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忌祓の守人~元ダメ人間の異界転生譚~  作者: 中野 元創
第五章:獣人、信仰、悪意、そして
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第十三話:掃除


「本当に、申し訳ありませんでした」

「いや、もともと君達には辞めていいと言っていたしな。手伝いは続けてくれるというのならば、最初よりも人では増えている。…まあ、これからもよろしく頼むよ。実行日までにやる事もあるからな」


 朝早くに教会を訪れて、以前食事を取った部屋にいたランストさんに事の次第を説明した。ランストさんとしては、俺達には人と戦った経験があると思っていたようで、確認が甘かったと謝られたのだが…これに関しては間違いなkそんな事に気が柄なった俺達の過失なので、少し前まで互いに謝り合う奇妙な構図が生まれていた。

 そうしている内、ハウアさんが微妙に寝ぼけ眼のまま、誘拐されていなかった二人、リウくんとイルちゃんを連れて部屋へと入ってきて、それとほぼ同時に、フランヒさんが料理を持って台所から出てきて…全員集合。

 こんな状況で謝り合いを続けていても意味はないと判断しらランストさんが流れをきって周りに事情を説明、再度俺が謝って、今に至る。


「と、そうは言ってみたものの…今日は、隣町から来るらしい援軍を迎え入れる以外にやる事はない」

「え、…取引場の、調査とかは、しないの?」

「ああ。その援軍が一番そういうことに慣れている様だからな。彼に話を聞いてからの方が良いだろう」

「あ、ラスティアさん…実は私から、貴女には手伝ってほしい事があるんだけど」


 子供たちの救出について手伝える事がないという言葉にラスティアさんが動揺するが、しかしフランヒさんからの提案で落ち着きを取り戻す。…やはり、ラスティアさんは今回、敏感に動いてるよなぁ。後で理由があるのかどうか、聞いてみよう。


「何?私は、やる」

「う、うん…あのね、教会のお掃除、しようかなって」

「掃除…掃除。成程、掃除。…やる」

「え、えーっと、ちょっと待って下さいフランヒさん」


 ラスティアさんが動揺しながらも、了承しているのを横目に、俺がフランヒさんへ質問する。


「教会の掃除って…いえ、最終的に必要なのは間違いないとは思いますけど、今ですか?」

「ええ、今が一番いい時間だわ。それに、他にも理由は一応あるのよ?」

「というと…?」

「あー…それに関しては、俺から」


 ランストさんが説明を変わったので、そちらへと向く。表情からして、本当に理由は有るようだ。


「三人とも、ここに来るまでの間は素顔だろ?ここ最近は連日、それも事件が起きてからここにきているとなれば、連中が勘づき始めてもおかしくはない。…だから、掃除なんて普段道理の行動をする事で、誘拐騒動の事を聞いて、孤児院の事を手伝いに来たもの好きな奴ら、というふうに印象操作する、絶対に出来るとは言い切れないが…」

「少なくとも、昨日尾行はいなかったわ。貴方達が私達と取引現場へ向かった事は気付かれていない、断言できるの」

「と、野生の感が塊になったようなハウアが断言している以上、間違いないと言っていいだろう」


 ハウアさんの表情には迷いというものがなかった。これに関しては絶対だと言い切れるのだろう。ランストさんもそこに疑いは一欠片も持っていないようだ。

 が、ランストさんは少し考え込むような表情になる。


「…と言っても、三人には分からないか。そうだな」


 視線を移動、子ども二人がフランヒさんの元へ向かっている事を確認してから声を落とし、ランストさんは話を続ける。


「…あの日、子供達が攫われた日、ハウアは冒険者として、かなり遠くで仕事をしていた。といっても町の中だが、ここからは道のり一時間程度はかかるような場所だ。…その仕事を終了直前で抜け出し、屋根の上などを通って二十分程度で帰還、誘拐前の犯人に追いついたんだ」

『…ええ!?』


 隣のカルスと全く同じ反応に成る。ラスティアさんは机の上に皿を並べ始めていたのでこの派足を聞いてはいなかったようだが、その声でこちらの異常に気が付いたらしく見つめてくる。


「まあ、本当にずば抜けているというか…才能の塊だろうと思うような事も多く有るな。子どもたちの事をちょっと苦手に思ってるけど、誰よりも先に誘拐に気付いて止めに来たあたり、性根が優しいのが見え見えで」

「おいランスト、なにを余計な事までしゃべっているの。…子供や仲間をを守らない訳がないでしょう」


 結局自分で認めに行ったのは、嘘でも見捨てると言いたくなかったからだろうか。ハウアさんはランストさんやフランヒさんと比べると寡黙な方だからどんな人なのかはっきりとはつかめていなかったけど…やっぱりいい人らしい。少なくとも、長く一緒に過ごしていたであろうランストさんにはそんな姿が見えているようだ。

