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忌祓の守人~元ダメ人間の異界転生譚~  作者: 中野 元創
第一章:沈んだ先の戦世界
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第二十四話:団結

 ………朝、だ。

 …朝だ。起きなければ。


「…よし」


 今日は住民の避難日。護衛の依頼…と言うよりも、強制参加なので任務は朝から始まると思われる。避難が何処まで終わっているのかは分からないので、一度階下に降りてみよう。

 もしいたとしてもおやっさん、と言うかこの宿はギルドと提携しているからまだいるだけかもしれないけど。


「…おっ。タクミか。悪いが朝食はそこから自分で取ってくれ。俺たちももう避難しなきゃあいけねえからな」


 一階に降りるとおやっさん…と言うか、赤杉の泉亭の家族そろって荷物を纏めていた。荷物と言っても、大きなバッグ一つに出来る限りの量を詰め込んでいるだけのようだが。恐らくは出来る限り荷物を少なくするよう言われているんだろう。


「はいそれでは頂いて行きます。皆さんも、どうか無事で」

「おいおい、タクミも護衛に入ってるんじゃないのか?しっかり頼むぜ」

「食事分はしっかり働きますよ。だからまた食べさせて下さい」

「おうよっ!じゃあ行くわ!」


 そう言っておやっさん達は出ていった。振り返り、食堂の方を向くと皿に山盛りにされた大量の料理や寸銅鍋に入った汁もの…一種のバイキング状態になっており、既に幾人もの冒険者が勢い良く食べているものの、その料理は全く減る様子が無い。

 俺もその中に紛れ込み食事を開始。周囲の勢いに押されて俺自身もかなりのペースで食べる。


「おうタクミ、お前も参加するんだな!」


 聞き覚えのある声に振り向くと、


「ぼうぞふふぁん!かえっふぇふぃふぇふぁんふぇすふぁ?」

「飲んでからしゃべれや!…ああ。ちょうど帰って来れた。幸運だぜ」


 長い間会っていなかったボルゾフさんの姿が有った。その口ぶりから察するに依頼から帰って来たばかりらしい。

 食事を飲みこんで、ボルゾフさんの話の続きを促す。


「幸運だ、とはどういうことでしょうか?」

「ああ、この町は、いわば俺の第二の故郷だ…。それを守るために力が使えるなら、願ってもない事だ…。

 それに、多くの人々を助ける事は守人を目指す俺にとってはどんな苦労をしたってやるべき事だからな!燃えてくるってもんよぅ…」

「…そう言えば、王都から守人を呼ぶらしいですね。到着が何時になるかは分からないですけど」

「ああ、守人は、ガキの頃に見たのが最後だからな。本人には会えねえだろうが、あのいっそ痛快な程の忌種に対する無双っぷり、もう一回見てえもんだよ…」

「今日は、どうなりますかね。瘴気汚染体の群れ以外にも中位忌種が紛れていると言いますし…」

「ああ、かなり厳しい戦いになるだろうな。俺は今Cランク。一応中位忌種一体だけが相手なら無傷で倒せない事もない。だが…」

「周りには多くの瘴気汚染体がいるんでしょうね。どちらか一方だけを狙うことは難しく、両方同時には戦えない…」

「ま、こっちも大勢集まるからな。そこまで手詰まりってわけじゃあねえだろ。…守人が来るより前にこの事件を収められれば、俺の守人への道も近まるってもんだぜ」

「ア、アハハ…」

「笑ったなぁ…!」

「ば、馬鹿にして笑った訳じゃないですよ!」


 その時、外から誰かが入ってきたらしき物音がした。


「おーい、タクミはまだいるかー?」

「…あれ?この声って、レイリ?…おーい、こっちにいるよー!」

「ん?レイリっつうと…エリクスの妹か?」

「おお、まだいたんだな…って、ボルゾフさん。あんた戻ってたのか」

「ああ。夕べに緊急事態だって話を聞いて急いでな。ところでレイリちゃぁんよぉぅ、お前何時の間にタクミと知り合いに?つい数日前には考えもしなかった人間関係なんだが」

「その呼び方はストップで。…タクミは仕事の帰りにヒゼキヤで請け負った依頼の最中で友達になったんだ。ちょっと変な所もあるけど良い奴だよ」

「変な所って、そんなふうに思ってたのか?」


 完璧だなんて言えないけれど、口に出して言うほどだったかな…?


