幼馴染みの黒魔術で異世界にやって来たが、古代人は意外に愚劣だった。
前回のあらすじ、
忍と合流して古代人についての調査が本格的に進展しはじめる。
「まぁ、俺達のことはこの程度で良いだろ?そろそろ古代人のことについて教えてくれよ」
「マスターから見ての古代人である先代のマスターたちの時代である26世紀末が滅んだのは黒魔術のせいであり、そして当時の人類を救ったのも皮肉にも黒魔術なのです」
「意味が分からないね」
だな、意味が分からない。
「『白き巫女様』が確立した黒魔術は悪用され、世界に様々な天変地異が起きてしまい、人類は触れてはいけない扉に触れてしまったと嘆き、宗教団体が暴れだし、暴徒と化した人民によって都市は戦火に焼かれ大量の人間が死んだようです」
物騒だな、600年後の超文明を作り出してもこうなるのか。
結局は人間は愚かだ……これが俺達の世界の結末か……酷いな。
「そう悲観することはないんじゃないかな?」
「そりゃなんでだ?」
「平行世界って知ってる?」
タイムパラドックスとかで未来や過去と言った歴史が異なる世界のことか?
英語ではパラレルワールドって言うし、一般的にはそっちの名前で浸透していそうだ。
「そうそう、だからボクたちの世界が黒魔術を発展させて破滅するとは限らないよ?」
だとしてもそういう未来も存在する可能性があるってことだろ?
こういう未来論って漫画家とかその手のクリエイターによって理論が違うよな。
歴史というのは不変のものであり、過去に行って改変しようとどれだけ頑張っても矛盾は起きず、絶対的に確定した事項通りが起こる。
人はこれを運命と言う。
対して、歴史は分岐点が大量に存在し、簡単に変えることが出来る。しかし、改変しすぎると現代との誤差のせいでその時代の人間の生死にすら影響を出してしまう。
人はこれをタイムパラドックスと言う。
この運命とかタイムパラドックスとかは作家の解釈によってシナリオやネタにも大きくかかわるのだが、はたして実際はどうなのだろうか?
俺的には『未来は絶対じゃない、運命は変えられる!!』って言うのも良いと思うんだけど、運命論と言うのも『君と出会えた奇跡は俺の世界に色をくれた』みたいでロマンチックで捨てがたい。
……後者の方は言う機会がないな。タイムパラドックスの方で良いです。
「ボクが知りたいのは古代人が滅亡した理由なんてどうでも良いんだけど、本当に気になるのはその『白き巫女様』についてなんだけど?」
ん?こいつの言い方だと壁には『白き巫女様』についての記述は無かったのか?
こいつは同じ黒魔術師として『白き巫女様』のことが気になるのだろう。
ここに入ってくる第一声が『良くないよ!良くない!』だもんな。
俺としては何者でも一向に構わん。
「申し訳ありません、アクセスレベルが不足しています。『白き巫女様』へのアクセスキーはレベル6に指定されています」
ありゃりゃ、残念だったな。あきらめろ。
「むぅ~」
そんなカワイ子ぶるな。
お前はカワいくないんだからさ、そういうのが許されるのはカワいい子だけだ。
「でもま、今更『白き巫女様』のことなんざどうでも良いだろ?どうせ過去の人間だ」
「けどさ、もしもだよ?もしも『白き巫女様』ってのが物理法則の確率を上げることができるような本物の魔法使いだったらどうするの?」
何言ってんだ?こいつは?
本物の魔法使いって何だよ、黒魔術なんかの次は魔法か?
どうでもいいが、そんなものは認めないぞ?
なぜって?
これ以上、面倒な展開はごめんだからだ。
実はこの王国(だよな?)の女王がラスボスではなく、神だの悪魔だの天使だの巫女だの魔女だのがラスボスなんて展開は非常によろしくない。勝てる気がしないからな。
「もしも、の話だよ。そもそも黒魔術って言うのは超自然的な力を利用して事象が起こる確率を引き上げる物だってボクは理解してる。雨乞いとかが一番分かりやすいかな?
けど、もしも、本当にこの世界に自分が望むような展開になるような力がある人間が居たらどうなのかな?」
俺はそのアホ丸出しのセリフを言った忍にデコピンする。
「あぅ!」
「お前はアホか?もしもそんな人間が滅する運命の世界に居たら世界なんざ滅びずに済むだろうが」
「いや、ま、そりゃそうかもだけどさ……もしも居たら?世界の滅亡を望むような醜悪な魔女だったら?」
そんな醜い醜い魔女が『白き巫女様』と謳われるか?
未来人が黒魔術を手に入れた時点で『白き巫女様』って呼ばれてたんだろ?
だったら破滅寸前だから救世主なのではなく、黒魔術を伝えた時点で……いや待て?そうなると黒魔術が伝わった時点で未来人は救世主って呼んだのか?
俺達の世界で医学的な大発明をしたとしても救世主とは謳われないだろう。
となると26世紀末はよほそ酷い世紀末だったらしい。
飢餓や災害で世界は未曾有の危機に直面していたのだろうか?
それとも本当に核戦争でも?
ま、分からないことを何時までも考えても意味がない。
大切なのは今である。
俺が現代日本に戻れたとしても600年も未来だ。
なら当然俺は死んでるだろうし、
俺の子孫が生きてたとしてもそいつには「どんまい」としか言えん。
「結論から言うに、居ない。居るわけがない、居たとしても俺達には関係がない。不老不死でも無い限りもうとっくに死んでるだろうさ」
「で、でも……」
「お前のくだらん妄想に付き合う暇は無い」
まったく、話にならん。
確かに異世界に飛んできてしまった時には科学で説明できない超常現象の存在も信じてしまったが、世の中の事象と言うのはバカには理解できないだけで、ちゃんと科学的に考察することが出来るみたいだ。
さて、そろそろ帰ろうか。
長い間ここで話していた気がする。
別に時間なら残りの人生が10年以上はある。
ここの資料の漁っていれば高度な医学書なんかも眠ってるかもしれん。
ならば適当に考えながらここの錬金術とかについて研究すれば良いさ。
金と時間がある。ならどうする?
ゆっくりするしかないっしょ?
「調査隊のことは良いの?」
忍の一言で現状を思い出す。
すっかり忘れてたな。
……まぁ良い。とりあえず遺跡に出ることにしよう。
こちらは最上の掘り出し物を手に入れた。
後はここの発電システムに似たものを屋敷の近くにも作ることができれば俺の人生は勝ち組コース……俺の性別の問題が残っていた……。こればかりは錬金術ですらどうにもならない呪いらしい。
はぁ……神様、お願いですから返してくれませんか?
俺のチンコを。




