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忌祓の守人~元ダメ人間の異界転生譚~  作者: 中野 元創
第六章:対帝国戦。――そして
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第十七話:接近


 そうと決まれば、更に行動を正確に決めていく必要も出てくる。

 森へ炎を広げ続けているのが先程の一団である事は、魔力が使われている気配がはっきりする事から間違いない。クラースさんたちとも一致した意見であり、少なくとも、彼等を排除することで一時的には安全になるだろう、ということは間違いなさそうだ。

 しかし、あちらに対処する隙を出来る限り与えないために速度を重視しようと思っても、さっきエリクスさんが言っていた通り、それが出来るのは現状六人だけ。不意をつけたとして、向こうの対応が早い、或いは、想定以上の実力が有った場合、すぐさま勝利を収めるのはかなり難しい。

 刻一刻と迫る森林の焼失(・・・・・)という明確な制限時間に焦る心を押さえつつ、現状で決まっていることを再確認するアインさんの声へ耳を傾ける。


「南側で、爆炎に紛れて意図的に木を切り倒した。そこで炎の進攻は多少なりと収まる筈だから、怪我人はそこで、強襲に参加できない冒険者たちと共に山脈近くまで一度退避。遠回りだが、動きの遅くなる彼等が爆炎に再びのまれる危険性を考えれば妥当だろう」

「おう、で、それが済み次第、森の北西方向に無傷の奴らがもう一度出てきて、すぐに撤退。またあの魔術が来た所で、俺達が突撃…」

「ああ。粗も目立つ作戦ではあるが、時間のない現状では、出来る限りの事はしただろう…問題は、大きく二つ」


 アインさんが口を閉じると同時、クラースさんがその言葉を受け継ぐ。


「一つ、帝国軍は未だ要塞都市そのものに対する攻撃を介してはおらず、待機した状態だという事です。あちらとしても、私達が既に全滅しているか、あるいは意図に気がついて潜伏しているかのどちらかだという事は理解している筈ですので、流石に続ける意味は無い――いえ、正確には、私達への挑発程度にしか意味が無い、と言った所でしょうか?

 となれば、その目的は未だ、私達を優先的に対処しようとしているということになります。

 なればこそ、手温い――あれだけの兵を動員して尚、攻撃は僅か十数名によって行われています。魔術による遠距離攻撃は、陣の攪乱も行われていない現状において帝国軍にとっては得意分野。当然、もっと大勢を動員、一撃を持って森全体の殲滅を行う事も不可能とまでは言い切れないでしょう。しかし現状、それは爆炎によってのみ行われている。これは不自然です。

 要塞都市からの攻撃を気にして防御の為により多くの人員を割いたのかとも思いましたが、それであれば、より即効性の高い攻撃方法で我らにとどめを刺した筈」


 長い説明をどうにか脳に叩きこみ、なら、と前置きしてから、帝国軍の思惑について聞く。


「突っ込んできた俺達を罠にはめて一網打尽、という発想なんですか?」

「いえ、それもやはり、最初に強い一撃を与えることで代替可能なことですから、違うでしょう」

「帝国軍は、敵対国家に対して肉体的・精神的な疲弊の伴う行為を行う事は有名だが、今回もその一環ではあるのかもしれないとは思う。結果的には少々、的外れでも有るのだが」

「って言うと?」


 追及するエリクスさんに、アインさんは一度頷いて、


「先ほど話に上がったことだが、帝国軍が防衛戦で力を見せた冒険者を奴らが狙っているのだとすれば、単純な戦力減少以外に、王国兵の士気を下げる目的が有ったのではないか、という事だ」

「…何でだ?一緒に戦っちゃいるけど、碌に関わっちゃいねえんだけど」


 レイリの疑問は、俺も抱いていた物だった。

 戦場では、兵士と冒険者は仲間だ。俺だって、王国兵だった彼に帝国軍からの魔術から庇ってもらったのだから、助け合う仲間だという事は理解している。

 だがしかし、強い兵士、強い冒険者、という物を、互いの立場から知っているものだろうか?少なくとも俺は、『強い兵士を知っているか?』と聞かれて、名前を上げられる相手はいない。


「そう、この戦場において、俺達は必要最低限にしか兵士と接触させられていない(・・・・・・・・)。これによって、冒険者に対する兵士たちの認識に、強い者がいるという者が有っても、それが何処出身の誰であり、どんな人間なのか――そう言った情報は一切と言っていいほど伝わっていない。

 結果的に、俺達が排除されることで兵士が精神的に動揺するだろうという思惑が有ったのだとすれば、それは的外れだったという事だ」

「…なら、こうして追いたてるように森へ炎を放っているのは?」

「要塞都市の壁の上は、防衛の際に攻撃を可能とする為に広い面積が取られている。つまり、そこに駐留する兵士たちへと、冒険者が無残に焼き殺されていく様を見せようという事だったのだろうな。全く(いや)らしい…」

「助けに来ようとしても、あれだけの帝国兵に待ち構えられて動ける訳もねぇ、ってか。成程なぁ…あっちの柵に嵌まってたらマジで胸糞(わり)ぃ事になってたって訳だ。そうはならなかったのは幸運だな」

「とはいえ、その事実は私達の生存確率を上げる事には繋がりません…いい加減に時間も有りませんから、本気で動くとしましょう」

「それで、その…もう一つの問題点、というのは?」


 さっき、アインさんは問題が二つあると言った。一つは、帝国軍の動きの不審さ、と言える。ならばもう一つは?


