第四話:新人
現在話数調整中です。
銀貨を一枚ずつ支払い、カルスとラスティアさんを連れて町の中へと入る。
「ここがザリーフか。…いや、やっぱり人が多いんだね。この広場に居る人だけで村の皆と同じくらいだし」
町に入る時、衛兵さんから「ようこそ、ザリーフへ」と言われながら案内された。俺が先程何も言われなかったのは、リィヴさんの馬車の中に居たから末に町の名前くらいは知っていると思われていたのか。
「建物も、多い。…何だか、少し疲れる」
「人ごみに酔った?ちょっと休憩した方がいいかも」
ラスティアさんを壁際へと連れて行き、寄りかからせるようにして休ませる。ここまで人が密集していることも珍しかっただろう。村の皆とは違う見知らぬ人ばかりだから、余計に辛さも増している筈。
数分休めば少し回復したようで、今度こそ三人でギルドへと向かう。
「冒険者って忌種を倒す仕事なの?…冒険してなくない?」
「俺も良く分かんないけど、前に住んでた町のギルド長は…何だったかな、思考が冒険してるとか、死後の世界に冒険してるとか、そんな風な冗談を言っていたような」
「冗談として通用してるくらいなら危ないんじゃないかな!?」
「でも、タクミは生きてる」
「…ラスティアさん、それちょっと意味深?」
なんか、俺みたいなやつでも生きてるから大丈夫、といったニュアンスを感じ取った気がしたのだが、気のせいだったろうか?
ともあれギルドの中へと入り、先程の受付嬢さんの元へ。流石にこの明るい中では外套から漏れ出るわずかな光も、ある程度は勘違いだと思ってくれるのでは二課という期待はあるが…とりあえず、俺も付いて行く。先程出て行った冒険者が再び戻ってきて、冒険者登録に付き添うというのも少し変な状況だとは思うが、二人だけで行かせるよりは多少マシだろう。
「あの、冒険者登録をお願いしたいんですが」
「はい、承りました」
「私も、お願い」
「それではお二人ともこちらへ。おや、随分白いお肌ですね、兄弟ですか?」
どうやら差し出した手を見られたらしい。とはいえ、魂光にまで意識が向かなかったのならただただ白い肌というだけ。
「同じ所で育った。親戚だけど、兄弟じゃない」
「村の皆が親戚みたいなものですから。じゃあタクミ、また後で」
「そのあたりで、待ってて」
カルスとラスティアさんに手を振って、近くの椅子に腰かける。
冒険者登録の際には一体何をするんだったろうか。…名前と、属性を調べることだっけ?結局俺は全部の属性が付かるって話で…いや、そもそもアリュ―シャ様から言われてたから分かってたのか。
暇さから来る思考のずれを少し矯正しながら、もう一度記憶を掘り起こす作業を始める。
他に何かあっただろうか?武器は持っていなかったし、…エリクスさんとの戦闘試験は、ランクが高かったからだよな。二人なら同じように戦闘試験を行われそうだけど。
ラスティアさんは俺と同じで魔術士。カルスは短刀を使う。
俺は戦闘試験の時魔術を使えなかったから剣を使ったけど、充分に使える筈のラスティアさんはどうするんだろうか。カルスは…問題ないだろうな。というか、二人とも最初の俺より高いランクから始めそうな気がする。
あの頃はいろいろと不安も多くて、その癖行き当たりばったりな生活をしていたような気がするけれど、最近はどうだろうか。あの頃よりは先を考えた行動を出来ているとは思うが、計画性とかはまだ足りないよなぁ…。
なんてことを考えているうちに、二人が戻ってきた。どうやらなかなかに時間がたっていたらしい。
「ギルドカードは明日出来るって。…今日はどうしよう。まだ明るいし、夜まではまだまだだよね?」
「うん。俺は町を歩き回ったりしてた気がする」
「じゃあ、そうする。地理の把握は、必要」
俺が言うのとラスティアさんが言うのでは言葉の重みが違うな。何故だか説得力を感じる。
「じゃあ、重要な施設を回る事から始めようか。と言っても、俺にもよく分かんないんだけど…」
