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忌祓の守人~元ダメ人間の異界転生譚~  作者: 中野 元創
第二章:紅を知る、生活と別れ
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第九話:【好感度】調査開始

 レイリの率直過ぎる反応について置いておくにしたって、エリクスさんの状況、厳しいのではないだろうか?

 昔、テレビか本かは忘れてしまったが『友達って感覚が強くて、恋人としては見られない』…なんてセリフを聞いた覚えがある。実際の所はどうだか知らないが、良くない傾向だと思うには十分だ。

 だがしかし、エリクスさんの言葉だけで判断するのも早計と言う物だろう。ここは…、


「…シュリ―フィアさんに、直接聞いてみましょうか」

「…何ッ!?」

「おお…やるか」


 こうなれば仕方がない。直接、と言っても流石に『好きですか?』何て言い方はしないが、どちらにしたってシュリ―フィアさん視点での好意を知る必要は、ある。何せあと三日。それだけの間に、何処まで距離を詰められるかが、これからのエリクスさんの恋路に関わっているのである。


「だ、だがよう、いくらなんでもヤベエだろ、それ。もしそれで、俺がどう思ってんのかがばれたりしたら…」

「いまさら何言ってんですか…。まあ、俺としてもシュリ―フィアさんにばらしたりする予定はありません。出来る限り迂遠に、それでいて的確に、シュリ―フィアさんの心を暴いてやろうではありませんかッ!」

「タクミ、お前もおかしくなってる。…今のままで行かせると、絶対にどっかで、でかいポカすると思うな…」

「ポカってそんな…。大丈夫だよ」

「た、タクミ…?それは多分、大丈夫じゃあない奴の」

「言う台詞、だな。ちょっと落ち着けって」


 レイリもエリクスさんも、俺に落ち着くように言ってくる。また、俺もそう言われると少しずつ、熱された心と頭の何処がが冷えていく。

 …何故俺が焦っているんだ。むしろ、焦りがちになってしまう当事者を、外からサポートするような立場が理想である筈なのに、エリクスさんにも窘め…窘められたのだろうか?まあいい。とにかく、落ち着いて今の状況を考え直さなければいけないだろう。

 シュリ―フィアさんは、エリクスさんの事を男友達として見だしている。仮にそれが正しければ…、今すぐ恋人関係にはなれなかったとしても、長い間の関係を持つ事は出来るのではないだろうか?

 …そう考えれば、実は良い状況ともいえる。もちろん、俺がさっき思い出していた通り、恋愛対象として見られづらくなる可能性も無いとは言わないが、それに関しては努力次第でどうとでも変えられる…筈か。


「…落ち着いたと思います。すみません。

 それでですね、エリクスさん。今の状況、実はそこまで悪いものではないのかもしれません」

「んぁあ?いや、いくらなんでもそりゃねえだろうよタクミ。俺はもう、数年後にシュリ―フィアさんから『恋をしてしまった』とか言われて心を折られるとこまで想像済みなんだぜ?」

「…兄貴、それはちょっと考えが後ろ向き過ぎると思うぜ。いくらなんでも、シュリ―フィアさんがそんな長い間兄貴の思いに気がつかない、なんてことはないだろ」


 確かに。あれでシュリ―フィアさんは感情の機微に敏いから、確実に気持ちに気がついてくれると思う。

 エリクスさんに、今の俺の考えを説明すると、一応納得はしてもらえたらしかった。

 …そう言えば、

 

