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忌祓の守人~元ダメ人間の異界転生譚~  作者: 中野 元創
第四章:聖教国と神の子孫
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第二十五話:罠と呆気ない決着

『ヴォォウッ!』


 奴らの行動はまるで、瘴気汚染されて理性を失ったいつぞやの【人喰鬼(オーガ)】の様だったが、こちらを追い続けはしても何頭かに分かれて取り囲むように…つまり、連携して動く事が出来ている。という事は高い知能を保っているのだろう。

 こうして考えると、あの村にいたギルド構成員が言っていた【白金牛(ズラトロク)】の特徴、そのなかでも非常に執念深いことを示唆していた部分は、注意事項というよりヒントの面が多かったのではないか。

 『飛翔』を使える魔術士は、思ったより少ないだろうというのが俺としての予想だ。それは、俺が今まで弱かった事と、ロルナンでの僅かな警官だけで判断しているからかもしれないが、基本的に空を飛べる事という物は大きなアドバンテージだと思う。

 ―――もっといるのなら、流石にロルナンで司教たちが海に逃げた時、船に乗るんじゃなくて空を飛んで追おうとする人もいたと思うし。

 まあなんにせよ、俺とラスティアさんの二人が空を飛べるとは知らずにある程度の助言だけで構成員は俺達をここに向かわせた。

 という事は、空を飛ぶ事、及び、それとおなじほどの戦力を持っていなくても、奴らを倒す事が出来るという事。何らかの指定が為されていなかった以上は、毒物などを用意しておけという訳でもあるまい。

 現地で準備可能な何らかの方法を用いて奴らを倒す。恐らくは、返り血を生み出さない方法もそこには存在している、と。

 …ならばまず、方法としては先に罠を仕掛けてから【白金牛】に攻撃、追ってきた奴らを一網打尽にする、というものだろうと推測を立てられる。

 そして、それはすでに仕掛けた。少々環境破壊染みた行動のうえ、あり得ないほどの短時間で行ったから疲労は半端じゃないがそれも出来た。

 …頭上でミシミシと音が鳴る。あまり時間はなさそうだ。


「カルス、そっちはどう?俺の方からはよく見えない」

「…そろそろ一斉に飛びかかってきそう。ちゃんと助けてね?」

「当然」


 今の俺と、少し離れた所にいるラスティアさんからは、カルスを見下ろす形になっている。つまり、俺達が今居る場所は樹上だ。

 真下、円形で木が一本も生えていない窪地に立ったカルスの姿はよく見える。しかし、それを遠巻きに取り囲んでいるのだろう【白金牛】の姿に関しては枝や葉が邪魔ではっきりと見る事は出来ない。

 カルスから出される合図に従って、急降下。カルスが【白金牛】に襲われる直前で助け出して、この場から離れる。それが俺の役割だ。

 すると、まさにそのタイミングで、カルスが両手を上にあげてこちらを見た。


「タクミッ!」


 それを聞いた俺は両手を木の枝から離し、地上へと落ちる。最速で向かうために、足の裏で木の枝を蹴り、下向きに加速する事も忘れずに。

 ただ『落ちる』というだけの事ならば、『飛翔』など使わずともこちらの方が何倍も速い…というか意識して下向きに加速するのが怖いのだろうが。

 加えて言うと、先程無理に魔力を使って魔術による罠作りをラスティアさんと共に行ったので、少々感覚がおかしくなっていたというのもある。

 ともかく、一気にカルスに接近。そして、


「『飛翔』」


 両手を握って、同じく握り返したカルスが身体を懸垂の様に持ち上げる。少し体重はかかったが、速度を緩めることなく少し上昇、横に移動を開始した所で、

『ガッ』と、衝撃音。

 下を見れば、どうやら突進してきた【白金牛】達の幾頭かが互いの角をぶつけ合わせたらしい。全然欠けていない辺りに、その尋常ではない硬さがうかがえる。

 その数頭以外も突進してきており…しかし互いにぶつかり合う事は無く、カルスが今までいた所の近くで静止。

 互いにぶつかり合った場合、傷から流れたちで襲われる可能性があったのでこれは僥倖。―――もしそうなっていたとしても、無理やりに状況を帰る一手を今から打つのだが。


「タクミ速く!」

「分かってる…いいよ、ラスティアさん!」

「了解」


 俺自身も準備をしたその罠の効果を見るために、滞空して後ろへ振り返った俺の眼に映ったのは、上から下に、視界ごと歪んでいるかのような光景。

 すなわち、木々と土砂が、集まった【白金牛】達の元へと降り注ぐ光景だ。

 

『ヴォォゥッ!?』


 【白金牛】達は各々叫び声をあげて、逃げだそうとする。もしかしたら端の方にいる奴らなら、その罠の範囲外へと逃げる事が出来たかも知れない。

 だが。


「失敗させるわけないよ!」


 カルスが、大気中に準備していた浄化の力を解き放つ。むき出しの瘴気ならともかく、忌種の体内にある瘴気を直接浄化することはできないが…今までにも実証した通りに、動きを抑えた。


