靴下くんの策略
「坂本。靴下穴空いてる」
今日の体育での事。
俺の友人、藤堂哲也にそう声を掛けられた。
なんでも俺の靴の履き替え時に穴に気がついたんだと。
よく見てんなぁ。
「貸して」と手を差し伸ばした哲也のもう片方の手にはいつの間にか裁縫セット。
何処から出したと問えば「必需品でしょ?」と制服のポケットから物が出るわ出るわ。
リップ、手鏡、ハンカチ、ティッシュにのど飴、その他諸々。
未来の青狸もびっくりなくらいの物が出てくる。
俺のポケット?……聞くな。
…萎びたティッシュしか入っとらん。
休み時間。
チクチクと俺の靴下を縫う哲也の向かい側に座り、俺はその様子を眺めてた。
「いつもありがとうママー」
「こんなデカい子供はちょっと遠慮するよ」
「……ノリ悪いなお前」
「……(ちくちく)」
「お前さー、ホントなんで裁縫なんてできんの」
「んー…俺ん家、家族は皆家事が出来ないんだ」
「まぁ、お前んち父ちゃん社長だろ?家政婦とか雇っとらんの?」
「雇ってるけど、さぁ…。流石に全部任せるわけにはいかないし、ってかんじでやってたらいつの間にか趣味になってた」
「で、いつのまにやらそこらの女子より女子力高くなってたと?」
いまだ針を握る友人をみやり、一言。
「お前がモテない理由を垣間どころかガン見した気がする」
「…うるせーやい」
顔は良い部類に入る我が友人様は何故か異様にモテない。
原因はきっとこういうところにあるんだろうな、うん。
「女子力といえばお前、あれから澤村さんとはどうなんだ?」
ぷす
「ぃて!」
………。
「分かり易い反応をどうもありがとう」
指を抑えながら気まずそうに目線を逸らす哲也に俺の目はそれはもう冷ややかになっていたに違いない。
その日は朝っぱらから哲也のテンションが異常に高かった。
「聞かないの?ねぇ、聞かないの!?」オーラ全開の彼を昼休みまで放置してから仕方なく聞いてやったところ(凄いしょんぼりしてて罪悪感が湧いた)、クラスメイトの澤村さんが手芸部だと知ったらしい。
「俺、絶対その子と仲良くなれると思うんだ!だってあの鞄も筆箱も手作りなんだって!縁の縫い方が……(略)」
俺には理解不能だったがとりあえず澤村さんが凄い事は解った。
そして。
その日の帰り、「俺、ちょっと話しかけてみる!」と意気揚々と去っていった友人を見送った。
…のが二ヶ月前。
ヘタレか!!
「もうあれから2ヶ月だぞ?」
「…だって」
話しかけられないんだもん。
ぼそりと吐き出されたそれはなんとも情けない言葉で。
無意識に割と本気のチョップを仕掛けてしまった……が。
俺は悪くない筈だ。
という訳で。
今だぐずぐずとしている哲也のために俺が一肌脱いでやることにした。
いつも(の靴下)のお礼にな!
坂下くんの靴下の穴は週単位で再発する。