「レイリの立場からはどんな風に思う?」

「は?何でアタシの意見なんて」

「そりゃあ、この状況を知っている人の中で唯一の女性だから…とか?正直、男だけで話し合っても埒が明かない所はあるし」


 俺の言葉を聞いたエリクスさんが、こちらに身を乗り出して言う。


「だな!良く考えりゃレイリも女だ!恋心くらい分かって…分かって、分か…って?」

「失礼だろうが兄貴!あたしだって恋くらい…?」

「言い返すなら疑問で終わっちゃまずいって…。でもそっか。恋愛経験ないなら…」

「ないなら?」

「…なんだろ」

「なんだろってなんだなんだろって!それ、それアタシが使えねえとかそういう意味かッ!?」


 レイリが何か言い返してきたのだが、余りにも早口で聞き取る事が出来なかった。


「…レイリよう、そりゃあちょっと動揺しすぎだな。早口すぎて何言ってんのか分からんぞ」

「うん。まあ、それならそれで普通の話し合いをするだけなんだけど。…とにかく、シュリ―フィアさんの気持ちを確かめないといけないと思うんです」

「お?アタシ無視したな?」


 無視した訳ではないというか…言い訳にしかならんな。

 さて。


「ここまできたら、もう軽~く、軽~くで良いんでシュリ―フィアさんから見たエリクスさんの評価を知りたいものですね…」

「評価とか言うのかタクミ…。まあ、気になるのは正直言って事実だがな」


 と、何かを諦めたのか、レイリがこちらに寄ってくる。


「聞くなら、アタシに任せろ。きっとうまく引き出せる筈だ」

「レイリも根拠なんてねえだろうがよ。…実際、どう聞くんだよ」

「一応、策が一つ、ある事にはあるんです。聞いていただけますか?」


◇◇◇


 レイリとエリクスさんに俺の策を説明、許可を得て、俺とレイリはシュリ―フィアさんを探し始めた。

 エリクスさん曰く、『ギルドでは人が集まりすぎて仕事の邪魔になるからいない筈。同じ理由で門の近くにもいない筈だから、海側、、ついでに言えば大通り以外の所にいる筈だ』とのことなので、少し細い道を二人で小走りしながら捜索を続けているのだ。

 しかし、なんだかんだでこの町は広い。一人の人間を見つけるのは、意外と難航する作業であった。


「タクミぃ!次はどっちに曲がる?」

「うーん、じゃあ、右で。一応左も確認しとくね」

「おう。シュリ―フィアさんも、もう少しわかりやすい性格しててくれればなあ…」

「確かに個性強い人だよね。喋り方も含めて」

「な~んか、遠い記憶の中で誰かが似たようなな話し方してた気もするんだけどな。まあいいや」


 侍みたいな話方する人なんて、そんなに多くはないと思うんだけどなぁ…。


「…なかなか見つからないな。レイリ、もう少し奥の方に」

「いや、あの人じゃないか?タクミ。その、今あの店で果物手に取ってる人だよ」


 レイリに言われてみてみれば、店に並べられた果物―――あれは多分、ペクリルと言う物だ―――を手に取るフードをかぶった人物がいた。

 そして、そのフードの端からこぼれ出る特徴的な蒼の長髪…その髪色は、この世界でだってそうはないものらしいので、ほとんど間違いないと言っていい筈だ。

 あまり注目を集めないように走るのをやめ、レイリと二人でシュリ―フィアさんへと近づく。すると、流石と言うかなんというか、シュリ―フィアさんはこちらとの間にまだ十m以上距離が有る時点でこちらに気がついたらしく、すっと振り向く。


「おお、タクミ殿にレイリ殿。先程ぶりであるな。して、某に何か用でもあったか?意識がこちらへと向いていたように思えたが」

「あー、…ちょっと、世間話でもしたいなーって思いまして」


 先手を取られた。世間話って何だ世間話って。そりゃあ最初からエリクスさんの事聞くなんて真似するつもりはなかったが、これじゃあ怪しすぎる。


「なあ。シュリ―フィアさんは普段何してるんだ?守人の私生活って、結構気になるぜ。…あ、嫌なら無理に話す必要はねえけど」


 俺がまた脳内で考え事ばかりしている間に、レイリが間を埋めるため早速会話を始めていた様だ。…男だと、ちょっとやりにくい質問を選んできたのは、もしかしてさっき女心が分からない扱いされたことに対する反撃か?

 その質問を受けたシュリ―フィアさんは、ほんの一瞬迷ったようではあったが、


「いや、別にいいぞ。隠し立てする様な事ではないのだからな。

 …といっても、その実、期待する様な特別な事でも無いのだがな。何、こうして事件が起これば駆り出されもするが、それ以外では特にやる事がないのが現状なのだよ。無暗にこの力を奮っては、各所から睨まれてしまうのでな」

「へえ…じゃあ、結構自由な時間は多いんですね。あ、お住まいは王都なんですよね?と言うことは、買い物をしたり、ご友人と遊びに行かれたりと言った感じですか?」


 レイリの質問を皮切に、俺ももう少し深い所まで切り込んでみる。王都なんて言った事無いから分かりもしないが、ここより都会で、自由な時間も多いとなれば買い物とかにも行くと思うのだ。


「うーむ、買い物か?某はあまり、屋敷の中に物を増やしたく無いのでな、そう言うことは好かんのだ。普段はもっぱら、修行の毎日と言う訳よ」

「なるほど…」


 やばい、会話を止めてしまった、そう感じ、助けを求める為にレイリへ視線を向ける。


「だったら、彼氏とかはいるのか?」

「うッ」


 口から妙な音が漏れた。

 な、何でレイリは今日、そんなにど直球なんだ?

