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忌祓の守人~元ダメ人間の異界転生譚~  作者: 中野 元創
第五章:獣人、信仰、悪意、そして
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第四十七話:六の月、修行途中に

 朝起きて、王都の外、或いは、隣町まで走って体力をつける。午後からは宿、或いは実験の為同じく王都の外で、シュリ―フィアさん主導で魔術の修行。

 シュリ―フィアさんは細かい魔術の制御が苦手だ、と言っていたが、それでも様々な事を知る事が出来た。

 例えば、俺が得意な魔術というのは、既に存在している物を操作する魔術だという。基本的にはそんなものなのではないかと聞けば、シュリ―フィアさんは違うと言った。


『例えば、だが。某は光の柱を以って敵を討つ。それは、天上の陽光や月光を束ねたものでは無く、某自身が魔力などを運用する事で発生させたものである。だが、タクミ殿の魔術は違うだろう?』


 そう言われれば、確かにそうなのだ。『風刃』も『水槍』も、その他の魔術も、『今そこに有る何か』を利用して攻撃している。

 だが、『探査:瘴』に関しては趣が違うらしい。


『あれが使える以上、貴殿はそれ以外の魔術へ手を伸ばす事は出来るだろう。まずは、そうだな…何かを燃やすのではなく、ただ空中に炎を作り出してみると良い。良いか?作り出すのだ』


 そう言われ、苦戦する事二日分。

 今まで何度か作りだそうとして、しかし失敗していたのに、その時にはぼんやりと揺らめく火を宙に浮かべる事が出来るようになった。だが、手をつきいれても数秒は経たないと火傷しないだろうと思われるほど酷く弱弱しい炎だった。

 だが考えてみれば、それだけ弱い火力なら、それこそ火花だけが散って消えそうな物だ。それが存在している以上、今までとは違う方法で挑んだ事の成果は出ているようだった。

 俺がそうやって鍛錬を続けている間も、シュリ―フィアさんはラスティアさんに魔術を教えていたし、王都の外ではエリクスさんがレイリとカルスにいろいろな事を教えていた。カルスに関しては、短刀その物では無く、体術に関する事を、という話だったが。

 ――それから数週間。

 その頃になれば、もう炎も――自在に、とまでは言えないが――扱えるようになっていた。

 ただ、これを戦いで利用する時は、いろいろと考えなければいけないだろう。何せ炎だ、燃え移れば広がって行くし、熱そのものは俺にも効果を与える。考えなしに使えば痛い目を見る事になるだろう。

 だがしかし、この特訓そのものの目的は炎を使うという事では無く、俺が使える魔術に幅を持たせるという事である。

 だからこそ、その特訓内容は次の段階、魔術の応用という所に至り――その頃には、体術の訓練にも変化が生じた。


『武器、ですか?』

『おう、魔術だけじゃ危ないってんなら、ある程度使える武器は有った方がいいだろ?』


 そう言ったエリクスさんによる、俺に合う武器探しが始まったのだ。

 だが、武器を集めるにも金はかかる。最初はエリクスさんの剣やカルスの短刀を貸してもらって試したものの、


『普通には使えてる。だが、合ってるのかと言われると…怪しいな』


 とだけ言われ、今ここに無い武器を探す事になったからだ。

 アリュ―シャ様は『術理掌握』という力で、俺は武器などの扱いに関しても、人より早く覚える事が出来ると言われたから、それでも大丈夫なのではないかとも思ったものの、物覚えの良さと才能の有無が別だとすれば、自分に合った種類の武器を探したいとも思う。

 貯金を切り崩し、武器を試し、合わないとなれば安価で売り払い、…貯金額が怪しくなってくると、日雇いの肉体労働も挟みながら金をかき集め。

 そして、これまた数週間かけてようやくたどり着いたのが、『弓矢』だった。


「…こりゃまた、凄いもんだ」

「…当たってるんですか?」


 エリクスさんとカルスがそう呟く中、俺の瞳には、矢が刺さった木の幹に辿り着いて矢を引き抜き、ぶんぶんと振りまわしてこちらに見せるレイリの姿だった。

 レイリの『雷然』で移動しても十秒ほどはかかる距離に有る木の幹に刺さった、と言えば少しは状況が伝わるだろうか?