「『落下』」


 更に、ラスティアさんに容赦ない魔術行使が重ねられる。

 『落下』という起句により発動した魔術は、単純な重力加速度を越えた落下速度を木々と土砂に与え、勢い良く【白金牛】の群れを押しつぶす。

 カルスを地面に下ろして、二人で手分けをしてその土砂の周りに生き残りがいないかどうか確認するも…いない。

 十二頭もの【白金牛】の討伐がこれほどまであっさり終わるとは思わなかった―――先程はあの程度の数に大けがを負わされたのに―――が、頭を使えばこうなるという事なのかもしれない。多分俺一人だと、実力・発想の面で真似できない事だが。


「そっちはどう、カルス?」

「大丈夫そうかな。…でもこれ、本当に大丈夫なのかな?あんなに地面掘ったりして…」

「…後で直すよ、うん」


 俺達がどうやってあの罠を作ったのかと言えば、それは勿論、魔術を利用しての事だ。

 皆の村を取り囲んでいた壁を壊したときに流れ出る大量の瘴気を海側に流して行った仕掛けづくりと、やっている事は同じなのだ。

 ただ、それをわずか数分で行う事と、動かした土砂や切り倒した木を樹上に固定するという無茶苦茶な事を混ぜたというだけで。

 木を切ったのはカルス。それを動かした土砂ごと、木でひっかけるようにして上へと運んで行ったのは俺だ。

 そこに溜まった大量の土砂を、自分で決めたタイミングで落とせるよう魔術を掛けたのがラスティアさん。だから彼女は、仕掛けの下にいた俺より上…木の梢に待機して、俺が声で合図をするのを待っていたという事。

 言葉で説明すればこれだけの事なのに、あの時の俺達の頑張りようと、その後に感じた圧倒的疲労感はただ事じゃなかった。というか、今でも抜けてない。

 焦って一気に大量の魔力を使って魔術を行使した事が何らかの形で負担になったんじゃないかと、俺は素人考えでは有るものの、一応納得することにした。

 丁度その時、ラスティアさんがここまで降りてきた。


「大成功だったよ。完璧に一網打尽だ」

「うん。カルスも無事?」

「ちょっとひやっとしたけど、服とかにも傷ついてないくらいだからね。…ただタクミ、足の裏大丈夫?」


 そう言われて思い返すと、靴と足の裏を思いっきり角で抉られていたのだった。足の傷は…僅かにあとが見えるものの、治っている。

 しかし靴が治るような事はない。となると、


「買い変えなきゃダメみたいだね…はぁ、気に入ってたのに」

「いや、そうじゃなくて足の裏の傷…あれももう治ったの?早い…」

「でも、傷より先に、靴の心配なんて、しないの」

「…ごめんなさい」

「分かれば、良い」

「何で二人はこう…ああいや、やっぱり何でもない」


 カルスが口ごもったのは、多分ラスティアさんが母で、俺がちょっとできの悪い息子に見えるとかだろう。何となくわかってしまったが、…まああまり口には出せないだろう、カルス自身から、家族どうこうについて気にしないようにと考えての事だろうし。

 …少し話題を変えようか。


「どうする?今のままじゃあ生き埋めしただけ、完全に殺すとなると、もう少し時間がいるよね?」

「…あっちの草原に、死体、放置したまま。角、折ってない」

「…回収する?でも、もし出てきたら危険だよね」


 という訳で大人しく待機することになった。問題があるとすれば、忌種がどのくらい無酸素状態でも生き続けられるのか、という事だが、…流石にそこまで生命から逸脱したような事はしない筈だろう、多分。

 その後も会話を続け―――何やら聞き出されたような気がしなくもない―――数十分。


「もういいかな?」

「もう、良いと思う」

「崩そうか」

「崩そう」


 そう言う事になった。


「『加工:土砂』」


 成型までしなくても良いだろうと、ある程度のアバウトさを残したまま土と木の山を崩して行く。

 三十秒ほどで、【白金牛】の体が一部、見えた。一度魔術を止めて、観察。

 動きはない。…いや、そもそもだ。


「カルス、もうあれだね、止め刺しちゃおう」

「え?あー…そうだね。好機だ」


 という訳で、少し離れた所にいたラスティアさんにも伝える。

 山を少しずつ崩し、息があるかを確かめるより先にとどめをさす。これが一番確実な方法だった。

 十五分ほどして、十二頭全てにとどめをさす事が出来た。やはりあっけない。

 角そのものはかなり硬かったので、頭部を魔術で砕いてから、角の部分を残すように削るという作業になった。

 その後は草原に戻り、放置した死体から右角をとって、ゆっくりと下山した。


「…『飛翔』してていい?」

「魔力に、余裕が、あるのなら」

「いやほんと、タクミは無茶しすぎだと思うんだよね…」


 ―――とりあえず、今回の依頼は成功。皆無事だ。


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