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忌祓の守人~元ダメ人間の異界転生譚~  作者: 中野 元創
第二章:紅を知る、生活と別れ
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第二十二話:包囲

「―――――――――ッ!」


 咄嗟に、レイリの方へ目で合図を送り、路地の奥を見させる。レイリも、俺と同じ見解に至ったようだ。

 奴に聞こえないよう、ギリギリの声量で会話をする。


「どうする?見た所相手は一人だけど…俺たちで相手が出来るのか?と言われると」

「つらいものもあるよな…衛兵が通りかかるまで、とりあえず待ってるか?」

「ここまで来る衛兵が…どれだけいるか」


 そもそも、だ。


「あいつ、何をやろうとしてるんだ?」

「わっかんねえな…じっとして、どっか見てやがる」

「何かを待ってる、ってことかな」


 壁に(もた)れかかり、僅かに視線を上へ。凭れかかるとは言っても、最早壁に触れているのは上半身だけ。下半身は地面へと大きく投げだされており…まるで、


「カッコつけてる若者か何かみたいだ」

「何言ってんだタクミ…!」

「うん。流石にふざけ過ぎた」


 ちょっとテンションが変な事になってる。………落ち着いた。


「どうする?やっぱり待ってるだけじゃどうにもなんない感じがするんだけど」

「………表通りまでそこまで離れてないし、どっちかが見張ってどっちかが衛兵を呼びに行くのはどうだ?」

「そうだね…衛兵さんも一人じゃ駄目だろうから、多分大勢で包囲することになるんだと思う。時間はかかるけど、確実に捕まえられる筈だ。…少なくとも、ここで俺たちが先走るよりは何倍もましだろう」

「だな………アタシが行って来る。タクミは見張っててくれ。すぐ戻る」

「もしあいつが動いたらどうする?」

「………やばそうじゃ無けりゃ、追った方が良いだろうが…そんなもん分かる訳もねえし、追いかける事よりも身の安全を第一にしてくれ」

「分かった。じゃあ、また後で」

「おう、任せたぜ」


 レイリは、足音を消して表通りの方へと走る。衛兵に話しさえ通せれば、レイリとすぐに合流出来る。見る限り、まだ外は明るい。すぐに衛兵と出会える事だろう。

 後は、奴が動かない事を祈るだけ………。

 今のところ、特に動く気配は無い。…いや、違う。よくよく見れば、いつの間にか俺から見ると奥側…右手を、そのまま右の側頭部へと当てている。携帯電話を耳に押し当てているような感じだ。まさかと思い手の中を見たが、携帯はもちろん、例の、通信板とか言う黒い板も見えない。となると、あれは本当にただのポーズという事で…。

 ああいかんいかん。そんな、変な妄想に浸ってる若者みたいな扱いをしていい相手ではないのだ。恐らく見つかれば、殺されるのはこちら側。緊張しろ。

 ………まだ他にも邪教の信者はいるんだよな。一体何処に?

 そんな事を考えると、何だか背後に誰かが居るような感覚を持ってしまった。風呂場でシャワーを浴びているとき偶に感じるあれと同じだ。

 何もいない筈、何もいない筈だと、そう考えても何故か体が動かない…。

 ………ええいッ!

 高まる鼓動を抑えるためにも、一度、道にいる邪教の信者から見えない角度で、迷いを振り切るように激しく振り返る。

 …当然、そこに誰かが居る訳もなかった。レイリもまだ、帰ってきていない。

 再度路地を見る。そこには、やはり紅の外套を纏った男…いや女かも知れないけど。まあ、邪教信者が。

 ………よく考えれば、奴が見ているのは東側、俺たちは西側へと歩いてきたので、町の中心部ということになる。偶然だろうが、良い気分はしないな。

 ………実際の所、何時気付かれて他の信者に囲まれないとも限らないし、辺りを見回すくらいの事はしてなきゃまずいな…。よし、できる限り余計なことは考えず、この状況で正しい筈の事だけを行って行こう。

