第十一話:連携
「はぁ…」
「何だよ、いきなりため息なんてついて」
山中で二手に分かれてから数十分。俺達は既に、数十体の忌種を討伐していた。…進行方向に【小人鬼】の集落が有ったので、そのまま乗り込み、殲滅したのだ。
突撃の当初、遠距離に居る【小人鬼】達が手斧やら木やら、とにかく何でも投げつけようとしているのが分かったので、其方へ魔術を撃っていたのだが、結局近場の【小人鬼】を討伐し終えたエリクスさんとレイリが雷然による加速で急行、遠距離攻撃を行うと同士討ちにしかならない距離になり、【小人鬼】の遠距離攻撃お手段が失われる。ならば、と近場に居る【小人鬼】に攻撃しようとすれば、其方は既に例の二人が対処していて、俺に出来る事は何もなくなっていた…というのが、現在俺が落ち込んでいる原因だ。
何もしていなかったわけではなく、確実に、初期の攻撃を防いだのは確かだと思うし、少なくともレイリとエリクスさんはそれを考慮してくれていたと思うが、それでも、せいぜい周囲の警戒くらいしかやる事が無くなる、というのは…何となく寂しい物なのだ。特に、まだ皆が戦っている最中には。
「まあ、何考えてんのかは分かるんだが…やっぱ適材適所だぜ?そもそも、アタシ達にはもう【小人鬼】の集落の襲撃ってのは、もう楽勝以外の何でもねえんだから」
「…まあ、確かに。ロルナンに居た頃よりはずっと強くは成ってると思うけど」
「だからまあ、本気で連携とか考えて挑まなきゃいけねえのは、中位忌種相手だよな。この山にも居るらしいけど、それはもっと上、っと…兄貴、その変はどうする?」
「コンビの中で考えとけよ」
エリクスさんはそう一言だけ言って、それ以上口出しする事は無かった。言葉の通り、俺とレイリで連携は考えろ、という事なのだろう。
「…まあ、俺が魔術で遠距離から、レイリが斬り込んで近距離から…みたいな話、だよね?」
「まあ、もうちょっとは詳しく決めるべきだよな…大体は、距離が有る時点で敵を発見できると思うけど、そうじゃねぇ時も有るだろ?」
遠距離に敵を発見した場合は、俺達にとってかなり有利だ。俺は勿論、レイリももう、雷然による遠距離攻撃を行える。相手に損傷を与えられるのは間違いないだろうし、殲滅すら可能かもしれない。逆に、傷をつけられないほど危険な相手なら、距離が有ることで逃げやすくなるだろう。
しかし、奇襲でも掛けられて、近距離で戦いを始めなければいけないとなれば話は別だ。レイリならそれでも問題ないだろうが、俺の場合、近距離に対する攻撃方法という物が無い。勿論、『風刃』などの魔術は近距離にだって使えるが、その状況で囲まれたりすれば、一体倒す間に他の相手に俺が倒されるだろう。
レイリが攪乱、時間を稼いで俺が距離をとり、今までと同じ戦術を適用できるようにするのか、俺が近距離で戦う手段を身につけるのか――結局は、この二択に絞り込まれてくる。
「タクミは、身体能力は悪くねえんだよな…でも武器は上手く使えてねえ。体術はまだマシだけど、そっちにも才能が有るってわけでもなさそうだから、結局は魔術で補うことにはなると思うぜ?
