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忌祓の守人~元ダメ人間の異界転生譚~  作者: 中野 元創
第一章:沈んだ先の戦世界
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第十六話:護衛依頼

 ギルド長達と瘴気汚染体についての話や、俺のランク上昇なんて事があった日の翌日。俺は朝食を食べ終わった後、すぐにギルドへと向かった。

 と言うのも、昨日眼鏡の秘書官さんに言われた、『どちらにしろEランクの仕事を一つこなす必要がある』と言う言葉が朝起きるなり脳内に甦り、Eランクの仕事とは一体何なのか、と言う疑問が浮かび上がってきてしまい、宿でゆっくりするという選択肢を選べなかったのだ。なので、こうして日が昇ってから一時間程度なのに、既に町を歩いている。

 しかし、Fランクと求められる内容が同じだとすれば、仕事の内容は忌種の討伐、それも、恐らくは俺が未だ知らない、Eランク冒険者が初めて討伐する事になる忌種が相手になるはずだ。焦らず慎重に慣れていくべきだって言っているのに、結局すぐに強い相手と戦わなければいけない事態に発展してしまった気がする。

 まあ、とにかく一度ギルドに向かって、確認を取らなくてはいけないだろう。


「…ふう、着いた。とりあえず、ミディリアさんを探そうかな…」


 恐らくは今までと同じで受付にいるとは思うのだが、休暇でも取っているのならば他の人でも構わない。とにかく次の仕事を確認しなければ。

扉を開き、中を覗けば受付にミディリアさんが立っている事が分かった。今日は昨日よりも少し早い時間に来ているので、他の冒険者の方々はまだ来ていないらしい。

なのでそのまま受付のカウンター前へ。おそらくは昨日の話の顛末を聞いているであろうミディリアさんに話しかける。


「おはようございます、ミディリアさん。」

「おはよう、タクミ君。聞いたわよ、結局Eランクになったんでしょ?」


 やっぱり話が伝わっているようだ。ミディリアさんも立場が高い人なんだろうなぁ…。


「はい。それで、昨日の会議室で会った眼鏡の秘書官さんから、Eランクになった時もFランクと同じで仕事をすぐに一つこなさなければいけないと聞きまして…」

「ああ、そうそう。今回は異例では有るけど実力と貢献でランクが上昇したから、本当は特に強制される事も無いんだけどね、ここの長達(おさたち)は、『とにかく経験が必要だ』って考え方をしてるから、未成年が忌種を討伐できるランクになった場合は、何か一つ仕事を与える事で判断が正確だったかどうかを確認してるの」


 長達…って、ギルド長と副ギルド長の事だよな、たぶん。と言う事は、副ギルド長が俺のDランク上昇に反対していたのはこう言う理由か。結果的に助かった…。


「…なるほど、それで今回はどんな仕事をすることになるんでしょうか?」

「Eランクの仕事って、実のところ種類としてはFランクとほとんど変わらないのよ」

「なるほど、まあ、そんなに細かく仕事を分けられませんよね…」

「そう。そんな中で新しい仕事をさせてみるってなると、出来る事は限られてくるの。ランクに応じて難易度が上がっていく仕組みになっているけれど、護衛依頼なんかはFランクと比べても難易度なんてほとんど変わらない。行き先がほとんど決まっているから当然ね。

 強いて言うなら積み荷の価値が上がって、より盗賊なんかに狙われやすくなる程度かしら。…まあ、冒険者の力量を測るには、少しわかりづらいのよ」

「…つまり、…?」

「討伐依頼になるわね」


 ………………。


「ああ…やっぱりでしたか」


 分かってはいた。分かってはいたが…、やっぱり危険な方向に向かっている気がする。


「それで、どんな忌種を相手にするんですか?あの森ではゴブリンしか見かけませんでしたけど、別の場所に行くことになるんでしょうか?」

「大正解よ。この近くにはゴブリン程度しかいないの。だからタクミ君には一度内陸の町に行ってもらう事になるわね。

 ちなみに、東の森を奥へ奥へ突き進んでいけば、あの森は正確に把握できないほど深くて、いくらでも危険な忌種が居るんだけれど、ロルナンの町にまで来るのは迷った個体が年に一、二匹ってところで、それすら高ランクの冒険者たちが着々と討伐しているから危険なんてほとんどないの。