 ………辺りを見る、だれもいない。邪教の信者は…未だに動かない。体勢も、全く変わらずだ。

 いや。

 右手を降ろした。一瞬、脱力したかのようになり、………壁と地面に接していた腰部分が、そのまま逆側へと曲がるように跳ね跳び、瞬間的に、空中で海老反る。…そのまま直立。気味が悪い。

 ………歩き出した。ここでやるべき事は、もう済んだとでも言うのだろうか?右手で何かをしていたのか、時間を待っていたのか、と言った所だろう。

 そこまで早い歩調では無い。追う事は、可能だ。


「………レイリはまだ、か。…行こう」


 危険と思えば、なりふり構わず逃げてやる。………包囲が住んでいるといいのだけれど。住民の避難まで合わせれば、やはり難しかっただろうか。

 曲がり角に奴が消える直前、視界に入らないタイミングで道に入り、できる限り足音を消す。身体能力が上がっても、こういう技術的な所が上達する訳ではない。当然、完全に足音を消すことは出来ないが、それでも、やはり慎重に。

 …曲がり角を、覗きこむ。奴の姿はそこに有り、再び立ち止まっていた。今度は直立したままで。そして、その右手は、再び右側頭部へと当てられており。


「やっぱり、携帯電話みたいにしてるよな…遠くの人と話す魔術なんかを使っているんだとしたら、まずいかもしれないけれど」


 奴が焦らないのならば、包囲はまだ済んでいないということになるかもしれない。仲間が外にいれば、知らせてくることもあるだろう。そうでなければ、最悪のパターンとして俺が居る事を伝えられているという事もある。この可能性、かなり高いものなのでやはり危険だったか。

 頃合いを見て、ここから離脱しよう。でも、もう少しだけ。

 再び、辺りを見回す。やはり、視界に何が映る訳でも無く、気配を感じる事も無い。

 であれば、やはり見つかってはいないのだろうか?安心するわけにはいかないが。


「………見縊るな」


 ………何?今、奴は『みくびるな』と言ったのか?…見つかってる?尾行がばれて、俺程度の技術で尾行されたことに苛立っているのか?

 だとすると、本当にまずい。…ここから一番早く大通りに出るには、右側だろうか。いやしかし、レイリが戻ってきた場合は危険だ。ここまでなら追っても来れるだろう。…元来た道を戻るか。

 足音を、消すのでは無く抑える程度に、そして、限界まで早く、足を動かす。


「我らがその程度の困難でひざを屈するとでも思っているのか。その程度の理解しか持たぬから、奴は何年たっても外様のままなのだ」


 ………俺が見つかった訳では無かったのかもしれない。


◇◇◇


「タクミ、大丈夫か!?」

「うん。大丈夫は大丈夫だけど…ちょっと途中で、逃げるタイミングを読み間違えてたみたい」

「あー…?まあ、無事なら問題ないだろ」

「えーと…。衛兵さん達は?」


 辺りにいる衛兵は、…かなりの数だ。だが、これで包囲を固められているのかというと少し怪しいようにも感じる。


「ああ、アタシが遅れたのもその辺の理由でな。結局アタシまで詰め所に走る事になっちまった。だけど、もうすぐ包囲も完全になる。何人か衛兵を連れて、こん中に入る事になってんだが…どうする?」

「…行こう。戦えるかは分からないけれど、少なくともさっきまで奴がいた場所に案内する事くらいは出来る」


 包囲とはいっても、そこまで大がかりな物は出来ないだろう。後から、例えば近衛や、冒険者たちに協力を頼むにしても時間はかかる。それまでに外に出て行かれるとまずいな。

 衛兵は、実際に続々とここに集まってきているようだ。どうにかして連絡を届けたのだろう。次第に一般人の姿は消え、衛兵を中心に近衛と冒険者が混じり合い、現在あの男が潜伏しているであろう地域を囲んでいく。

 三人ほどの衛兵がこちらに近寄り…って、その内の一人は二番隊の隊長、レッゾさんではないか。いや、会話した事は無いけれど。


「お前らだな?衛兵に邪教の信者を発見したって知らせを出したのは」

「「はい」」

「虚偽申告だったらただじゃ済まねえ事くらい分かってんだろうな?ただでさえ皆殺気立ってる。いつ何が起きたって不思議じゃねえからだ。そこでこんな大勢の人間集めて、もしこの間に他で事件が起ころうもんなら叩かれるのは俺たちだ。………俺たちだって人間だからな。私怨も抱かねえとは言わねえぞ」