「やれやれ、何を聞いてくるかと思えば、恋の話か?生憎だが、某にそのような浮ついた話は無いよ。そもそも、守人はあまり恋愛も、結婚も、多くはないからね」

「そうなんですか?あれ?なんだか、イメージと真逆でした」

「だな、あたしももっとこう…あ、シュリ―フィアさんがってわけじゃないんですけど、強くてモテモテ、異性を大勢囲って大奥とか作ってんのかと」

 

 モテモテって。と言うか、レイリはボルゾフさんから話とか聞いた上でそんな印象持ってたの?そりゃ、英雄色を好む、とかそんな言葉もあるけれど。

 しかし、実際モテてはいたんじゃないのだろうか?美人で、強くて、守人なら、多分財産も多いだろうし、動機の純不純はおいておいたとしても、群がる男は多そうに感じるが…?


「いやまあ実際、異性からのアプローチとかは多かったんじゃないですか?シュリ―フィアさん、美人ですし」

「うーむ、友人からも美人に位置すると言われた事はあるが、その感覚、某には良く分からなんだ。で、アプ…好意を持たせようと異性が行動していなかったか、と言われれば、無かったわけではないだろうな」

「やっぱりな。アタシでも、シュリ―フィアさん見て美人じゃない、って思う男はいないと思うし。でも、結局恋人はいないのか?」


 なんだかんだで気になる事は聞き出せている。だが、今は耐えるのだ。出来る限りの事を聞き出さなければ。


「ああ。だいたい、露骨にそんな事をしてくる軟派な事をする様な者に限って胆力が足りん。某が戦場で背中を任せられる様な男でなければ、恋をする方がおかしいという物だよ」


 ん?…それはつまり、守人や、それに準ずる実力者って事になる訳か。だとすると、エリクスさんが今の時点で恋を叶える事は出来そうにないのか…。

 まてよ?聞いておかなければならない事が有る。


「だとすると、今守人の中に好きな人がいる、とかだったりするんですか?」

「(…だったらヤベエな。兄貴の出る幕ねえぞ)」


 レイリの囁きを耳にしながら、シュリ―フィアさんの返事を待つ…と、案外あっさりと返答が来た。


「いや、それも無いんだ。確かに背中を任せられる連中ではあるが…奴ら、全員ちょっとおかしいからな。本性知ってて恋に落ちる輩はおらぬよ」

「へ、へええ…大変なんですね」

「それに、前に貴殿には話した事が有ったと思うが、守人だからと言って特別扱いされるのも嫌なのだよ。守人としてではなく、某自身を見てくれる様な殿方で無ければなぁ…」

「「お、おお…」」


 何だ、こういう内心の吐露のされ方だと、聴いている方がいっそ恥ずかしいものなんだな。レイリと反応もかぶったし。

 今俺の目の前で、ついさっきまで“キリッ”何て擬音がつきそうな、例えるなら、そう、周りの助けなど借りず、一人だけで咲き誇った高嶺の花、そんな凛々しい雰囲気だったシュリ―フィアさんが、今ではむしろ…“デヘッ”とか、そう言う間の抜けた擬音の方が有っているという事実。

 頬を紅潮させ、宙を見上げて、デヘデヘと…口に出てるじゃないか。最早先程までと同じなのは、周りの事に左右されないということだけだ。少なくとも、俺たち二人のこの視線には気がついていないのだから。

 …この状態で店の前にたたずまれたままだと営業妨害になってしまう…絶対に口に出していない自信はあったが、どうやらレイリにも思いは伝わったらしく二人で顔を見合わせた後、裏路地へとシュリ―フィアさんを押しこむ。

 一息ついたその数秒後、シュリ―フィアさんの表情がいきなり無表情に変わり、辺りをゆっくりと見回す。


「…む。………す、すまない!某はまた…ああ!」

「またって事は、妄想癖が…ああいえ、何でもありません」

「いや、いいんだ。これに関しては某も何度も注意されている事ではあるからな。まあ、それで治れば悩む必要などないのだが、な」

「でも、妄想が続くって事は、何かしらの形で理想の恋人、みたいなのは自分の中に有るんだろ?どんな感じなんだ?」

「…そうだな、さっき言った通り、強さ、高潔な精神、某自身を見てくれる人、だな。それ以外に求める物は無いのだが、全て兼ね備えた男性と言うのはな…なかなかいないものだよ」

