第十一話:コンビ
「ああ、駄目だ待って下さい。え、居候?なぜこのタイミングで?…一応食い扶持は稼げてますけどッ!?」
「うーむ、イマイチ伝えきれなかったか」
「………いや、兄貴?何とな~く、アタシには言いたい事が伝わったと思うんだが、それにしたっていろいろと急過ぎると思うんだが」
「そうか?どっちにしろここに家が有るってわけでもなし、色々と都合がいいだろ」
「………あの、結局どういう事なんですか?確かにここに家は無いですけど、赤杉の泉で充分暮らしていけてますよ?…と言うか此処以上に暮らしやすい場所もそうないと思いますが」
何せ一泊銀貨一枚。ここ最近の稼ぎを考えれば、もう何の心配も無くここで暮らしていける。
「まず、一つ目の理由としてお前とレイリがコンビになったから。コンビは、かなりの確率で家庭を持つまでは同じ家に住むもんだ。………んで、もう一つの理由は、この宿が安くなってる理由だな」
…確か、ギルドと提携を組んでいるからだったよな?だが、それが何故俺に対して悪い様に働くんだ?俺は冒険者をやめるつもりなんて、毛頭ないのだが。
「どうせすぐにDランクだ。と言うか、中位忌種を討伐した時点で何時ランクが上がっても何ら不思議じゃねえ」
「…ああ、そう言えばそうでしたね」
「そう言えばって、お前なあ。まあ、いい。で、Dランクになっちまうともうこの宿では暮らせねえから」
「えッ!?」
「ああ、やっぱ知らなかったんだな。この宿は、低ランク冒険者が低い賃金でもまともな食と住を得られるために、って作られた施設だからよ。Dランクにもなっちまえば、流石に一人立ちできるって扱いになって、その対象からは外される」
「………ええ~?」
「本当だ。んで、もちろん高い金払やあ泊まれるが…一泊銀貨五枚、どうだ?」
「あ、流石に厳しいですね。エリクスさんの言葉に甘える事にします」
「おう、それで良い」
流石に銀貨五枚を毎日、って言うのは無理…では無いかもしれないが、負担が大きすぎる。迷惑をかける事になるだろうが、エリクスさんから言ってきたという事実と好意に甘えさせて貰おう…こういう言い方だと、まるで俺が詐欺師か何かのようだが、自分には厳しいくらいが本来ちょうど良いのだ。心に少しの重しを置いておくためにも。
「そっか………タクミと一緒に住む、か。うん」
「レイリ…?」
あ、やっぱり拙いか?そうだよな。レイリはもうすぐ十八、完全にお年頃です。いや、エリクスさんの年齢で婚期を逃しそう、なんて言葉が出てくるなら、もう結婚すら視野に入れている年ごろと言う可能性も…。
「エリクスさん、やっぱり遠慮しておきます。やっぱりいろいろと問題もありますし」
「まあ待てよ。なあレイリ、タクミと暮らすの、そんなにいやか?」
「………いやじゃねえよ?タクミと暮らすことに忌避感はねえ。…ただ」
「それなら問題ないな。良し、じゃあ決定な!」
そう言ってエリクスさんは、何時の間に食べ終えたのかは知らないが空になった皿を持ち、再び料理を受け取りに行った。
「レイリは、本当に良かったの?エリクスさんも何だか強引に見えたけど」
そう聞くと、レイリは少し居心地の悪そうに頭を掻きながら、
「タクミと暮らしたくないってわけじゃねえよ。………ああ、もちろん暮らしたいって思ってたわけじゃねえから、そこは分かってろよ?」
「う、うん。まあ、一緒に暮らしたいと思われる理由とか、無いし」
「んで、まあ、兄貴からコンビ組んだ時の話とか聞いても、嫌だとは思わなかった。だから、それに関しては今更どうこう言わねえけど」
「………けど?」
俺の問いかけに対し、レイリは深いため息を一度ついて、
「………いや、………兄貴は、やっぱり出て行くんじゃねえのかな、って」
「………エリクスさんが?それって、前に言ってた結婚した後、って話?」
「そう言う事じゃなくて、もっと根本的に、生活の基盤をこの町から離れさせる気なんじゃないのかって、………アタシを置いて」
「レイリ…」
「それが嫌ってわけじゃ…いやだけど。でも、それが一番つらいんじゃない。………兄貴は、アタシの事を、誰かに縋って無いと生きていけないって思ってるんじゃないかって」
「………つまり、その相手を俺にしようとしてる、って事?」
