「おいタクミ、さっさと立てって。そんなふうに痛がっても、痛いだけだぜ?」
「う、上手くない、上手くないよレイリ」
「いや、ほんとに立てってタクミ」
「…いや、ほんとに痛いんですって、エリクスさん」
俺がそう言うと、エリクスさんは一応納得してくれたらしく、こちらへと手を差し伸べてきた。
その手を掴み、引っ張り上げてもらう。
「…あれ?タクミ、ほんとに痛かったのか?」
「そうだよ…結構高い所から落ちたんだから」
「確かに、少なくとも痛みは感じてたみたいだがな…にしては、骨とか折れてるわけでもなさそうだな」
「折れてたら、それこそ叫び声をあげてる所ですよ…」
なんて言っている間に、痛みがどんどん薄れていく。違和感は大きいが、便利な物だ。
「とりあえず俺は、こいつをあっちに持っていって、そっからの対応を考えるつもりなんだが、お前らはどうする?」
「あー…まあ、兄貴についてくわ。タクミもそれでいいか?」
レイリが俺に、そう問いかける。
「う、うん」
「ん?」
「じゃあ、さっさと連れて行こうぜ兄貴」
人垣となっている方へと歩いて行く。………何だ?何と言うか、こう、レイリとの空気が、微妙に悪いんだが。
まあ、仕方がないというものか?レイリは年頃だし、俺が恥ずかしがったのも悪かっただろう。………なんだかんだで、美少女という表現が一番合ってるんだよな…。って、そんなこと考えるなよ俺。………三十二歳だぞ…。犯罪だ。犯罪。
というか、レイリと恋仲に、つまりは彼氏彼女の関係になるような想像は出来ないな。うん。………深く考えるのはやめよう。これ以上は、本当に危ない。
しかし、だ。…よく考えると、レイリの態度って変わっていないんじゃあないのか?それはつまり、態度を変えているのは俺ということで、それはつまり、よりさっきの状況で恥ずかしがっていたのは俺ということになる訳だ。………まあ、そうだろうけどさ。いやしかし、なんか辛い時間だな。もっと早く歩けないものか。
そんなふうに考えているうちに、何時の間にやら到着。エリクスさんが引きずっている邪教信者の姿を見て、皆道を開ける。
そのまま中心へと歩みを進めるエリクスさんの後ろをついて行き、最前列程度の所でレイリと立ち止まる。こいつと戦ったのは俺たちでは無いので、ここでこれ以上前に出ると誤解を生む。
「これ、別の場所でとっ捕まえて来たんですけど。どうすりゃいいんですかね?」
「………お前すげえな」
「いや、こっちでも衛兵の皆さんが協力してくれたんで」
「そうだったか。うむ、とにかく協力ありがとう。詰所の方までこいつらを運ぶが、ついてきてくれるか?」
「分かりました。こちらとしても、個人でどうこうしようなんて考えてないんで」
そう言って、レッゾさんが邪教信者を担ぎ、その周りに大勢の衛兵が固まる事によって、簡易的な包囲網を再び作り上げる。そのまま詰所へと連れて行くんだろう。
それとは別に、数人に担架を使って運ばれる衛兵の姿に気がついた。あれは、やはりリバさんだ。左の脇腹から出血している。その横を、リバさんに声をかけながらついて行っているのはヅェルさん。
…と、レイリもそちらを見ている事に気がついた。
「………ああやって、命かけて戦ってる人もいるんだよな」
「…うん。町と人を守るために、命をかけて戦ってるんだよね」
「…それを、アタシ達は屋根の上で眺めてたって訳か」
「………ちょっと外でようか」
どうやらレイリはかなり気にしている様子。話も長くはなるだろうし、一度この集団の中から外に出る。
建物の壁際まで連れて行って、レイリに問いかける。
「………や、やっぱり気にしてる?その…戦いに参加できなかった事」
「…ぬー…それもあんだけどさ」
