馬が気紛れを起こしてくれたおかげで変なフラグが立ってしまったらしい。
前回のあらすじ、
凶暴化したダナーのおかげで女王様の兇刃はどうにかなったようである。
「ブルルゥゥウ」
「どうかしたか?ロイヤルガーター」
王城から我等が屋敷までの道は一本道である。しかし、20分ほど歩いたところでロイヤルガーターは立ち止まり歩きたがらないようだ。ここから王城までロイヤルガーターを連れ戻すのも一苦労であるし、歩いて屋敷に戻るのもダルい。
なぜ歩きたがらないのかが分かれば解決策も分かるのだが俺には馬の気持ちなんて分からない。
「ブルゥゥ」
ロイヤルガーターは左にグイグイと頭を動かして『左だぞ!』と言いたいようである。あら、馬の気持ちが分かっちゃった。
まぁ、今日は予定なんて無いから別に遠回りをしても構わない。
のん気に別の馬でライディングというのも悪くない。
『馬』の部分を他の言葉に置き換えたい……。
本命も別も何も無いけどな……。欲しいなぁ……。
ロイヤルガーターと散歩して3時間ほど経った。
さすがに3時間も馬に乗っていると尻が痛い。
いつもの倍くらい乗っているのだ、最初の時くらいだ。
いつの間にか周りが岩山だったことに気づく。
なぜだろうか、なぜこの馬はこんな岩山を登っているのだろうか?
「おいゴラァ!!」
なぜかゴツいオッサンの怒鳴り声が聞こえてきた。
一瞬、自分が怒られたのかと錯覚してしまうがどうやら違うらしい。
「ロイヤルガーター、分かってるな」
ブルッと俺にしか聞こえない程度に嘶きゆっくりと歩く。
すると何やら馬車から金髪美少女が連れ出され、山賊のような3人の野蛮人に襲われているようである。
こういうクズを見ると殺したくなるな。
なぜ俺はこんな体なのに変態クソ野朗はこうやって強姦しているのだろうかな?
死ねよ。いや、マジで。
今の気分は最悪なのであいつらで憂さを晴らすか。
相手は斧や短剣を持っているが、俺にはスタンガンがある。負ける要素は無い。
てなわけで先制攻撃!
スタンガンの引き金を引き、針が飛び野蛮人に刺さる。
そして針からの電気ショックが野蛮人を襲う。
「アビビビビビ!!」
デブの野蛮人が醜く倒れる。
ざまぁみろ!!
死しんじゃえヴァいいんだー!!
「ジェシー!」
デブのことを心配している前歯が一本欠けているゴミにも針を飛ばして刺す。
もちろんこっちのゴミのも電気ショックが襲う。
そして後ろに居るチビにも針を打ち込む。
こちらも例のごとく電気ショックが男を襲う。
瞬殺である。3人の小悪党を瞬殺してやった。
「はッ!気分が良い!」
気分良く勝利の美酒を味わっていると俺の視界というか世界がグワンとなる。何かと思っているとロイヤルガーターの後ろで変な男がのびている。どうやらロイヤルガーターが俺が視認していなかった変態を蹴り飛ばしたようだ。死んだか?別にこんな強姦魔なんて死んで良いだろうけど。
一騎当千って感じで俺TUEEE!
生まれて初めて主人公っぽいことをした気がする。
いやぁ、俺がしてきたことなんて全く主人公っぽくないからな。
俺がやったことといえば幼馴染が見つけた隠し通路を通って金塊を見つけ出したり、幼馴染に毛を剃られたり、幼馴染と知らない店員さんに胸を触られたり……。
いや、回想はここでお終いだ。
もう止めよう……。
やったことを思い出そうとしたらやられたことを思い出してしまった……。
なぜか回想しただけで精神力が削られた気がする。
因みにこの異世界に来るまでの人生なんてモブですよ……。
小学校ではクラスメイトとそれなりに仲良くなるがクラス替えを気に疎遠になり忍以外でプライベートで遊ぶ友人は居ない。
中学ではロマンスのロの字も見えなかった、というよりも学年全体が恋愛に対して全然乗り気でなかった気がする。恋仲の奴らって居たのかな?
