表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忌祓の守人~元ダメ人間の異界転生譚~  作者: 中野 元創
第六章:対帝国戦。――そして
251/283

第三十六話:特殊部隊との交流

「アインライヒ・ランデスフェラト、ウェナス・リア、エリクス・ライゼン」


 ここ数日間の検査の結果から選ばれた二十名の冒険者や兵士の名前を、壇上に登った兵士が読み上げていく。アインさんやエリクスさんの名が最初の方に並ぶが、当然、知らない名前も多い。…選出するのは二十名らしいから、当然だろう。

 続いて、カルス、クラースさん、五人ほどを挟んで俺が呼ばれ、さらに数人挟んで、ラスティア、レイリ…。

 喜ぶべきかどうか分かった物ではないのだが、結果的には全員が作戦に参加する事に決定した。


「作戦の決行日時は未だ不明瞭だが、即座に実行へ移せるよう、合流する特殊部隊と少数の将官と共に、再び前線へと向かってもらう。

 それ以外の者は、以前配属されていた場所へと戻るように。馬車の出発には余裕も有るから、それを使え。それでは解散!」


 簡潔な号令に従って、彼等は歩いて行った。残ったのは合計二十名。


「君達も、荷物をまとめに向かってくれたまえ。一刻後、この場所に再集合だ」


 その言葉を聞いて、ようやく俺達も動き出す。

 一刻もあれば、荷物をまとめるのは簡単だ。エリクスさんも、荷物は一か所に纏めたままだったようなので全く問題ないだろう。

 俺も、受け取った手紙と、干していた服を荷物にしまうだけで準備は終わった。

 また半刻以上の時間がある……だがしかし、結局は誰もが、出立の準備を早く済ませて、先程の広場へと向かって行った。

 それは作戦に参加する二十名だけではない。他の冒険者や兵士も、競うように足を速め、自らの居た隊へ向かう馬車へ乗りこんでいく。

 皆、急いでいるのだ…自分たちが居た場所で、そこにいる仲間と共に戦うために。

 思えば、俺達は幸運だったのだ。コンビだけでなく、他の仲間とも選ばれ、ここに連れて来られたのだから。戦場に仲間を残して下がる、というのはやはり、大事なことだと分かっていても心にしこりを生むものだ。例えば、今もウィドマンはあの隊で帝国軍の到来を待ち受けている筈だろう。山脈を越えて攻めてくる可能性は低いと言われているが、『禁忌』によって多くの軍勢を用いる帝国がどんな手段をとるかは分からない。だからこそ山脈に兵を配置していたわけで…具体的に考えると不安だけが増すのでここで止めておく。

 最も悲惨なのは、あり得るのかも分からないがコンビと引き離されてこちらに連れて来られ、その上で作戦に参加しなければならなくなった場合だろう。互いにどうなったかもわからず、再会できるのもかなり後…丁度、海に流された後の俺とレイリのような状態だ。

 レイリは『そこまで心配していなかった』とは言っていたが。

 とはいえ、こうしている間にも冒険者や兵士から選抜された二十名は広場へと集合した。そして、それからほとんど時間をおくことなく、先程解散を命じた兵士とは違う、この部隊における指揮官がこの場へ訪れた。

 指揮官の男は僅かに目を見開いて、こちらが集合済みであることに驚きを見せると、どうやら琴線に触れたらしく薄く笑って、こちらへと歩いてきた。


「…失礼にあたると分かった上で、あえて言おう。私は、君達より早く特殊部隊をここに集めて、遅れてやってきた者に最後の失格を言い渡そうとしていたのだ」


 突然語られたその言葉に、冒険者達は怪訝な顔をしつつも、静かに聞き入る。男の言葉が、そこで終わるわけではないと分かったから。


「だから、全員が既に整列しているというのは――間違いなく想定外だ。認めよう。私は君たちの事を見縊っていたのだ。検査の内容を自ら判断していたとはいえ、知らない相手、まさか王国で特殊部隊を勤め上げてきた私の部下たちと同じ働きが出来る筈が無い、と」

「…部下たち?」


 それはつまり…この場で指揮官として動いていたあの男性が、実際は王国の特殊部隊の…隊長?


「君たちの中には、あの前線閣下に直接引き抜かれた物もいるだろうから、それこそ戦争には積極的に動かないだろうとも思っていたわけだが…いや、これではあまりに見苦しい言い訳だな」


 そう言って、男性は深く頭を下げた。

 特殊部隊の隊長、そうでなくても一隊の指揮官を任されていた事は間違いない人間が、そう簡単に頭を下げてはいけない…のだと思う。それでも尚、公衆の面前で頭を下げてきているのは。


「誠意を見せているという事…ッつうか、これだけやってんだから文句言うな、とかそういう方向か」


 エリクスさんの呟きに、心中で同意する。

 流石に、この状況でそんな立場の人がとる行動が、いつもいつも思惑の無い純粋な物だ…などとは考えられない。

 指揮官としての懐の深さを見せつつ、同時に『彼に従うのなら問題ない』と俺達に思わせる事が目的だったように思えた。…俺が分かるくらいだから、他に何人も理解した人はいるだろうけど、そもそもこの作戦に否定的な人がおらず、指揮官として認めたくないと思うほど悪感情を抱いた訳でもない。