 今回の討伐対象は【岩亀蛇(ペルーダ)】ね。本来は上位忌種なんだけど、タクミ君の向かってもらうヒゼキヤと言う町の近くには、古くから語られる伝承があるのよ。

 そして、その内容の通り蛇やその特徴を持つ忌種の生命力が著しく弱っているの。

 そのせいで本来は強力な忌種だった【岩亀蛇(ペルーダ)】は、その山の遠くへ逃げ伸びることすらできず、力を弱めたまま隠れるように住みついた、と言われているのよ」

「………へえ~。不思議な事もあるもんですね…」

「世界なんて不思議な事でしか出来てない様なものよ。なんでそうなるのか、それが完全に分かるなんて、自分がやる事ですら怪しいもの」


 …確かになあ…。俺もいざ死ぬまで神も異世界も本気で信じちゃあいなかったし。


「ま、それならせいぜい楽しめばいいんじゃないの?って言うのが私の持論ね。悩んでたって分からないものは分からないんだし」

「………はあ…」

「えっ!?そこで溜息ついちゃうの!?私としては人生の先輩からのアドバイスって感じだったんだけど!?」

「いっ!いえいえ違うんです!純粋に、凄いなって思って。多分、俺はミディリアさんみたいな考え方にはならないんだろうな、と…?」


 …な、何故かミディリアさんの表情が暗い。何か変な事を言ってしまっただろうか?


「フフッ、…それは考え方が年寄りくさい、とか、そういう方向でこっちを挑発しているってこと?ねえ、どうなの?」

「い、いや違いますよ!そんなこと考えてませんって!単純に尊敬したんです!」


 そう、少なくとも前世ならミディリアさんよりも長く生きていた筈なのに、圧倒的に人生観という面で負けている。本来勝ち負けなんて存在しないのかもしれないけど、そんなふうに思えるのだ。

 人生経験の違いだよなぁ…。不思議な事、自分の知らない事、って、俺にとっては恐怖を感じる方が少し先に立つ。

そんなふうに考える事は、まだできそうにない。

 と、俺がそんなことを考えた時、ミディリアさんは僅かに恍惚とした顔で


「へ、へええ、尊敬、尊敬ねえ…。イイ」


 と言っていた。不思議だ。

 ともあれ、これからやることは決まった。後はその街へ行く方法を確かめて、恐らく日帰りにはならないだろうから、赤杉の泉亭に一度戻って、その旨を伝えれば仕事開始で良いだろう。


「ミディリアさん、そのヒゼキヤと言う町にはどうやって向かえば良いんでしょうか?」

「え、…ああ、そうね。ヒゼキヤは、ここから一番近い都市なの。だから、多くの商人たちはあの街を目指すわ。だから、商人たちの護衛依頼を受けて、その馬車に同乗させてもらいながら向かうのが王道かしら」

「あ、そういう時に護衛依頼を受けるんですね!」

「いや、別にそういう訳じゃあないんだけど…」


 それはそうなのだが、実際効率的だ。


「じゃあ、依頼掲示版でちょうど良さそうな依頼を探してきます」

「は~い、見つけたら布ごと持ってきてね」

「…あ、ちょっと待って下さい。今日って何日ですか?」

「今日?えーっと…五日ですね」

「了解です」


 何故日にちを聞いたか、と言えば昨日見た依頼票にも混ざっていた護衛依頼には、日付の指定があったからだ。当たり前の事だが。

 しかし、今が五日、と言う事は、俺がこの世界にやって来た時は何時かの月の一日だったんだな…。有る程度分かりやすくて何よりだ。




依頼内容    行商馬車の護衛

護衛場所    ロルナン~ヒゼキヤ間の街道

報  酬    銀貨三枚

日  程    九の月、五日 陽四刻より開始。ヒゼキヤ到着は当日の月二刻を予定

《適正ランク》 F~E

日程超過後も依頼受諾が無い場合の依頼破棄を求む。


 依頼掲示から選びとったのはこの一枚。陽四刻と言うのが分からないので少し不安だったが、日程超過後に破棄していいのなら問題もあるまい。

 少しずつ人の増えて来たギルドの中を歩きながら、再びミディリアさんのもとへと戻った。

「ああ、これなら何の問題も無いわね。でも…ハルジィル?どこかで聞き覚えがあるような…。ま、いっか。

 えーっと…。これから二時間後に、タクミ君が昨日も通った門…北門って言うんだけど、そこでリィヴ・ハルジィルっていう人が、馬車を止めて待ってる筈だから、その人に受諾印を押した依頼布を受け取ってもらって。そしたら仕事の始まりよ」