高校では部活動もやらず従兄の家庭教師に勉強を教わって赤点を取らないように頑張り留年を回避して現役で推薦を手に入れ受験戦争からいち早く逃げる。
そして大学では単位を手に入れるためにバイトをせずに規則正しい生活をして授業をサボらずに出席。よく『大学なんて教授と仲が良かったら単位もらえる』などと言う人が居るが、そんなに大学が楽勝なら大学で留年する奴なんて居ないだろ?つまりそういうことである。
だが、バイトをしてないために就職においてはかなりのハンデを持ってしまった。なので未来に絶望しながら毎日生きていると……ってな感じで先日忍に女にさせられた挙げ句、異世界に飛ばされてしまったわけである。
極めてつまらない人生だった……。
この回想も酷い……。
もうイヤだ……。何もかもだ酷い……。
「助けていただきありがとうございました、わたくしはアン・ウィルバイン。家来の分までお礼を申し上げます」
1人で勝手に嘆いていると野蛮人共に襲われていた美少女がこちらにお礼を言いに来た。
金髪のポニーテールで黒のドレスを着ている美少女だ。モデルかと思うくらいに綺麗だ。
ミシェルとは違うベクトルで貴族という風格が出ている。
「なに、当然のことをしただけで……うわっと」
カッコつけようとしていると、ロイヤルガーターが美少女に近づき頬を擦り付けた。
この駄馬め!うらやましい!
俺に代われ!!彼女に舌舐め擦りするから!
『きゃっ、ちょっとだめだよ、お馬さん。そんなに顔をペロペロしちゃ……だからダメだって、ちょ!?ちょっと!?わきは、脇はだめだよ!いやぁ!スカートの中はもっとだめ!!』
とか?はぁ……初対面の美少女に(脳内とはいえ)なんてことをしているのだろうか?
「どうか致しましたか?」
俺の顔がヤバかったのか、それとも妄想で呆けていたかに不信に思ったのか美少女が尋ねてくる。
「い、いえ別に……」
「では、わたくし達は少々王城に用があるので失礼しますね。後日お礼したいのでお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
美少女がこちらの名前を訊いてきた。
なんだろうか?この展開は?
助けた美少女に恋された?
なんてな、そんな都合の良い展開は無いだろうな……。
よく言うじゃないか、現実はクソゲーだって。
まぁ、とはいえ俺も自己紹介くらいしますけどね。
「俺の名前は……」
自己紹介をしようとしているとロイヤルガーターが美少女に尻を向けて岩山を下ろうとしだした。
「この駄馬!!せめて名乗らせろ!!あぁ、お嬢さん。俺の名前は……ダメだ、もう聞こえなさそうな距離に……」
どうやら俺にはラブコメの神様は笑わないようだ……。
◇
「姫様、先ほどの馬はロイヤルガーターのように見えましたが?」
わたくしの馬車を運転している御者のエスカトスがわたくしに質問した。
「えぇ、おそらくそうね。エスカトス、王城に着いたら誰がロイヤルガーターを持ち出したのかを調べてもらえる?」
あの女性にもう一度逢いたい、ここまで誰かに執着しようと思ったのも久しぶり。
「もちろんですが……姫様。またいつものご病気が?」
「主人に対して病気なんて失礼ね。エスカトス、わたくしはただあの麗人に『お礼』を言いたいだけよ」
「お礼って……姫様、やはり発病してるじゃないですか……」
エスカトスが何か言ってるけどそんなことを気にするほどわたくしの器は小さくは無いの。
家来の戯言に怒るような小物にだけはなりたくはありませんわ。