「…というと」
てっきり、レイリとしては自分が参加できなかった戦いでけが人が出た事に不満を抱いているのか、と思ったのだが…いやしかし、よく考えたらレイリはそんな考え方をしなさそうだ。多分、前俺が拾った遺品を投げ捨てた時にも思ったが、彼女は、冒険者として生きる限り死とは触れ続けると知っているだろうし、背負う必要のない重荷をそれによって背負うことも無いと考えているのだろう。
…だとすると、一体どうしたのだろうか。
「………考えが、やっぱり足りねえのかも、と思ってな」
「考えが足りない?」
「ああ…。今回に限った話じゃなくて、もっと先を考える為の考えが」
「…人生設計の話?」
とすると、俺にとっては苦手という言葉ですら足りない様な分野の話になってくるのだが。
「そこまで壮大な…いや、まあそんなもんか」
「これから先、どういうふうに生きていくのか、って言うのを考えようって事?」
「うん、まあそうなんだけどさ。ただ、それを決めた所で、決めた通りに生きられる様ないい子ちゃんじゃない、ってことくらいは、アタシも自分で分かってるつもりなんだぜ」
「まあ、目標立てるのなら優等生な内容になるだろうしね…」
「…それ、アタシに失礼過ぎなんじゃないか………?」
黙秘。
………あ、いつの間にか普通に話せるようになった。というか、胸のつかえがとれたのは俺、という事はつまり考え過ぎていたのも俺か…恥ずかしい事だ。
「今言ったって、というか、正直俺の言う事は話し半分くらいに聞くべき何だけどさ。具体的に何をやるか、って決まってるの?」
「………将来の、か?」
「そうそう。これからも冒険者!とか、ボルゾフさんみたいに守人を目指すとか、それ以外にもやれる仕事はあると思うし…いや、そんなに詳しくは無いんだけど」
「そりゃ、そんな所でほとんど同い年っぽいタクミと知識で差がついたらやってられねえけど。………あんま考えてはねえな。強いて言うなら守人にはなりてえけど、それは、冒険者なら大なり小なり、差はあれど持ってる願望だぜ」
「将来に不安は?」
「ないぜ」
「ならもう良いんじゃ…」
「でも、アタシ自身がやる事には不安を感じててな…」
将来的な話ではないということか?………ううむ。
「やっぱり、考えて動くしかないんじゃないのか」
「だから、その考える力が足りない、って話なんだよ」
「ああ…」
「だからそこで目を反らすのが失礼なんじゃないかって話な!」
無意識だった、なんて口に出そうものなら意識を失わされそうだ。
ただ、
「そんな事言ってても、レイリはなんだかんだで先の事考えてる方なんじゃないのかな…とは思うんだけど」
「………そうか?明日何するか、とかも決めてねえけど」
「………それでもほら、他の冒険者の人を思うとね」
「ああ…」
思い出すのは、転生初日の光景。ギルドの中の酒場で宴会を開き、そのまま赤杉の泉亭で虹会を開いていたボルゾフさんとその仲間たちの姿。
確か、大きな仕事を達成した様子だったが、…その稼ぎの、一体何割を一日で使いきってしまったのだろうか。
そう考えれば、レイリの方が圧倒的に将来の事を考えていると思われる。家を見た時も、贅沢をしているようには見えなかった。エリクスさんがどうしているかは分からないが、恐らく貯金をしているのだろうし、それはすなわち将来使うためということになるわけだし。
「レイリなら生き抜けると思うけどね。こんな世界でも」
「言ってくれるなぁ…よし。ギルド行こうぜタクミ」
「唐突な…。なんで?」
「詰所の中には入れないからな。ギルドの方でも情報出してくれる筈だし、ちょっとミディに話したい事も有るから」
「そっか…。分かった。俺も行くよ」