「…分かんねえけど、多分」
なるほど、レイリの悩みは分かった。エリクスさんに対して、自分はもっと強い存在だって認めてもらいたいのだ。
………だが、エリクスさんは本当に、レイリの事をそんなふうに思っているのだろうか?むしろ、レイリ一人だとしても十分にやって行けると考えていそうな…いやいや、当事者でも無い俺が分かるような事でもないか。
エリクスさんに聞いた所で、本当にそう考えていたとしても話してはくれないだろうし、俺に出来る事って、今の時点では多分慰める事くらいしか…それも変な感じだな。慰められる事なんか、たぶんレイリは求めてないぞ?うーん…。
と、俺が内心冷や汗をかき始めたのと同時、レイリが席から立ち上がり、口を開く。
「ま、結局のところ悩んで立ってはじまんねえ。こんなことばっかりやってると、その内マジで一人で生きられなくなっちまう。
ちゃんとやってけるようになったら、兄貴だって考え方も変えてくれるだろう」
………。
「まあ、一人で生きていかないといけない訳じゃあ、ないよね。うん。周りには、少なくとも今、エリクスさんがいる訳だし、俺だっている。………コンビ組んだばっかりだよ?」
「う、………………すまん。確かに、ちょっと考え無くしゃべってた。
で、でもな?タクミだって思うだろ?兄貴は過保護だって!アタシは…そう言うの、要らないし」
「要らない、なんて」
「ああもう!この話は終わりだ!終わり!」
そこまで強く言われてしまっては、こちらも黙る事しか出来ない。
辺りの喧騒は今も続いている。この中でなら、今の声もエリクスさんには聞こえていなかっただろうか?いや…。
「なあ」
自分から口を閉ざしたレイリが、再び自分から口を開いた。ならばその意思は尊重すべき。こちらも、万全の態勢で持って受け答えさせてもらう。
「タクミは、何時までアタシの所にいてくれるんだ?今は、って言ってたけど…。それは、何時まで何だ?」
一度では無く、重ねるように問いかけてくる。それは、この質問の重みをそのまま現してくるものだ。
…その質問に明確な答えが有る訳ではない。だが、
「何時まで、なんて決めなくちゃいけない?俺は、レイリが拒否しないんだったら何時までだっていていいって考えるけど」
「………なに言ってんだよ、馬鹿。結局、コンビっつったって、何時かは解消されて行く関係だし」
「でも、友達って、そう言う物ではないよね。…もう忘れてた?」
これでも、一番レイリに気持ちを伝えられる言葉を選んだつもりだ。だって、回りくどく言ったら理解されない気がするし。事実と、俺がどう思っているのか、それを伝えればいいのだ。
………レイリは、本当に表情がさまざまだ。良く笑い、良く怒り、偶に嘲ったり、呆然としたり…。
だが、
流石に泣き顔なんて、見た事がなかった。
「どっ!?あわわわわわわわ」
「なんだよそれ。こっちは結構、良い言葉を聞いたって思ってたのに雰囲気無くなっちまったぜ」
「え…?」
あれ?気付いてない?結構流れを作る程度には出てるのに、涙。
「あ、あの、レイリ?………ちょっと、目もと触ってみてくれる?」
「あ?」
何故涙と言わないのだ俺。いや、どうでもいいな。
「あれ………あれ?」
「やっぱり気がついてなかったの?急に涙流して、ビックリしたよ」
「まじかよ…ちょっと真面目に意味分かんねえ」
「ええ?…大丈夫?なんか病気とかじゃない?」
「こええな」
なんて、何時の間にやら暗い雰囲気なんて忘れて普通に会話を再開していた俺たちの所に、エリクスさんが帰ってきた。
…ラストゥの煮付け、三尾分を皿に盛って。
「そろそろおやっさんが怒りますよ」
「ああ、だからここで止めとくんだよ。で、なんか結構大事そうな話してたんじゃねえのか?」
「いや、大丈夫だよ兄貴。…アタシは、大丈夫らしい」
「はあ…?」
「うーん…。レイリ、そもそもエリクスさんの本心が、本当にそこに有るのかって言うのも分からないと思わない?」
「何の話してんだよお前ら。意味分かんねえ」
「「まあ、落ち着いて下さいよ」」
「く、くそぅ…」
そうして、夜は更けていく。
◇◇◇
「んおぉ…」
………どうやら、朝らしい。昨日は酒を飲まされることも無く、二人と別れて、この部屋で眠りについた事をしっかりと覚えている。
