幼馴染みの黒魔術で異世界にやって来たが、この世界も案外悪くないかもしれなくはないのかもしれないこともない。その壱
前回のあらすじ、
初体験が剃毛プレイ……。
(なんて酷いあらすじだ……)
「ふぅ……こんなとこかな?もう大丈夫だよ、ミコト。剃刀負けしないようにお風呂上がりに軟膏を忘れずにつけてね」
忍が何か言ってるが耳には入ってこない。
もうね……死にたい気分ですよ。
羞恥心で頭が沸騰しそうだよ……。
よくエロマンガとかエロゲーとかで処女がレイプされて『初めてなのに……なんでこんなに感じちゃうの?……嫌なのに……ギシギシアンアン♪』みたいな展開あるけど、あれは嘘だな。
知らない奴にいきなり性器や尻の穴とかを弄られて恥ずかしくない奴はそりゃもう開発・調教済みか真性の露出狂だ。
今の俺がレイプ目で放心してるから良く分かる。
もうレイプモノは止めよう……。
このトラウマがフラッシュバックするかも……。
これからは非現実な触手モノにしよ!
「もう、さっきからボケェっとしてるけど、のぼせるよ?」
「あ?そんなにもう経ったか?」
『のぼせる』の一言で我に還る。
混浴だと言うのに羨まけしからん展開はなく、局部の毛を剃られる展開しかないのか……。
もうちょっとテンションやリビドーが高まるようなナイスな展開を用意してくれよ。異世界なんだからメイド隊によるハーレムとかさ。異世界と言ったら非現実、非現実と言ったら男の夢、男の夢と言ったら……。
はぁ、男の体を返せ!
「というかさ、これからどうする?」
このまま入浴を続けていても嬉し恥かし面白イヤらしい展開なんて起こりそうにないから脱衣所で着替えようと思ったが忍が何か質問してきた。
「どうするとは?」
「これからの予定さ。食事を取って、保存食、魔除けや洋服を買って、それから?」
「帰宅だな」
「帰宅してそれから?」
「それからってなんだ?」
「それからだよ、異世界で暮らしていくんだから他に何やろうか?」
「何ってなんだよ。むしろ何をやるんだ?」
俺は『何もやらない』をやりたい。
「だから、それを考えようと思って」
「とりあえずお前は黙れ。お前はメイドさんが使える奴かどうかの心配だけしてろ」
……お願いだからお前は何をやらないでくれ。頼むから。
「う~ん……。ま、確かに時間ならたっぷりあるしメイドさんが来てからで良いか」
風呂から上がった俺達は空腹という悪魔を祓うために食堂へ女王の使用人と思しき人物に案内されて向かう。
食堂に着くと藍色の綺麗な髪の毛(でおまけに巨乳)のメイド服を着た女性が深々とお辞儀してきた。
「始めまして、ミコト様、それに忍様。私はこれからお2人にお使いさせていただくパティと申します。以後よろしくお願いします」
おぉーー。なんかデキる女って雰囲気が出てる。
かなりベテランな気がする。
「どうも、よろしく。ところでこの仕事はどのくらいやってるんですか?」
「今年で4年目になりますが?」
……そんなに長くない?仕事に慣れ始めた頃か?
そう言えば忍が何も言っていないことに気付く。
見てみると何やら思案しているらしい。
「忍様?如何なされましたか?」
「違う、それが違う」
本当にこいつは何を言ってるんだろうかね?
バカの考えは俺にはよく分からない。
「呼び方が違うんだ!『忍様』じゃなくて『お嬢様』だよ!」
そんなことで悩んでいたのか……。
本当に阿呆だな。
小学生がよく『馬鹿!阿呆!ドジ!間抜け』と罵ることあるけど、この4連単語はこいつのためにあるんじゃないかと思う。
「分かりました、お嬢様」
「うむ、よろしい。で、こっちも『ミコト様』じゃなくて『ご主人様』で」
「分かりました。よろしいでしょうか?ご主人様」
俺はそういうのにこだわりないし……でも、なんか良いね♪メイド喫茶に入り浸る奴等の気持ちが少し分かった気がする。
「それでは、お嬢様とご主人様、こちらへ」
パティに連れられてテーブルに座る。
食堂というと何故か質素なものを想像してしまう気がするが、そんなことはなく、高級レストランの個室のようだ。
冷静に考えると当然である。
だってレストランって食堂って意味なんだから。
高級レストランに専属のメイド。
ここは天国ですか?いいえ、異世界です。
「こちらはオリーブとスモークサーモンのマリネになります。それから食前酒の白ワインでございます」
凄い、さすが王城。
料理も超一流に見える。
こういう高級な料理ってのは大皿の面積に対して比較的に小さく盛り付けられているイメージなのだが、テンコ盛り!
