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忌祓の守人~元ダメ人間の異界転生譚~  作者: 中野 元創
第五章:獣人、信仰、悪意、そして
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第三十三話:これまでの説明

「もう半刻近く経つんだぞ!?おま、アタシだって声かけようか悩んでたのは悪いけど、それにしたって一度も振り返らないってなんだよ!」

「レ、レイリはまだギルドに来てないんだって思ってて、だったらすぐに見つけられるように外見てたんだよ」

「半刻!?」

「半刻も経った自覚は無かったよ!というか、レイリも半刻黙ってたんじゃん!」


 待ち望んだ再会は、予想とは違って今までに体験した事のないくらいの口喧嘩で始まった。今までレイリと喧嘩をした事なんて無かったのに、こんな状況で初めてを迎えるとは。

 だが、喧嘩と言っても精々が苛立ちどまり。怒りを覚えたわけでもなく、ましてや憎しみを向けている訳ではないのだ。少なくとも俺の中に暗い気持ちは湧きあがって来なかった。雰囲気でしか判断は出来ないが、レイリもそうだろう。

 だが同時に、最低でもあと二、三回は言い合わないと終わらないだろうという予感もしていた。


「タクミが振り向かないからだろ!?何で微動だにせず外ばっか見てんだ!話しかけたら台無しだって分かるからやり(づれ)ぇんだよ!」

「俺だってレイリが入ってきてたって分かってたら外ばっかり見てなかったよ!見つけた時に言えば良かったじゃん!」

「だからそんな簡単に言いだせなかったんだよ!」

「何で!?」

「ばっ、言いだし辛かったって言ったろ!?その、あー…外を見る目、真剣だったし、それで入れちがいになってたとか」

「う、…そりゃあ、最初に気が付かなかった俺も悪い、か」


 次第に言葉の応酬は勢いを無くし、互いに無言に。

 その静寂を破ったのは、何処となく恥ずかしそうなレイリだった。


「まあ、その、何だ…。

 ――ちゃんと無事に帰ってきてくれたんだな。ありがと」

「…えっと、うん。ただいま、かな?」


 視線を彷徨わせるレイリの姿に、俺も何処となく直視し辛いものを感じ、言葉が揺らぐ。

 だが、喧嘩を続ける空気は霧散してしまったらしい。それを察知したように俺達の元へ掛けられる声があった。


「ま、そこまでだ。いい加減人目に付きすぎるし…こっから先はどっか、場所を移してからやろうぜ?」


 軽く、しかし状況をよく考えた発言をしたのはエリクスさん。こちらも、何か目に付く傷を負ったような様子もなく至って健康のようだ。

 そんなエリクスさんの言葉を聞いて、レイリと視線を交わしてから同意する。ミディリアさんはエリクスさんのすぐ後ろにいたので今の会話も聞こえていたが、未だに離れた所で少し心配そうにこちらを眺めているカルスとラスティアさんは出ていくという事が伝わっていなさそうだ。手招きをしてみると気がついたらしく、近寄ってきたのでそのままギルドの外へと出て行った。


「とりあえず、今泊ってる宿に行こうぜ。ロルナンの赤杉の泉亭と同じで、あそこも結構飯が美味い」

「あ、はい」


 そのまま、会話よりも移動を優先しつつ宿――翠月――へ。中へ入って椅子に腰かけ、料理を注文し――。


「で、あの後どうなったんだよ」


 と、レイリから直球で質問された。


「あの後、って言うと…海に沈んだ後、だよね?」

「当たり前だろ?手紙の返信遅すぎだったし、何があったんだよ」

「えー、っと」


 『話すのは良いけど説明難しいな』と、内心で考えていると、良い案が思いついた。


「二人とも、こっちこっち」


 宿の入り口近くで所在な下げに佇んでいた二人――完全にいつもの気勢が削がれている――をもう一度手招きして、呼び寄せる。

 まだ何処かおどおどしているのは、多分俺とレイリが顔を合わせた途端に口喧嘩を始めたからなのだろう。意味のない事でカッとなってしまったが悪い雰囲気にはなっていない――という所まで二人の理解が及んでいないのなら、展開について行けていないのも当然だ。

 近づいてきた二人に、レイリが怪訝そうな視線を向ける。


「こいつらは?」

「流された先で、ね。今は友達だよ」


 そして、何があったのかを説明して行く。壁を壊してからの話は、かなり単純なのだ。リィヴさんに再会した事やその商会のことくらいしか話す事はない。だが、カルスとラスティアさんの村の事に関しては…何から話していいのやら。