「あ…二時間後に、門でリィヴ・ハルジィルさんを探せばいいんですね。分かりました」


 ミディリアさんが俺の持ってきた依頼布にハンコを押しているのを見ながら確認をした。意外にも時間に余裕がある。これなら赤杉の泉にもちゃんと戻れそうだ。


「それじゃあ、はいこれ。無くしちゃダメよ。それと、一度受諾した仕事を放棄したらギルドから処罰が下るのでそのつもりで」

「はい。それじゃあ、行ってきます」


 まずは赤杉の泉に行こう。先払いで後二泊分既にお金を払っているけれど、もし融通がきくのなら後に回したりできればいいのだが。

 まあ、悩む必要はないか。とにかく赤杉の泉に行こう。


◇◇◇


「依頼でヒゼキヤにぃ?ああ、なるほどな、それで宿泊費に融通を聞かせられないかを確認してきた訳か。う~む…」


 と言うのが、事情を説明した後のおやっさんの反応。

 先払いで払っているから、無理ではないかとも思っていたのだが、


「いや、良いぜ、ただし半分。銀貨一枚だけだがな。ああ、七日の夜には帰ってくるか?」

「あ、はい。予定では」

「だったらその時が最後の一泊分だ。まだ泊まりてぇならちゃんとその日に金払えよ」

「了解です。またここで泊まります」

「よし。ああ、一応軽食をどっかで買って行けよ?ヒゼキヤまでは十一刻、約半日かかっちまうからな。果物なり、パンなりを門前の広場の出店なんかで先に買っとかねえと、途中で腹が減るのは目に見えてるからな」

「はい、分かりました。…それじゃあ行ってきます」

「おう、じゃあな」


 と言う訳で、少しばかり融通してもらう事ができた。明日ペルーダを倒して、明後日にちゃんと帰ってこよう。


◇◇◇


 赤杉の泉を出発して約三十分。ようやく門に到着した。依頼開始時刻までは、恐らく後一時間程度。

 おやっさんに言われた通り、何か果物を買っていくことにしよう。まだ早朝と言っていい頃合いだと思うのだが、既にいろいろな場所で出店が開かれ、声をあげて客を呼び込んでいる。

 その中に、少し八百屋らしき店構えを発見したので、そちらへと向かう。


「らっしゃいらっしゃい!みてきなよ~うちの新鮮な野菜に果物の数々!しかも極限まで値段を下げた出血大サービスだ!今これを買わない手はないよっ!

 おおっ!そこのお兄さ~ん見てきな見てきなっ!新鮮なキャバルにモルファヤ、キャネト!果物ならドネッピにペクリル、ロイクに、変わり種ならクロンまで!さあ、買った買った!」


 その店の店主であろう恰幅の良い女性の目線がこちらに向いている。お兄さん、と呼ばれているあたり俺の事を指しているんだろうが、お兄さん、とは…やはり若くなっているようだ。鏡が欲しい。

 取りあえず、呼ばれているなら行きますよ、っと。


「おおっ!見てくれる気になったかい?でも冷やかしで終わる気なら勘弁だな、しっかり買っていってくれ!」

「はい、今日は商人さんの護衛をするので、間食を取らないとやって行けない、とある人から忠告されたので。果物を幾つか下さい」

「馬車の中で食うのか…なら、手間無く持ち運ぶのも楽なペクリルか、レージカが良いだろうね。いくつ買っていく?」


 そう言いながら店主が見せてくれたのは、昨日ギルドマスターの部屋で見たリンゴに似た果物…ペクリルと、それより一回り小さく、どこか柑橘系に近い皮のレージカ。確かに持ち運びがたやすい二つだ。購入するならこれだろう。

