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忌祓の守人~元ダメ人間の異界転生譚~  作者: 中野 元創
第六章:対帝国戦。――そして
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第二十二話:帝国の禁忌

 着替え、昼食…その他諸々の準備を済ませてから、エリクスさんに連れられて、今の状況を知るために軍からの正式情報が掲示されているらしい広場へとレイリと共に向かっていた。

 その広場とは、前に軍の指揮官らしき男性から話を聞いた場所なのだが、既に何時戦いが始まってもおかしくない現状、冒険者を集めるために人手を割くのも難しく、冒険者たちにはここに掲示される内容に従って行動してほしい、という話が有ったらしい。

 ……冒険者ギルドに有った依頼掲示を思い出す。最も、この場合はこちらが選ぶのではなく、ほとんど強制的に仕事を受けることになるのだが。


「で、だ。俺も何時間かは見てねえし、新しい情報の一つや二つ、来てそうなもんなんだが…」


 診療所でもそうだが、ここに来るまでの間にもエリクスさんからある程度情報は貰っていた。だがそれはあくまでも簡単な内容のものばかりであり、公式に発表された情報は更に詳細な物も載っているだろうと思いながら、俺も掲示内容へと目を向ける。

 要塞都市そのものの被害状況、援軍到着予定、帝国軍の戦力分析…最後の物はよく分からなかったが、かなり詳しく纏められているのだと言う事は分かった。

 また、聖教国の動向について等も書いてあった。聖教国にも既に援軍派遣の依頼はされており、また、それが異例の速さで承諾され、すでに動き出しているのだという。但し、数日のうちに現れる、なんてことはないだろうから、…聖教国の軍とも共に戦うという状況は、この都市で、決着をつけられずに戦いを長引かせてしまった、ということを意味するだろう。何時大量の忌種が現れ始めるか分からない現状、それは正直に言って避けたい…というより避けなければいけない物だと思うのだが、いやしかし、自分一人が考えても早く決着をつけられる訳でもないのだろうと言う事は、昨日の戦いで良く分かった。

 あれだけの数の差が有って勝利するなんて不可能だ。やはり、大軍には大軍で戦うしかないのだろう。多分それは、ごくごく単純な計算。…覆せるとすれば、それこそ、守人と同じくらいの圧倒的な力を持った人でなければ、不可能だろう。

 帝国も王国も、忌種の大量発生という危険についてはもう確実視している筈なのに。…無意識のうちに溜め息を()いてしまい、これではいけないと再び、掲示の内容へと意識を集中させようとする。

 だが、その時ちょうどエリクスさんが『お』という声を出したので、新しい情報が見つかったのかと思い、それに集中する事にした。


「『帝国軍は禁忌に手を出した』とか書いて有んだけど、意味分かるか?」

「…いや、兄貴に分かんねえんなら、アタシも分かんねえよ。アタシ、禁忌とか初めて聞いたし」

「俺も分からないです…禁忌と、そこまで言うほど危ない物って、何かありましたっけ…?」


 思い返しても、『禁忌』とまで表現されるような物は無かったような気がする。森を焼き払った爆炎の威力はすさまじいものだったが、あれがもし『禁忌』だとすれば、いくらなんでも表現が過剰だろう。シュリ―フィアさん一人の方が圧倒的に強いじゃないか。

 …だからまあ、王国側が過剰に反応しているのか、俺が知らない場所で確認されたかの二つに一つだと思うのだが。


「こんだけ堂々と書いてる以上、冗談の類って(こた)ぁねえだろうな。詳しく書かねえのは、あっちも詳しく分かってねぇのか、そこまで伝えられねえのか…いやいや、ならここに出す意味がねえよな」

「アタシ達は、そもそも『禁忌』って言葉がどういう意味なのかも分かってねえし、言っても伝わんねえってことなんじゃねえの?」

「…もうちょっと詳しい説明が有ると良いんでしょうけどね。これじゃ、何が『禁忌』なのかさっぱり分からないですし」


 話している内に、どうやら『禁忌』そのものは存在していそうだ、という流れになってきた。正体についてはまだ分からないが、警戒するに越したことはないだろう。


「俺達に対する指示は特になし…よし、帰るか」

「忌種を倒したり…は、流石にこの状況じゃしないですよね」

「そりゃそうだろ…あ、タクミは矢とか補充しに行ったらどうだ?アタシもまだ、武器の整備とかはできてねえし」

「あ、確かに…行こう」

「じゃあ、こっからは別行動か…そうだお前ら、冒険者を集合させるときは広場で鐘鳴らすって話だから、聞こえたら急げよ?」

「分かりました!」

「じゃあな兄貴!」


 エリクスさんと別れて、弓矢等も取りそろえてある商店街――物資の販売所、という表現の方が近い――へと向かう。レイリは『武器の整備をする』と言っていたが、大きく傷ついた訳でもないらしいので簡単な手入れで終わるそうだ。