今日は何をしようか。…Eランクの依頼で、この町の中だけで受けられる物を探してみるか?………って、違う違う。大事な事を忘れていた。今日は、朝一でレイリと一緒に、ギルドへコンビの正式登録を済ませに行かないといけないんだった。
一階へと降り、軽く朝食を取って外へ出る。やはり季節は冬に近く、この時間だと肌を刺すような寒さが、既にある。足元、石畳を見るに、昨夜のうちに一雨降ってもいたらしく、それがこの寒さに拍車をかけているかもしれないが。
そんな、特に意味のない思考を打ち切り、レイリの中の方へ向かおうかと身体を向けると、
「よっ」
「あ、おはようレイリ」
そのままギルドへと歩くために踵を返す。昨日の会話の事も、結局深く考えるほどの事ではないらしい。良い事だ。悩みは抱え過ぎてもいけないから。
ギルドへと着き、中へ入るとまだ人はまばら。そのまま真っ直ぐ受付へと向かう。………ローテーションを組んでいる筈なのに、何故か毎回ミディリアさんに出会う。…まあ、避ける理由なんて何もないので、そのまま進む。
「あら、おはようレイちゃん。今日は早いわね。と言うか、最近ずっとね」
「おはようだ、ミディ。いろいろ起こりすぎなんだよ、最近」
「おはようございます。ミディリアさん、昨日の金属板は、どうなったんでしょうか」
「ああ、ちょっと待ってなさい。出来上がってる筈だから」
そう言うとミディリアさんは奥へ。
俺たち二人は、その場で待つ。
「で、あの金属板をどう使うんだか」
「え、レイリも知らないの」
「兄貴のコンビ走ってるけど、あれを使ってるとこ見た事ねえなぁ」
「…あんまり使わないものなのかな」
その時、扉が再び開かれミディリアさんが出てくる。
「はい、できてますよ。と言う訳で、二人とも。ギルドカード出してちょうだい」
「あ、はい…どうぞ」
レイリの分も受け取ったミディリアさんは、その二枚を重ねて金属製の箱の隙間に差し込み、引き抜く。
その表面には、自分のコンビの名前が記載されているようだ。
………じゃあ、本当にあの金属板の意味は?
「で、これが昨日の奴ね。もう使わないから、部屋にでも飾ったら?」
「要らねえっ!」
「…あれ?なんか装飾が増えてる」
縁を取り囲むように、植物の蔦の様な文様が刻まれている。きれいではある、が…これを飾るか?
「じゃ、こっちをレイちゃん、こっちがタクミ君ね」
あれ?
「これ逆じゃねえのか?ミディ」
「それで良いのよ?そういうしきたりなの」
「しきたり…って事は、もしかしてあれって儀式的な側面が強かった、とか?」
「そうそう。家に飾る以外だと、お守りとして見に着けることで、窮地を相棒が助けてくれる、なんて言われてもいるわね。二人にはそっちの方がいいかしら?」
「…じゃあ、鞄の外ポケットとかに入れとこうかな」
「タクミまで…なら。アタシも」
「うんうん。良いじゃないの?二人とも」
「ああもう、タクミ!帰るぞ!」
「ちょ、何でまた引っ張るのレイリ!」
取りあえず、無事にコンビには成れた…のだろうか?
ギルドの外へと走り出て、そのまま、少しお怒り気味のままのレイリと道を歩く。もうギルドで仕事を受ける気は無くしてしまったらしい。コンビを組んだ当日に、締まらないというかなんというか。
「ああ、そうだ。一回、港まで行こうぜタクミ」
「港…ああ、ラストゥの水揚げの確認?今晩も食べるんだ」
「そりゃ、兄貴は喜ぶだろうけどよ、流石にな。っつうわけで、今日はどんくらいの漁獲量かを調べに行く」
「ああ、なるほど。でも、漁船って何時頃帰ってくるの?やっぱり、もう少し時間がかかるんじゃ」
「大体一時間ぐらいはかかるかな?まあ、気長に待とうぜ?」
「ふうん…夜の間に罠とか、しかけてあるんだろうか?」
「ああ、罠を回収して、次の日の罠を設置するんだとよ」
「………どうやって罠を回収してるんだろう?」
ラストゥは、まあ、あの形状からして海底に住む魚であると考えていいだろう。だが、海底まで届く様な罠―――町全体の需要を満たすほどにとると考えれば、それは網になるだろうが―――を、どうやって回収するのか。機械で網を巻く訳でもないだろうに。力技か?