 成程、男性にとっては全く損の無い行動だったわけだ。


「さて…それでは、特殊部隊から合流する面々を紹介しよう。一番から十番、並べ!」


 男――隊長の号令がかかると、先程体調が歩み出てきた建物の陰から、複数の人影が整列したまま素早く動き、俺達の前へ並んだ。


「素性を知られないため、彼等は名ではなく番号で呼び合う事になっている。普段は何らかの形で顔も隠してはいるのだが…今日は素顔のまま。

 こちらから伝えるのもなんだが、皆、王に仕え、良く働いてくれる優秀な者達だ。任務に手を抜く事はないと約束しよう」


 …まあ、特殊部隊が任務に手を抜く筈はないだろう。ぼんやりとそんな事を考えつつ、俺の視線は、隊長側から二番目に立つ男へと向いていた。

 男もこちらの視線には気が付いているらしく、見つめ返し、そっと目配せしてくる。…間違いない、ヅェルさんだ。


「あれ…」


 カルスとラスティアも気がついたらしく、ちらちらと視線を向けている様だ。

 まあ、問題なんてない…特殊部隊に所属している事は知っていたのだから。恐らくはもっといるだろう特殊部隊の中から、ヅェルさんがいる部隊が選ばれたという事が意外だったのだ。


「こちらも既に、準備は整っている。馬車へ乗り込むとしよう」


◇◇◇


「という訳で、俺もこの馬車へお邪魔させてもらいます」

「あ、どうも…」


 俺達が五人で乗り込んだ馬車に、ヅェルさんともう一人、特殊部隊の隊員が乗り込んだ。…どうやら六人か七人程で馬車に乗り込んでいるようなのだが、…ヅェルさんは知り合いだからまだしも、そうじゃなかったらかなり緊張する状況だ。


「やっぱ本人か…」

「へぇ…」


 レイリとエリクスさんは、俺達からヅェルさんにも王都で助けてもらったという話を聞いていたため、特殊部隊としての姿を眺めて興味深そうにしている。

 カルスとラスティアは、少し驚きを見せつつも、一度ははっきりと仲間として一緒に居たから、特に何の問題も無く受け入れる態勢。俺とヅェルさんも二人の対応に近い。最もヅェルさんは、警戒させないようにと思っているのか俺達よりも気を抜いているように見えるくらいだ。今も馬車の腰かけへ座り、微笑んでいる。

 ――しかし、この場に一人、居心地の悪そうな物が一人。


「…二番、何故、そこまで落ち着いている…というか何故、この者たちと知り合いなのだ?」

「ま、俺にも日常生活は有るわけですからね…貴方はともかく、私の正体はほぼすべて彼等の知る所に有ります。番号呼びを徹底しなくても良いんですよ?…一番?」


 『一番』と呼ばれた、白と赤の混ざった髪が特徴的な男は、ヅェルさんの対応に対して悩ましげに頭を書いた後、諦めたかのように無言で腰を下ろした。


「タクミさんもレイリさん達と再会できたようですし、孤児院の皆さんも無事に新生活をはじめられました。…私も子どもが生まれたというのに、この戦争ですからね…困った物です」

「あ、おめでとうございます…ちなみに、その、何時頃ご結婚なされたんですか?」

「ロルナンでの一件が終わった直後、ですね」

「へぇ…」

「そうだったんですか…」


 ロルナンでの戦いの後だろうとは思っていたが、直後だったのか。


「あの時は獣人であることを一応、隠してはいたのですが…タクミさんは覚えていますか、リバ、という女性の事を」

「リバ、さんですか…?いえ、すいません。ちょっと記憶にないです」

「あ、アタシ覚えてる…と思うな。あの、路地裏であいつら追ってた時に、ヅェルと一緒に来た衛兵じゃねえのか?」

「そうです。彼女には、結婚と同時に引っ越してもらいましたから、もう衛兵ではないのですがね」


 …む、レイリは覚えているのに俺が覚えていない、というのは何だか変な焦燥感が有るな。対抗心、とでもいうのだろうか?


「今は、孤児院で預かっていた子どもたちに、成長した自分の子どもの兄や姉になってもらおうという計画を立てている様です」

「そ、それはまた…」

「明るい、人?」

「ええ、とても無邪気で。いつでも笑っているように思われるんじゃないでしょうか」


 そう言われ、どうにか記憶を紐解こうとする。…おぼろげにしか思い出せない。ううむ、確かにそんな人がいた様な気はするが…?

 まあ、仕方がない。孤児院の隣に住んでいるのなら、会いに行く機会も有るだろう。その時に思い出せばいいのだ…そこまで考えて、孤児院のある王都の隣町の事を思い出す。

 確か、聖教国から王都に向けて旅をしていた時、あの町で、獣人が王都では危うい立場にある、という話をしてくれた、妊婦の獣人がいなかっただろうか?…年のわりに無邪気だ、と感じた様な気もする。

 ――まあ、ここで追及する必要もないか。それこそ、再会した時に確かめればいい。

 不思議な縁も有るものだ、などとのんきに考えながら、戦場へと近づく馬車に揺られ続けていた。

 …親しげに話す俺達に疎外感を得て押し黙る一番さんも、途中からヅェルさんに巻き込まれて話し始めたので、結果的には俺達の馬車が最も騒がしくなっていたが、どうやら特殊部隊と冒険者や兵士を混ぜて載せた目的はそこに有るようなので、問題はないらしい。


新学期が始まり、また、今年は受験も控えているので、昨年より更新速度は遅くなりがちだと思います。申し訳ありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