 俺の矢に関しても、どうせいろいろと刻むのは手作業なのだから、よっぽど品質の悪い矢でなければ問題も無い……つまりはすぐに手に入れる事が出来ると言う事だ。実際、商店街に訪れてから十分も経たないうちに、昨日の戦いで消費した分の矢は補充が出来ていた。

 要塞都市に来た時の防衛戦でも大量に矢を使ったが、それでもまだ四分の一程度は残っている位の消費量だったので、恐らくこれ以上矢を持っておかなくても良いだろう。

 …そうだ、服も駄目になっているんだから、余分も含めて買っておこう。

 比較的手触りのいい物を選んで数枚、上下合わせて購入する。正直、見た目にはあまりこだわりも無いので、凝った服に金を掛けるような事にはならなかったのだが、素肌に突き刺さるような素材は流石に如何ともしがたいのだ。出来る限り快適に過ごしたいので、もっぱら購入基準は手触りの良さになっている。

 『こんなもので良いかな…』等と考えつつ、レイリと合流しようと鍛冶屋のある方向へと歩いて行き――鐘の音を耳にした。


「呼ばれてる…?」


 恐らくはエリクスさんの言っていた、冒険者を集めるための鐘の音だろうと判断して、広場へ向けて走る。途中で加速しながら剣を鞘へとしまっているレイリとも合流して、広場へとすぐさま到着。

 あまり離れてもいなかったからだろうか、まだほとんどの冒険者がそこには集まっていなかった。しかし、広場の中心でいつぞやの軍人が腕を組んで、数人の部下と共に立っている事から、招集が有ったことは間違いないのだろうと分かる。


「お、(はえ)ぇ…って、近場だから当たり前か」


 俺達の背後へと走ってきたエリクスさんがそう言った。


「アタシもタクミも準備は出来てる…けど、なんかあれだな。すぐ戦争って感じじゃねえ、のか?」

「紙持ってるし、次の作戦の説明って事じゃねえか?今更どっかに潜伏、ってこたぁねえと思うけど」


 2人がそんな事を話し合う間にも、続々と冒険者達は集まってきた。それが八割ほどを超えた後、ようやく、広場の中心で縁台に登った軍人が話し始めた。


「集まってもらった理由は二つ。一つは、次回戦闘における冒険者の行動に対する要求。もう一つは、既にここに掲示されていたのを確認した物もいるかもしれないが、帝国軍が行った禁忌についての解説だ」

「お…」

「『禁忌』…ちゃんと解説してくれるのか」


 縁台で話す男の元へ、その部下達が紙を持ってくる。男はその紙を受け取って、その内容を読み上げ始めた。

 始めに語られたのは、冒険週達の行動について。まず、このままの戦況が続く間は、地上に下りて遊撃部隊となるか、初日のように壁上から帝国軍へと攻撃するかの二択であり、有効な遠距離攻撃が可能な物を壁上へと配置すると言う事らしい。この時点で、魔術士のほぼ全員が壁上に配置されることが確定した。但し、同じように遠距離攻撃を可能とするレイリとエリクスさんは、地上での戦いで遊撃部隊として特別に配置される可能性もあるらしい。……理由は、雷然による加速が魔術士の『飛翔』よりも速いうえ、本人達が遠距離と近距離、どちらでも戦えるから、という単純な物だった。

 俺達の仕事は、簡単に言えば初日と同じなのだが…他の部隊が要塞都市の外で戦う以上、帝国軍に壁面へと取り付かれる恐れはかなり少ないので、むしろ地上部隊の援護の為に攻撃する事が重視されるらしい。ならば、レイリやエリクスさんに何か起こらないよう、出来る限り二人の方へと意識を裂いておく事にしよう。