「剣とかも、最終的には投げちゃうからね…」
ロルナンでエリクスさんと戦った時の記憶を引っ張り出しながらそう言うと、レイリは笑って、『兄貴から聞いたぜ、それ』と言った。
「容赦のなさは有るよな、わりと」
だがこの言葉は予想外だった。
「容赦が無いッて、俺が?」
「おう。兄貴から聞いたけど、どう考えても勝てないって自分で理解してんのに、無理して挑みかかって来たんだろ?自分にも相手にも容赦してねえよな、って」
「そう言う事じゃない気もするんだけど…でも、そうか、レイリから見るとそんな風にも見えるのか…」
まあ、あの時は『勝たなければいけない』と自分を追い込んでいたから、それが原因だろうか――そんな風に考えて、しかし、自分の命が危機に陥った時など、かなり無茶をしでかしている様な記憶も有ることを思い出した。
『容赦が無い』…自覚してはいなかったが、俺の中にそういう面は有るのかもしれない。
「そう言うのは、むしろ接近して戦う奴が持ってる事が多いって聞くけど…まあ、いっか。それで、アタシとしちゃああれだ。…自分の体を、こう、守れるような魔術って作れねえのか?」
「…作れる、とは思うけど。でも、シュリ―フィアさんが言ってたんだよね。えーっと…」
レイリへと説明する。シュリ―フィアさん曰く、『防御魔術は自らの足を止める。多対一ともなりがちな対忌種戦において、接近戦を得意としない魔術士が、防御の為に足を止めるのは愚策である』と。
確かに、そうだ。魔術を同時に発動する事は不可能ではないが、難しい。それに、防御魔術という事は、何らかの形で楯の様な物を作ることになると思う。自分で移動しながらその楯も移動させ、その上で敵の場所を考えて攻撃を防ぐ…それは、正直に言ってかなり難しい事だ。
だがレイリは、十数秒唸った物の、こう答えを返してきた。
「その場に留まっても良いから、全身を守ればいいんだよ。そうすりゃ、タクミの周りの忌種くらいはアタシが自分で討伐できる。
そしたらタクミが距離とって攻撃して、アタシと一緒に残りを殲滅。結構いいと思わねえか?」
脳内で、その図を思い描く。…成程、上手く行きそうではある。
「もしこれが駄目な時…例えば、レイリが俺の所に来られないほど敵がいたり、それと同じで、合流できない様に分断されたり…後は、防御の魔術が使えないくらいにこう威力の攻撃だったり、とかは?」
「その場で対処するしかねえだろ、それは」
「…まあ、そうか」
強い攻撃に関しては、それが判断できた時点で、防御を固めるのではなく飛びまわって避ける方法に変えるべきだ。…だがしかし、群がられるというのは危険だな。『数の暴力』という言い回しを聞いた事も有るが、実際に想像すると恐ろしい。四方八方から忌種に襲いかかられるなど、たとえその時に防御用の魔術を使えていたとしても死を覚悟する。…覚悟するかもしれない。
「と、話してるうちに来やがった…死にやがった」
レイリがよく分からないことを呟いたので進行方法を見る。するとそこには、首を失った忌種の姿が。近くに居るエリクスさんが剣を抜いているあたり、首を一撃で斬り飛ばされたという事なのだろうか。
…圧倒的だな。少なくとも、中位忌種一体くらいでエリクスさんがどうこうなるという事は無いわけだ。いや、俺だって一体くらい、今となれば余裕だろうとは思うから、当然のことなのだが。
隣のレイリは、どうにも消化不良そうな表情。まあ、『来やがった』と呟いていた時には戦意を感じたから、それを発散させられなかったのが影響しているのだろう。
「中位も出てきたし、まだ登っても良いよな?」
「こちらは、問題ありませんよ」
「アタシ達も良いぜ、兄貴、一人でやり過ぎんなよな」
と言う訳でそのまま登って行き、中位忌種が出没する場所へ。
【小人鬼】とは比べられないほど強いのだが…しかし、聖教国で戦った二種程の強さを感じはしない。それは、自分が強くなったこと、あの時より大人数で戦っていること、などの要素を差し引いて尚、確かな物だと思う。
…そう言えば、今戦っている相手は、連携や、群れて戦うという事をして来ない。バラバラに対処出来るから、楽なのだ。一体討伐している間に別方向の奴が攻撃してきそうで碌に攻めかかれない、というのが聖教国の二種類だったから。
そう考えている間にも、『重風刃』によって、岩の様な体表を持つ、腕の長い猿のような忌種の首が刎ねられる。
…連携を取るまでも無かった。これが弱い方の中位忌種であることは間違いないのだから、慢心などはとても出来ないのだが、それでも、この場においては、連携の効果を感じるより早く忌種が全て討伐されてしまう。
「二人だけなら、確認もできるだろうけど」
「って言ってもなぁ…流石に整地もされてない様な山の中だぜ?迷いかねねぇし、流石にやめといた方がいいと、アタシは思う」
まあ、急いでも仕方が無い、ということかもしれない。
そう考えると、少しは気が楽になった。別に、まだまだ先は長いのだ。今日出来ていたとして、それで完成する訳でもない。ならば焦ることなく、ゆっくりと連携を上達させればいいのだ。
――それから更に、一刻半ほど経過。
中位忌種が巣食う窪地を発見した俺達は、周囲の丘から全力で遠距離攻撃を重ね、逃げることを忘れて俺達へと襲いかかってくる中位忌種達の数を、接近までに半分以下にする事に成功。開けた地帯だった為に俺も距離をとりながら戦う事が出来たので、十数体の中位忌種を無傷で、一度に討伐する事に成功した。
これを本日の成果として、要塞都市へ戻ることになったのだが――その際、エリクスさんがこんな事を言い出した。
「俺、この忌種の証明部位知ってんだけど、切り落とすか?」
――本日の討伐報酬は、完全に五等分にして尚、銀貨十七枚という大金だった。




