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忌祓の守人~元ダメ人間の異界転生譚~  作者: 中野 元創
第五章:獣人、信仰、悪意、そして
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第十九話:作戦

 ―――数十分ほど歩いた後、ランストさんと合流。説明を終えた後は、魔術を解いて教会へ。


「今日中に残りの救援部隊が来るはずだ。…恐らくは陽八刻位に。ただ、決行を明日に控えている現状、詳細な内容をその後に変える事は難しい。だから、出来る限り今のうちに詳細を練っておこうと思う。問題ないか?」

「ええ、問題ありません。大まかな行動と、相手の戦力や建物内の構造についてなども話しあっておきましょう」


 教会へと入って、待機していた皆に何も異常がなかった事を確認して、少しほっとする。どうやらカルスとラスティアさんは、昨日と同じく子どもたちと遊んでいたようだ。

 特に緊張していた様子も無い二人の元へと行くと、二人の方もこちらに気がついて、近づいて来る。


「どうだった?」

「無事に終わった。…色々あったけど、どんな冒険者が依頼を受ける側に行ったのかは分かったよ」

「何人?」

「五人だった」


 カルスとラスティアさん、両方の質問に答えてから、ヅェルさんの方へとついて行く。

 子供を除いた全員が礼拝堂へと入った後、ヅェルさんが話し合いを始める。


「明日、いよいよ子どもたちを助けに、僕達は取引現場へと潜入する事になった。今日中に、残りの救援として三人ほど到着予定という事は、教会に残っていた者は知っている筈だろう。

 その時、明日の潜入について一人一人の分担を今、この場で正式に決めておきたい。潜入には参加しないタクミ達についても、外での行動を決定しておく」

「分担を決める、って言うのが大事なのは分かるけど…どうやって決めるの?えっと、得意、不得意とか?」


 フランヒさんの問いかけに、ランストさんが頷き返してから説明を続ける。


「大まかに言ってしまえば、そうなる。後は、現状得ている情報から、より効率的に動けるようにすることも必要だな」

「今えている情報は、冒険者の戦力、奴隷商側の最低限の戦力、取引現場の大まかな構造、と言ったところでしょうか」

「ああ。…まず、潜入する人員を決める。と言っても…フランヒとタクミ達三人を抜いた全員はその候補なんだが」


 ランストさんはそう言って、辺りを見回す。

 その視線の先に立つフランヒさんの表情は、申し訳なさそうなものだった。自分も潜入して、子どもたちを助けたいと思っているんだろう。

 勿論、フランヒさんには戦う力がない事は俺達にすら分かっている事実。そんな状態でランストさんが、危険に近づけるような選択をする訳もない。

 そんな事を考えながら二人を見ていると、ヅェルさんが更に言葉を重ねた。


「あまり大勢で動くと、露見する可能性も増大しますから…どれだけ多くても五人まで、というふうにさせてもらっても良いでしょうか?これは俺も含めて、です」

「そうか…。ならば、僕とヅェルさん。ハウアと、今日到着予定の人員から、更に二人か」


 脳内で思考を重ねていくランストさんに、またしてもヅェルさんが情報を追加する。


「派遣される人材は、戦闘を得手としている者たちの筈です。となれば、私達の仕事は子供たちの救出の方へ集中する事に成ります」

「そう、か…。自分の仕事を理解しやすいな。それで、タクミ達には外から手伝いを…具体的に言えば、僕達の侵入に乗じ、外で騒ぎを起こす事で意識を逸らしてほしい」

「騒ぎ、ですか?」

「ああ。魔術で建物そのものに攻撃する事でも良いし、或いは、違法な取引が行われていると騒ぎたてても良い。前者の方がより効果的だとは思うがな」

「…えっと、魔術で攻撃したとして、その後は?」

「警備が追ってきた事を確認した後は、なりふり構わず逃げてもらって構わない。出来れば引きつけて欲しいが、それで君たちに危険が及べば本末転倒というものだろうしな」


 なら、大丈夫だろう。二人の方を窺えば、食い入るようにランストさんからの説明を聞いている。俺が見ている事には気がついていない様だし、ランストさんの説明に嫌悪感を抱いているようには思えない。大丈夫そうだ。

 更にランストさんは説明を続ける。だがその先はフランヒさんだ。作戦の内容そのものでは無く、その後、―――子どもたちを助けた後の事について話しているようだ。


「フランヒは、子どもたちの為に美味しいご飯を作って待っていてくれ。きっと傷つき、悲しんでいる…。ああ、その日だけじゃなく、皆のためにいろいろと考えないといけない。君ならきっと、僕より良い考えが浮かぶ」

「ランスト…ええ、わかったわ。私やってみる」


 胸の前で小さく握りこぶしを作ったフランヒさんは、今までと比べて随分と明るくなった。子供たちを救い出した後の未来に希望を抱いている、という事なのだろうか。二人とも幸せそうである。

 ヅェルさんはその様子を少しだけ眺めた後、空気を変えるように再び話し出した。ただ、その顔つきは明るく、これから先の話に大きな問題は残っていないのだろうという事が伝わってくる。