 また、要塞都市が万が一破壊された場合、冒険者は左右の山脈を崩しつつ――その為の用意はあるらしい――帝国軍の進攻をとどめる事を命じられた。兵士が先に逃げる、という訳ではなく、背水の陣に近い状態でゆっくりと後退すると言う話なのだが……一度はこの都市も破壊されているという現実を思い出すと、現実となってほしくない未来予想図だとしか言えなかった。


「そして、帝国軍が犯した『禁忌』についての話だが」


 男がそう言うのを聴いて、知らない間に唾を飲んだ。何を指しているのかはまだ分からないにしても、やはり『禁忌』という言葉の響きは不吉だ。敵がそれを利用して俺達に何かしようとしていると考えると、更に。


「今回の戦いにおいて現れた黒装の帝国兵たち。彼らと直接戦った者の中には、数名既に気がついた者がいるかもしれない」


 …エリクスさんはあの後も戦っている筈。そう思ってレイリと共に視線を向けると、エリクスさんは肩をすくめて『さっぱり分からない』とでも言いたげな表情をしていた。

 戦った全員が気付く訳でもない…気付いても無事に戻って来れる?『禁忌』というものは、もしかして純粋な戦闘力とは全く関係のない物だったのだろうか。


「帝国軍は、『命回帰(めいかいき)』の法によって禁忌とされてきた『一個人の魂、及び肉体の生命としての複製』に違反し、二十代前半らしい魔術士を数万の単位で複製、この戦場へと送りこんでいる目算が高い」


 …………聞いた事も無い単語も多く、理解するのに時間はかかった。かかったが…つまり、帝国軍の犯した禁忌というものは――クローン人間の製造、という事なのか?

 ざわめく周囲の冒険者達に、男は声を大きくしつつさらに続ける。


「聖十神が世の均衡の為に敷いた方に背く事も当然許せない事だが――この場で戦う我々にとって、それ以上に明確な危機としてこの状況が現れているのは分かるだろう?

 つまり、…我々が命を賭して目の前に居る黒装の兵全てを殺し尽くしたとして、帝国には実際、一人分たりとも人的損害等生まれていないという事だ。この危険性、分からない筈はあるまい」


 ――皆、開いた口が塞がらなくなっていた。どれだけ戦っても帝国側が疲弊しない…それは端的に言って、悪夢でしか無かった。


「我々に齎された朗報が有るとすれば、聖教国がこの禁忌に対して、異例の速度と軍勢の量で加勢を決めてくれた事だろう。だがしかし、彼等が到着するには時間がかかる。

 故に!我々軍と冒険者が合同して行うべきは、あの禁忌達に負けぬよう、聖教国の者達が到着するまでこの要塞都市で徹底抗戦、持ちこたえ続けることである!」


 『やらなければいけない』そんな義務感と共に、男が続ける話を聞いて行く。

 曰く、要塞都市を落とすにしろ、諦めて山脈を迂回するにしろ、この場所で戦い続ける事が帝国軍の拡散を押し止める最良の一手であり、聖教国の軍勢と共に戦うためにも最も優れた立地らしい。


「また、黒装の兵士達の向こうに、通常の帝国兵と同じ装いの者達がいると言う事も分かっている。その小型の陣地内部に黒装を操る指揮官がいる可能性を考慮し、追いつめられた場合、其方への強襲も想定される。これもまた、高速移動可能な魔術士を中心に据えて行う事となる。

 ――さて、随分と長い話となってしまったが、言わなければならない事は、簡単にまとめるとこの一言に尽きる」


 そう言うと男は一度口を閉じ、髪を握っていない方の腕を胸に前へと持ち上げ、握り拳をこちらへと見せつけ――それを大きく振り上げた。


「勝利の為に全力を注げ!憎き帝国軍とその禁忌、我らが鉄槌で微塵と打ち砕くのだ!」


 その声が広場に響き渡ると、周囲の冒険者達も口々に同じ言葉を叫びながら腕を振り上げ始めた。

 みれば、そうしていないのは、俺とレイリとエリクスさん、そして、広場の隅で何やら言いあいをしているらしいアインさんとクラースさんの五人だけ。

 …まだ、そこまで『殺す為の』士気高揚に浮かされるような精神にはなっていないな、と、未来に少し不安を覚えつつ、『殺したい』とまで思うようになってしまうのは嫌だと、周囲に呑まれなかった自分に少しの希望も抱いた。

 ――再びの激突も近い。きちんと、思いを固めておかないと。


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