幼馴染のせいで金髪美少女とのフラグが立ちそうで立たないのだが、立たなかった方が良かったのかもしれない……。
前回のあらすじ、
忍とウィルバイン嬢の出会いは最悪モノであった。
寝室を出てリビングに入る。
いつもどおりの朝を向かえ……いつもどおりじゃない、暑い……暑い……。
扇風機はありませんか?
「ふぅ……今日は暑いな……汗をかくわ」
気持ち悪い……。
エアコンとか無いのかね?
昔の人間は熱中症にならなかったのだろうか?
リビングでは忍がジャムを塗り捲ったトーストを齧って「ほふぁよう~」としゃべっていた。こいつは暑くないのかね?
寒がりの幼なじみに対して失礼なことを思っているとパティが気の利いた一言を発する。
「おはようございます、ご主人様。風呂場で水浴びでもなさいますか?」
「そう?じゃあパティ、準備を頼む」
「了解です」
パティに水浴びの準備をさせ、俺は着替えを自室に取りに行く。
◇
「ミコト様!わたくしは戻ってきました!」
ダナーが突然リビングに入ってきたあの謎の貴族の少女にゴム弾を撃った。
……名前なんだっけ?ウィリアムだっけ?
ダナーのゴム弾を回避したのだけど、ダナーは足払いをしてアイアンクローで貴族さんを痛めつける。
「ぐぎぎぎ!いたい痛いイタイ!」
「はぁ~い、ドゥドゥ」
トーストをお皿においてダナーを静止させる。
煩くて朝ごはんを気持ちよく食べられない。
「了解、行動を一時停止します」
「な!?何をするんですか!?」
「侵入者に対して威嚇攻撃を行うことがそんなに不自然ですか?」
「威嚇ってレベルじゃない!?」
煩い女だなぁ……。
まったくこんな人間に絡まれてミコトも大変も可哀想。
「で、えっと……ウィリアムさん?」
「ウィルバインですわ!アン・ウィルバイン!!断じてウィリアムなんて男性らしい名前ではありません!」
「ウィルバインさん?(別にどっちでも別にいいけど)何か用ですか?」
「ミコト様に会いに来たのです。その件に関して居候如きに文句を言われる筋合いはありませんわ」
なんだろうか?この人は何か酷いことを企んでる気がする。
「ダナー、やっちゃえ」
「御意、侵入者を気絶させます」
スタンガンでもスタンロッドでもなく、腕を電撃的なバチバチと言う音を発させて『スタンアーム』とでも形容すれば良いモノで攻撃する。
しかし、ウィリアムは至近距離からのそれすらも避け、逆に巴投げでダナーを投げ飛ばす。
「ちょっと!?どうしてそうなるのですか!!」
特に理由はない、ムシャクシャしただけである。
「むっ……あの猿よりは劣るにせよ、なかなかの運動性能です」
「猿?誰のこと?」
なぜここで『猿』という単語が出てくるのか謎である。
ゴリラやオランウータンとでも闘ったのだろうか?
オランウータンって簡単に人間の腕を引きちぎれるらしいよ?
そういう意味では怖い。
「マスターは女王と呼んでいました」
「女王?女王と一戦やったの?」
「肯定、あの猿がマスターを殺そうとしていたので逆に殺してやろうと思ったのですがマスターに止められました」
あの女王様はそんなことをしようとしてたのか……。
「伯母上がミコト様を……?」
「伯母上?女王が伯母?」
「な、なんのことかな?」
誤魔化すのがボク以上に下手糞だな、ウィリアムさんは。
「心拍数の増加を確認、他の要素から鑑みても動揺しています。つまり嘘をついています」
「なるほど、彼女は確実に女王の姪ってことね」
「100パーセントそうでしょう」
「なるほど、そういうことだったのか。ミコトが偶然助けたことを良い事にミコトを篭絡して異世界人と友好な関係になってボクらの世界の技術を奪い取ろうとしているってわけね」
「ち、違う!そういうつもりじゃ……」
「……舐めるなよ、異世界人は1人じゃないんだぞ?」
久しぶりにぷっつんしちゃった。
まぁいいさ、彼女がミコトに近づく理由は謎だけど何かを企んでいるのは確定だろうから。
「この栗原忍はミコトと違って簡単には攻略できないことを伯母にも伝えて出直して来い」
「くっ……」
そう言ってウィリアムは部屋を出て行った。
気分が良い♪
ボクよりも阿呆な人間が調子に乗るからボク程度に言い負かされるんだよ!
◇
「ふぅ……♪さっぱりぃ~」
寝汗でベトベトしていた寝巻きを着替える。
なぜ起きたのにまた寝巻きに着替えたかって?
いや、外に出ないのだから動きやすい寝巻きでも良いだろ?
「気持ち良さそうだね、ボクも浴びてこようかな?」
「おぉ、入って来い入って来い」
何やら『一汗かいたからボクも浴びたから』みたいなニュアンスで水浴びに行った。
なぜ今の普通のセリフでそう思ったのかは長年の付き合いとしか言えない。
「マスター、少々よろしいでしょうか?」
「ん?どうした?」
ダナーが何かを報告したいそうである。
「先日のアン・ウィルバインという方ですが、彼女は王族だと言うことが判明しました」
「王族?マジで?」
王族ってことはやはりあのババァの姪ってことか?
似てねえ……。
「つかなんでこのタイミングで分かったんだ?」
「今さっき訪れた際に暴露して帰って行きましたので」
俺が水浴びしている間に何が起きていたのだろうか?
キャットファイトの再開?
ヤダナー。
「彼女は何か危険な思想を抱いていると忍お嬢様が判断していました」
何だよ、危険な思想って。
テロでもするのかね?
