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忌祓の守人~元ダメ人間の異界転生譚~  作者: 中野 元創
第二章:紅を知る、生活と別れ
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第十三話:商人の確執

 表通りに立派な店を構えているだけはある。そんな味のスパゲッティだった。シーフードをふんだんに使ったものだったが、最近漁獲量が減ったせいで少し量が減ってしまったと店員が謝っていた。その分値段が下がった事を喜んでしまうと、がめついと思われるのだろうか?

 まあ、結局その後、レイリと行くあても無く町中をただぶらついているのだが。


「そう言えば、何で病人が増えたんだろうな」

「確かに。今までにも良くある症状ってわけじゃ無いらしくて、そのうえ人と人との間で感染が拡大している様子も無いのに、複数人が病気になってる…やっぱり瘴気?」

「何でも瘴気のせいにするのはどうなんだ?タクミ」

「う…」


 理由のわからないものはこの世界独自の要素による物って考えてしまいがちだな、なんてことを考えながらすぐ横を眺める川を眺める。町の中を、幾筋にも分かれて流れるこの川は今日も澄んでいる。


「なんか、結局港の方に向かってる気がするよな」

「だね。もうラストゥも売り切れてるだろうから、行く意味って無いけど」

「こんな時こそ調査って言うのはどうだ?何故魚が減ったのか!って」

「魔物のせいじゃないの?あれが魚を食べまくって、不漁になってた、とか」


 実際、あのサイズで素早く泳ぐ生き物が草食とは思えない。大型魚なら…色々な意味で魚じゃあなかったが、肉食だろう。ならば、魚が減る理由としても有りだと思う。忌種だという事を鑑みれば、更に。

 まあ、何も仕事と言う訳じゃあないのだ。いわば暇つぶしの時間。当然、深い理由が無くても構わず港へと向かうことになる。こういうのも、高校生の頃にはやった事が有ったな。夏休みなんかに、友人とつるんで田舎の方まで行ったり。

 なんて、おぼろげになった記憶をたぐりよせていると、不意にレイリがこちらの肩を叩いてきた。


「…?どうしたのレイリ」

「いや、あそこ見てみろよ。またあいつに会うとは…」


 そう言われて視線を向ければ、何時の間にやら港のすぐ近くにまで来ていた事に気がつく。あれ?俺、こんなに時間かけても半生前の記憶が蘇らないの?…頭は良くなってなさそうだな。

 まあ、そんな事はどうでもいい。レイリが一体誰の事を『あいつ』と呼称しているのか…。


「あ…もしかしなくても、あの感じって」


 港、俺が今日トイレを借りた建物の前で言い争っている人影が、二つ。片方は、今日の朝にも会話をした従業員さん。そして、もう一人は…


「何でだ!僕はどうしても今ラストゥが要るんだよ!価格が高騰している今なら上手くやって馬鹿儲けすることもできるんだぞッ!?」


 以前、護衛依頼を俺が引き受けた、リィヴ・ハルジィル。ハルジィル商会の、そのトップである商会長の次男…。難しい事情を抜きにすれば、そう言う立場の人。


「いや、そもそも価格が高騰してしまうほど漁獲量が少ないということでしてね?今日なんか、海上で忌種に襲われたせいで本当に散々な状態で」

「だったらその分を買わせろよ!」

「午前の中に、すべて売り切れてしまいましたよ」


 なかなかに激しい言い争い。リィヴさんは、正直温厚な性格とは言い難い所がある。意地を張ってしまうというか、

 …自分を曲げられない、と、そういう表現が彼の性格には合っているかも知れない。


「どうする?リィヴの奴、ありゃそうとう切羽詰まってるみてえだ。あいつが犯罪起こしてまでラストゥを奪おうとするとは思えねえが、何時までも騒ぎ続けるくらいならやりかねねえ」

「…でも、何であそこまで必死なんだろ。レイリの言う通りに切羽詰まっているにしたって、あんまり騒いでいたら、自分の商会の評判だって下がってしまうだろうに…そこまでしなくちゃいけない理由が?」

