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忌祓の守人~元ダメ人間の異界転生譚~  作者: 中野 元創
第一章:沈んだ先の戦世界
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第十一話:買い物と聴取

…今回まで、卓克君は持ち物一つ持ってやいなかったんですよね…。

 ミディリアさんに勧められた通りギルドの中に有る店へと向かう。前世で言うデパートのように壁よりも深く作られたスペースの中に店が作られているのが見て取れた。


「おお…凄い品ぞろえの多さだな…棚に商品がぎっちりと詰まっているし、ほんとにデパートに来た感じだ」


 地球の店と同じで商品の前に値札?というか、値段の書かれた板が置いてある。目を凝らすと文字の上に半透明の薄い青や緑色で線が浮かび上がり、驚く間もなく漢字や俺でも読める数字に変わっていった。おそらくはこれが一昨日の夜ミディリア様がおっしゃっていた文字を翻訳する、と言う事なんだろう。半透明とはいっても気にせず読める程度だったので、かなり便利である。


「これなら問題なく商品の名前も値段も分かるな。よし、とりあえず袋とか鞄をさがそう」


 とは言ってみたものの、この店、かなり商品の数が多いのだ。探して見つからないほど小さいものではないのが幸いと言ったところだが、それでも少し面倒だ。

 …ああ、こんなことでいちいち面倒くさがるのがいけないんだろうな…。

 まあ、とりあえず探してみよう。


「う~ん、とりあえずリュックサックみたいな物でも探すべきなのかなぁ…、でも、あんまり大きいと持ち運びの邪魔になるかもしれないし…」

「何かお探しですか?」

「え?」


 集中しすぎて気がつかなかったが、いつの間にやら眼鏡をかけたギルドの構成員の男性…おそらく、今はこの店の担当の人が話しかけて来た。

 …どこかで見覚えがある気が…ああ、昨日ギルドの中で迷った時に外まで案内してくれた人だ。


「実は、仕事の際に使う持ち運び用の袋か鞄が欲しいんです。今日初めての仕事だったのですが、ゴブリンの耳を手に持って走り回るのがすごく大変で…」

「…なるほど、しかし討伐部位を入れるのならば、少し大きめで、水洗いもできる様なものがいいですね」

「ああ、確かに、血がこびりついて取れなくなったらいやですよね…」

「ええ、なので布系は駄目、加工済みの革系か、あるいは魔術的な加工を加えた物になるのですが…後者はかなり高額なので、失礼ですが、新人の方には難しいかと…」

「はい、こちらとしてもあまり持ちあわせはありませんので」

「分かりました。それではこちらに」


 そう言って歩き出した彼の後に続いて店の奥へと進む。外から見てもこの建物に作るにしては大きい方だとは思ったが、それよりさらに大きいようだ。

突き当たり近くまで進むといくつかのリュックや鞄、口の縛れる袋などが二つの籠にわたって置いてあるのが見えた。


「ここですね。右側の籠に入っているのが皮の加工品です。お好きな物を御見繕いください。私は入り口近くにいますので、決まりましたらお越しください。」

「分かりました。ありがとうございます」


 さて、それでは探してみましょうか。まず大事なのは…重すぎない事、それと丈夫さ…は、革製だからそこまで気にする必要もないか。後は…容量よりも収納個所の多さかな?大きいだけだと中身ごちゃごちゃになるだけだし。

 となると小袋をいくつか買うのか、ポケットの多いリュックサックや肩下げかばん、又はウエストポーチと言ったところ…いや、リュックサックや肩下げかばんではあまり早く動けないな。小袋だったら結局落としてしまいそうだし…。

 うん。ウエストポーチ一択かな。


「どのくらいのサイズがいいかな…結局小さすぎたら意味は無いんだし…」


 いくつか籠の下から取り出しちょうど良さそうな物を探す。


「これなんか良いかな?ひもの長さもしっかり調整できるみたいだし。

 …あれ?」


 よく考えたら、………なんで、リュックサックとかウエストポーチなんてあるんだろう?チャックも金属製だし、なんだか建物とかと比べて技術が発達しすぎているんじゃあ…?