「いや怒るなって。変ではあっても悪い所じゃねえし。むしろ関係がそこまで深くない相手には、タクミみたいに丁寧な話し方の方がいいんだしよ」

「ああ…変な所ってそれか」

「そういやタクミは俺にもま~あ畏まった話し方するよな。もうちょっと砕けた感じで話してくれてもいいんだぜ?」

「そうですか…?だったら、もう少し気さくに話しかけられるようにします」

「おう、ま、今日から俺らは戦友だからな。死線をくぐりぬけたなら、そのあとに遠慮なんて要らねえよ」

「…だったら、ちゃんと行きぬかないといけませんね」

「はぁ…おいタクミ、お前また思考が暗くなってるじゃないか。昨日言ったろ?笑えって。ちゃんと覚えてるか?」

「あ、ああ。もちろんだ。いざとなったらちゃんと笑うさ」

「いざ、なんて場面に陥らないようにするために笑えってんだよ!ふざけてんのか!」

「ご、ごめん…」

「なんだかんだで良い関係じゃねえか。コンビにでもなりそうな雰囲気だぜ」

「コンビ?」

「あー、タクミは知らねえか。簡単に言えば、チームを組むって事だよ。ギルドの本部の人員が作ったシステムでな。レイリちゃんはそのへんどうなんだ?」


 ボルゾフさんからそうとわれたレイリは、一瞬思考の間を取って、


「…そうだな。言われてみりゃあ確かに同年代で実力もまあまあ、そのうえ既に友達…。ちょうど良い相手かもしれねえ」

「だろ?まあ、まだ必要ってわけでもねえけどCランクになったらなんだかんだで必要になってくるもんだからなぁ、相棒ってえのは」


 まだはっきりしないが、ギルドに有るコンビと言うシステムにおいてのレイリの相棒に推されていると言うことか?


「ま、その辺の話は今日を終えてから落ちつける場所でする事にしようぜ。

 …って!忘れてたぜ!そろそろ説明が始まるっていうのにまだギルドにいないみたいだったから、タクミを迎えに来てたんだぜ!」

「え?説明って…護衛任務の!?」


 驚き、立ち上がると既に、先程まで食事をむさぼっていた冒険者たちは影も形もなかった。どうやら既に食事はすませ、さっさとギルドへと向かったらしい。


「ゲッ!もうそんな時間かよ!おい二人とも、急ぐぞ!いくらなんでも命かかった現場の情報未入手とか洒落になりゃしねえ!」

「はい!行こうレイリ!」

「おお、走れ走れ!」


 三人で町をひた走る。レイリの全力ダッシュっぷリからもかなり時間が無い事が伝わる。

 ギルドとその前に集まった冒険者たちが見えてくると同時、突如大きな声が町へと響きわたった。


『本日お集まりの冒険者有志よ!この危険を前にただ逃げる事をよしとせずこの町を守るためこの場へと集ったその心意気に、先ず感謝を表する!』

『おおおおおお!』


 その言葉に熱狂する冒険者たち。

 最初の発言者はギルド長のように思えた。なるほど、救国の英雄は本当に多くの人々から慕われているようだ。

 と言うか、ギルド長の言葉はおそらく町全体に響き渡っている。魔術なのか機械なのか分からないけど、拡声できる何かを使っているらしい。

 それに気が付いた俺たちは速度を落とし、歩き始める。


「どうやら、何とかなったみたいだな。レイリちゃんから説明聞けねえか持って言われた時は心臓止まるかと思ったぜ」

「だからその呼び方…。なあタクミ、しっかり説明聞いとけよ。ちょっとの油断と連携の乱れで戦局まで変わっちまう事もあるからな」

「ああ、分かってる。ちゃんと頭に叩き込んでおくさ」


『今現在確認された忌種、及び瘴気汚染体の分布から推測される総合数は恐らく千…いや、二千を超える!それゆえに、本来の最善手は住民避難後、冒険者や衛兵による誘導と守人による殲滅行動を取ることだったが、最早一刻の猶予もない上に中位忌種がいる以上防壁くらいその気になったなら即座に破られてしまう。

 よって、今回われらが行うのは少数の冒険者による住民の避難と、残った大勢での討伐及び守人到着までの時間稼ぎとなるっ!幸いにも守人側も今回の事件を重大視し、短距離転移を駆使しながらこちらへと向かってきているっ!恐らく我々の作戦開始数時間後には到着する事だろう!』


 その声を聞いた時、レイリの顔に衝撃走る!