「あるのかもしんねえなぁ…。まあ、めんどくさそうなことには変わりねえか」

「…よし、できる限り穏やかに」


 止めよう、と続けようとした時、リィヴさんと目が合ったように感じた。そして、


「………」


 途端に黙りこんでしまったリィヴさんは、目線を外し、どこかへ歩いて行く。


「急に落ち込みやがったな…何だあいつ。………タクミ?」

「いや、たぶんさっき、俺の方見てたような気がして」


 何だろうか?あの反応。再びそちらを見れば、何事もなかったかのように通りの人混みの中へと消えて行くリィヴさんの後姿。

 さて、今日はもう何もすることが無い。もともと港に来たのだって碌な理由は無かったのだから…


「追う?」

「おお、タクミの方から言ってきたか。追おうぜ」


 見失ってしまわないように、走って人込みの中に入る。すると、少し離れた所にリィヴさんの背中が見えたのでそのまま少しずつ近づく。

 …何と言うか、しょんぼりした子どもの様な背中だぞ、あれ。一体何が有ったんだ…。


「疲れきってるよね、あの感じ。何が有ったんだろう?」

「でっけえ商談落として、親父から大目玉食らったとかじゃねえの?」

「ああ…商売人だったら、そう言う事もあるか」


 まあ、あまりちょっかいを掛けたりはしない方が良いかもしれないな。なんて思いながらも、鼻腔を続ける。するとレイリが


「ああ、こっちって確か、ハルジィル商会の本店が有る方だな」

「え?じゃああれ、家に帰ってるだけ?」

「かもしんねえな。流石に店の中まで入りゃあ、ばれかねねえし。もうちょっとで打ちきりだ…ちょっと待て」


 レイリが俺の前に腕を出す。その距離があまりに近かったせいで腹に激突、「うっ」と声を漏らしてしまったがとくに痛みは無かった。


「なにするんだよレイリ。リィヴさんがどうかした?」

「あいつ、今急に脇道にそれた。家に帰るふりして、何か取引でもしに行ったのかもしれねえ」

「それはちょっと…飛躍しすぎじゃない?何か別の用事がある、って言うのには同意だけど…。まあ、このままだと見失っちゃうし、急いで追いかけよう」

「よし、あっちの道だ!」


 レイリが走っていく方向を見れば、そこに有ったのは道と言うよりも、路地と表すべきな通路。建物と建物の間、一メートルあるかもわからない隙間を道って表現するかぁ。…?翻訳ミスの可能性、あるのだろうか?