ダナーが居ればその程度の敵から身を守ることなども楽勝だろう。
きっとATだのIだのGNだのの力場を形成することも出来るかもしれない。
「ところで彼女は何しにここへ?」
「『ミコト様に逢いに来た』と言う名目で」
名目という言い方がなぁ……。
名目って言い方じゃなかったらなんか恋が生まれそうなのに。
ミシェルとのフラグも立たない、ウィルバイン嬢とのフラグも立たない(というか立たせてくれない)、忍とのフラグは立ちかけているらしいし……マズイ、このまま何もしなかったら確実に親友EDだ。つまりバッドエンド、ギャルゲーならただのゲームオーバーだ。なんとかしないと……。
打開策は後でいろいろと考えるとして、まず朝飯を食べなければな。
パティが用意していたサラダを食べるが、毎日毎日同じようなサラダを食べると飽きてくる。
日本ならドレッシングだけでも数十種類はあるし、店ならハーブや塩の使用量とかで味も変わるような……。
帰りたい、帰って美味いモノが食べたい……。
人間の三大欲求の1つの食欲を本格的に満たすための努力と言うのも悪くないかもしれない。
性欲のためだけに働くと言うのも俗物っぽくて小者感が酷い気がするし。
「ところでパティ、ウィルバイン家ってのが王族って言うのは間違いないのか?」
「ウィルバイン家ですか……?聞いた事はないですね」
皿洗いを死ながらパティが少し考えてから返答する。
「お前が知らないってオチではないよな?」
「一応、私は貴族用の下女として雇われているんですけど……」
「そうなのか?」
「そうなのです」
ぶっちゃけどうでも良い、お前がどういう層を顧客にしているかなんて微塵も興味が無い。
「じゃあ、女王の本名って何なんだ?ウィルバイン家とは関係ないのか?」
「アリシア・ワルスト・クロイツ・ルゥ・ストルスフィアですよ。おそらくウィルバイン家とは無関係ですね、名前だけなら」
発音しにくい上に覚えにくいな。記憶しなくていいんじゃね?
「因みにこの国の名前がストルスフィア王国だと言う事はご存知ですよね?」
「へぇ~、そうなんだ」
これは記憶しておこう、以前この国の名前が分からなくて死に掛けたし。
ってことで女王様はストルスフィア女王で良いかな?
「帰ったと思いました?私はそんな簡単におめおめと逃げ出すような腰抜けではありませんわ!」
何やら涙目でウィルバイン嬢が部屋に入ってくる。
彼女はどんな目にあったのだろうか……。
あの忍にそんなに酷いことができるとは思えないが……。
「よぅ、おはよう」
サラダに伸ばしていた手を置いて挨拶をする。
挨拶で思い出したが、ミドリはまだ起きてないのか?
躾の良い機会がやってきたと思ったのだが……。
あれ?何か変な視線を感じる。
何やらウィルバイン嬢が俺を凝視しているように見える。
なんだろうか?この目は?
あ、思い出した。これはあれだ。
この前、忍が満漢全席を目の前にしたときの目にそっくりなのだ。
なんでこんな肉食動物のような目をしているんだ?
そう思っていると、グワッと肩を捕まえられ、押し倒された。
「!?」
「はぁはぁはぁ……」
何やら鼻息が荒い……。
しかしながらなんだ?この展開は?
なぜ俺は押し倒されているんだ?
思考回路が麻痺して、理解力が欠如しているのだが……。
「あ、あのウィルバイン嬢……?」
「わたくし、興奮してしまいました……わたくしの前でそういうラフな格好って襲われたいんですか?」
舌なめずりしながら何やら物騒な発言をしてきた。
なんだろうか?脳内の危険信号が警告音を鳴らしっぱなしである。
命の危険はないのだが、恐ろしい目に合うような気がする。
そう、あの剃毛プレイの時のような……。
剃毛プレイ? ……!?
「助けてー!」
「イエッサー」
俺の言葉を聞いたダナーがウィルバイン嬢をバックドロップした。
「グハァッ!」
頭頂部から床に激突し、鈍い声を発していた。
容姿端麗である分、いろいろと酷い……。
「アイタタ……」
どうやらまだ気絶していないらしい。
たくましい……。
「えっと……ウィルバイン嬢?今のは……」
「失礼しました、我を忘れてしまって。実はわたくし、レズなんです」
…………はぃ?
「先日、ミコト様に助けていただいた時……なんと言いますか……下品な話なのですが……濡れてしまったのです」
つまり……あれですか?俺を性的な意味で襲うってことですか?
恋愛対象ではなく、性愛対象?
いや、確かにレズプレイは俺も興味があった。
けど、こういう逆レイプ的な展開はない。絶対にない。
俺はドMではない、断じてない、そんな性癖はないのである。
ソフトMであり、ソフトSなのである。
責める、責められるのはアリだとしても強姦プレイで泣いてる女性でエレクトはしないのである。
『泣いてる』な、ここ重要。
性的な快楽に堕ちる女性と言うのは官能的だと思う。
しかしこれが自分の立場となると意味が違う。
痴女に襲われれば誰だって怖い、現実と空想は違うのである。
そこに恐怖というスパイスが存在するというのは甘口カレーと激辛カレーくらい違う。
辛いってのは辛いとも読めるからな。
というわけで俺は自分の身を守るために行動しなければならん。
「ダナー、あれを気絶させろ。確実に気絶させろ」
「無論です」
ダナーが鳩尾に強烈な一撃を入れてウィルバイン嬢は気を失った。
その気を失ったウィルバイン嬢をダナーはゴミ袋をゴミ捨て場に運ぶように摘まんで玄関の外に捨てていった。
もう……ヤダ……この世界……。