 いや、魔術なんて物があるんだし、いまいちはっきりとはやり方が分からないけれど出来ないわけではないのか。しかしこれはあまりに地球のそれとそっくりと言うか…。

 あ!もしかして俺と同じように地球から来た人がいるんじゃあないだろうか?女神さまの口ぶりから考えるに神々の戦争の影響ってかなり大きいみたいだし、俺以外にもアイゼルに来てるって考える方がむしろ当然か。


「う~ん、この鞄を作った人は凄いなぁ…いつこの世界に来たのかは分からないけれど、随分頑張ったんだろうなぁ…」


 ギルド直営店とでも言うべきこの店にも商品が下されているのが何よりの証拠ではなかろうか…。いやはや、憧れる物である。


「まあ、そんな簡単に商品開発なんてできる物じゃあないと思うけど。…よし、これにしよう」


 その時手に取っていた少し大きめのウエストポーチを選び、先程の構成員さんを探しに店の入り口近くへと戻る。


「おや、決まりましたか?冒険者さん。そのウエストポーチは…銀貨三枚です。お代金は…?」


「あ、はい。銀貨三枚ですね。え~っと、一、二、三…どうぞ」


「はい、ありがとうございました。またのご利用をお待ちしています」


 そんなこんなで会計を終えたので、外へ出るため入口へと向かう。

 銀貨三枚…一つの仕事で貰える額で買えるなら安いような…旅館三泊分と考えれば高いような…。

 まあ、冒険者割引という物が何にどれだけ働いているのかが分からないから判断できないだけなんだけど。


「さて、早いとこ赤杉の泉に帰ってご飯を食べて寝ようかな。ああ、今日は身体が汚れたから庭の井戸水を借りれるか聞いてみないと」


 そこまで考えてギルドの入り口の扉に手をかけて、

 逆側から扉を急にひかれたため、引っ張られる形で少しばかり体勢を崩してしまった。

そして、再び顔を挙げた先に立っていたのは、なんだか疲れた顔をしているギルド長で…


「あ!ギルド長!さっきミディリアさんからギルド長は俺の事を探しに行ったと聞きました!すいません、俺会う前に帰ってて、でも、どうにか依頼は達成できましたよ!」

「………ちょっと、来い」


 え?


「ど、どこに、でしょうか?」

「ギルド長室」


 ええ?なんで?というか、雰囲気怖い。かなりいっぱい話すタイプだと思ってたのに、こんな単語ごとにぶつ切りに話すなんて!

 と言うか、つれていかれる場所が何とも、それって校長室に校長先生に連れていかれるようなものじゃないか!実際のところはむしろ自分の会社の社長に社長室に引っ張られていると言う方が近いかもしれないが、あいにく俺は会社に入った事が無いので分からな


「ほら、早く来い」

「あ、はい」


 …行こう。とにかくついて行くべきだろう。別に取って食おうってわけじゃあないだろうし、後から考えても遅くは無い事の筈だ。


◇◇◇


 さて、あの後ギルドの奥を歩きながら『あの冒険者何やらかしたんだ…?』とか、『あそこまでギルド長が疲れた目をするなんて…、取り返しのつかない事ではないだろうけど、面倒な事を起こしちゃったのかも…かわいそうに』なんて構成員さん達の声が聞こえて来た。

 何かやらかしてしまったんだろうか…?はっ!そ、そうか!ギルド長はこれから朝の一件についてのお叱りをするつもりなのか!なるほど、確かにそれならさっきの『面倒な事』と言う言葉にもつじつまが合う。

 と、丁度その時ギルド長が一つの扉の前で立ち止まる。おそらくはここがギルド長室なのだろう。そのままギルド長は部屋の中へ。目線で入るように促されたので俺も入る。

 すると、早速ギルド長が口を開いて、


「さて、タクミ君…君が魔術を一人で作った、と言うのは本当かな?」

「え?………ああ、はい。作りました」


 正直に答えたのだが、何故かギルド長はその顔に刻んだしわをより深くした。

 …何が問題だったのだろうか?

