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忌祓の守人~元ダメ人間の異界転生譚~  作者: 中野 元創
第一章:沈んだ先の戦世界
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第四話:朝食と情勢

今回は、少しばかり説明会じみているかもしれません。

「あー、ほんとに美味いな、おやっさんの料理」


 アリュ―シャ様からのお告げ?いや神託?を終え、起床した俺は朝食をとっていた。非常に量が多いのだが、どうやら昼食をとれない人が続出するため、根本的に増量しているのだそうだ。

 いやしかしこの焼き魚の美味いこと美味いこと、というかこの味はだいぶん塩焼きとかの和風な味に近い気がする。この世界にも日本のような国があるのだろうか?いやいや魚の塩焼きくらいどこの国にでもあるか。でももしあるのならいつか行ってみたい。

 それはそれとして、今日はギルドカードが出来上がってる筈なのでそろそろギルドに取りに行くことにしようと思い、立ち上がる。


「それじゃあおやっさん、俺そろそろ出かけるよ」

「おお?そうか、昨日ギルドに登録したんだったな、じゃあ今日は依頼も受けるのか?」

「うん。初心者向けの依頼とかなら危険も少ないだろうし」

「そうか、でも町の外に行くんだったらちゃんと気をつけて迎えよ」

「了解。それじゃあおやっさんもマリアさんもまた後で」


 そう言って俺は赤杉の泉亭を出発した。

 あれ?そういえばまだおやっさんの奥さんって会ったこと無いな、長いことお世話になると思うし挨拶しようかと思ったんだけど…あ、厨房にいたのかもしれない。夕べも今朝も、起きた時はもう食事の時間だったし料理に忙しかったから見かけなかった、と。まあ会った時にあいさつすることにしよう。

 いやしかし、この町ってかなり広いな…昨日は疲れててあまり考えてなかったけど道の一本一本が広いし結構遠い所に城?屋敷?みたいな建物(領主さま―――ウェリーザ=ロット=ガードン様―――のお屋敷なのだそう。)が建ってるし、迷ったりすると大変だから生活圏内だけでもしっかり道を覚えておこう。


「おや?タクミさんではありませんか」

「え?あっクリフトさん。昨日はどうも」

「いえいえ、あれも仕事のうち、ということですよ。ところで今日は?…なるほど、ギルドカードの受け取りに行くんですね」

「はい、これでようやく俺も仕事につけます。」

「記憶が曖昧のようだ、とパカルさんから聞きましたが大丈夫ですか?」

「は、はい、とりあえず一般常識とかはあらかたそろっているようですので」

「記憶喪失なのにそれが分かるんですか?」


 …このまま話を続けるとぼろが出てきそうなので、話を変える。というか、あまり思いつきで自分の設定を増やしてはいけない。いつかしっかり決めよう。


「す、すみません!話は変わるのですがミレニア帝国がどこかに戦争を仕掛けるって話を聞いたんですけどどういうことになってるんですか?」

「あぁ…ミレニア帝国ね…あの国は今西方の小国を次々侵略していてね、何でも本気で世界征服企んでるとかって話もあるよ。この国はこの大陸の中では大きな国だから、今までは攻め込まれることは無かったんだけど、もしかしたらこっちとも戦争始めるんじゃあないかって話だし、異様なほどに強い兵たちがでてきて、…まあ、いわゆるキナ臭い話なわけだよ」


 なるほど、分かってはいた事だが、“The”帝国って感じの国なんだな。侵略によって国力を上げてるみたいだし兵士の一人一人が相当強いんだろう。異様なほど強いなんて、きっと俺からしたら想像もできないような相手なのだろう。関わりたくないことこの上ない。

 というか、少しクリフトさんが落ち込んでる。帝国のことってあんまり考えたくないことなのかもしれない。


「へえ…ってこの王国大丈夫なんですか?」

「ん~…。まあ、少なくとも今すぐに攻め込まれるってことは無いんじゃあないかな?今はできる限り力をためているころだと思うから。…逆に言えば今どうにかしないと本当に危ないってことでもあるんだけど…はぁ…」

