女王閣下のご好意で遂に貴族になれるわけだが、それはそれでとてつもなく大変なことになりそうである。
前回のあらすじ、
アン・ウィルバインがダナーに虐められる。
「マスター、朝になりましたがご気分はよろしいですか?」
なぜか今朝はダナーに起こされた。
「あぁ、悪くない。でもなんで今日はお前が起こしに来る?」
いつもならパティの仕事なのだが、昨日の件で嫌になったのだろうか?と心配したのだがダナーがアホなことを言い出した。
「マスターが『誰も部屋に入れるな』に言われたので電磁トラップをドアノブに仕掛けさせていただきました」
今すぐ解除しろ、バカタレ。
「おはようございます、ご主人様。お客様が来られてますよ。ご心配なく、ウィルバイン様ではありません」
昨日のあの発言があったとはいえ、仕事であるのでしっかりと挨拶をしてくれるパティ。
客がウィルバイン嬢ではないのは安心なんだが……ウィルバインの名を聞いた忍が何やら妙な顔をしている。
また何かやったのか?こいつは。
「ち、違うよ?ボクじゃないよ?ダナーだよ?」
どっちでも良いわ。
「おはようございます、ミコト様。朝早くから失礼します」
先日の脱税問題の時の親衛隊さんっぽい人がまた来ていた。
「今日は何のようだ?脱税はしてないと思うんだけど?」
「いえいえ、本日はミコト様にとって良い話です。実は女王陛下と評議会がミコト様に『男爵』の地位を与えようと考えられておりまして」
ちょっと何を言われたのか理解できない。
ある程度質問攻めにしたほうが良いかもしれない。
「評議会ってのはこの国のお偉いさんの集まりみたいなもんか?」
「その認識でおそらく合っているかと」
「『男爵』ってのは所謂爵位ってやつか?」
「もちろん、その男爵です」
うぅむ……謎だ。評議会ってのはともかくあの女王が俺に爵位を?
「……ちょっと考えさせてもらっても良いか?」
「構いませんよ、ミコト様にも気持ちの整理が必要でしょうから。では本日は失礼します」
会釈をして親衛隊さんは帰っていった。電話がないからこんな知らせのために数時間往復するのか、大変だな。
「どうかされましたか?ご主人様。良い話だと思いますが」
パティが不自然なモノを見るような目でこっちを見てきた。
「やはり今の話は受けたほうが良いか?」
「もちろんです。男爵とはいえ爵位を手に入れればそれだけでそれなりの収益が手に入りますよ?」
やはり、金か。
お前は金のために俺の元で働いているからな。
「そこが逆に怪しくないか?」
「どこがです?」
「あの女王がこの俺をそんな簡単に男爵にすると思うか?」
「いくらなんでも疑いすぎじゃないですか?」
楽天的過ぎると思うな。
あの女王だ。
ダナーの一件があったからってそんな簡単に俺に権力を与えるとは考えにくい。
なにか裏があってもおかしくないのだが……。
「ところでこの国の爵位ってどんな感じなんだ?」
「どんな感じ、ですか……ええっと、一番偉いのは『大公』で女王陛下の次に権力を持っている方々です。この方々は地方を統治されています。そして次の『公爵』はご存知だと思います。この方々は王都や地方で色々な活動をされております。ついで『辺境伯』と『伯爵』となり『男爵』になります。この辺りは十分に仕事が評価されだしている地位と言う感じですね。そして最後に『騎士公』となります。『騎士公』は騎士達の統率者と思われます。戦時などの功績が認められた実力者でもあります。因みにご主人様の現在の地位は『名誉貴族』と正式な貴族ですらありません」
「詳しいな……お前が貴族用ってのはどうやら本当らしい」
「どうしてそこを疑っていたんですか……」
いや、だってお前は駄メイドだし。
「そもそものこと訊いて良い?爵位って何?」
「簡単に言えば貴族の地位のようなモノですよ。厳密には地位ではなく称号ですが」
「なるほど、分かりにくい……」
「会社とかで社長とか部長とか係長とかあるだろ。それじゃね?」
知らんけど。
「あぁ~、なるほど分かりやすい」
合ってるか知らんぞ?
「……あれ?ということは貴族ってのはこの国に雇われてるって感じなのか?」
「少なくとも私はそう認識しております」
「じゃあ、さっきの親衛隊とかはどうなってるんだ?この国が雇ってるんじゃないのか?」
「おそらく私同様に個人的に雇われているのではないでしょうか?親衛隊ならば女王陛下に。ご主人様も先日調査隊として雇われたではありませんか?」
あぁ、あんな感じなのか。
つまり貴族ってのは公務員って感じか。
で、大公とか公爵は国会議員や県知事市長クラスってわけ?