 ギルド長からの質問に答えた後、部屋の椅子に座るように促されたので着席した。

 しかし、さっきの質問は何だったんだろうか?ギルド長は俺の事を探しに行ってくれていたわけだし、なんで俺が仕事を達成できたのか、という質問が来るなら分かる。しかし、実際にされた質問が『魔術を作ったのか?』という内容になるのだろうか?

 …!まさか!魔術は勝手に作っていい物ではなかったのか!

なるほど、著作権や技術の独占から来る利権によるがんじがらめの世界ッ!ファンタジーとは思えないほどみみっちい事になっているっていうのかッ!

あ、というか、なんでギルド長は俺が魔術を作った事知ってるんだろう?俺を探しに来ていたのに今まで帰って来なかったという事は俺を見つけられなかったってことなんじゃあ…。いや、ひそかにあとから見られていたのを俺が気付けなかっただけか…。

 ………。

 ………………。

 ………………………。

な、なんでなにも喋らないんだろう。俺は呼ばれた側でしかないから、正直に言えば話しかけづらいし、あの疲れた目で見られるのは意外と辛い…。


「あ、あの…」

「なぁ、タクミくん」

「は、はい!…何でしょうか?」

「もう一度聞くが…、君は自分で魔術を考えたんだな?」

「…はい」

「今まで、誰かに魔術を教えられてきたか?」

「いえ、…今日初めて魔術を使いました」

「そうか…」


 そこまで話し、またギルド長は黙ってしまった。結局何の目的で俺はこの部屋に呼ばれたのだろうか?


「あの、ギルド長。結局俺は何のためにこの部屋に呼ばれているんでしょうか?」

「ああ、そうか、何も話していなかったな。…私は、君が魔術を使えないと言う事を知らなくてな…。武器を持たずそのまま忌種の討伐に向かわせたのはまずかったと思って、救出に向かっていたのだよ。まあ、説明不足や関違いなど色々な要素が絡み合った結果、私は見当違いの場所に向かってしまったのだが…。まあ、それはどうでもいい」

「はあ…」


 なんだか少しばかり表情に生気が戻ってきている気がする。それと同じように語り口も滑らかになったのだが、まだ内容は分からない。もちろん、ここからが本題だとは思うが。


「私が東の森の中で君を探していた時、ミディリアから君が仕事を終えて帰って来たという知らせが通信板越しに聞こえてきてね…。武器を持たずに倒せるほどに忌種と言う物は弱い存在ではない。一体どうやったのかと思えば、魔術を自作、ぶっつけ本番でゴブリンを十一体も倒したというじゃあないか。と、ここを聞きたくてね。タクミ君、君は一体どうやって魔術を作るなんて行為ができたのかな?」


 …なるほど、魔術を作った事が問題と言うよりも、作れた、という事が疑問なのか。しかし…どうやって、か。

 …イメージで、としか言いようがないのでは?


「く、空気を鋭く纏める感覚のイメージで、あとは魔力で空気を直接つかむ感覚を実行してみたりと試行錯誤してたら、出来ていた、って感じなんですが…?」

「ああ、そうか…。しかし、魔術を自分から作る奴って言うのは、だいたいそんな事を言うんだよなぁ…」


 …何だか、微妙に事情聴取みたいな雰囲気になってきた気が…いや、事情聴取ではあるのか。しかし、これ以上の説明をしろ、と言われても、理論とかそういう物があるのかすら知らない俺には判断のつけようがないんだけどなぁ…。