「え?レイラルド王国は何もしないんですか?力を溜めているなら、攻め込まれた時は本当に手遅れな状況になるのに?」

「この国の貴族…特に伯爵家や公爵家あたりの上位貴族たちは腐敗してたり日和見主義すぎて、全然動こうとしないし、ある意味で頼みの綱である王族も貴族からの圧力で思うように動けなくなっているし、国境近くはほんとにてんやわんやしてるみたいだね。『いつ帝国が攻め込んでくるかわからないぞー』って」


 なるほどね。この国も結構大変な事になっているみたいだ。貴族の腐敗って地球の中世ヨーロッパとかではよくあったみたいだけど…。文明的には同じように見えるこの世界でもやっぱりあるようだ。でもほっといたら手遅れになるのは分かってるだろうに、何故そんなことを…。


「このことはあまり大きな声では言えないんだけどね?さっき言った上位貴族たちの一部は、帝国と裏で繋がってるんだってもっぱらの噂なんだよ。しかし、ちょっと前まではほとんどの貴族はちゃんと義務を果たしていたと言うのに。どうして急にこんなになっちゃったんだろうか…」

「昔はそんな風には腐って無かったんですか?貴族の腐敗って国が長く続いて行った分に比例して進んでいくものだって考えてたんですけど、そんなに急激に?」

「うん。これに関しては最近帝国軍に現れた異様に精強な兵隊が居てね。なんでもどれだけ絶望的な状況でも全く怯まずに進軍し、その部隊の進軍を受けた土地は襲われた人たちの亡骸(なきがら)すら残らないほどに焼き払われてしまうらしい。小国を落としているのにはその部隊の発足が大きいとかでこの国の貴族が恐れ始めたのも、結局それが理由じゃないのかってね。 

 ああ、タクミ君は知らないかもだけどこの国の貴族の領地って勢力が強ければ強い程に、国境の近くに配置されるっていう配置になっていてね。だからこそ、その部隊に対する恐怖を深く感じてしまったんだと思うんだ。それも悪いことに王国の中枢、元老院の法衣貴族たちの中にも一部裏切り者がいるって話もあるんだ…。」


 どうやらこの国の状況は見えないところで崖っぷちに近くなっているようだ。貴族制度の問題点ともいえると思う。しかしいくらなんでも何か行動する人はいないのだろうか、軍備増強するなり講和へ持っていくなりやれることはいくらでもあるだろうに。いや実際にその被害にはあっていない俺が言うのもなんだけど、さ。

 そのあともクリフトさんの話を聞きながら町を歩いていると、何時の間にやらギルドに着いていた。いろいろと気になることは多いものの今はギルドに入ってカードをもらって冒険者登録を済ませてしまおう。


「ギルドに着きましたので俺はこれで。クリフトさんもお仕事がんばって下さい」

「うん。タクミ君もがんばってね~」


◇◇◇


「ああ、来たんですねタクミさん」

「はい。昨日作ったギルドカードは出来上がりましたか?」

「うっ…あのぅギルドカードそのものは出来上がっているんですが…実はちょ~っと問題がありまして…」


 完成しているであろうギルドカードを受け取りに来たところミディリアさんがこんなことを言ってきた。問題が起きたって…ええ~あんまり大きな問題だったらいやだなあ、だってそれでギルドの上の方の人から睨まれたりしたらこの先冒険者としてやっていきづらくなってしまうし、すんなり片付いてくれればいいんだけど…?


「じつはタクミ様のランクを下から5ランク目のDに設定しようと思ったのですが副ギルド長が『そんな実力も不確かなぽっと出の若造をDランクにするなど危険だっ、間違っているッッ!』とおっしゃいまして…こちらの同じDランク冒険者の方と模擬戦闘を行っていただけるとありがたいのですが…如何でしょうか?」


 ああ、まあそんな意見も出てくるよね。でもなんだかその副ギルド長さん言葉の端々にこちらに対する思いやりが滲んでる気がするのは俺の気のせい…と言うわけではない気がするし、こちらの身を心配して、ということならば変に突っぱねたりせず受けなければ。


「分かりました。やらせてください。」

「ああよかった。それではこちらにどうぞ…」


 そう言ってミディリアさんは少し離れたところにある扉へと歩いて行った。

………えっ?いきなりっ?今っ?NOW?準備してないよ!?

