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忌祓の守人~元ダメ人間の異界転生譚~  作者: 中野 元創
第五章:獣人、信仰、悪意、そして
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第十八話:地下

「『青の癖毛、青の瞳、切れ長の目、細い眉と、少し潰れた鼻、首筋に傷跡、肌の色素を強く、唇は不変、輪郭は膨らみがち。我等以外のすべてに見抜かれず、暴虐を受けつけぬ擬装』」


 ランストさんの魔術で変わった容姿を確かめる。勿論、ランストさんの言う通りに変わってはいるはずなのだが、それでもやはり、自分の容姿がはっきりと変わるのは何度体験しても慣れない事だ。

 青色の髪を指でつまみ、その指が日焼けしたような小麦色に変わっている事に気がついた。…『色素を強く』すると、肌の色が濃くなるのか。


「これで全員、と。じゃあハウア、ヅェルさん、タクミ。今日は三人に任せる」

「ええ」

「任せてください。発覚した戦力に対する対策も、しっかりと練らせていただきます」

「頑張ります」


 そう一言だけ告げて、視線を教会の守備の為に残る二人の方へと向ける。すると、ちょうど二人も俺の方を見ていて、頷いてきた。

 俺も静かに一度頷き返して、移動を始めたヅェルさんの後ろを付いて行く。


「今回の依頼は、報酬を現地支給と書かれていました。つまり、冒険者ギルドを通しては支払っていません。これが幸運でした。…つまり、冒険者ギルドで依頼を受けなくても気がつきません。ハウアさんを紛れ込ませることも容易という事ですね」

「そういう事も出来るんですか…。って、あれ?それだと、冒険者じゃなくても請け負えられるのでは?」

「…いや、ギルドカードの提示を求められると、冒険者以外は立ち入る事が出来ないわ。実力が不確かな者を引き込みたいとは思わない筈だし、Dランクくらいは間違いなく求められると思うわね」

「あ…そうですね。勘違いでした」


 最近、いろいろと考えるようにはしているのだ。だが、もともと頭を使う事が上手い人達には全く勝てない。問題点に気がつかない事よりはまだマシだが、それでもこういう状況だと恥ずかしさを覚える。

 何が問題なのか、または、何故問題ないのか。それを頭の中で再度整頓。自分できちんと説明できるようになった事を感じて、一段落。こんな事を続けていれば、いつかは自分でいろいろな事を正しく考えられる様になる筈だと信じている。…完全に自分流の思考術。効果のほどは定かではない。


「さて…もうすぐですね。二人とも、準備は大丈夫ですか?」

「勿論」

「はい、大丈夫です」


 考え事をしている内に、どうやら話し合いの現場まであと少しの所まで来ていたらしい。ヅェルさんの言葉に返事を返して、更に先へ進む。

 今居るのは、取引現場となる建物からほど近い路地だ。まだ薄暗い時間だというのに、俺達と同じ道順を進んでいく冒険者が幾人か居るのが目立った。…まず間違いなく、俺達と同じ場所へ向かっているのだろう。


「…ここからは、口に出す内容には気を付けてください。というよりも、理由なく口を開かない様に」


 何でですか?―――と口を開く程の馬鹿ではなかった事に、自分のことながら少々安堵した。ヅェルさんの身体に隠れて見えなかった進行方向を見れば、六軒ほど離れた先、地下へと続いているらしい階段へと冒険者たちが入って行くのが見えた。

 その隣には、それぞれの集団の先頭に立っている人に対して、何かを問いかけ…というより確認しているらしい様子の男がいた。忘れもしない、貴族たちに奴隷取引についての解説をしていた猫背で小柄な男。

 ヅェルさんが地下へと下る階段の前に出来た列に並ぶ頃には、その列もかなり伸びており、男は何やら焦っているようだった。


「あー…!もう全員速く入ってくだせぇ!あんまり目立ちたく無いんすよ!」


 目立ちたくないのに大声を出すというのはどういう事なのかとも思ったが、それであちらがぼろを出すのなら俺達にとっては願ったりかなったりだ。

 それよりも気になったのは、ヅェルさんが男の声―――特に最後の部分を聞いた時、非常にいら立った表情を浮かべていた事。あまり感情を浮かべない人だと持っていたし、その印象はきっと間違っていないのだが…間違いなく、舌打ちでもしそうなほど苛立っていたのが分かった。