「それに関しては、まあ…言い辛いが、簡単、いや、単純な事ではある。少なくともこの場に居る面々ならば、言えばその通りに行動してくれるだろうとも思っているのだが…。

 …今回の作戦は、攻撃と退却、その両方を出来る限り短時間で行わなければならない。その為に高速移動可能な者を集めたのだから、――高速移動手段を失った者の救出は諦めてほしい。可能だというのならば構わないが、その結果として全員が巻き添えになるという展開は避けたい。これが、俺の本音だ」


 …森の中が、炎が木々を焼く音以外に一切雑音のない静寂に包まれた。――しかしそれも一瞬の事。倒れた木へと腰かけたエリクスさんが、身体をわずかに前傾させつつ、アインさんへと問いかける。


「それは、あくまでも助けることで他の奴に危機が及ぶ時に禁ずる、ってだけか?」

「ああ。…更に言うのならば、そもそも俺に正式な指揮官としての権限が渡されている訳でもない。不満だと背いたとして、俺がそれを後にどうこう言う事は出来ない」

「いや、それなら問題ねぇな…退避するまで無事なら、俺とレイリのどっちかならいけるし、多分俺が行くわ。流石に、戦闘中は無理が有るけどな」

「そうか…なら、その時は頼む。

「すいません!」


 と、偵察役を買って出くれていた冒険者の一人――彼もまた、強襲役である――が、そんな声と共に走り寄ってきた。


「どうした?」

「要塞都市外壁上にて炎を確認、恐らくは例の信号だと思われます。確認を」

「了解だ」


 走って行ったアインさんは、すぐに戻ってきた。


「撤退命令と交戦命令を同時に出している。これは、あちらの思惑と合致したかな?よし、これで後腐れは無くなった、と…」

「もうそろそろ、彼等の方も囮として動きだす頃でしょう。…みなさん、準備はよろしいでしょうか」


 クラースさんへと返事を返し、何時の間にやら背後まで迫りつつあった炎に背を押されるように、前へ前へと意識を傾けていく。

 既に『飛翔』してはいる。後はただ、号令と共に急加速するだけ。

 そして、――都合三度目の爆音。それと時同じくして、一気に体を前傾姿勢へと持ち込む。


「突撃!」


 アインさんの号令と共に、全力で加速する。普段はほとんど意識しない顔へと当たる風も、今は呼吸が苦しくなるほどに強く吹き付けてくる。それだけの速度が出ていた――本気になった雷然による加速に追いすがる程、と言えば多少は伝わるのだろうか?全力での加速、という言葉に、緊張状態の精神がこちらの想定よりも速い物を再現しようとしたらしい。そのせいか、いつもより魔力が消費されているという実感を得て、

 森から飛び出す。

 視線の先には、森の北西部を向いたまま、まだこちらの接近には気がつかない魔術士の部隊の姿が見える。そのまま気がつくな。頼む――しかし、あちらは圧倒的な大軍。彼等が気がつかなくとも、俺達の接近を彼等に伝える方法などはいくらでもある。

 敵軍の一部隊が叫んだ。『来たぞ』と。

 それに応じる声は、『了解した』と。異口同音にそう告げた。


「統制が取れ過ぎだろう…!不気味にも程が有るぞ!」


 アインさんの声音には、幾分か焦燥感が混じり始めていた。いや、焦っているのは俺も同じだ。

 ――まだ、魔術が簡単に届く距離ではない。それが理由の全て。

 広範囲を焼く例の爆炎は、流石にすぐさま撃てるわけではない筈だ。だがしかし、彼等の使える魔術がそう言った類だけではないだろうという事はほとんど間違いない。

 端的に表現して、危険だった。実に、実に危険だった。

 今も視界の先、犇めく帝国軍が、少しずつその陣系を変えていっていることなど特に危険だった。信号を発したこと以外に要塞都市側に大きな動きが無い以上、それは俺たちへの対処として齎されたものであろうと予想することは容易だ。


「あと三秒で初撃!準備だ!」


 加速を続ける視界の中、加速の為に地面を蹴っていなければならないレイリとエリクスさんが、跳ねる小石の一つを無造作に掴み取った。

 次いで、魔力が周りを飛ぶ皆の中で動き出すのを感じる。勿論、自分のそれも。

 ――起句を唱える。


「『風刃』――!」


帰宅遅れてこんな時間です、すみません

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