「おいおい…やっぱ守人はヤベエぜ。短距離転移っつったら王宮魔術官でも複数人が魔力根こそぎ使って、そのあと長時間の魔術処理を行ってようやく起句を唱えられる様な難度って聞いたぞ。これから戦いだし自分の魔力を使ってるってわけじゃあねえだろうが…王都から数時間って、どんな速度で何回転移してんだよ…」


 …俺には何となくでしか凄さが分からないが、隣町へ馬車で向うにも約十一時間かかっているのに、それよりずっと遠い、恐らくは一日以上かかるであろう王都から数時間で到達できると言うのはそれだけで実力の証明になっているのだろう。

 そこでようやくギルドに到着。入り口前に台を作り演説を続けるギルド長を眺める。

 数分後、最後の締めとばかりにギルド長が大きく息を吸い込み、口を開いた。


『最後に、今回の討伐戦、指揮はこの私、ガーベルト・エリアスが執り行おうと考えているっ!今更古株が出張ってくると言う事に不安を感じる物もいるかもしれないが、私自身戦闘も、指揮官としての能力もすたれたとは思っておらん!故にっ!ここで皆の思いを確かめるっ!

 私を信じると言う者はっ!その拳を天へと伸ばしてくれっ!』

『…………………………オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!』


 一瞬で冒険者たちの声で町全体が埋め尽くされる。俺もその昂りに乗り、叫びながら右腕を高く振り上げる。


「おおおおおおおおおおっ!おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 俺の隣に男の野太い声とは違う、しかしこの場の誰よりも声を出している女性がいる。

 レイリと初めて会った時の印象の通り、彼女はギルド長―――ガーベルト・エリアスの英雄としての姿に心底敬意を抱いているのだろう。

 ボルゾフさんもまた、声を張り上げ、拳を天に突き上げていた。

 きっとボルゾフさんが好きなのは守人では無く多くの人を守る者なのだ。戦争の中ではどちらに正義が有るとも言えない。しかし、国を守るために戦い、部下の多くも生き残らせたと言うギルド長に対しても守人に対するものと似た気持ちを持っているに違いない。

 皆この場では一つだ。四百名以上の戦う力と意志を持った者たちが、一つの目的のために繋がり合うようなこの感覚が、一種の全能感にも似た何かと共に全身を駆け巡る。

 この戦いは大丈夫だ。いや、根拠なんて無いし、死人だって出てしまうのだろう。

 …でも、きっと悲劇で終わらない。多くの人々が一つにまとまったこの光景を見れば、皆未来への希望を瞳からあふれさせるこの光景を見れば、そう感じる事ができた。


 ギルド長の演説を聞き終わり、俺を含め冒険者は皆北門へと移動を開始した。

 北門前の広場では住人とそれを守る衛兵隊が待機しているらしい。そこで衛兵隊隊長…クリフトさんとギルド長が話し合い、正式な布陣、作戦内容を決めるのだ。そのためにギルド長は一足早く門へと向かった。

 瘴気汚染体についての調査隊の報告から一日と立たずに住人の避難を決めてそれを実行した、と考えるのならかなり速い対応だとは思うが、その場で作戦を立てると言うのは少し不安でもあった。結局、一種の祭りの後の高揚にも似た感覚が支配する中では、俺を含めて誰もそれを言いだしはしなかった。

 まあ、最善の選択ではあるだろう。俺には作戦を立てるとかそんな頭脳労働的な事は出来ないだろうし、限られた時間だとしても元英雄と今兵を率いる立場にいる人の二人が立てた作戦だと言うのならきっと良いものだろう。

 先程の演説の中でギルド長も話していたのだが、瘴気汚染された忌種には理性と言う物が存在しない。真っ直ぐ人を殺しに来ることには恐怖を感じるが、罠にも掛け易いのだと。恐らくは少ない時間で設置・実行できるような罠を提案してくれるだろう。