通常ならこれだけで満腹になりそう。
隣のおバカさん、もとい忍は既に食べ始めていた。
白ワインはまだ注がれてないのに……。
俺はそんなにハイエナと違って白ワインを味わってからサーモンのマリネを頂く。
美味い!ファミレスなんかじゃこのレベルは食べられないな。
「続いて、こちらはオニオングラタンスープになります」
熱々のスープの上にチーズが乗せられた食パンが浮いている。
これもまた美味い。
因みに隣に座っているおバカなハイエナはスープを一気飲みしようとして舌を焼いたようだ。
ば~~っかじゃないの?
「お次になりますのが、牛肉の赤ワイン煮込みになります」
贅沢に牛のヒレ肉を野菜とハーブを加えた赤ワインで煮込んだ最高の料理だ。
これが不味いわけがない。舌が蕩けるとはこういうことを言うのだろう。
食べているのにお腹が空いてくるほどである。
うるさいハイエナは「マナーなんて関係ねぇ!」と言わんばかりにズヴィズヴィ~っと音を立てて飲んでいた。
本当にはしたない女だ。
……この表現だけだと卑猥に聞こえるのは何故だろう?
「では、今回のメインディッシュの子豚の丸焼きとローストターキーでございます。お2人のために1頭と1羽分を焼いてあるので量は問題ないかと」
子豚の丸焼き!それにローストターキー!
これらを直に見るのは初めてだ。
子豚と七面鳥がシェフによって切り分けられる。
切り分けられた豚肉と鶏肉が皿に盛られる。
さっきマリネや赤ワイン煮込みを食べたのにこんなに!?
最高だね!
ハイエナさんは切り分けられてる最中、じっと我慢しているのだが涎を垂らしながら舌なめずりして目をランランと輝かせ待っている。
少しも食欲が落ちてない辺り異常だ、異常すぎる。
「最後に食後のデザート、洋梨のシャーベットをどうぞ」
まだ最後のデザートが残ってたか。だがこれもまた非常に美味しい!
さっきから『美味い』とかしか言ってないな……。
ボキャブラリーが貧困な俺はどうやらグルメリポーターにはなれそうにない。
『子豚の脂が舌の上でダンスしてやがるぜ!』とか『ラフランスが鼻腔へ特攻してるぅ~♪』くらいのことを言ってみたい。
隣の奴も同様の感想のようである。
しかし、こちらはかなり余裕があるらしい。
昨日あんなにヒステリックになってたのも伊達ではなかった。
「ご主人様、お嬢様、ご満足いただけましたか?」
「もちろん」「よきにはからえ~♪」
人間の3大欲求の1つである食欲は完璧に満たされた。
腹がはち切れそうだ、……うぇっぷ。
食堂を出て俺と忍とパティは城下町に向かおうとした。
「ではご主人様、お嬢様、食料の方は私にお任せください」
パティが率先してメンドそうな役回りを引き受けてくれる。
有難い、どこぞの阿呆とは違う。
が、しかし。
「ちょい、待ち。俺達の軍資金はお前が持ってるのか?」
「はい、そうですが?」
きょとんと首を傾けて『何か問題がありますか?』とのニュアンスで訊き返してくる。
「こっちも服を買いたいんだ。それから魔除けも」
「そうでございましたか、失礼しました。よろしければこちらで魔除けの方も買ってきますがどうなさいますか?」
「そうか、頼む。とりあえずいくらあれば足りるか……」
……100万で良いか?1年分もあれば十分だろ?
日本なら平均年収の600万円も有れば何でも買えるぞ?
「分かりました。では100万ダラーになります」
パティからアタッシュケースに入った100枚の札束を手渡される。
今まで何処に隠していたのだろうか……。
きっと突っ込んではいけない禁則事項なのだろうな。
で、これがこの国の紙幣か。知らないオッサンの顔がケースの中にぎっしりと詰まってあるのは少し気味が悪い。
「ご苦労様、じゃあこっちも買うもの買ったら戻るよ。じゃあな、2人とも」
「うぇ!?なんでボクを置いていこうと思ってるの!?」
お前と買い物?
嫌だ、激しく。さっきのやり取りを覚えている。
無理矢理女物を着せられても困る。
ここは無難な物を買わなければなるまい。
もちろん俺はまだ寝巻きなのだ。
もらったこの100万ダラーを使ってまともな服を買わないとな。