◇◇◇
町に居る衛兵たちに話を聞きながら、町の主要施設や名所、生活に必要となる場所などを自分が探しつつ、歩きまわる。
途中まで、港に行ってみたり衛兵の詰め所に行ってみたり、領主の屋敷を探したりしていたのだが、どう考えてもレイリのまねをしているだけだった。それが妙に気恥しかった事と、現状は生活そのものに関わる事が必要だろうと考えて、今の形に至るという訳だ。
宿に泊まれば食事は出る筈だが、それ以外にも商店を利用することは多い筈。昼頃なのであまり人も商品も無いが、商店街を歩いてみる。
と。
「あれ、今の人リィヴさんの馬車に乗ってた人なんじゃ」
「あの馬車の?じゃあ知り合い?」
「いや、直接話はしてないんだけどさ…」
でも、リィヴさんとはかなり親しく話していたと思う。だとすれば、彼が入って行った建物は商会の本拠地なのか。
…いや、違う違う。リィヴさんはここに何かしらの取引をしに来ていた筈だから、むしろここは取引先なのだろう。看板があがっていないから、どういう商会が入っているのかは分からないが。
「まあ、多分仕事中だろうから話しかけない方が良い筈だよね。…さて、品揃えも少なくなってるけど、何か買おうか」
リィヴさんの所在を探ることは、村の皆の働き口を探すためにも必要な事だが、あの男性がこの町に残っているのならまだ町に居る筈。この後は一度族長たちの元へと戻るつもりだし、街道は一本しかないのだから問題はないだろう。
「…じゃあ、私は、これ」
少し遠慮勝ちに、しかししっかりとラスティアさんが指さしたのは何らかの果物。ペクリルにも似ているが、少し違うような気もする。
店員へと話しかければ、銅貨三枚だと言われる。凄まじくおぼろげな記憶だが、確かペクリルは銅貨二枚だった筈。品種が違うのか季節外れなのか、それとも運搬費がかかっているのか。
果物一つであっさり一日の宿泊費を越えているという事実に再び戦慄しながら、それを購入する。果物が高いのではなく、宿代が安すぎるのだ。
…ん?
「ねえ、二人とも。この後ってどうする?」
「え?」
ラスティアさんは無言で、カルスは並ぶ食品を見ながら、こちらへと意識を向けてくる。
「皆の、ところに、帰るんじゃないの?」
「俺もそう思ってたし、実際そこまでの問題でも無いんだけどさ」
「…じゃあ、ちょっと引っかかる事はあるの?」
「うん。…宿とか、確認すらしてなかったなって」
「「宿?」」
「…あー」
宿という言葉そのものが通じないというのは想定していなかったが、よく考えればこれも実に当然なことだった。とりあえず簡単に説明した俺は、その中でも質が良く、格安で泊まれる場所があるのだという所まで話を進める。
「…実際の事を知らない僕が言うのもなんだけどさ、タクミ。それ何か怪しくない?」
「銅貨一枚で一泊、食事付き。…この果物は銅貨三枚。どう考えても、割に合わない」
俺も最近よくそう思うのだが、しかし実際の所。
「これでなぜか成り立ってるみたいだよ?」
「ええ…?」
やはり謎だよな…。ともあれ二人と一緒に、一度宿を探すことにする。
探せば意外とあっさり見つけられるもので、中へと入って値段を訊けば…銅貨十二枚。
用事を思い出した風に装いながら外へと出て、頭を突き合わせながら三人で話し合う。
「十二倍って、どういうことだよ」
「…何か、危険な臭いが」
「僕もまだ詳しくないけどさ、流石に、それで宿の仕事は続けてられないよね…?」
この後ギルド提携の店を探して値段を訊けば、やはり銅貨一枚だった。
銅貨一枚で経営できることも、それ以外の店が銅貨十二枚でも賑わっている事。前者が冒険者限定の値段だとしても、やはり何かおかしな気配がした。
―――だが忘れよう。あまり首を突っ込んではいけない問題な気がする。
週末には確実に投稿できますが、やはり五月末まで投稿速度が下がりそうです。申し訳ありません。