 ともあれ、レイリのすぐ後ろを追いすがりながら走る。数秒の後、レイリが路地をのぞき込み…斜め後ろへと飛び退る。


「え?」

「タクミ!計算違いだった!」


 そんな事を言われても、既に俺も路地の目の前にいるのだ。今更だろうし、怖いもの見たさで身体を回すように路地をのぞく、と、


「おい」

「げ」


 こちらをジト目で見つめてくるリィヴさんの姿が。

 咄嗟に回転を強め、そのまま勢いを殺さず前へと走ろうとするも肩を掴まれあえなく失敗。それを見たレイリも、頭に手を当ててこちらへと近づいてきた。


「お前ら、つけてたのか」

「ぎ、疑問ですらないっていう事ですね…はい」

「いや、なんかもめてたからな?何かあったのかと思ってよ」

「余計なお世話だ!ったく…お前らの暇つぶしに付き合ってる暇なんてねえんだよ!さっさと帰れ」

「………はい」

「はぁい!」


 レイリが思いっきり挑発したのだが、それに対してもリィヴさんの反応は薄く、俺たち二人をどかすようにして表通りへとでて、


「お?何こんな所で油売ってんだよリィヴ。お前に遊んでる暇なんてあったのかぁ?」


 突然、横合いから声をかけられる。ちょうど俺の背後からだ。

 リィヴさんの表情は固まり、わずかな震えを伴いながらもこちらへと顔を向けようとしているのが分かる。

 それに先んじて俺が視線を向けると、そこにいたのは見た事の無い男性。大凡二十代半ばから後半と言った所だろうか。


「あ、………兄貴」


 この人がリィヴさんの兄?いやしかし、全然似ていな…ッ!そうか、前にレイリが言ってた事から考えるに、血は繋がっていないということか。


「お前のような奴に兄貴などと呼ばれたくは無いよ。そら、さっさと諦めて、父さんに泣きつけばいいんじゃあないのか?どうなんだ?」

「………ッ!誰がッ!」


 目の前の男に言われた言葉が、相当に屈辱的な言葉だったのだろう。突如としてリィヴさんは声を荒げ、俺の前へと出ながら男を睨みつける。


「何時までも僕の事を使えないガキ扱いしやがって!僕だってもう一人でやっていけんだよ!」

「だったら早く出て行けよ。…次代商会長は、この俺だ」


 そんな言葉を聞きながら、俺はレイリが服をつかんで引っ張ってくる力に合わせて静かに後ろへと下がる。

 恐らく今は、コンビの心境が同じになっているだろうと思われる。すなわち、


(お家争いとか、そう言う面倒事には巻き込まれたくないよなぁ…)


 と言う、ただそれだけの事に。

「ふん、何だ?黙りこくっちまって。…ん?そういやそいつらは何もんだよ」

「…こいつらは、前にヒゼキヤに行った時、護衛として雇った事が有る冒険者だよ」


 何時の間にやら話が俺たちの事になっていた。もうこの時点でリィヴさんを尾行した事に後悔の念を抱いている。正直、もう帰りたい。

 だが、その願いがかなう事は無いらしく、


「ハッ!冒険者なんぞとつるむようになってんのかお前?品のねえ輩といるからお前からも品が無くなっちまうんだよ。もっとも、無くなる品なんて最初から無かったろうがな!」

「なッ!?そもそも商会から護衛を出さねえからじゃねえかよ!護衛なしで町から出るなんて自殺行為じゃねえか!」

「見捨てられてるってこったろ?親父から」

「………ッ!」

「だから護衛も送られねえ。もう商人としての才能は無いって判断してんだよ。お前の憧れてる、商会長本人が、直々にな」


 エリクスさんは唇をかみしめたまま顔を下に向け、溢れでる感情を抑えているようだ。当然だ。レイリから聞いた話でしかないが、リィヴさんは商会長に、家訓の遂行のために引き取られたと聞いた。そんな中で商売を頑張るのは、言葉通りに商会長になると言うだけでは無く、家族に認められたいと思っているからではないのか?

 その証拠に、ここまでボロクソに言われているというのに出来る限り感情を抑え込み、逃げるのではなく商売を続けようとしている。リィヴさんはまだ諦めちゃあいないのだ。


「さっさと諦めろよ。見っとも無ぇッたらありゃしねえ」


 そう言って、リィヴさんの義兄は歩き出し、店の中へと入って行った。

 俺は、どうすればいいかも分からずリィヴさんの顔を見て、


「ぁ…」


 嗚咽一つ漏らさぬよう歯を食いしばり、しかし瞳から止まらぬ涙を流す男の姿を見つけた。

 俺がそれを自覚した途端、リィヴさんが俺に気付かれたと悟る。


「ッ!くっそ同情なんて要らねえんだよッ!」

「あ、ちょっと!」


 呼びとめる間もなくリィヴさんが遠くへ走り去っていく。何時の間にかその背を追いかける様に俺の手が伸び、

 それを横からレイリが抑える。


「まあ、待てよタクミ。女のあたしが言う事じゃねえんだろうが、泣いてる男を追うのは止めとけって」


 確かに、今のような状況で知り合いに追いかけられたらつらいなんてもんじゃない。放っておいてほしいと思うだろう。

 …そもそも、まだ諦めていないみたいだし。

 一時期の俺の様な眼では無かった。多分、大丈夫だ。


「そうだね。………でも、どうしようか?」

「どうもしねえよ。アタシ達にゃあ関係ねえ。………ま、あっちから頼んでくりゃ話は別だが」

「………やっぱりレイリは」

「なんだよ」

「なんでもないよ」


 優しいなぁ…。


◇◇◇


「あ~…いよいよやる事無くなっちまったぜ。なにする?」

「もう遠くまで行こうって気分にはならないよね。夕方だし」


 ハルジィル商店近くから離れて数十分。町中をレイリと二人で歩き…いよいよ何もすることがないと気がつく。やるべき事など最初からないが、何か楽しい事でもあってくれればいいのに。………あ。