「さて…今大まかに説明した通りなのですが、これは勿論、今日到着する人員の戦闘力や、明日、取引現場での護衛の配置や、或いは想定外の状況が起こったりした場合には変化する物です。

 現在の想定として、外から引き入れている冒険者には内側の護衛では無く外側、外壁付近での見周りと不審者及び衛兵の捜索、その報告、といった仕事が割り振られている筈です。私達は客に紛れて潜入するから正直なところ、脱出まで彼等の事は気にはしていません―――が、脱出までの間、完全に見つからないとは思えません」


 そう言って、俺達の方を見つめるヅェルさん。どうやら、俺達の仕事について話をしているらしい。


「脱出の時、警備がいると、難しい?」

「ええ。…考える頭が有るのなら、内側で大勢を動員するのではなく、不自然に子どもたちを抱えて逃げる者を外で待ち構えた方が発見は容易だと分かる筈ですからね。そうなったとき、本来そこにいる筈の冒険者がいない…となれば、脱出する隙が生まれます」

「そういう事ですか…」


 ラスティアさんの質問から、ヅェルさんのさらなる解説を聞いて理解を深める。おおまかには理解していたのだが、それでもまだ、きちんと説明された方が鮮明なイメージが浮かぶな。

 …だが、やはりというべきなのだろう。俺達の仕事も決して楽なものではない。潜入と比べれば圧倒的に安全だが、むしろタイミングや引きつけ方などを考えるという面では潜入よりも難しい一面もあるだろう。


「どのくらい引きつけておけばいいでしょう」

「本当に必要なのはごく僅かな時間なのですが…俺達が潜入してから少し後から半刻有れば、かなり余裕を持って作業できますよ」


 ランストさん達は未だに明日、帰ってくる子どもたちの為に何を用意するのかを、ハウアさんも交えて話し合っている。

 楽しげにとまでは言わないまでも、非常に希望あふれる会話だ。俺としては、まだ明日、肝心の救出が待っているというのに楽観視しすぎているのではないかとも思うのだが。

 いや、例えばヅェルさんは、それに対しても不快さや不安などを表に出しはしない。という事は、多少の差は有っても、救出に成功する可能性は大幅にある、むしろ失敗と比べて多い位だと考えても良いのかもしれない。

 その時、ラスティアさんも同じ考えに行きついたのか、小さく微笑んだ。


「ね、ねえタクミ」

「え?どうかしたのカルス」


 俺の右肩を指先でつんつんと突いて、何事かを問おうとするカルス。その表情は何処となく不安げだ。


「明日の仕事、魔術を使って攻撃するって言ってたよね。…僕、要る?」

「え、そりゃぁ、俺とラスティアさんだけで行ったら危ないから…」


 言うと、何故かカルスは一瞬だけ呆けた顔に成って、そして…視線を逸らした。


「あれ?」

「あー…。うん、そっか、なるほどね。そっか、ちゃんといるのか」

「うーん…そういうの、俺じゃ無くてラスティアさんに聞いた方がいいと思うよ。まあ、まだ馴染みきってないかもしれないけど、コンビだからね」


 なんて言っている俺がレイリとコンビとして正しく活動していた時期は恐ろしいほど短いのだが。

 俺の言葉を聞いたカルスは気を取り直したようにラスティアさんへも質問をしに行った。…どうやら、なかなか論理的な説明を聞く事が出来たようだ。


◇◇◇


「それで、今回は困難まで取り扱うんすか?こいつァなかなか、危険じゃあねえっすかね?」

「『お得意様』のご注文だよ無碍(むげ)には出来ないさ。それに…報酬もはずんでくれるらしいからね」


 王都西部の外れ、建造物の地下区画を拡充、連結する事で作られた、迷路にも似た部屋の連なり。その中の一つに、猫背の男と、風格のある男、二人の男が立っていた。

 両名が共に視線を向けるのは、金属の檻だ。檻というよりは箱、という方が見た目には近いだろうか。

 ―――それを檻たらしめるのは、その壁に空いた穴の中より漏れ出る血と獣の臭いが混ざった、酷く野生的な悪臭と、重く響く、荒い息遣い。


「捕まえるのはまあ…上手くいったすけど、運びこむのも大変だったのに、こっから王都の中心部に向けてこんなやばいもん運ぶとか、どうやるんすか?あっしにゃ全く」

「私達からも手は貸せるが…あちらの方できちんと、手は用意してあるそうだ。そこまで心配することはないだろうね」

「かーっ、お貴族さまとやらぁ無茶苦茶っすなぁ。ま、それであっしらが儲けられるんなら万々歳ってとこっす。そんじゃ、あっしはまた」


 小柄な男は早足で部屋の外へ出ていく。その様子はどこか、この部屋の中(・・・・・・)にいる者(・・・・)へ恐れを抱いているようだった。

 一人部屋の中で佇む男は、檻に手を掛け、撫でまわすようにしてから、自らも(きびす)を返し、去っていく。


「弾んだ初期投資の分は、きっちりと儲けさせて貰うとも。…ふ、楽しい仕事だよ、全くな」


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