 と言っても、それは一瞬で鎮静化され、いつもの通り、冷静で落ち着いた顔へ戻ったのだが。

 俺達が降りた地下は煉瓦造りの柱が何本か経っているだけで、壁などの仕切りはない広い部屋だ。

 そこにいる冒険者の数は…俺達三人を含めても十五名。到底混雑するような数ではないが、一斉に来てしまったのが彼等にとっては災いしたという事だ。

 それから十分ほど。四名の冒険者が到着して、…恐らく、集合時間になった。

 猫背の男が地上へと続く扉を閉めて、地下へと下りてきたのがいい証拠だろう。それと同時、部屋の奥で一人の男性が部屋の中央。柱で囲まれた場所へと進んでいく。

 小柄な男は入り口近くへ置いてあった代を持ちあげて、同じく部屋の中央へと駆け寄って行く。そのまま男の足元へと台を置いて、自分は腰を落とし更に小さくなって、台の上に立った男の隣に隠れるように佇む。

 …どうやら俺が冒険者の一人として数に入れていた男は、主催者側の人間、または主催者本人だったらしい。

 この場に集まった人間の視線が全て自分へと集まるのを待つように、堂々とした圧力を伴う沈黙を男は発し続け、約十秒。


「さて―――今日はこのような早朝から、私達の紹介する仕事の為に集まってくれた事、感謝するよ、冒険者諸君」


 男が発した言葉は、その身に纏う圧力からは予想のつかなかった非常に丁寧な言葉。…冒険者を下に見ているような雰囲気を感じ取れもしたが、それは今気にする事ではないだろう。


「今回諸君に依頼したいのは、私が明日開く、とある取引の護衛だ。ああ…別に、武器や薬品の密売という訳じゃあ無いから、身構えないでくれたまえ。

 奴隷取引―――今顔を(しか)めたものは状況を把握したかな?だとしたら正解だとも。決して公式のそれでは無く、また全ての奴隷が合法という訳ではない」


 男の言う通り、何人かの冒険者は顔を顰めたり、或いは身じろぎしていた。顔を顰めたのはハウアさんも同じだが、そこに違いを見出されることは幸いにして無かったようである。


「ただそれでも、こんな依頼。こんなに怪しげな依頼を受けようとここに集まっている時点で、少なくとも大多数の者はそうと分かってきている筈だ。だろう?…さて。これ以上詳しい話をする理由も義理も無いな。さあ、依頼を受けるか受けないかを決めてくれたまえ。

 …ああ、断わってもらっても全く問題はないぞ。それに私達が報復措置を取るような事もない。君たちはあくまでも数合わせ、居ても居なくても、どちらでも構わないのだからな」


 …その言葉を挑発として受け取る者、既に依頼に対して消極的になっている者、或いはその逆。冒険者たちの反応は様々で一貫性のないものだった。だがそれもすぐに収まって、それぞれの集まりで話し合いが始まる。


「俺達は依頼、受けるぞ」


 そう言って手を挙げたのは、ぼさぼさの茶発と同色の髭が特徴の逞しい男性。背中にはいかにもと言った感じの剣を担いでいる。

 集団としての人数は三人。全員が物騒な武器を担いでいるあたり、魔術士はいなさそうだ。…また、鍛えた体を見せびらかしている様な感じはしない。恐らくは、自分たちの力で、戦いを通して強くなっていったのだろう。見ただけの判断だから確かな事は言えないが、エリクスさんやボルゾフさんよりは弱いが、レイリとは同じくらいの強さ、…一人で今の俺と同じくらいの強さと考えると、危険な相手だという事がより実感できた。


「そうですか、他にはいらっしゃいませんか?」

「あ、お三方はこちらへ…へへ、きちんとした報酬の話をしようって事っすよ。お好きでしょう?」


 小柄な男が三人を連れて、地下室の奥にある扉からどこかへ去っていく。男の口ぶりが余りに品性の掛けたものであるせいか、男たちも非常に不愉快そうだった。俺の隣でヅェルさんが、それより更に強い、それこそ視線だけでい殺しそうなほどの視線を向けてもいたのだが。


「それでは僕達も」


 そう言った男性と、従うように後ろに立つ女性もまた、扉の向こうへ消えて行った。男性が手に持っていた杖は恐らく、シュリ―フィアさんのそれと同じような物なのだろうから、男性の方はきっと魔術師だろう。


「私達は辞退させていただく。…問題はないんだな?」

「ええ、お約束いたしましょう」

「はっ…」


 『その言葉にどれだけの信憑性があるというのか』立ち去る老紳士と三人の仲間が醸し出す雰囲気は、言外にそう語っていたような気がした。


「それじゃあ、僕達もこれで」

「そういう事なら、俺達も」


 最後の三人が退出することを決めるのに追従する形で、ヅェルさんがそう言った。ちょうどこれで全員の洗濯は確認できたことになる。

 引きとめられたり、何かをされた気配も無く地下から地上へと戻ってきた俺達は、教会の方向とは別の場所へと歩いて行った。


「さて、本当に尾行もされていない様ですね。ほどほどに警戒しながら、ランストさんと合流しましょうか」


また更新速度が落ちるかもしれません。もちろん、試験時のように全く投稿ができないと言う事はありませんが、三日に一度くらいになるかもしれません。

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