「いやそれは下世話が過ぎるか…?」

「ん?下世話って、一体何の話だ?タクミ」

「いや…今、エリクスさんは何をしているんだろうか、と」

「それだな」


 意見が合意に至ったので、即座にエリクスさんを探し始める。レイリに聞いたところ、今日はシュリ―フィアさんに町を案内しようとしているらしい。なんだか俺もレイリにそんな事をしてもらったな、なんてことを考えながら、以前も回った町の名所を近場から順に巡る。

 港には、やはりいない。貴族の屋敷…もし中に入っていたなら仕方がないが、少なくとも近くにはいないようだ。教会にもいない。


「あーもう。こんな時に限って兄貴がいねえとか、どうなってんだよチクショウ。………いつもどうでもいい時にはいるくせに」

「まあ、今のエリクスさんは本気だからね。恋愛すると、あんな感じになるのかと思うと驚きだよ」

「あー…タクミに恋愛経験がないって気はしてたわ」


 どんな雰囲気がにじみ出ていたかは知らないが、ばればれだったか。…隠すような事でもないけれど。


「じゃあもうちょっと探してみっか。…でも、そろそろ日も傾いたな」

「なんだかんだで、探すだけで時間を使っちゃったね」

「もしかしたらもう家に帰ってるって可能性もあるが…良いよ。門の方を探しに行こうぜ」

「うん」


 そのまま、夕暮れがまぶしい町の中を走る。時間がないからと言うよりも、むしろ歩いている事が面倒だったのか、いつもよりもずっと早く道を進み、

 その背後から蒼の長髪に追い抜かされる。


「うえっ!シュリ―フィアさん!?」

「どうしたんですかぁー!?…行っちゃった」


 かなり切羽詰まった行動のように思えたが、一体何が


「お前らも手伝え!門で待ち伏せて、あいつらが逃げんのを止めなけりゃヤベエ!」

「兄貴もかよ!」


 更に後方からエリクスさん。シュリ―フィアさんよりは遅いが、俺達よりは確実に速い速度で走ってくる。

 ………何が有ったのかは知らないが、二人がそれほど必死だというのなら本当に危ない何かが起きているのだろう。


「俺たちも急ごう」

「おう!」


◇◇◇


 門の前、広場の中心で争う二つの人影が見えた。

 片方は蒼、もう片方は紅。

 シュリ―フィアさんが杖を振るい殴打を狙っている相手は、例の血の様な紅色の服をまとった男性だった。


「あの人が…一体何やらかしたんだ?」

「とりあえずあいつとっ捕まえんぞ!」


 レイリと二人でシュリ―フィアさん達の戦っている場所へと走る。だがしかし、エリクスさんは門の方へと全力疾走を続けていた。


「お前らはシュリ―フィアさんに協力してくれ!俺は俺で奴らの馬車を追う!」

「了解です!」

「兄貴もしくじんなよ!」


 エリクスさんへと向けた視線をシュリ―フィアさんの方へ向け直す。

 シュリ―フィアさんが杖を鈍器として使おうとしているのは、魔術を使うと周りに被害が出てしまいかねないから、だろう。いかに威力を絞った所で、敵に避けられれば、それは殺傷力を伴ったままに民衆へと向かってしまうのだから。


「シュリ―フィアさん!」

「そいつは一体なんなんです!?」


 俺たちの問いに、シュリーフィアさんは男を睨みつけたまま、


「唾棄すべき邪教の者ども、その末端だ。気を引き締めろよお二方ッ!」

「邪教?…ッ!はいっ!」

「対応はどうするっ!?シュリ―フィアさんっ!」

「生け捕りだぁッ!意地でも情報を引きずり出さねば!」


 男を取り囲むように移動し、…戦いに、割り込めないという事実に気がつく。

 動きが速すぎる。

 展開が速すぎる。

 思考速度も何もかも、俺はともかくレイリすら介入不可能なほどの高レベルの戦い。意気込んで来た訳だが、これではただしゃしゃり出て来ただけだったか…?