 とりあえず、二人から情報を追加で出してもらったりしながらレイリとエリクスさんに話を伝えていく。

 瘴気の壁で覆われている、という所までは単純な驚きが二人の表情から読み取れたのだが、次第に怪訝に、そして胡散臭いものを見る目になっていく。


「…二人とも、信じてない?」

「いや、嘘ついてる雰囲気じゃねえのは分かるけどよ、流石に信じられねえわそれ」

「タクミ、やっぱり頭でも怪我したんじゃないか?そっちの…カルスとラスティアも、こういうときは変に気遣わず、現実を見せた方がいいって」

「嘘吐いてないし妄想でもないから。うーん、…でもまあ、証拠はこれ以上ないけど」


 強いて言うのなら忌種に対して浄化の力を使ってもらう、という事で見せられるが、忌種が王都にいないからそれは不可能。

 ここに神の子孫とか、俺が神様と話をしたとかいう事まで伝えると信憑性は一気に皆無になる――村では族長達がある程度の理解を示してくれたから通った話だ――から、瘴気の壁を破壊して、村から離れ、森の中を歩きに歩いて聖教国の街道に出た、と話を進める。


「それで、たまたまそこを通りかかったリィヴさんとその商会の人に助けてもらって」

「リィヴと?へぇ…たまたまにしちゃあ都合がいいというか」

「いや、凄く驚いてたんで間違いなくたまたまでしたよ。都合が良い――と言えば、確かにいいかもしれませんが」


 エリクスさんの言葉を聞いて思い返せば、凄まじい幸運だったと分かる。いや、リィヴさんがあの国にいるのは知っていたが、俺は合流しようと思って進んでいたわけではないのだ。自分が何処にいるのかすら分かっていなかったくらいだし。

 あそこでリィヴさんと出会えていなければ、今も村の皆と聖教国の中を彷徨っていた可能性すらあるわけだ。相当危険な状況に陥っていた可能性も高い。


「その後、リィヴさんの商会に入って、そのまま村の皆の家を作ってもらって、――ちょうどその頃、だったかな?レイリからの手紙が来てるって事が分かった」

「…おう」

「それで、何回か手紙を出しつつ、王国に戻る準備も進めて、二人も、俺と一緒に王国に行くって言ってくれたから、一緒に」

「へえ…何っつうか、大変だったのは分かるけど、思ったよりは順調だったみたいだな」

「ええ。良い人にばっかり会えたので」

「で、もう十日前には王都についてたんだろ?どうしてたんだ?」

「ああ、…えーっと」


 言っても良いものかとカルスとラスティアに視線を向けるが、二人も判断は付かないようだ。当然か。

 なので、今度はミディリアさんを見つめる。視線の意図に気がついたミディリアさんは、僅かに視線を斜め上にしてから、ゆっくりと頷いた。


「…こ、孤児院で暮らしてた獣人の子ども達が奴隷にされて、その孤児院の人達と一緒に助け出そうとしてた」

「…は?あ、そっちの二人もか?」

「あ、は、はい」

「私、も」


 レイリは随分と驚いた顔をしている。エリクスさんもまた、だ。


「奴隷にされた、って事は非合法だよな?…危ない橋渡りやがって」

「うん、放っておけなかったから」

「首突っ込むに至った流れが分かんねえけど…まあ、とりあえずタクミは無事だったってんなら良い。…そうだな、じゃあ、こっからはアタシらの話だ」


 そう言ったレイリは一度エリクスさんの方へ視線を向けて、その後、俺、カルス、ラスティアと順に見渡してから話し始めた。


「そうだな、――とりあえずは、手紙にもはっきり書いてなかった気がするから、ロルナンを発った事からの話だ」


 レイリはゆっくりと、事の次第を話し始めた。――何でも、その始まりはシュリ―フィアさんの帰還に際して、エリクスさんがついて行こうとした事らしい。

 王国の町や村を一つ一つ巡って、先へ。道中で忌種を討伐したり、ちょっとした事件にも巻き込まれたりと、二人の実力の高さから危険と呼ぶべき状況には陥らなかったようだが、それにしてもなかなか、密度の高い時間だったようである。


「それで、王都に着く前、ノイエって町に新居を用意してもらえるって話になって、じゃあいずれはそこに住もうかって事になった。但し、兄貴は別の用事があったから」

「別の用事って言うか本来そっちが主題だったんだぜ?レイリはタクミの手紙届いてから

ずっとこんな調子で」

「兄貴!」


 語調を荒げたレイリをエリクスさんはひょうひょうとした態度で受け流し、そして説明を交代する。


「さっきも言ったが、俺が王都に来たのはシュリ―フィアさんに会うためだ。でも、王都について早々例の調査依頼の話を聞いてな。ちょっとわけありで行かなきゃなんなかった。でもその代わりにシュリ―フィアさんには、王都に俺達がいるって事すら伝えられてねえんだよ。…という訳で、頼む」


 そう言ったエリクスさんは、先程までのひょうひょうとした態度を深呼吸一つで打ち消して、机の隅を両手で持ち、それを支えにして思い切り頭を下げた。


「頼む!シュリ―フィアさんを探すの、手伝ってくれ!」


 ――思わず無言になった俺は胸中で、『ああ、カルスやラスティア程じゃないけど、俺にとってもこれは話の展開が早すぎるな…』と思っていた。


以前にも書きましたが、火曜日から金曜日まで家に帰りません。よって、次回更新は早くて土曜日となります。申し訳ありません。

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