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忌祓の守人~元ダメ人間の異界転生譚~  作者: 中野 元創
第四章:聖教国と神の子孫
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第九話:合流へ

 ―――リィヴさんはこれから一度以前の店へと戻って、そこにおいてある荷物や部下を連れてこの町へと戻ってくるらしい。

 俺は話し合いの後、リィヴさん達がもうすぐ出発するという事を知って、村の皆が待機している所へと立ち寄ってもらえるように頼んだ。

 現在俺は『飛翔』で村の皆の所へ全力で向かっている所だ。風が顔に浴びせられて少し息苦しいが、吉報を伝えられる事の喜びが勝っているので問題ない。

 ちなみに、俺が族長たちへ情報を届けることが先決だろうという話になったので、二人は後から俺の事を追ってきている筈だ。

 族長たちに伝えるべき事は、リィヴさんが相当好意的に皆の事を受け入れようとしている事、そしてその理由だ。流石に今日ではないが、近い内に移動を開始することになるだろうから。


◇◇◇


「会長、いかがでしたか?」

「この短時間で良くここまで頭を回す事が出来るね、まったく」


 ザリーフ北方の門へと向かうとある商会の面々は、商談が終わった後ということもあってか、各々気楽に談笑していた。

 が、そうでは無い者も、いる。


「まあ、助かった。有能な人材を集めることができそうだとは言え、村人の事を知ってる訳じゃあないからな」

「私としては、会長があのタクミという冒険者を信頼している事の方が驚きましたね。長くも深くも無い付き合いなのでは?」

「ああ、というか、だからこそ信頼も出来る―――嘘はついてなかっただろ?」

「はい。後ろめたいこともなさそうですので、問題はないですね。数か月生活を共にした相手の話ですから、信頼してよろしいかと」


 その商会の会長でありリィヴ・ハルジィルと、その秘書ローヴキィ・パコールノスチの会話を正確に理解している物はその場にいなかったが、しかし、漏れ聞こえる会話の断片から、いつもの通りに何か企てごとをしたのだろうと、商会の面々は考えていた。


「パコールノスチさんって、どんな洞察力しているのかしら…?」

「…まあ、そのあたりは大陸一の融資家にして聖教国侯爵家、パコールノスチの面目躍如ってところなのでは?

 …一般人には理解できない何かがあるのよ、多分」


 その後、唐突に『でも会長にあんなに尽くすなんて!』『恋には勝てなかったのね!』などと騒ぎだす女性従業員達から意識をそっと反らしたリィヴとローヴキィは、少し厳しい目つきになっていた。


「実際問題、村人の家族達までどう養うおつもりですか?いえ、話を持ちかけたのは元から私でしたから、こちらからも最大限助力は」

「―――いや、大丈夫な筈だ」

「というと?」

「彼等はもともと森の中で暮らしていた、と言ったよな?僕等の町の周りを思い出せ、生活環境だけきちんと世話をすれば、生活は完全に保たれると思うぞ」

「…まあ、いくらなんでも衣食住、生活すべての面倒まで見てもらえるとは思っていない筈ですし、それで問題ありませんね」

「周りの町や村と何十年と交流をなくしてしまうような村よりはずっといい生活だろうさ。…不満が出ればまた考える」

「それこそ、あの町の特色からしてありえないでしょう。それでは次に、実際に雇用する人数ですが」

「全員があの計算力を持っていると考えれば、まあ何人でも欲しいよな。勿論、僕たちの商会はまだそれだけ多くの会計を抱えるような規模では無いけれど…」

「ならば、後々増やして行く、と」


 結論を急ぐローヴキィをいさめるように、彼女の一歩前を歩くリィヴは左手の人差し指を立てて言う。


「でも、彼等の魅力はそれだけじゃないだろう?冒険者を雇う必要が無くなるかもしれないんだから」

「…成程、護衛ですか。しかし彼等は森の中に住んでいたという話では?」


『これからは主に海上での仕事が多くなる筈』という事を念頭に置いたローヴキィの発言。これは実際事実である。

 だが同時に、彼女には会長がその程度の事も考えていないとは思えなかった。彼自身は無自覚だが、しかしだからこそ有能に働く才覚がある。故に、この状況で読み違えはしない筈だ。


「いや、そんなに複雑な話じゃないぞ?」


 リィヴはそう前置きを話し、何故か彼に並々ならぬ期待を寄せているらしき才女に対して、僅かに恐る恐る切りだした。


「要は、適材適所ってやつだ。海上での護衛は任せろ!なんてごうごうする奴はほとんどいないわけだし、平衡感覚や水泳が上手い奴で、更に戦闘も出来る奴を見つければ良いと思う。全員が同じだけ普通の仕事はできるって話だし、そっちを優先的に探せば問題も無いだろうからな」