「大丈夫です。ほんの数分前まで俺は見てましたし、既にある程度の監視体制はとられていました。今の所脱出している報告が無いというのであれば、奴はまだ中にいます。ただ、奴は独り言だか何だかわかりませんが、…何と言うか、困難?が自分に近づいている事を察していたみたいです。もしかしたらもうどこかに行っているかも」

「そうか…よし、まずはそこまで案内しろ。お前ら二人もついて来い」

「うっす!」

「了解」


 俺が先導し、その後ろにレッゾさんと、二人の衛兵がついてくる。更にその後ろに、レイリも。奴がいた所まではそこまで遠くない。遠くは無いのだが…やはり、じっとはしてくれていないだろう。


「さっきまでは、あそこに佇んで独り言を言っていたんです。もしかしたら、遠くにいる人と話せる魔術か何かを使っていたのかもしれませんけど…」

「………本当か?そうなると、そいつと、少なくとももう一人は高度な魔術を扱うだけの技術を持っている訳か…面倒だな」


 衛兵の一人が、「どうしますか、レッゾ隊長」と、指示を請う。


「とりあえず、リバかヅェルのどっちかは外でもうちょっと連れてこい。俺はこいつら二人ともうちょっと奥まで探す。ああ、つれてくる奴は誰でも良いぞ。腕っ節くらい、お前らでも分かんだろ?」

「ウッス!リバ、行ってきやす!後は任せるッすよヅェル!」

「ああ。後でな」


 声を聞いて初めて気がついた事だが、どうやらリバ、という衛兵は女性だったらしい。レイリだってそうだが、この世界、地球よりも女性の危険な職業に就く割合が高い気がする。こんなものなのだろうか?


「よし、ヅェル。お前はこっちの嬢ちゃんの護衛な。もちょっと奥まで行くぞ」

「了解しました」

「ちょ、ちょっと待ってくれよ。アタシは護衛なんて要らねえぜ?」

「そりゃまあ、見てたら腕っ節に自信が有りそうなことも、その評価が間違ってねえ事も分かるんだがな…」

「だったらなんで」


 レイリは護衛をつけられて、守られる立場にいるのが嫌みたいだ。もしかしたら、俺が戦闘に立ってるから、なんて事かも知れないが…いやいや、それは自意識過剰というものだったな。


「嬢ちゃんは、マジで腕っ節で戦うだろ?しかも、その剣はなかなか刀身もなげえ。こんな閉所じゃあ、使いにくいからな」

「………ぐぬぬ、わかった」


 レイリも納得した所で、再び進む。正直、俺が先頭では、前方から奇襲を受けた場合に初手から一人死人が出てしまうような気もするのだが…声を出して案内すると、こちらの場所も気取られる。少なくとも移動中は、口を開けられない。

 十分、十五分、まだ見つからない。そこまで広くは無いが、ここは他の地域に比べてもなお入り組んでいる…聞くに、この地域の建物を設計するにあたって何度か不都合な事が起こり、そのたびに適宜計画を変更していった末の事らしい。

 いい加減に気が滅入ってきている。

 ………ドゴォッ!!という音が耳に入ったのは、ちょうどその時だったか。

 頭上から。


「何だッ!?」

「上です隊長…あれは!」

「ああッ!」


 見上げた先には、屋根の上を飛び越えていく紅の外套、その端が。つまり、


「―――聞こえるかお前らッ!奴は屋根の上だぁッ!」


 ざわざわと、はっきりとした言葉には聞き取る事が出来ない距離で騒ぎが広がる。見上げる物、屋根に上るもの、大通りなどに出て飛び移れない場所に向かう物と、さまざまだろう。だが。


