幼なじみの黒魔術のおかげ(?)で金塊を手に入れて異世界でウハウハと言う展開に……はならないようだ。
前回のざっくばらんなあらすじ、
空腹と闘う。
しりとりが終わって、次の朝。
ぎゅるる~~。
「お、おはよ……」
たった1日夕飯を抜いただけなのに忍が倒れそうな声で朝の挨拶をする。
「おはよう。大丈夫か?」
「……どんな判断だ。これが大丈夫に見える?」
よほど疲れているらしい。今から金を換金しに行くのに大丈夫か?
「……無理」
「でもここで死んでたら、食事できるのも数時間後になるぞ?往復だけで5時間もかかるんだから」
「よし! 今すぐに行こう!」
そんなわけで俺と忍は飲み水と金の延べ棒を6本ほど携帯して王城に向かった。もちろん馬で。
~約2時間半後~
とりあえず過程はすっ飛ばして王城に到着。
城の門番みたいな人に事情を説明して城下町に入ろうとしたがここで軽く時間を取られた。
待ってる間に死にかけている忍に門番さんが御握りを恵んでくれなかったら忍は気を失っていたのかもしれない。
いや餓死してたかも。
「で、また貴様等か。今回は何のようだ?」
門を抜けて通されると、我等がトラウマの権化、女王陛下がおらっしゃる。
「じょ、女王陛下。我々は別に陛下を呼んだわけではないのですが……お暇なのですか?」
「暇なわけがないだろ。これが私の仕事なのだ。申し訳ないと思うなら用件をさっさと述べろ」
謁見も王様の重要な仕事ってわけなのね。
こっちもこんな怖い女王様と話したくなんてないので端的に言ってさっさと出て、何か美味いものを食べよう。
「陛下に頂いた件の屋敷なのですが、実はあそこに大量の金塊があったのでそれを換金しようかと思いまして」
「金塊?貴様等、あの屋敷で金塊を見つけたのか?」
「それが何か?」
「いや、あの家はとある貴族の別荘だったのだ。しかしその貴族が家族揃ってその別荘に旅行に来た時に盗賊に襲われ、全員殺された」
うわぁ……。あの家の死体は殺された貴族様のだったのか……。
「貴様等の常識はわからんが、この国では殺害された貴族の財産は国が国庫として使用することになっている。そのため、その別荘に隠されている財産を我が兵が押収しようとしたのだが金塊の類は全く見つからなかったのだ。何処にあった?」
「隠し通路の奥に」
「あの屋敷には108つの隠し通路が迷宮のように作られているのだが、よく見つけたな」
「それはこの忍が……」
忍のことを褒めようと思っていたのだが、目を瞑って耳を手で押さえて丸まり戦慄していた。そういやこいつ、ホラー映画とかダメだったな。
「忍、忍。大丈夫か?」
ビクリっとなり危険を回避しようとしている草食動物みたいになっている。少し面白いな。ちょっと弄るか。
「実はあの屋敷には大量の悪霊が住み憑いているらしくてな、あそこに足を踏み込んだ人間は悉く死んでいるらしい」
「!!」
再びブルブルと震えだす。やっべ、面白い♪
「そしてドンドン鼠算的に悪霊が増えていってこの国の国民には『ゴーストハウス』として有名なんだってよ」
歯をがたがたと鳴らして本気で震えだしてきた。
ちょっと、やりすぎたか?
「なんてな、驚いたか?」
「……う、ウソ?」
涙目でこっちを上目遣いで見つめてくる。
こいつ相手に罪悪感を感じる辺り俺も甘いなぁ。
「そそ、作り話だ」
「話を戻すが、貴様等はここに金塊を換金しに来たのだったな?しかし、説明したようにこの国では死んだ貴族の財産は国が管理することになっている。ゆえに貴様等は全くの無駄骨になるのだが?」
「「は? ふざけんじゃねぇよ」」
俺と忍が怒りのあまり同時に同様の内容を発言する。
「……悪いがこれはこの国の法なのだ。さすがの異世界人であろうとこればかりは優遇させるわけにはいかない」
露骨に憤慨している俺達に対して女王が謝罪の念を込めずに事務的に謝罪してくる。
そんなセリフで怒りが治まるならクーデターなんて怒らない平和な世界になってるだろうよ!
「陛下、少しよろしいですか?」
その場に居た老人が物言いたそうに挙手をして女王に近づいて行った。
(どうかしたか?)
(確かにこの国の法ではそうなっていますが、この異世界人たちと良好な関係を築くチャンスではありませぬか?それをわざわざ逃す必要はないかと。金塊の1割くらい彼らの技術を手に入れるための投資と言う考え方も)
(なるほど、確かに1割程度なら例外として奴等にくれてやっても文句を言われることも無いかもしれないな)
「気が変わった、貴様等が手に入れた金塊の1割程度は進呈しよう」
お?マジか?
意外と慈悲深いんだな。
あの爺さんが何を言ったのか知らないが有り難い。
ありがとうそしてありがとう。
見知らぬ爺さん。愛してないけど愛してるぜ!
「その代わり、貴様等にはあの秘密基地の物品の技術を我々が再現できるように協力してもらおう。もちろん、その都度報酬は渡す」
「その程度なら協力させてもらいましょう。我々に出来る限りのこと」
『出来る限り』という言葉には責任が存在しないから便利だな。
政治家が言う『善処』と同じくらい便利だ。
「では、その1割程度を持ってきたので見積もってもらえません?」
そう言って俺は持ってきた金の延べ棒を取り出した。
「ほぉ……随分と立派だな。誰か、今のレートに詳しい者は居ないか?」
女王は金塊に見惚れ、家来に査定させるように命令した。そして1人の女性がそっと延べ棒に近づいてこう言う。
「今のレートだと……6本で大体1億ダラーでしょうか」
「そうか、では財務。1億ダラー分の紙幣を用意しろ」
女王が命令すると数人の家来が部屋から出て行った。
「陛下、1億ダラーとはどのくらいの金額なのですか?」
「この国の平民の平均年収が約100万ダラーと言えば分かるか?」
平均が100万?
ということは……えっと、1億÷100万は100?100年分!?
「では、そう何度も来られても面倒だから他に何かあるか?」
女王が頬杖を突きだした。
よほど面倒くさいのか目が退屈色に染まっている。
「とりあえず食事と屋敷の改装を望みます」
と俺が願望を言わせて貰った。
「そうか、とりあえず後で食事の方は食堂で勝手に取ってもらうとして大工の方を手配させておこう。そっちの阿呆は?」
「メイドさん!メイドさんが欲しいです!」
「『めいどさん』?冥土産?貴様等異世界人はあの世と交信することが出来るのか?」
違う、その冥土じゃないです。
しかし、メイドって何て説明すれば良いのかね?
一部のオタク曰く「メイド≠家政婦」らしいが?
「我々の国では個人宅で住み込みで家事労働などを従事する女性のことを指します」
「あぁ、下女のことか。それも手配させておこう。
ではこれで終わりか? 終わりなら風呂でも入って時間を潰して来い。貴様等の格好から見て水浴びすらやっていないようだからな」
風呂?良いね、風呂は。日本人だもん。お風呂大好き♪
……アレ?今、俺は女なんだろ?ってことは……。
「一緒に入ろうか♪ミコト♥」
忍が本来なら喜ばしいようなセリフを言ってきたのだが嫌な予感しかない。
怖い、色んな意味で怖い。
さっきのリベンジをされるかもしれない。