 俺が放った矢は、勿論直線で飛んだのでは無く、斜めに駆けのぼり、放物線を描いて木の幹へと至ったのだ。

 ――だがしかし、こうまで上手く行くものだろうか?いっそ不気味なほどだ。俺は、弓を使った事なんて無いのだから、『術理掌握』がその効果を発揮したとは考え辛い。だが、自分の中にこんな才能が眠っていたと考えるのも馬鹿らしい気がした。


「決まりだな。タクミ、弓を鍛えろ。それは間違いなく力になるぜ。…接近戦に強くなってほしかったんだが、そっちはおいおいか」

「は、はい。ちなみにエリクスさん、弓は…?」

「基本的な事しか知らねえな。俺が使ってた訳じゃねえし」


 その口ぶりからして、エリクスさんには弓矢を使う知り合いはいたらしい。まあ、その人が使う武器の使い方なんて、そこまで詳しく聞くものではないだろうから当然だ。むしろ、それが分かっている方がおかしい位でもある。

 だから、それ以降は様々な状況における矢の当て方、という物を習う事になった。

 悪天候や、遠距離、近距離、森の中、崖などの高所や低所…。

 だが、どうにも狙いは合ってしまう。見えない物に当てられるような事は勿論ないが、それにしたって、矢が届くかどうかすら怪しい距離にもギリギリで届いて、当たる。

 まさか変な力にでも目覚めたのかと思って届きそうにないほど遠くのものに狙いを定めて射った所、当然のように届かず地面に落ちたので、そこまで常識はずれな現状は起きていない様だとも理解は出来たが。

 そうしている内にエリクスさんから教えられる事は無くなり、単なる自主練習へ。

 問題は有ったのだ。弓矢、遠距離を狙う事の出来る武器。しかし、魔術と比べれば足りないのだ、威力が。

 それは、結局の所遠くのものを狙っているから、という事かも知れない。遠くへ飛べば飛ぶほど威力は落ちるのだから、全く以って当然の事なのだ。

 だがしかし、忌種を相手にするには余りに貧弱なように思えた。思えば、冒険者で弓を使っている人はあまり見た事が無い。ロルナンでの瘴気汚染体の暴走事件でも、森に矢を打ち込んでいたのは兵ばかり。…忌種を相手にする、という観点において、弓はあまり好まれないらしい。それでも、俺に合う武器が弓矢で有る事に変わりは無く。

 ――元も子もない事かも知れないと思いつつ、シュリ―フィアさんに教えられた方法で、この矢を強化できるかどうかを、俺は試してみる事にした。


◇◇◇


 修行を重ね、少しずつ自分が強くなっている事を自覚し始めたある日、シュリ―フィアさんが自分の部屋に俺達を招き入れ、こう告げた。


「帝国の密偵が忍び込んだ屋敷が、ようやく判明した」

「密偵、というと…いつぞやの奴隷商が引きこんだ、という?」

「ああ。明日にも摘発が行われる事になっている。しかし、くれぐれも首を突っ込むのは避けられよ。よ彼と思った行動が、反対に隙を生む事はよくあるのだ」


 成程、と思った。確かに、俺、カルス、ラスティアの三人にとっては気になる内容ではある。だがしかし、そこまで考えなしでは無いのだ、皆。


「大丈夫ですよ、そんな事はしません」

「はい、あの…ヅェルさん?達のいる組織なら、きっと上手くやってくれます」

「私も、任せた方が、良いと思ってる」

「そうか…なら良かった。実はな、完全に諜報部隊の失敗ではあるのだが、情報を伝える最中に何者かに聞かれた、という話が有ってな。その後、その屋敷の周囲で不審者が出たという話も有る。まさかと思って確認してしまった、すまない」

「い、いえいえ。…でも、不審者?」

「ああ、屋敷の中にいる密偵に変わった様子は無く、情報がそちらに漏れては無いだろう、というのが彼らの意見だったが、不確定要素は執拗に潰そうとするが故に、虫などは出来なかったのだろう。貴殿らの事は責任を以って無実と伝える」


 …何やらきな臭い事にはなっているらしい。しかし、その不審者というのも変な事をするものだ。帝国側なら密偵に情報を渡して終わりだろうに、何故潜伏を続け、王国の諜報部隊と同じような事をしているのか。


「何でも目撃情報としては、女性の獣人だったとか」

「え?」


 シュリ―フィアさんの発言に、ラスティアが小さく声を漏らす。その反応で俺もカルスも、とある一人の女性の事を思い出す。

 ――まさか、という思いだったが、しかし、あり得ないと言い切る事は出来ない。


「…シュリ―フィア、さん、私、もしかしたら、知ってる人、かも」

「何?…不審者についてか?」

「うん。その…前に言った、孤児院の大人の一人」


 そう伝えられたシュリ―フィアさんは、驚きの感情を見せ、そして数秒考え込んだ後に、こう言った。


「仕方が、ないか。その不審者の正体について、今から調べるぞ」


 五の月八日、夏の気配が近づく暑い夕方に、俺達は行動を開始した。


時間経過は激しいです。ちなみに、卓克が来たのは九の月…計算合ってるかな?

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