 しかし、いくつ買う事にしようか?一つだけだとあんまり変わらないだろうし…。


「…ペクリル一つと、レージカ二つ下さい」

「あいよっ!あ~、銅貨二枚だね」

「分かりました」


 ウエストポーチを探って、中から銅貨を二枚取り出す。銀貨はまだあるのだが、銅貨は後一枚だ。両替とかができるかどうかも怪しいし、今回の依頼でゴブリンが出没したらしっかり買っておこう。


「はい、どうぞ」

「毎度ありっ!また来なよ!」


 三つの果物を受け取りウエストポーチにしまった後、広場の中心近くに向かう。

 まだ時間は有るけれど、もしかしたらリィヴ・ハルジィルさんはもう来ているかも知れない。商人なら一瞬の時間も無駄にせず、ギリギリまで別の仕事をしているようなイメージもあるが、依頼した冒険者がいつ来るか分からないような状況で有れば早めに来ている事も決してありえないことではないと思うのだ。

 取りあえず、馬車を止めている人を探さなければいけない。今までの記憶を漁ると、門のすぐ近く、右側のスペースあたりに一度馬車を止めておき、そこから随時馬車を出していた気がするから、そこに向かうべきだろう。

 ただ、朝の出店につられてやってきたのだろう、広場には商人だけではなく町人の姿も多く見受けられる。それだけに、実に歩きにくい。それこそ、人の流れに押し流されそうなほどに。

 門の方に向かうだけでも一苦労だ。出来る限り人の流れを読まなければ、何時まで経ってもたどり着けないだろう。

幸い、門の方向に流れていく集団を発見。その後ろにでも紛れ込んでついて行くことにしよう。

 しかしまあ…。本当にすごい人の量だ。この町にこんなに人がいたとは思わなかった。いつも賑わっているとは言え、ここまで一挙に人は集まっていなかったからなぁ…。

 しかし、中世と言うのはこんなに人口が多かったのだったか?首都でもないのに、ここまで人が多い事には、わずかな違和感を覚える。

 そうこうしている間にも、前の集団は少し門の方向とは違った方向へ歩き出したので、離脱。門そのものはすぐ目の前にまで近づいているし、このあたりには出店も無く、人が少なくなっているので、問題なく目的地に向かう事が可能な模様。

 既に何台かの馬車が泊っているのも見える。そのまわりには幾人もの人が集まっており、服装を見る限り商人だけではなく冒険者もいるようだ。あの中にリィヴさんはいるんだろうか…?

 まあ、いなかったらいなかったで、ここで待っておくことに変わりはないが。

 と言う訳で、一番近くにいた馬車の持ち主に聞いてみる。


「すみません、少し聞きたい事があるんですが」

「ん?なんだい」

「ここで馬車を止めている方の中にリィヴ・ハルジィルさんはいらっしゃいますか?」

「リィヴ…ああ、ハルジィル商会の次男坊の事か。あいつだったら、奥から二番目の馬車の持ち主だ。商品の積まれた馬車をほっぽり出すバカはいないからな、あそこにいる筈だよ」

「!そうですか、ありがとうございます」

「ああ、じゃあな」


 どうやら既に来ているらしい。まずは仕事の話をしなければ。

 馬車の中にいるらしいリィヴさんに声をかける為に回り込む。馬車の実物など観察した事はなかったが、イメージと同じ形、馬車の前側に馬を留め、その後ろに荷台と言う簡素なもの。それがにだ、縦に並べられている。どちらにリーヴさんが居るのかは分からないが、ここまで来れば問題はない。


「リィヴさん!リィヴ・ハルジィルさんはいらっしゃいますか!冒険者ギルドから来ました!」


 すると、より近い方の馬車から物音が聞こえて来た。そして扉が開き、


「ああもうっ!うるさいんだよいきなりっ!もう少し品性持てや冒険者あっ!」


 怒り狂った、肉体年齢でいえば同い年くらいの青年が飛び出してきた。


ロルナン以外の町の名前がようやく登場。

一度、主人公にはこの町を離れてもらいます。と言っても、数日なのですが。

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