税金で良い暮らししてる辺りは俺達の世界と変わらんな。
俺も高卒で公務員目指して区役所に就職して適当に生きるべきだったかなぁ?
もう関係ないけど。
どうせ帰れないし、どうせ男に戻れないし。
「ダナー、お前はどう思う?」
「はい、あの猿が何を企んでいようとマスターには酷い目はあわせません。ご安心ください」
求めていた回答とは全然違う。
「良いんじゃない?男爵って爵位を手に入れた後で女王様達が何かを企んでいてもダナーが居ればなんとかなるんじゃない?」
それが希望的観測だって言ってるんだよ。
「ご主人様、考えすぎですって」
「パティ、お前は推すな」
「当然ですよ、ご主人様が男爵になれば私にもそれなりの給料が支払われますから」
金か、知ってた知ってた。
メイドとは仕事的な関係しか生まれない。
オフィスラヴってあるんですか?
あ、今の俺は女だった、恋が芽生えるわけがない。
…………はぁ……。
「ご主人さまにも下女である私にも十分なお金が手に入るわけです」
何度も言わなくても分かるわ。
「それに、食費のことも気にする必要もありませんよ?私のサラダが毎日同じモノだと嘆く必要もありませんよ?」
この前、ホテルで料理のレパートリーが少ないって言ったことを気にしてるの?怒ってるの?
ごめんね!!デリカシー無くて!!
「それで、断るの?受け入れるの?」
忍が催促してきたので熟考しようとしているとミシェルが欠伸をしながらリビングに入ってくる。
(ふわぁ……おはよぅ……長い間寝てた気がするよぉ……)
おはよう、相変わらず可愛いよ。
(何話してたの?)
「女王が俺を男爵にしようってしてるからどうするか悩んでて」
(良いんじゃない?お金は必要なんだよね?それに貴族になった方が色々と都合良さそうだけど?)
「そういうもの?」
(でも、少なく見積もっても男爵の年収は1000万はあるはずだよ?)
よし!決定だ!
愛してるぜぇ~、ミシェル♪
そんなわけで俺は愛馬のサンダーボルトに跨り王城に向かった。
向かったのだが、なぜかオールスターである。
つまり全員集合。
なぜ忍もダナーもパティもミシェルも居るのだろうか?
(ちなみにダナーはミドリを抱えている)
「忍、なぜこうなる?」
「こうって?」
「俺を男爵にするって話だよな?」
「みたいだね?」
「なぜこうなる?」
「同じ質問を2回するのは嫌いなんだけど?」
「……もう良いわ、お前は」
「今回だけは君が悪いと思うんだけど……」
いや、お前が付いて来る理由が理解できん。
「ダナー、なぜこうなる?」
「マスターを1人であの猿の前にしないためです」
お前の必然性は分かる。
「パティ?お前は」
「ご主人様が男爵になる場面に傍にいれれば私の株も上がると思われるので」
それはおそらく建前だな。
「本音を言え」
「サボる口実です」
このクズが!
(…………あれ?わたしには何も訊かないの?)
「ミシェルは構わない、構うのはBPだけである」
(なんかそれはそれで寂しいよ)
ごめんね、ミシェルには文句がないだけだよ。
と俺は露骨に贔屓する。
▽
女王陛下に謁見を申し込んで数時間後、ようやく謁見できたのだが、いつも拉致されてる場所に入ると廃棄物を見るような目で睨まれた。
「で、今日は何用だ?」
いや、アンタが呼んだんじゃねえのかよ?
「陛下が当方を男爵にしてくれるという話を聞きましたが?」
「あぁ、その件か。てっきり断るものだと思ってた。というよりも断れ」
どういうこっちゃ?
アンタが俺に男爵の地位を与えてくれるんじゃないのか?
「いや、それは違う。貴族の地位と言うのは女王や大公の一存で決まりはしない。主に評議会の連中とその他の貴族の賛成で決まる。そして評議会の出した意見というのは女王とは言えまともな意見無しでは却下できない。異世界人に爵位を与えたくないという理由だけでは却下できないのだ。というわけで断れ」
その話を聞いて俄然拝命したくなったわ。
「チッ!」
どうやら本気で嫌らしい。
はっ!ざまぁみろ!