「おう」
◇◇◇
ギルドに入ると、恐らく俺たちと同じ考えを持っているであろう冒険者たちが大勢集まっていた。とはいえ、特に騒いでいる訳でも無く…むしろ、普段の冒険者たちと比べると、違和感を感じる程度には暗かったが。
今取調べが始まったばかりだろうし、そう簡単に結果など出て来ない。だからまずは、レイリがミディリアさんと話す目的を果たしに受付へと向かう。…が、受付にはいなかったようだ。この大人数だと、受付の様子までは確認できなかった。
「中の方で話されてると厳しいな。タクミ、ちょっと探してみてくれ」
「うん。他にいそうな場所って言うと…売店か、酒場か…いた!」
「お?何処に…給仕中か。………よし、ここで飯食ってこうぜ。そんなに時間がかかる話でも無いから、そっちの方がミディも喜ぶだろ」
「そう言えばここで食べるのって初めてだな…」
どんな料理が有るのかも知らないけれど、毎日繁盛しているようだから美味しい筈。
「ギリギリで席も空いてるし、これで問題ないな」
「前のお客がお皿持って立ち上がった途端に座る事を、空いてるって言っていいものかどうかね」
「あ、ミディこっちこっち」
「聞く耳持たないか…」
ミディリアさんがこちらに気付き、近づいてくる。
「何よ二人とも。今は忙しいんだから、話とかは出来ないわよ?」
「まあまあ、こっちは客だぜ?ちゃんと注文してやろうってんだからあんまりつれない態度とるなよ」
「柄悪すぎるよレイリ…。というか、注文する物ってもう決めてるの?」
「おう。トゥルペルツア二つに、バル二つ」
「バルなんて頼んで…まあ良いわ。じゃあ、料理が届いたら少し話してあげるわよ。待ってなさい」
「おう」
ミディリアさんは厨房の方へと歩く。ただ、他のお客は多いから料理が届くのも後になるだろう。…あれ?
「ねえレイリ、エリクスさんを置いて勝手に晩御飯食べてもいいの?」
「ん?さっき兄貴が、『今日は遅くなるから二人で好きなもん食ってこい』って言ってたじゃねえか。聞いてなかったのか?」
『金までもらったんだぜ?』と言ってくるレイリ。それはつまり、俺がまた思考の海に沈んでいった時にそんな話が有ったという事だろう。意識を飛ばし過ぎていたな。
「まあ、それならいいや。………俺が聞いていい話なんだよね?その、ミディリアさんに話したい内容って」
「おう。………今更蒸し返すのも何なんだけどな」
「えー…?」
イマイチ何の話だかわからないが、まあ、待とう。
その後も、取り留めのない話をしながらミディリアさんと料理が到着するのを待つ。
大凡十五分ほどたったころだっただろうか?
「はい。お二人ともお待ちどうさま。トゥルペルツア二つとバル二つ」
「あ、ありがとうございますミディリアさん。…これって」
「おう。案がとな。…今日もうまそうだな。って、トゥルペルツアはちょっと、食材分で割高そうだな」
「そりゃあ、海産物は自粛中だからね。味付けも食材も変えなきゃいけないし」
『漬物だけじゃあ無理も有るのよ』なんて言っているミディリアさんをよそに、俺は目の前に置かれたバルという飲み物を見ていた。
…これは、つまりあの…。
「あの、ミディリアさん、これってもしかしてお酒ですかね」
「ええ、そうよ。あ、もしかして飲んだ事無いの?」
「………はい」
この身体では。
いいのか?これ。いや、確かにそこまで厳しく取り締まられてる訳じゃあ無いのかもしれないけど。
「で、話だよ話。どんくらい時間取れる?」
「一分も取れないわね」
「了解。………やっぱクヴィロ怪しいわ」
「はあ!?」
「えっ!?…レイリ、確かにそれ、今更蒸し返すの?って感じなんだけど…」
というか、どうして?