 そんなこんなで連れて来られたのはギルドの裏、グラウンドのような場所に土俵のようなものがいくつかつくられている。数組試合をしているのでここで模擬戦闘をする、ということだろう。

 しかし…すっと模擬戦闘を受けてしまったが大丈夫なんだろうか?武器を持っていない、ということに関しては保管庫のようなものもあるので借りることができるだろう。が、しかし、だ。いくらアリュ―シャ様に身体能力向上させてもらったからってそう簡単に戦闘の経験者に勝てるとは思えないし…というか!そもそも俺これまでの人生でまともに戦ったことなんてないよ…!。どうしよ、これは本格的にダメかもしれない。


「この戦闘試験って勝たなきゃダメなんでしょうか?」

「いいえ?負けてしまっても全く問題はありませんよ?ただしDランクにはなれませんが」

「あ、アハハ…」

「コホン、ま、まあ今のは冗談として、勝たずともDランク相当の実力を見せることができるならば問題はありません。」


 ほおう、となれば何とかなる…のか?いやいや多分これ油断してやられるだけな気がする。とにかくまず、ここにある剣を借りさせてもらおう。一応丈夫そうな作りをしてるみたいだし、重すぎるわけではないから俺でも十分に使えると思う…けど、そもそも今まで剣なんて使ったことないからどうなるか分かったもんじゃあ無いなあ。


「あのですね?少し練習させていただけれると嬉しいのですが?」

「おーいミディリア!タクミっつうのはそいつか?」

「あ、はーいそうです。もうこのまま試験を始めてもいいそうですよ?どうしますか?」


 え?ちょっ、ちょっと待ってよ。あの年の割にガタイのいいおっさんが来てから話が進むスピードが滅茶苦茶早くなったから、あの人が副ギルド長の人なんだろうけど、あの人の横にいる人かなり強そうだよ?具体的には筋肉とか剣とかっ!


「ほーん?なかなか自信に満ち溢れてやがる見てえだなガキのくせによう。ったくこんなのがいるから“それなら俺も!”何てアホみたいなこと言い出すやつがいるんじゃねえかよ。はあ、まあいいよ。ほらエリクス、ちょっと現実みせときなっ」

「あいあい、りょうかい~っす。おいそこの…タクミ?だっけか?まあとにかく、この仕事は早々若いもんができる仕事じゃあねえんだよ。大人しくHランクの依頼から始めといた方が無難だって俺は思うぜ?んんっ、まあそれを決めるための試合なんだしさっさと始めちまおうぜ」


 お、おおう。

 なかなかに逃げ道を塞がれていきますねえ。あの金髪美男子、なんであんなに余裕そうなんだ…?なんだか少し苛々するが、結局の所それは偏見なのだろう。多分、町をうろつく金に髪を染めたやつらへの嫌悪感がそのまま向いているのだろう。彼の場合は地毛なのだろうし、しかもチャラさとかが全然ないし…。その上美男子とは。

 はい、嫉妬はやめましょう。醜いことこの上ないです。

 で、でも何も準備できてないって言えば…、だめだ、その時点で失格になってしまう。…いや、別にHランクから始めたって全然構わないんだけど、一度目の前にぶら下げられた餌を見逃すことは許されないっ、みたいな感じでスッパリ諦めきれないんだよなあ….

よし!ここは一回諦めてHランクからやって行こう。そもそもランクだけ高かったって、そもそもこの世界でのルールを分かってないし、そんな立場になったところで、適応なんてできない。はいっ、諦め付きましたっ!、というわけで、今回の戦闘試験は断ろう。皆さんには迷惑かけちゃうけどやっぱり実力が足りなかった、と判断されるだけだろう。


「あの~、俺やっぱり自信がないので辞退を「ほらほらタクミさん。エリクスさんはもう準備できてるみたいだから、ささっ中へ中へ」

「ちょっちょっと待ってくだ、あっ!」


 くッ、むりやり土俵に上らされてしまった。何故だか野次馬が集まってるし、逃げられない雰囲気だ。エリクスさんは、剣の腹の部分を掌の上で弾ませながらすごくイイ笑顔してる。

 ………もしかして戦闘狂ってやつなのかな?ああ、そうなんだろうなあッ…。

 冗談抜きで危険な気がするぞ?これ、今考えられるパターンは勝利、敗北、大怪我の三つだけど勝利は…ほぼ無いだろうし、出来る限り試合的な負け方をしないとただの敗北ではなく大怪我になって入院…病院はあるだろうけど(診療所?)医療技術がなさそうだし場合によっては…死…ぬ…。

 ………冗談じゃあないっっ!!!せっかく二度目の人生をもらって今度こそまともな人生を生きようって決めたばっかりだって言うのに、こんな何も出来ていない状態で死ねるはずがないじゃないかっっっ!!