「………タクミ、こいつを生け捕りにするって事は、シュリ―フィアさんが本気を出せねえって事だ」


 レイリがこちらに近寄り、囁いてくる。

 余り大きい声で話すべきではないという事だろう。俺も小声にしなければ


「確かにそうだね。そのうえ、魔術も外したら大変なことになりそうだし、あいつを逃がしたらいけないから立ち回りも調節して…全然本来の力を出せていないと思う」

「ああ、だからその枷をアタシ達で無くしていくぞ。ある程度人も減ったが、どっちもでかい怪我は負ってねえから、見世物かなんかだと勘違いしてるやつがいる。だから」

「避難させなきゃ、だね。分かった」


 一度離れ、おおよそ十人ほどの町民を退避させる。皆、少しくらいは違和感も感じていたらしく、こちらの説明をすんなりと呑み込んでくれた。

 最後に、男と門の間に二人で陣取り、声を張り上げる。


「シュリ―フィアさん!住民の避難完了しました!」

「逃げるのがこっちって分かってんだから、何かあっても押しとどめます!やって下さい!」


 シュリ―フィアさんは一瞬こちらを振り返り、僅かに微笑み男へ向き直る。そして、こう言葉を発した。


「貴様らの様な外道共には、分からぬ事であろうな…」


 何が分からないのか、それは終ぞシュリ―フィアさんの口から語られることはなかったし、恐らくは語る気も無かったのだろう。それを示すように、シュリ―フィアさんが握る杖の先が僅かに光り始める。


「この町で、ようやく魔術の威力抑制の形が見えた。無辜の民を傷つける可能性を減らし、真に討つべき悪を()く光………試させてもらおう」


 呟くように、「当然、威力は最小となるがな」と言い、シュリ―フィアさんは杖を振り上げる。そして、


「『悪瘴浄灼:滅光!』」


 男の纏う紅の着衣が燃えだす。それにより男は火傷し、倒れる。いや、むしろ火傷よりも吸い込んだ煙による呼吸困難が原因か。

 既に火はおさまり、どれだけ手加減したのかも伝わってくる。


「さて…それでは、尋問開始とさせて頂こうか?所詮は末端、組織の根幹につながる情報など持っていない、切り捨てられる前提の存在だろうが、

 …自分たちが今何をやっているのか分からない、などと言う事もあるまい?」


 その言葉を聞いて、今の今まで一言たりと口を割らなかった男がおもむろに頭を上げ、


「………………お前らの様な、我らが主の意思すら届かぬ愚か者どもに話す事など、…何も無い」


 とだけ話し、強く歯を食いしばる。


「………仕方がないな。好みではないが、拷問も、致し方ない」


 拷問?ああいや、中世だからそう言う物もあるかもしれないけど。…でも、待てよ?


「シュリ―フィアさん、今さらですけどこの男、一体何をしたんですか?」

「分からぬよ。ただ、確実に良からぬ事であるという以外には」

「でも、何でそんな事が分かるんですか?」


 俺の質問に、シュリ―フィアさんは『やれやれ』と言いながら軽く首を振り、


「こやつらはとある邪教に所属する者。故に必然なのだよ。奴らの行いが悪行である事は」

「………」


 大きな犯罪集団、と言う事なのだろうか?まあ、集団の情報を得る為なら、拷問も行うか…。

 と、男の様子を見ていたレイリがこちらへ寄り、


「シュリ―フィアさん太変だ!あいつ、なんか体中痙攣させて!」

「なにっ!?」


 急いで男の様子を見れば、身体が大きく飛び跳ねながら震え、しかしその姿に反して表情には一つの感情も浮かばない、人間とは思えない状態だ。


「まさか、毒を含んでいたというのか!迂闊だった…!」


 シュリ―フィアさんはそう言うが、正直止めようもなかったように思う。今だからこそ、恐らく歯を食いしばった時に仕込んだ毒を飲んだのだろうとも分かるが、あの時は拷問に耐える精神を持とうとしているようにしか見えなかった。

 そして、


「血か?…いや、これは」


背中からあふれてきた血液の様な紅。だが、次第にそれは顔や腹、足先からも流れ出て、


「体が溶けてる?こんな毒物なんて」


 結局、俺たちにはそんな現象を止められる訳も無く、一人の人間が紅い水溜りに変わっていく光景を見ている事しか出来なかった。



 まだテスト期間なんですけど、息抜きで。

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