…まあ、この世界だと可能かもしれないけど。人間の限界が随分と上に定められている気がするし。
しばらく歩くと、港が見えてくる。さらにその奥には海が広がっているが、まだその上をゆく船は見えない。
恐らくは漁港の従業員であろう男性を見つけ、二人で話しかけに行く。
「すいませーん。今日のラストゥは何時頃獲れるんですかー?」
「ん?今罠を引き揚げに言ってるから、だいたい後一時間は先だと思うぞ?………あれ、君って確か」
「ん?タクミ、知り合いか?」
「タクミ…そうか、君、確か半月くらい前に漁港長が海で拾った子だよね?いやー、元気そうでなにより何より。あ、ラストゥがお目当てだったら待っておいた方が良いよ。漁港長も乗ってるから」
「あ、パカルさんが乗ってるんですね………漁港長とか、そんなに偉い人だったんですね」
「まあ、雰囲気じゃわかんないかもねえ」
「漁港長とも知り合いなのかよタクミ…何でこの半月だけで、そんなに人脈広がってんだ?」
「パカルさんとは知り合いと言うより、俺が救助されたって話なんだけどね。まあ、最初に気がついた時には船の上だったんだよ」
「波乱万丈じゃねえか…」
そのすぐ前に死んでいる事を言う必要はない。
「でも、ラストゥちゃんと獲れてるのかなぁ…?昨日も結局足りなかったし。そっちの子なら知ってると思うけど、毎年もっと獲れてるでしょ?ここだけの話、例年の半分だよ」
「半分…ってそんなに不作なのかよ今年。何が原因だよ、まったく」
「うわあ…と言うか、この町って漁業中心だろうし、大打撃だよね?大丈夫なのかな」
「大丈夫じゃないかもしれない………ラストゥ以外も漁獲量減ってきてるし………」
従業員さんの雰囲気が暗いを通り越して危なくなってきたので、静かにレイリと二人で後ろへ下がる。いやしかし、全体的に魚が取れなくなってきたって、なかなかに厳しい状況だよなぁ…。こういう所から、不況と言うのは始まるのかもしれない。
「なんか大変そうだったな…しっかし、ちゃんとラストゥ取って来られんのかねえ?」
「ラストゥだけじゃなくて、他の魚も危ないみたいだけどね。でも、ほんとに漁業が危ういとこの町の経済そのものが危うい気がするな…」
「まあ、この町の特産品と言ったら魚だもんなあ…大港湾町って名前で観光とかも力入れてるけど、季節じゃないし」
「つらい冬になる、ってところかなぁ。………そもそも、瘴気汚染体がわらわら出て来た時点で推して知るべしかもしれないけど」
「そういやそうだった。町が亡くなってねえだけマシだよ、まったく」
「いやはや、結構散々な目に有ってるな、この町」
なんて事を話しながら、レイリと海を眺めていたものの、一時間も話していると、
「ごめん、ちょっとトイレ行って来る」
「あ?分かった分かった。だけどもうちょっとで来るし、早めに帰って来いよ」
微妙に羞恥心を感じながら、港の近く、大きな建物へと歩く。どういう訳だか、大きな建物にはなかなかに文明を感じさせるトイレが有るのだ。…流石に、水洗などとは言わないが。一応、使わせてもらえるとは思うので、さっきの従業員さんに話しかける。
「すいません、ちょっと、トイレ貸していただけませんか?」
「ああ、いいよ。そこの建物の中にいる人にも声かけてくれれば、つれてってくれるから」
「ありがとうございます」
そう言って再び、今度は小走り気味に建物へと急ぐ。
◇◇◇
「ふう」
建物の中の従業員さんに礼を言い、外へと出た。と、遠く、恐らくは湾に入った所に大きめの船がいる事に気がつく。エンジンをつけている訳では無く、手漕ぎのようなのでまだ時間はかかるだろうが、もう少しで帰ってきてくれるようだ。
もうあまり待つことも無いと思い、何気なく辺りを見渡すと、近くを流れる川、その河口に血のような色の外套を羽織った人がしゃがみ込み、何かをしていた。
恐らく、あの人、いや、あの外套を羽織った人たちは、どこかの町の大きな商会じゃあないだろうか?この町で言う、リィヴさんの所のハルジィル紹介とかに近い様な。一体、何をしているんだろうか?…釣り?
