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忌祓の守人~元ダメ人間の異界転生譚~  作者: 中野 元創
第四章:聖教国と神の子孫
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第二十八話:診察

 便箋を買って手紙を書き、受付嬢さんに手渡す。一度の送付額は銀貨六枚と、決して安いものではなかったが、躊躇う理由などはなかった。

 レイリからの手紙を丁寧にリュックサックへしまって、ギルドの出口近くで待っていた二人に近づいて行く。

 二人に視線を向けた時、見つめ合って何やら頷き合っていたように見えたが、俺が視線を向けている事に気が付くとすぐにそれを止めていた。

 …さっきまでレイリの事を真面目に考えていたというのに少々よろしくない事だろうが、その光景を見た俺は少々邪推した。

 ―――つまり、二人は所謂‘()い仲’というやつ…になったのではないか?という事。


「お待たせ。ごめんね、遅くなって。さあ、早く戻ろうか」

「うん。そろそろ、晩御飯」

「でもさ、手紙はもう少しゆっくり書いても良かったんじゃない?僕が言うのもなんだけど、タクミはもっと、その…そうだ、レイリって子に言いたい事とかあるんじゃ?」


 もう少しゆっくりしていても良かった―――つまり二人で話してたかったってことですね。

 昔、エリクスさんがシュリ―フィアさんの事を好きだって来た時にも思った事だが、俺は意外と、他人の恋愛模様に首を突っ込む事が好きな性質(たち)なのかもしれない。


「とりあえず、一番伝えたいことについては書いたから、これで良いよ。手紙でやり取りができない訳でもないし、ずっと会えない訳じゃないのも…何と言うか、確信を持てたしね」

「…そっ、か」

「…まず、戻ろう。今日は、家で、休みたい」


 実際全員の体に疲れが溜まっていたので、その後は急いで町のはずれ、ある意味で村の再現となった場所へと帰った。俺は二人の邪魔をするのもどうかと思ったので、どうぞ俺の視界に入らない所でイチャイチャしてくださいとばかりに数歩前を歩いていたが。

 食事の材料には新鮮な肉が増えているようで、若い胃には嬉しいものだった。恐らく、あの森での狩猟を生活に組み込む事は順調なのだろう。


「…仕事も、簡単な事から教えてもらってるって話だし…基本的に、心配するような事はなさそうだな」


 昨日よりはまだマシな、しかし疲労の残った体で布団から出た俺は、夕べに考えていた事の続きとしてそんな事を口走る。

 最初に考えていたよりずっと、村の皆の生活は順風満帆なものだと言っていいだろう。少なくとも、壁を壊してからそう間も無い時間でのこの生活というのは、選びうる限りの内で最善の状況の筈。

 朝食は野菜の比率の方が多いようだ。

 それを食べ終わった後に、早い時間から仕事に行く人はソウヴォーダ商会へ。そうでない人は、冒険者ギルドや、森の狩りなど、様々に分かれて行動していた。

 ちなみに、俺もソウヴォーダ商会の一員なので、仕事がしたいと言えば貰えるし、頼まれることだってあるらしい。だがまあ、双方共に優先的な仕事相手ではないというのが現状だが。

 俺は二人に、今日はちょっと町の散策に行くと言って移動した。

 そう言った理由は、流石に二人を一緒に行動させようとか、そう言う下世話なものではない。いや、やましい事がないとは言い切れないかもしれないが、どちらかというとやましい気分を味わっているのは俺の方だ。

 …二人に心配かけたくないから、診療所に行くと伝えなかった、なんて。ちょっと考え過ぎだと思うんだよな。

 思いはするけれど、もう今更ではある。既に診療所の目の前に、俺は立っているのだから。

 灰色の円を壁にかけており、そこに診療所と書いてある。


「…一応、お金も多めに持ってきたけど…足りるかな?」


 病院、というと、高額な治療費の事をまず想像してしまう様な、経済的には一般的な家庭で育ってきた俺としてはやはり不安があった。

 金があるかどうかも分からない冒険者を、しかし重症だからという理由で受入れていた光景は、ロルナンでも見た。だからまあ、大丈夫な筈だ…。


「…まあ、出来うる限りの準備はしたし、今は行動だな」


 扉を開くと、薬草を煎じたものだろうか、鼻をツンと突くような香りが漂ってきた。しかしその臭いが与える印象とは違い、建物の内部は清潔そのもの…のように見える。少なくとも、掃除の行き届いたきれいな部屋だ。