「…そうだな、タクミ君、君が作った魔術、空気の刃の様なものを作っているのではないかと先程の説明では思えたのだが、大規模破壊ができるほどではないよな?」

「?…は、はい。有る程度相手を狙って使うことを前提にしていましたし。あまり大きな物を相手に使うには向いていないと思います」


 うわ、ちょっと説明しただけで魔術の中身がばれた。まあ、あの感じだと案の定オリジナルではなかったみたいだけど。


「ふむ…少し、使ってみてはくれないかね?対象は…そうだな、ペクリルでいいだろう」


 そういったギルド長さんは机の端に置いてあった果物かごの様なものの中から一つ取り出してきた。形こそ違っているが、おおよそリンゴ程のサイズの果物だ。


「これに…ですか?ええと…はい。サイズを小さくすればこれだけを切るのは可能です」

「よし、それならやってみてくれ」


 言われた通りに小さくイメージ。あまり遠くまで飛ばしてしまうと他の物まで気づつけてしまうのでそこも考慮しておく。そのまま横向きに斬る。


「ウインドカッター」


 そうして狙った通りにペクリルだけを両断。今見える限り、その下に有る机や奥の壁は無傷だったのでほっとした。


「どうですか?一応、この魔術を大きくしたものでゴブリンを倒していたんですが…?」

「ふむ、とりあえずの切断力は有るようだな。…自分で飛距離を調節することは可能なのかね?この程度の切断距離だとゴブリンは倒せないだろう、しかし今こうして見る限り、まわりには効果が行っていないようだが」

「は、はい!ペクリルだけをうまく切れるように、あまり遠くまで届かないように調節していました」


 …どんどん特徴を明かされていっている気がする…。ギルド長の観察力、凄いな…。


「なかなか便利な魔術を作ったな。忌種や敵を殺すことだけではなく、普段の作業にも使えそうな程度には汎用性も高いだろう」

「ああ…なるほど、確かにそうですね」


木材を切ったり、石も切りだせる。そのまま猟にも使えると考えれば、確かに汎用性が高いと言えるだろう。


「…よし、良いだろう。実際に魔術を作ったのかは分からないが、とにかくこの魔術でゴブリンは仕留められると思うからな」

「へ?…あ、はい」


 なるほど。つまりは疑われていたと言う事か。ミディリアさんからもそんなニュアンスは少し感じたし。…魔術を作った事も疑いの対象だったみたいだけど…、それって簡単には作れない筈、とかそんな感じなんだろうか?意外と簡単だったのだが…。


「さあ、今日はもう宿に帰りなさい。すまなかったな、急に時間を取らせてしまって」

「いえ、俺も今日は宿に帰って、ご飯を食べて寝るだけで、予定なんて無かったですから。それでは、失礼します」


 ふう、どうにか終わったようだ。無理やり引っ張られていった時はどうしようかと思ったが、何事も無くて良かった。

 というか、外の明るさからして今日も結局昨日と同じ時間で帰ることになりそうだ。昨日は混んでてご飯食べるまでに時間かかったけど、今日は大丈夫だろうか?


◇◇◇


「ふむ…『ウインドカッター』か…」


 夜も深まったギルド長室の中、その部屋の主であるガーベルトはそう呟いた。彼は先程までその部屋にて事情聴取を行っていた新人冒険者タクミ・サイトウの事について考えていたのだ。


(…魔術を作ったかどうかは、もう判断も付かねえし、今は忘れておいても良いだろう。どちらにしろ、あのレベルの魔術を十分に使いこなせるなら一人前に魔術士をやれるだろう。

 …もし、本当にわずか数時間で何も知らないところから実践に耐えうる魔術を作りあげたっていうなら…。)


「…いや、それこそ考えるべきではないか…。

 ………今日は、疲れたな…」


 彼にはまだやるべき仕事が多くあったのだが、既にそれは忘れているようだった。


◇◇◇


 「うん。今日の晩御飯も美味しかった。もう体も拭いたし、とりあえずすることはもう無いかな」


 一つ忘れている事がある。…服を一枚買っておくべきだった。森の中を走り回って泥だらけ。どう考えても今日は服を洗うべきなのだが、さっきは鞄の事ばかりに気を取られてしまい、全く服の事を考えていなかったのだ。


「…明日は服を買ってから、それに着換えて仕事に出かけよう。こんな状態でずっとは居たくないしな…」


ストックが尽きるまでは毎日投稿したいと思います。評価・ご感想お待ちしております。

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