「くそっ!アタシ達は今何処にいるんだっ!?全然場所も分かんねえぞ!」

「大通りに出ましょう隊長。ここにいても無駄です」

「あっちから人の声が多く聞こえます!大通りはあっちかと!」


 ついでに言えば、そちらは邪教の信者が向かった方が区と同じでもある。


「そうだな、確かにあっちの喧騒の声からして、逃げた先も分かりそうだ。全員ついて来い!」


 路地を駆けて、大通りへと向かう。幸いにして、行くべき方向さえ決めて走ればそこまで迷うことも無かった。

 恐らく、後数度曲がり角を過ぎれば大通りへと出るだろう、と言うあたりになって、喧騒の種類が変わっている事に気がついた。それまでは、邪教信者を探しているからだろうが、僅かにパニック混じりの声だった。それが、今は怒号と………この音は、剣戟だろうか?つまりは、戦闘が始まっているということになり、


「道にたたき落とせたみたいだな!っしゃあいくぞ!」

「隊長!無理に突撃せず、邪教を取り逃さぬように陣を張る事を優先すべきだと進言します!」

「…おお了解!お前が仕切っても良いぞ」

「………了解しました」

「どうするレイリ!俺たちは戦う側に回る?」

「………いや、辺りで囲んで逃げられないようにしとこうぜ。アタシ達より衛兵の方が、人を生きて捕らえるすべに離れてる筈だかんな!」

「分かった!」


 と、そこで一つの記憶がよみがえる。奴らを取り押さえた結果、何が起きたのか、という事だが。


「レッゾさん!奴ら、口の中に毒物仕込んでるみたいです!普通に取り押さえただけだと自害されて、また情報を引き出せません!」

「分かってるよ!一応報告くらいは来てっからな!………ただ、イマイチ対策もとり連れえ。口に棒かなんか突っ込むくらいだ!」


 そのまま、レッゾさんは人込みの中へ走る。衛兵は、その姿を見るとすぐに道を開けていく。もちろん、奥までは道を作ってはいない。通り過ぎた所で、邪教信者が出て来ない様に再び道を塞いでいるのだ。

 『おう、お前がいたのかよリバ!』と言う、レッゾさんの声が聞こえてきた。ここから中の様子などはっきりと見えるものでもないが、恐らくは、信者と戦っているのは数人と言った所だろう。俺たちは、その中心からずっと離れた所にいる訳だ。


「………アタシ達二人が居た所で、何も変わりそうにねえな」

「………いや、こっちの戦力の方が多い、って言うのは良い事なんだけどね?」


 でも確かに微妙な気分。ここ最近、できる限り頑張ったつもりでも最終的に俺たちが居なくても問題ないような状況になる事が多いような気がしてきた。

 簡単に言うと、空回りしている。それは、レイリも感じているようだ。


「まあ、辺りの見回りでもしておこうよ。奴の仲間が、助けに来ないとも限らない訳だし」

「まあ、そうだな。確かに、ほとんどの衛兵があっち見てっから警戒がちょっと薄いようにも思えっけど………あれ?」

「何かあった?」

「いや、…今でさえ結構な騒ぎで、多分町中に、ここで騒ぎが起きてる事くらいは聞こえてそうだろ?」

「うん。大勢が声を張り上げてるからあの時のレッゾさんと近衛隊長の口論なんかよりもずっと騒々しいし…ああ………」


 分かった。つまり、今のこの状況は微妙におかしい。町中に声が届いているのなら、


「エリクスさんが、来ない訳ないよね…」


 エリクスさんならば、町の外側からだろうと、騒ぎを聞きつけてこちらへと向かってくる筈だろう。


「兄貴が、一回もこっちに来ないなんてありえるか?そりゃあ、一回こっちに来てから、人数が多いって判断して行った可能性もあるけどよ」

「…とはいえ、向こう側とか、俺たちが気がつかなかっただけ、ってこともあるよね」

「そりゃまあ、な。但し、そうじゃ無けりゃあ兄貴はあれとは別の邪教信者と戦ってる、って可能性もある。兄貴なら、まあ、そこまで心配はしないで済むけど」

「………確かに。シュリ―フィアさんが苦戦していたのは、本来得意な魔術を使いづらかった、って言うのが理由だからね。素人目線でしかないけど、エリクスさんの方がシュリ―フィアさんよりも武器の扱いには長けているように思ったから」