 殺らなきゃ殺られるだけっ!だったらこっちから攻めてやるっ!


◇◇◇


「む?あのガキ急にやる気のある目になった…というか無駄に決意が満ち満ちていると言うか、この距離でもビンビンに殺気を感じると言うか………何か変なスイッチを押してしまったか…?」


◇◇◇


「お、おーいタクミ?お前なんか目がヤバイ覚悟決めちまったやつみたいになってんだけど大丈夫か?ちゃんと物考えられてっか?おい?おーい?…おいおいぃ…」

「勝敗は降参か規定の距離よりも外に出てしまうことで決定します。それでは試合を開始して下さーい」

「ゲッ!?ミ、ミデリィア嬢容赦無えなあ!今のこいつ武器の構えはなっちゃあいねえが、なんか雰囲気がやばくなってて近づきたくねえんだよ…ってうおおっ!?足速ぇ!」


 躊躇している暇はない。剣を持っていても、身体能力が上がったからってずっと使い続けている人に勝てるとは思えないし、魔術も現実では使ったことがないから当てにはできない。今はとにかく懐へ潜る。


「ま、そう簡単にやられやしねぇ…ん?どこに…下っ!?」


 近寄ったなら剣で狙いにくい場所へ、足元に屈み勢いよく飛び出しながら胴体にタックル。エリクスさんの体勢が少し崩れたのを見計らって剣を振るが受け止められたり体を反らしてかわされたり、挙句の果てにはバック中までされてしまった。全くもって貰った能力を使いこなせていない。これが終わったら特訓しよう。


「おうッと、ヤバかったぜぇ、転ぶところだった。まあ今度は、また距離も出来てるし仕切り直しってとこだな。…怖ェ目してんな」


 …どうする?さっきのは不意打ちだったからあそこまでできたけどもうあんな戦い方は出来ないし、相手だってさっきとは違ってより本気になって来るはず、思うように動くことすらできないかもしれない。

 じゃあいっそ何か突拍子もないやり方をするべきか?意表を突ければあるいは…、でも、どうやって?


「ほら来いよ、さっきは不意を突かれちまったが、今度は阿呆みたいに突っ立ってるだけじゃあねえぜ?」

「…それでは、行かせてもらいます。…ハアアッ!!」


 相手の意表を突く、というのは正直言って相当に難しいことだ。

 なんてったって相手はベテラン、こちらは戦闘経験のない一般人なのだから。とは言えまずは接近、どうにかして相手のペースに飲まれないよう行動して何か取っ掛かりを探さなければ。


「そんな真っすぐ来たらスッパリ行かれんぞっ、と」


 ゴウッという風切り音を立てながらすさまじいスピードでエリクスさんが剣を振り下ろす。ギリギリ、まさに至近の距離で回避に成功する。ほんとに真っ二つにされるところだったぁ。何とか避けられはしたけど剣を振り下ろす速度が速すぎる。あんなのアニメでしか見たことないよ、現実の人でも出来るんですね、勉強になりますっ。


「…へえ、さっきも思ったが、お前やっぱ体はしっかり出来てんだろうな、接近…突進?のスピードもかなり速いし回避する判断力もあるからやっぱりきちんと“戦い方”って物さえ学びゃあ相当化けると思うんだよな」

「…お褒めにあずかり光栄です。ただですね?現状勝てる気配は全くないので、もう少し力を抜いてもらえると非常に嬉しいのですが…?」

「嫌だよ。てか言ったよな?別に勝てなくてもそれ相応の実力を見せることができればそれで合格なんだからよう」

「え?」


 え?なんの話でしょうか?


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