歩いて近づき、声をかけよう。
「何か釣れましたかー?………ぇえ?」
走って逃げられた。こちらを見る事も無く、数メートルほどの川幅を超えてその向こうへと。
一体なんだというのだろうか。…まさか、密漁か何かか?漁業権を持っていなかった…みたいな。そう言う制度が有るかは分からないけれど。しかし、逃げたという事は何かやましい事が有ったんだろう、どうしたものか。
………川面を見ても、何も変わった所は無い。ただ、変わらず清水が流れるだけだ。
仕方がない。レイリにでも話して、後は普通に船を待とう。ああ、パカルさんにも言った方がいいかもしれない。
と、そんな事を考えてレイリの待つ方へ足を向けると
『ォォォォオオオオオオオオオオオオオ!!!』
腹の底に響くような大音量が、辺りを一瞬で圧倒する。そして、それとほぼ同時、
「一番隊は右!二番隊は左の船で即出港しろ!三番隊は出港後、港内で待機ッ!」
「「「了解ッ!」」
拘束の少ない鎧を身につけた男女が、船へと乗り込んでいく。そして、その指示を出した人物こそ、衛兵隊隊長であるクリフトさんその人。
どう考えても尋常でない事が起きている。さっきの轟音は、恐らく避難か何かを伝える為のサイレンだ。
クリフトさんに事情を聴こうにも、あれだけ忙しそうに指揮を取っているのだ、話しかける訳にはいかない。…なんて事を考えているうちに、もう船に乗って出て行ってしまったし。
取りあえず、レイリの方へと走る。レイリもまた、俺の方へと走ってきたようだ。
「おいッ!聞いたかタクミ」
「なにも分かんないんだけど、一体何が有ったの!?」
「海に結構でけえ忌種が出て、漁船を追っかけたままこっちに近づいてんだとよ!で、衛兵隊が今迎撃に出たんだ!………見てようぜ!」
「………巻き込まれて死ぬパターンな気がするぞ、その行動。と言うか、漁船の方は大丈夫なの?」
「まあ、海の男だから多少海流は操れる」
「ん?」
海流?海の男って、海流操れるの?………んなアホな。
「それで距離とりながら、どうにか全速力で逃げて来たってとこじゃね?それに、漁船じゃなくて町に向かってる可能性が有るって言ってたし」
「何でそんなに情報が有るんだよレイリには。俺、今の今まで何にも知らなかったんだけど」
「そこはまあ、人脈ってやつだな」
「納得」
海を見れば、漁船はかなり近づき、そして衛兵隊の船は港の入り口をふさぐような位置に固まり始める。どうやら、実際にそのくらいの距離はあったらしい。
先程クリフトさんが三番隊と言っていた人たちも既に船に乗り込み、港の中で状況を確認しているらしい。
………ここから眺めていても、正直どんな忌種がやってきたやら、全く見えない。ただ、時折衛兵隊の近くから大きな水の柱が立ちあがり、そして、忌種のいるであろう湾外に振り下ろされるのが気になった。
あれ、ほぼ間違いなく前にクリフトさんが言っていた二番隊の隊長さんが使う魔術だ。俺の使う『水槍』の基になった魔術なのだが…威力が段違いだ。俺の魔術が児戯にも等しく感じられる。恐らく、水さえしっかりあるのなら、【人喰鬼】だって一撃で殺してしまうのではないか?あれは。
………しかし、急に三番隊の乗った船が動きを速める。それと同時、一番隊、二番隊の両線ともにこちらへ船首を向けた。
「うわ、なんかいやな予感が」
「………だな。まさか、こっちに来てるってのか?」
「………逃げよう。あんな魔術くらってまだスイスイ泳ぐような奴、正直対処できない」
「そうとなったらさっさと」
振り返り駆け出そうと、そう決めた途端に海面が盛り上がる。………背を向ける方が、危険か?
叫びもせず、体中から血を流しながら身体を港へと乗りあげる。魚の頭に、両腕、短足と、体に合わない巨大な尾びれ。金属の光沢をもった鱗と、胸から生えた良く分からない管。
………この世界で、今までで一番俺の知る生物の姿から離れた忌種が現れた。
切るところが見つけられなかった…。なんだか、無駄に長い(この作品基準)
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