「そりゃそうだ。いくら守人とはいえ、魔術と武器の扱いで、どっちも常人をはるかに超えるなんてのは、もう今の時代にはいねえよ」

「………昔はいたんだ」

「伝承みてえなもんだけどな」


 こんな会話をしているのも、結局は緊張感が足りていないから、ということになってしまうのだろうな。実際、あの裏路地から抜けた時点で命の危機という物を感じていない。張りつめさせていた緊張感はすっかり緩んでしまっている。


「…よし、一回集中し直そう。いくら他にも奴らの仲間がいるとは言っても、やっぱり数人だけなんだから、助けに来る確率は高いと思うし」

「そうだ、なっ、と」


レイリはそんな掛け声とともに、姿勢を正して道の奥を見る。一日というのは、長いようで短い。もうすっかり夕暮れ時で、もうすぐ日もすっかり沈む事だろう。

 その空の色は、………何が悲しくてここまできれいな紅色なのだろうか?これではあちら側が喜びそうだ。

 それはともかく。


「来るとしたら、やっぱり大通りなんか通らないよね」

「だろうな。裏路地を通ってくるか、そうでなけりゃあさっきの奴みたいに屋根走りだ」

「………簡単には見つけられそうにないね…」

「だよなぁ…。アタシ達も、どっか登ってみっか?」

「…とはいっても、どこから?」


 辺りは建物が並ぶばかり。屋上、なんてものは無いから中に入る事が出来たって外には出られない。壁を登るの?

 …冗談のつもりで、考えていたのだが。


「よ、っと」

「あ、本気なんだ」

「タクミも早くしろよ。ここの建物の周り、道が太くて長い。こっち側から来ようとすりゃあ、すぐに見つけられるだろうからな、っ、っと」

「………分かった。俺も行くよ…でも、何処に足とか手をかければいいんだ?」

「そんなもん…根性だよ」

「ひどい精神論だな」


 そんな事を言いながら、さてどう登ろうかと建物の外壁を、レイリが登り始めた所から見上げ…すぐ目線を元に戻す。意図して制御できる筈も無く、わずかにじしんの頬にあかみがさしていることにきがついた。冬の夕方は寒いものだ。

 いやしかし、こうなってくると本人が気にするかどうかではなく、俺のモラルで判断される内容でもあるのだから、少し待とう。………コンビになったのだから、もうちょっと、互いにそういう所も考えておかないといけないような気がするけれど。


「…ん?タクミ、早くしろって!こんなんも登れねえのか?」

「登る、登るよ…」


 どうやらレイリは既に屋根の上らしい。ならば問題ない。俺も、壁の出っ張りや窓枠などに体重をかけつつ、少しづつ登っていく。

 こういう時、やはり自分の筋力が上がったと実感するものだ。元の身体なら懸垂の一回もできたかどうか怪しいものだというのに、今はこんなクライミングじみた事も、少なくとも筋力という面においては普通に可能なのであるから。

 一分もたたない間に五階建ての建物の屋根の上に。………俺の感覚としては、凄いぞ、これ。レイリはもっと速かったが、多分慣れてるんだろう。そんな気がした。


「タクミはそっち側見ててくれ。アタシはこっちだ」

「了解了解」


 しゃがみ込み道を見下ろすレイリ。俺も、同じように道を見る。………なるほど。確かにここからなら辺りの観察もしやすい。

 こちらから見て、一番近くの道はかなり太い大通りとなる訳だが、そこから垂直に伸びた道がかなり奥まで、曲がりもせずに続いているのだ。ここは、結局戦闘現場から二十メートルあるかどうか、という所。しかも、かなり高い建物でもあるので他の建物の屋根も見える。

 …強いて言うなら、屋根の形が三角で、少し不安定ということくらいが、悪い面か。

 ………ここから、邪教信者と衛兵たちとの戦いが見える。だが、


「…って増えてるし!」

「なにがだ?」

「邪教信者の数。あっち、何時の間にやら二人になってる」

「………何じゃそりゃあ。いよいよアタシ達は空回りしてただけってか?」

「………あんまりそういうふうにも考えたくないものだけど、ね」


 口に出すまでも無く、空回りである。



 二章が終わらない…。いや、書くことはもちろん決まってるんですが。



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