表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/1

ゲームに入りたい

 高校に入って1年が過ぎたところで、特に劇的なドラマはない。僕の猫背は治らないし、くせっ毛も真っ直ぐにはならない。


 唯一の光明は、年度替りのクラス替えでクラスメイトになった、僕の前の席に座る高橋ユリカの存在くらい。恋人でもなければ、友達といえるほどの仲ではないけれど、休み時間の僕の雑談に律儀に付き合ってくれるいいやつ。


 ――今日も今日とて。


「なあ高橋、ゲームに入りたいって思ったことない?」

 背中に向けて話しかける。


「ゲーム?ゲームって、テレビゲームとかスマホのアプリのこと?」

 振り向いて言うショートカットの女子、高橋。


「そう、そのゲーム。ほら例えばさ、オンラインゲームを模したRPGとか最近ハヤってんのよ」

「そうなんだ。入るってどういうこと?」


 なんだかんだで話の照準を合わせてくれる。やっぱり律儀だ。


「ゲームの主人公になるんだよ。そんで冒険したり、スキルを使ってモンスターを狩ったり、他のプレイヤーと交流したりさ」

「でも面倒じゃない? いま、働かなくても食べていけてるのに」


「そりゃまだ高校生だからな」

「大人になったって、命がけの仕事なんてごく僅かだよ。それに、現実社会でも人間関係ギスギスするのに、ゲームの中でも交流するの?」


「シビアだな。そんな世知辛い話じゃないんだよ」

「それに、据え置き機ならまだしも、携帯機とかスマホだと、見下ろされちゃうんだよ、ずっと」


「見下ろされるって?」

「ほら、明智(あけ)っちーだって、画面見下ろしてるでしょ、ゲームのとき」


「いやそうだけど、操作される側じゃなくてさ、自由意志を持ってんだよ」

「それってアンフェアじゃない?普段はキャラクターをいいように操ってるくせに、自分が入ったら自由に動こうだなんて。ゲームはフェアであるべきでしょ」


 それにさ、と高橋は続ける。

「遊びたくなったときには呼び出されて、思う存分遊んで飽きたら電源OFFなんでしょ。そんな都合のいい女にはなりたくないわ。タッチパネルとか最悪。体をベタベタ触られるんでしょ」


 そういえば、と高橋。

「電源OFFのときってどうしてるんだろうね。キャラクター。休憩中? 時間が止まっちゃう?」


 湧き出る疑問を止められない高橋。

「止まっちゃうんだったら、プレイヤーの明智(あけ)っちーは成長するし、年を取るけど、私はちょっとずつしか年を取らないのよね。女子的にはありがたいけど、遊び相手がどんどん遠くに行っちゃって、明智(あけ)っちーもいつかは先に死んじゃうって悲しくない?」


「僕の死を悼んでくれるのは不謹慎にも嬉しいけど。えっと、じゃあRPGじゃなくてアクションとか」

「根本的な解決にはならない気がするけど、あえて言うなら痛そう。RPGより死んじゃう回数多くない?」


「それならシミュレーションRPG」

「決まったマス目しか歩けないなんてナンセンス」


「シミュレーションゲーム」

「もうそれ現実世界でよくない」


「パズルゲーム」

明智(あけ)っちーパズル下手そう。私イライラしそう」


「落ちゲー」

「積むんじゃなくてすぐ詰みそう」


「ノベルゲー」

「私って立ち絵?」


「シューティングゲーム」

「要は反復横跳びでしょ」


「格ゲー」

「私、痩せ型が好きだから筋骨隆々はちょっと」


「リズムゲー」

「踊らされるのは嫌」


「アドベンチャーゲーム」

「人生は二択じゃないの」


「野球ゲーム」

「カープ女子って試合より写真映り気にしてそうだよね」


「サッカーゲーム」

「可愛いユニフォームならいいかも」


「カーレース」

「乗り物酔いするからパス」


「ボンバーマン」

「名前が物騒」


「ホラーゲーム」

「女子トークの方がよっぽど怖い」


「タイピングゲーム」

「キーボードって衰退していく気がする」


「囲碁」

「白黒つけるって日本人に合わなくない?グレーが必要よ」


「信長の野望」

「私は毎回島津」


「ポケモン」

「ゲットだぜ」


「ガンダム無双」

「金属資源の無駄遣い」


「将棋」

「ルール知らない」


「ギャルゲー」

「セクハラ」


「カードゲーム」

「薄っぺらいのね」


 まあでも、と高橋。

「つまらない小説に入るよりはマシかもね」


 そろそろチャイムが鳴るころだ。


<『ゲームに入りたい』 終わり>


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