 この教会の人、良い人ばっかりだよな。…やっぱり、手助けを諦めなくて良かった。潜入は出来ないけど、彼らや子供たちにとっての力に慣れるのならそれは嬉しい。


「まあ、そんな訳で…とりあえず、ご飯、食うか?」

「いえ、俺達はもう宿で食べてきたので」

「そうか?…まあ、とりあえず席に座って待ってろ。食事が終わったら、教会中の掃除だ」


◇◇◇


 庭先に散らばった壁の破片を拾い集めながら、その近くにある井戸から組み上げた井戸水で服を洗っているラスティアさんへ話しかける。内容は、どうしてこの誘拐事件について、今まで以上に強い反応を示すのか。


「何だかラスティアさん、いつもよりも熱心に―――というより、熱くなってるよね、どうして?」

「…熱く?」


 俺の言葉を聞いたラスティアさんが、冷えた手で自分の頬を触り、次いで俺の頬を触ってきた。


「いや、そういう事じゃなくて…精神的に、この誘拐に対して、今までの俺が知ってたミディリアさんとは違う姿だな、って思う事が何度かあったからさ。何か理由があるのかな、って」

「…え、と」


 ラスティアさんの声音に戸惑うような色が含まれている様な気がしたので、慌てて訂正を入れておく。


「いや、あんまり話したくないような事なら言わなくて良いよ?俺も、絶対に知りたいってわけじゃあないしさ」


 これが、子供たちを見捨てようとするような方面に変わっていたのだろうとすれば、もしかしたら理由を聞き出すことに躍起になっていたかもしれない。だが、子どもたちを助けようとするのはまあ、少なくとも簡単に考えれば善行なので、そこに悲しい理由があるんだとしたらそっとしておこうと思っただけだ。

 だがラスティアさんは、首を横に行って口を開く。戸惑っているようだが、拒否感はない様だ。


「別に、特別な、理由は、無いんだけど…。えっと、子どもは、守らなくちゃ、いけないでしょ?」

「うん、それはそうだね」


 と、自然に肯定したのだが…もしかして、あの村では特に強く決められていた事だったりするのだろうか。そのあたり、カルスからも聞いておこうかな?


「村から出る前、タクミ達には、言わなかったけど、お母さんと話す機会も、有って…あの時は、儀式についても、決まってなかったから、はっきりとした話は、しなかったけど、でも、…私は、きちんと育てられたんだ、って」


 ―――そんな事があったのか。全く知らなかったが、それはそうか。突然という事じゃなくて、村を出る…両親と別れるということを決めて実行に移すまでには時間が有ったのだ。話し合いをしていない訳もない。


「ここは、孤児院。…親がいない子供が集まる所って、聞いた。親が、亡くなったの、って聞いたら、捨てられた子も、いるって。…そんなに辛い思いを、しているのに、まだ苦しむなんて、駄目だって、思った」

「ラスティアさん…優しいね」

「え?…別に、普通」


 いや―――少なくとも俺は、誘拐されたから、助けなければ、という事、その被害者が子供だという事だけで無条件に守らなければと思った事。その二つくらいしか考えずに行動していた。ラスティアさんのようにたくさんの事を考えていた訳ではないのだ。

 …より深く考えたからこそ、感情も大きく動いたってことなのかもしれない。


「親がいなくなった子供は、村にも居た。カルスもそうだし、まだ小さな子供達の中にも、いる。でも、そんな子供たちには、親じゃなくても、周りの大人が、愛を注いで育てるもの。…奴隷になったら、そうはならない。だから、助ける。…それだけ」

「そ、っか。じゃあ、ラスティアさんにとっての当たり前をしてるってだけなんだね…」


 そう言った時、何故か、口元から小さくフッと笑いに近い息が漏れた。それを聞いたラスティアさんはこちらを見て、


「何か、おかしかった?」

「ううん、それをきちんと実行できてるだけでラスティアさんは優しいし、良い人だよなって思っただけ。じゃあ、また後で。瓦礫持っていくから」


 集めたがれきを籠に入れ、紐で縛って引きずっていく。底が擦り切れそうだが、とりあえずこの掃除中は持つだろう。

 …いや、何となく分かってはいたけど、ラスティアさんは凄く他人重いというか、端的に言っていい人だよな。村の雰囲気も有るだろうけど、彼女の場合は個性としての面が大きいだろう。


「昼にでも、カルスから話を聞くことにしようかな。…というか俺も、もっとしっかりしないとさ」


 全く威張れはしないが、これでも一応、年長者―――最近自覚が無くなってきて、この身体が元からの物だと思いそうになったりもするが、それでも年長者なのだ。そんな俺が一番何も考えず行動していたんじゃ駄目だ。

 少しは考えて行動しようと心がけるようにしたけど、まだ足りていない。まともな大人になると決めたんだから、もっと頑張らなければ。


中間テストが近いので、来週末まで更新速度が遅れます。申し訳ありません。

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