「レイリは、今日の戦いどんな作戦になると思う?」

「う~ん、昨日言った通りに森の前に冒険者中心で布陣組んで戦うんだとは思うけど…正面からぶつかり合うより先に罠とか何処まで活用して数を減らせるかが肝心だと思うぜ」


 俺の考えてる事と近い物のようだ。まあ、もともと俺の予想はレイリさんの機能の説明から来たものだったから当たり前だが。


「じゃあ、ボルゾフさんだったら?」

「ああ…俺は、レイリちゃんの案で合ってると思うぜ。ただ、やっぱり人手不足は否めねえよな。衛兵のほとんどは住民の警護に回らなきゃいけねえだろうし、そうなるとここにいる数百人で二千の瘴気汚染体に対して守人が来るまで足止めしなきゃいけねえから、一か所で迎え撃つんじゃなくて人のいない方向へおびき出したりして相手の数を減らしたりもするかもな、とは思ったが」

「おびき出す…ですか?」


 つまり、少数の人員で多くの忌種を連れて逃げ回ってもらう、とかそんな感じか?それができるなら確かに多少は一つの戦場での戦力差は減るとは思うが…。


「ああ。瘴気汚染された忌種どもは人相手なら見境ねえ…と言うか、同じ忌種相手でも殴り合うような輩だし、もちろん一斉に攻めてくるってのも、作戦なんかじゃなくて森からあふれだした奴らが人を追って駆け出したのを見て『俺も俺も』とつられて動いているにすぎない。

 だから、足に自信のある奴にでも走らせれば奴らの動きから統率に見えるような一勢な動きは無くなると言っていい。後は…川にでも落とせばいいんじゃね?」

「ああ…そう言えば俺も川に落ちた光景を見ました。確かにあれなら勝手に落ちてくれる気もしますけど、でもあの川ってロルナンの中まで続いてますよね、大丈夫ですか?」

「実は深くて流れが早いからな、この川。町の中では複数に分かれていても充分な水量で…まあ、多分溺れちまうよ」

「なるほど、確かに流れは速かったです」


 意外と色々な戦法が出てくるものだ。これなら本当にどうにかなるかもしれない。

 その時、進行方向から大きな声が聞こえて来た。


『~~~!~~~~~~!~~~!?………~~~!~~~~~~~~~~~!!』


 恐らくギルド長とは違い地声での発声だったのだろうその声ははっきりとは届かず、内容は俺には分からなかったけれど、おそらく今の声は衛兵隊を鼓舞しようとしたクリフトさんの声だ。その声に続くように多くの男たちの声が続いていたので間違いないだろう。

 その後も今日の戦いについての話をしていると、すぐに門の前に着いた。

 そこにいたのは大型の荷馬車に次々乗りこんで言っている町の住人たちと、門の外に出て警備を怠っていない衛兵たち。そして、避難の手伝いの為だろうか、ギルドの職員の多くもここにいるようだ…いや、Fランク以下の冒険者は戦力としてみなされず住人達と一緒に避難することになっているのだから、ここにいるのが町に住む人々の全てになるのだろうか?それにしては、いささか少ないような…。


「ま、船でほとんどの住人は避難済みだって言うし、こんなもんかな」

「え、どういうことレイリ?みんな馬車で避難するんじゃ…」


 言っていて自分でも気が付いた。

 町中の人を馬車で運ぶって、いったい何台の馬車を用意すればできるのか。現実的でないことは確かだろう。既に船で出来る限りの大勢を移送して、残りが馬車で運ばれる今ここに残った人たち…おおよそ二百人程度なのだろう。用意された大型馬車は十台。一台二十人と考えれば、詰めて乗れない事はない。

 そんな事を考えながらあたりを見回していると、見知った顔が近づいてきているのに気が付いた。


「久しぶり…と言う程でも無いわね。おはよう、タクミ君、レイちゃん。それに、ボルゾフさんも」

「ミディリアさん!」

「おお、ミディもいたのか。避難状況はどうなってる?」

「ここに残った避難対象者の数は合計百八十七名。どうにか用意した馬車で間に合いそうよ」

「ホーン、意外としっかり把握してんだな。それなら避難も無事終わりそうだ」

「ええ、ボルゾフさん。…確かあなたの家族は既に船で避難しているわよ」

「ああ、かなり早い時間に出てったからそうだとは思ってたがな」

「なあなあミディ~さっきの演説聞こえてたか~?やっぱりかっこいいよなあ、ガーベルトさん」

「な、なによ。父さんが頑張るのは当然の事なんだから何もないわよ!」

「…ん?父、さん?」


 ガーベルトさん=ミディリアさんの“父さん”。

 ガーベルトさん=ガーベルト・エリアス=ギルド長

 ミディリアさんの“父さん”=ギルド長………ッ!


