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忌祓の守人~元ダメ人間の異界転生譚~  作者: 中野 元創
第五章:獣人、信仰、悪意、そして
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閑話一:暗中の一仕事

短い(2000文字+α)

 その者の行いには、何時か報いが有る。

 ランストの言った言葉と同じく、今回の惨劇を引き起こした元凶の男へ報いを与える為に動く者達がいた。

 孤児院の子どもたちを教会へと取り戻した翌日、まだ太陽も昇らない月七刻頃、闇夜を駆ける一団が有った。

 それは王国内に存在する特殊部隊、その内、より国王に近い一団だった。

 その一員であるヅェルは、教会でランスト達に別れを告げた後、即座に部隊と連絡を取り、短時間の間に再度動くことを可能としたのだ。…それが出来るからこその特殊部隊だとも言える。

 動いているのはここにいる彼らだけではない。魔術により連絡を取り、王都付近の町や村に隠れ住む部隊員も、各々が街道で伝えられた特徴に合致する男を探していた。

 ―――それでも、逃げる男が道を素直に通ってくれるとは限らなかったが。

 街道以外の広大な土地を探すには、いくらなんでも人手が足りない。少数精鋭で動く特殊部隊の限界だとも言える。街道以外の土地にも、大勢の人間が現れれば認識できるような魔術―――魔法陣を使ったもの―――は配置されていたが、少数の人間を、ましてや特定の個人を認識できるような物は存在していない。男がすぐさまその包囲の穴を突いて逃げだしていれば、間違いなく捕まえる事は出来なかっただろう。

 だが、彼等は必死に動いている。それは偏に、ヅェルの報告から犯人である男が、何らかの行動を起こしてから逃げるだろうという事が推測できたからだ。

 それならば、まだ王都から遠くへは逃げられていないかもしれない。あるいはそもそも、王都から脱出する事すら出来ていない可能性だって高い。

 夜間、王都そのものの出入りは厳しく制限されている事を考えれば、それはかなり信憑性の高い説だろう。


「先ほど伝えた通り、今日は特殊技能の開放許可が出ている」


 声に対して、一団は静かなままだった。それは先頭を行く男からの指示がそこで止まる訳ではないと分かっていたからだろう。


「一から三は王都西部壁面から、四から六は王都南部壁面から、それぞれ内側へ。その前に、話を通してある南西詰所から最新の情報を入手する。…もっとも、碌な情報は集まっていないと思うが」


 特殊部隊の隊長を務める男の声が彼等の耳に届く。彼等は揃って「了解」とだけ、小さく単純に帰した。

 そんな彼等の中、二という数字を振られたヅェルは内心で、男を追い詰める事が出来るかどうかを考えていた。

(…男が逃げの一手を打つ事が出来た時間は少ない。恐らく、二、三刻の間に王都を出る事が出来ていなければ今も付近にいる事でしょう。ですが…結局のところ、行おうとする仕事の内容に全てが懸っています)

 例えばそれが、奴隷取引をはじめとした、彼にとっての金稼ぎであれば殆ど問題はない。それを認めるつもりなどは彼らにもさらさらないのだが、最悪の状況よりはずっとましだろう。勿論、なにを金と変えるのか、という事によって随分と危険度は変わるのだが。

 彼の心に引っかかっているのは、男が何故、忌種を王都の中に連れ込んでいたのかという事だ。

 奴隷取引場に隠されていたという事は、何者化へと売り渡す予定だったのかもしれない。実際、その可能性が一番高いだろうとは彼も思う。

 だがもし、今回の事故のような忌種による事件を、王都の各所で同時多発的に起こす為に、より多くの忌種を既に町中へと連れ込んでいるとしたら?

 そう考えたのは何もヅェルだけではなく、既に幾人かの『忌種の存在を知覚できる』特殊部隊員は動員されていて、地下空間やそれに準ずる場所に忌種が潜んでいないかどうかを確かめてはいる。だがそれでも、隠された地下空間などが無いとは限らず完璧だとは言い切れなかった。

(地下空間に残されていた帳簿には、一部の奴隷―――いわゆる『目玉商品』として売り出されている者たちについての情報は記載されていましたが、奴隷を入手したいという発注を行っていた人物の名前などが書かれたものは有りませんでした。それが、貴族との明確な関わりを隠す為だけに処分されたものだったとすれば楽なんですが…)


◇◇◇


 ―――結果としては、ヅェルの心配は杞憂だったと言える。

 王都北西部、奥まった路地で奴隷取引の首謀者と、二人の男が会話をしていた。


「到着されたのは二人だけか。分かった。…この貴族の家へ向かってくれ。労働力として男性の奴隷を求めていた」

「…了解した」

「…肉体労働か?」

「片方はそうだ。もう一方は、計算なども行える人材を探していたようだが…問題はないんだったな?」

「ああ、知識は十分にある」

「そうか。なら、この服に着替えてくれ。身なりその物が良いのは問題ないが、しっかりとした服を最初からきた奴隷というものは余りに不格好だからな」

「了解した」

「向かうのは今日中か?」

「ああ。無言で貴族の家に立っていれば気付いてくれるだろう。面目を保ちたがるからな」


 そう言って、男は踵を返した。


「私が手を出すのはここまでだ。後はそっちで好きにやってくれ」

「了解した。逃亡先は、帝国にすることをお勧めする」

「言われなくても」

「我々の任務への協力、感謝する」


 その言葉に返事はせず、男は闇夜へ消えて行った。

 一方、静かに着替えを済ませた二人の男は、大通りの方へ―――王都の中央、貴族たちの住まう方向へと足を向ける。

 二人の足取りは全く同じだが、自然体で。訓練などを行った訳ではなく、それが当たり前化のような印象を、見ている人間がいれば受けたのだろう。

 大通りに設置された石畳が仄かに輝く。

 ―――照らされた男たちの容姿は、全くの瓜二つだった。


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