「まあ、理想像ってそんなものですよね」

「…いわゆる、白馬の王子様とかそんな奴か?いやあ…巡り合わねえもんだろ」


 レイリの言う通り、自分の考える最高の異性なんかと巡り合える事なんて、ほとんどありえないと言っていいことだ。人によっては、そんな奴がいるのか?と首をかしげたくなるものだったりもするほどだし。


「そこに関しては、某から見てお二方は非常に羨ましいのだがな。見たところ、幼馴染、と言う奴なのだろう?長い間一緒にいる、それだけで、互いの仲は親密になるものだからな」

「え?えーっと、シュリ―フィアさん、それは」

「お、おう。まあ、前に付き合ってないとは言ったけど、幼馴染とか、そもそも長い付き合いってわけでもないんだぜ?」

「なに?だが、お二方のそれはちょっとやそっとでは培われないほどの物だと思うぞ?会話が良く噛み合っていて、互いが互いをよく見ているし、戦闘時の動きも互いに良い動きが出来ていたと聞いたぞ?」


 言われてみれば、確かに、出会って少しの間で出来るようになるのも珍しいような事が多いな。だがしかし、俺がレイリと友達になった日から…まだ数えて一週間経っていないのか?うん、実際すごいかもしれないな。


「まだ、友達になってから一週間もたってない筈ですね。実際、今自分で気がついて驚きました」

「そうか…確かに、あの護衛依頼の時だったもんな、…出来事が濃かったんだろ。こんなに事件ばっかり起こる事はねえよ」

「なるほど、時間は短くとも、互いの間に消えない思い出を多く持っているという訳か。うんうん…良いではないか」

「良いではないか…って」


 レイリと顔を見合わせ、たがいに若干げんなりとした瞳を向け合う。この短い時間の間に、もう既に何度もシュリ―フィアさんの印象が変わってしまった。良い人だということは分かるのだが…何と言うか、あれだ、濃い。

 なにはともあれ、これでシュリ―フィアさんの理想に近づく方法は分かった訳だ。エリクスさんに、伝えなければ。


「お、そろそろ陽九刻程ではないか?失礼お二方。某、冒険者ギルドの方に呼ばれているのでな。ここでお暇させてもらおう」

「あ、す、すいません引きとめてしまって。どうぞどうぞ、お構いなく」

「またどっかであったら、話でもしようぜ」

「ああ。そうさせてもらおう。さらばだ」


 そう言ってシュリ―フィアさんは走り去って行った。どうやら、図らずも都合のいい結果になった様である。


「よし、エリクスさんに報告に行こう」

「内容は、…修行して強くなれ、真面目になれ、ってとこか?」


◇◇◇


「なるほど…それがシュリ―フィアさんの理想か…。二人ともマジでありがとう!感謝しか出来ねえ!」

「これまでの行動に反省でもしてろよ兄貴。少なくとも、高潔な精神なんて持ってると思われてねえ筈だからな?」

「でも逆に、シュリ―フィアさん自身を見てはいましたよね?少なくとも、守人だから好きってことでは無いってことでしたし」

「お、おう、当然だぜ!」


 と、これが、エリクスさんにシュリ―フィアさんの理想を伝えた後の一連の会話である。

 その後は、三人で町をぶらぶらと歩きながら、これからどうするのかを話し合っていた。


「今は、出来る限り友人としての信頼を積んでおいて、一度シュリ―フィアさんと離れた後に自分をシュリ―フィアさんの理想に近づけ、次に出会ったときにそのギャップで惚れさせる事が出来るのでは?」


 と言うのが俺の意見。だがしかし、二人からは確実性に欠けると言われてしまった。結局、三人で意見をすり合わせた結果できあがったのは、


『少しずつ行動を理想像に近づけていって、最終日、王都に帰るシュリ―フィアさんに対して思わせぶりな台詞で印象付ける』


 と言う物。…それもあまり、確実とは言えないよね?と言う意見は黙殺された。

 ………作戦実行まで、後三日である。



 …シュリ―フィアさんの口調に作者が振り回されつつある現状。

 できれば今日中にもう一話あげたいと思っています。


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