「えええええええええっ!ミディリアさんってギルド長の娘だったんですか!?」

「あれ?言ってなかったっけ?…まあ、だからと言って何がどうなる訳でもないのよ、気にしないで」

「は、はあ…」


 突然衝撃の事実を知って僅かに硬直していた俺だが、よく思い出してみると、確かに普通のギルド構成員さん達よりもミディリアさんの方がギルド長達と仲が良かったし、他の構成員さん達よりも立場が上みたいな感覚が有った気がする。

 あれは多分、他の構成員さん達が遠慮していたからなんだろうなぁ…。


「って、のんきに話してる場合じゃなかったわ!」


 そう叫んだミディリアさんは冒険者たち全員に呼びかけるように、とある情報をもたらした。


「さきほどガードン伯爵家より連絡があり、伯爵直下70名の近衛兵を民衆の警護に回すことが決まりました!ウェリーザ=ロット=ガードン伯爵からは衛兵および冒険者の皆様は忌種の討伐に全力を注ぎなさいとの言伝を預かっております!」

「「「「「おおおおおおお!!」」」」」

「…おお、なんだかんだで近衛は強いから頼りになるからな、心強いか。だが、ここの伯爵がそこまでするとはなぁ…。悪い貴族では無かったが、自分の安全を脅かしてまで民を助けるとなるとなかなか見上げた心得じゃねえか」

「へえ…ロルナンの領主さまは良い人なんですね」

「いやあ、悪い奴じゃねえってのはボルゾフさんと同じで知ってたが、ここまでするか…。確かに見直したな。

 …いや、また自己顕示欲を埋めようとしてるのか…?」


 レイリが小声でつぶやいた内容が少し気になったので一言言ってみる。


「…なあ、レイリ?そんなふうに言うのはどうなんだ?多分、かなりの助けになるんだろ?近衛兵が味方してくれるっていうのは」

「ん?まあな、精鋭七十人が個人だけじゃなく避難民全員を守ってくれる訳だし、護衛に割いた人員も討伐隊に回せるって言うのはさっきミディが言った通りだ。

 ただ、ちょっとな。昨日も言ったけどここの領主は良い奴だが自己顕示欲が強すぎる。大方今頃は馬車の中で『フフ、民衆よ。この偉大にして寛大、高貴でありながら慈愛も満ち溢れる私に感謝し崇めるがいい…ッ!』とかお決まりのセリフを一人で決めてんだろうなぁ…と考えると微妙な気持ちになってな…」


 レイリの領主さまの物真似はかなり似ているらしく、ミディリアさんとボルゾフさんは抑えるように笑い出し、それ以外の冒険者の中にも笑っている人がいたりする。

 まあ、領主さまがかなりユニークな方だと言うことは理解できた。

 その後は人であふれかえった広場の中で決定版の作戦内容を聞き、一部の冒険者たちで罠を作ったりしていた。

 避難も始まり、少しずつ馬車の数も、人の数も減っていく。

 彼らの乗った馬車が町から離れれば籠城戦に変更するとギルド長は言っていた。これも領主さまが近衛兵を警護に回してくれたからだそうだ。

 俺たちも森から少し離れた所に広がりながら並び、その瞬間を今か今かと待ち続けていた。

 そして、


「瘴気汚染体複数確認!一切の迷いなくこちらに向かってきます!」

「よーし、遠弓隊!用意!」


 事前に一部の冒険者たちにより茂みを取り払われ視界良好となった森の中から、数えきれないほどのゴブリンが走り来るのが分かる。

 報告を受けたギルド長の命に従い、俺たちの目線から見て森の右と左に待機した遠弓隊が矢を番え、弦を引き絞る。


「放てっ!」


 ギルド長の号令と共に数多くの矢が宙を舞い、先頭の数体のみを無視して森の中へと降り注ぐ。


『『『『『『『『グギャアアアアアアアア!!!!』』』』』』』』


 後を追うゴブリン達の断末魔を戦場に響かせる。


 九の月十日、陽三刻半。

 戦場の火蓋は、切って落とされた。



 最終決戦(一章の)へ向けて加速加速!


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