「おや、何か御用ですかな?」


 扉の開いた音を聞いてか、奥の部屋から壮年の男性が現れる。恐らくは医者だろうと判断して、俺は話し始める。


「はい。診察して頂きたくて伺いました。実は―――」


◇◇◇


 二人は焦っていた。友人が―――タクミが、近い内に王国に旅立つ気になっているという事に。

 止める気はさらさらない、しかし、ついて行くために準備をするには十分な時間を確保する事が出来るとばかり考えていたのだ。

 実力、という意味では恐らく同程度。昔は外から来たという不可思議さもあって少しばかり強く見ていたが、一緒に戦いをしていく中で、彼自身の力量と自分達の力量が変わらないという事が分かったのだ。だから、今は修行に焦っている訳ではない。

 ―――村の皆との生活から離れること。つまり、村から出ていくことに、許可を貰わなければいけない。


「ラスティアさん、勝算って、どのくらいかな?」

「…お父さんが、認めてくれる確率は、七割ある。でも、これは少し―――」


 厳しい、と口にはせずとも態度でありありと語るラスティアの目の前にいるには、二人の男女。

 村では貴重な、彼女以外で魔術を使える二人の内の一人。フィディ・ナルクと、

 彼女の実の母、ニールン・ヴァイジールだ。

 杖を構えたフィディは言う。


「君達がタクミ君について行きたがるんじゃないか、って言うのは―――まあ分かってた人も多いと思う。僕も止めようとは思わない」

「…なら、行かせてもらえませんか?」

「でもほら、これは村の規則らしいからね?」


 規則、とはつまり。『村から自分の意思で出て行こうとするのなら、族長が選んだ村の代表との勝負に狩ってからにしろ』というものだ。

 壁の内側にいる間は全くもって効力を発揮せず、存在することすら知らなかった物ばかりだが、それは確かに、族長の保管する本に、古びた字で記載されていた。


「…まだ行くには早い。それに、お前は私達の大事な一人娘だ。―――そう簡単に譲ってはやらんぞ」

「私は、もう、決めてる。お父さんにも、お母さんにも、悪意はないってわかるけど―――私だって、譲らない」


 この勝負に期限はない。何度負けようと、何度でも挑んでいいし、それは決して、何時までと指定されるような物ではない。

 だが、二人がタクミについて行くという目的を果たそうとするのなら、そこには確かに、目に見えない期限が存在していた。

 ―――族長から、開始の号令がかかる。


◇◇◇


「―――精神的な問題かもしれないね。一昨日に怪我をしたとは聞いたけど、症状そのものはそれより前からあったんでしょう?」

「はい。…そうですか。精神的な問題とかで思い当たるような事も、心当たりはなくて」

「まあ、本人が一番分からなかったりもするからね。…それに、原因が精神的な問題だと断定できるわけではないからね。これに関してはこちらが謝るべき事だけど」

「…いえ、俺もあまり、きちんとした情報を持っていなかったみたいですし。

 今日の所は、これで帰ります。お代の方はいかほどですか?」


 先生は熱心に俺の話を聞いてくれたし、俺としても出来る限りの事は離した…が、あまり詳しい結果を出すことはできなかった。

 先生は俺の怪我が治ったことなどに対して、特殊技能がどうとか話していたが…多分それとは違うものではないだろうか。生まれた時に見に着ける、特殊な才能というのなら、俺のそれは後付けのものだから。

 勿論、そこに関してはまだ色々と考えるべき事が存在してはいるが、…とりあえず今日の所は調べられることについてきちんと調べたと言えるだろう。

 …さて、次に行くべきなのは何処だろうか。

 今のところやるべき事と言えば、聖十神教の教会へ行くことだ。それはこの町にも有るだろうが―――恐らく求められるのであろう大量のお布施が、そちらへ向かわせる足を止めさせている。

 ザリーフの教会なら、少し時間がたったとはいえ切っ掛けがないとは言えない。あちらの方がまだいいだろう。しかしすぐに行ける訳ではない。

 だから一度、ソウヴォーダ商会に行こうと思う。

 リィヴさんか、そうでなくても商会の人たちの誰かがこの町の教会に関係のある人なら、そこから紹介を頼む事も出来るし、そうでなくても、ザリーフに行く仕事があればそれに便乗する形で向かう事も出来る。

 もう一度医者の先生に礼を言ってから、俺は町中にあるソウヴォーダ商会の建物へ向かった。


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