俺はアンタが嫌がることなら何でもやるぞ。
「あ、そうそう。こっちの方は本格的に断ってほしいのだが縁談の話があるのだが断るよな。うん、分かった、先方にはそう伝えておこう」
ちょ!?待てよ!!
縁談って何だよ!?
結婚とかの縁談ですか!?
「食いつくな、お前の意向は責任を持って伝えてやるから」
なんで自分から言い出したのに乗り気じゃねえんだよ!!
「こちらにも道義がいる」
つまり、話をしたという事実がいるのか?
「けど、一応詳しく聞こうじゃないか?」
「図に乗るなよ?このクズが」
「ダナー、威嚇射撃を」
「アイマム」
ダナーがゴム弾を女王に向かって狙撃するが、軌道が正確すぎたせいか女王は座ったまま剣で弾き返す。本当に化物みたいな運動神経だ。
「チッ、本当にたいした事はない。公爵家の一人娘が貴様に興味を抱いてな。取り持ってくれと頼まれただけだ。それ以上のことはない」
ほほぉ?こちらも興味深いな。
ん?公爵家?公爵って言ったらカオルーンか?
「あぁ、その公爵だ。カオルーンの一人娘を知ってるのか?」
「いえ、存じません」
「そうか、分かった。公爵家の方にはそう伝えておく」
「だからそうなるんだよ!!」
「面倒だ、私はもうお前とは関わりたくない。自分の思い通りにならない相手と言うのは嫌いだ」
本当にガキ大将みたいな奴だな。
「で?形式的に聞くがどうするつもりだ?」
「ちょっと待ってくれ」
俺はその場に居た(ミドリ以外の)全員の意見を聞くために円陣を組む。
「どうするべきだと思う?」
「断るべきだよ」
「なんで?」
「あの屋敷でボク以上の地位を手に入れる人物はミコトだけで十分だよ」
忍、お前は本当に自分勝手な奴だな。
因みに俺が思う序列は、ミシェル・俺・ダナー・ミドリ・忍・パティの順番だ。
ミシェルが一番上な、これは不変である。
異論?認めません。
「公爵家のご令嬢と仲良くなれれば昇進も簡単に思えます。大公も夢ではありませんよ?」
パティは推す。そうとう俺に出世して欲しいらしい。
「大公か……。金はどのくらいなのか分かるか?」
(わたしのパパが大公だったって言ったら分かる?)
「よし、それで行こう!」
さすがはミシェルである。
困った時はミシェルの意見を聞けば大抵は何とかなるように思える。
バカとポンコツとホムンクルス、まとめてBMPの意見は役には立たない。
BMPってなんか妙だな、発音的にはBLTと似てるんだけど。
あぁ~、ベーコンレタストマトサンド食べたい。
「では、紹介してください。むしろお願いします!」
「ちっ!仕方ない。おい、アン!入って来い」
女王様がアン・カオルーン(仮)さんを呼ぶ。
なんだよ、もう来てたのかよ。
……ん?アン?
最近知り合った誰かがそんな感じの名前だったような……?
そして、金髪ポニーテールで黒色のドレスを着ている美少女が女王の近くにやって来る。
「お久しぶりです、ミコト様。お体は大丈夫ですか?病み上がりと聞きましたが」
…………予想を裏切らず、ウィルバイン嬢ことアン・ウィルバインであった。
え?どういうこと?
「アン、もう手を回していたのか?」
「いえいえ、ただお礼をしに行っただけですよ。伯母上が思ってるようなことはありません」
「女王陛下、これはどういうことですか?」
「全て説明したとおりだが?」
???
「改めて自己紹介させていただきます。わたくしの本名はアン・ウィルバイン・リステシア・ヴィス・カオルーンと言います。長いのでいつもはアン・ウィルバインと略しております」
アン・ウィルバイン・リステシア・ヴィス・カオルーン……カオルーン?
「あぁ、そういうことだったのですか。ウィルバイン家なんて貴族様は聞いたことなかったのも納得です。あ、ご主人様、想像されてると思うでしょうがカオルーン公爵の正妻は女王陛下の妹君です」
「この駄メイド!!公爵の正妻が女王の妹ってヒントが存在したならもっと早くに気付けよ!!」
「しかし、女王陛下の妹君は形式だけなら25名ほど居られますが?姉君なら13人ほど」
王族ってそんなに居るの!?
てっきり親族全員で20人程度かと思ってた。