「―――なるほど。確かに単純なお話で」

「当たり前だ。僕にそんな商才は無い。…しかし、本当に話は通っているんだろうな…」

「はい?」


 『話』というものに心当たりがなかったローヴキィは一瞬、何か仕事を忘れてしまったのかと焦るも、その視線が自分を向いていないことに気が付き、落ち着きを取り戻す。

 基本的に、リィヴは人の目を見て話す。それが昔からか、それとも聖教国へと渡り来てからなのかを彼女は知らなかったが、少なくとも今、一つの特徴と言える点だと彼女は思っていた。

 ―――そう言えば、タクミさんとは目を合わせてなかったような―――。


「いや、あいつは多分、詳しい内容まで決めて話を芯来たわけじゃなかったんだろうと思ってな。勿論そんな事は相手側だって分かってるだろうし、そこまでもめることはないと思うんだが…いやはやどうだかな」

「その『話』でしたか。…恐らく大丈夫かと。あちらの首長は人格者に見えました」


 周りの村人も同じように…とまで続けようとしたローヴキィは自重した。彼女は彼女自身の観察眼を不確実なものだと思っているからだ。それで会長に先入観を与えることになってはいけないと思ったのである。

 ではなぜ首長…族長、グンド・ヴァイジールに対して感じたことを訂正しないのかと言えば、その男性を含めた数人に関しては、めったに見ない様な人格者の相を見たから、という単純な理由だった。

 少なくとも、悪い方向へと転がることはない。彼女はそう確信していた。


◇◇◇


「乗った。皆にも伝えておこう」


 俺の説明を聞いた族長は、すぐさまそう答え、そして皆を集めて説明を始めた。


「リィヴ・ハルジィルという青年を覚えているか?…そう、そうあの時の馬車の持ち主で、タクミの昔の知り合いだ」


 皆は記憶力もいいらしい。族長がリィヴさんについて質問しただけで皆が覚えている事を話しだす。族長は少し動揺しながらも皆を落ち着かせ、再度話す。


「彼が設立した商会、という所で私たちは働きたいと思う。タクミ君の知り合いだというのならある程度信頼もおけるし、あちらも私たちの能力を高く買っているそうだ」

「能力とは、浄化の力の事でしょうか?」


 族長へ質問したのはマォクさん。親しく離したことは、例の本能について訓練を行った時など数回だが、理知的な印象がある人だ。

 確かに能力と言われればそちらを思い浮かべるよな。商会というものがどんなものかは説明していなかったし、今の所外に出て一番役に立っているのは浄化の力だろうから。


「いや、お前も小さいころから続けている計算の方だ。外では全員が学習しているという訳ではないらしい」

「成程、了解しました。故に貴重ということですね」


 マォクさんはそう言って後ろへ下がる。

 しかし何だ、いざ言葉にしてみれば簡単な話なんだな。やけに重く感じていたけど、そんな事はなかったということか?

 …いやいや、俺の一手にとは言わないが、あの交渉には皆の生活がかかっていたんだ。むしろそのくらいの考えでいないでどうする。


「その後の交渉の結果次第で時期外れるが、我々はこの森から離れて、彼等の商会がある町へと移動することになる。一応、荷物は纏められるようにしていてくれ」

「馬車で移動するほどなので、また長期の移動になると思います。すみません」


 俺は手を挙げ、皆に謝罪する。いくらリィヴさんが商会を立ち上げたといったって、これだけの人数を乗せられる馬車を借りられるわけがない。となれば、また移動は徒歩だ。少しの準備期間はあるが、やはり疲れる時間を過ごさせてしまう。それはやはり、申し訳ない。

 そう思っての謝罪だったが、意外にも皆の反応は好意的で。


「今更何だよ。俺達は何日も森の中歩いて来たんだぜ?道歩くなら楽勝だ!」

「子供たちも楽しそうだし、全然問題ないわ」


 なんて反応ばかりだった。


「まあ、そういうことだよタクミ君。所で、魔術の修行は続けているかい?慢心してはいけないよ?」


 フィディさんのその言葉からは少し目を反らしてしまったが。いや、でも実際にそうだ。何か新しい魔術の修行を始めよう。時間が無駄に余る時も出来てくるだろうから。


「今日中に彼とその仲間がここを訪れる。盛大にとはいかずとも、歓待できる準備はしておこう」


 族長のその言葉で、この話し合いは終わった。


どうにか試験も終わりましたが、来週末には部活の大会がありまして、また少し遅れそうです。明日、明後日の更新は問題なく行います。

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