幼馴染みの黒魔術で異世界にやって来たが、やはり異世界にやって来た人間は俺達以外にも居たらしい。
前回のあらすじ、
古代人は黒魔術だけではなく錬金術も嗜んでいたらしい。
「良くないよ!良くない!」
俺の後方から忍が戻ってきた。さきほど俺たちが入ってきた隠し通路からこの部屋に入ってきたということは外に出てからここに戻ってきたのか。
……外?
あ、俺って今遺跡に居たんだった。非常識すぎて忘れてた……。ってことはだ、ここの発電システムを地元に移動しなければ俺の勝利条件は成立しない。
「ダナー、ここから発電システムを移動させることは可能か?」
「ほぼ不可能です」
ですよね~。はぁ、勝てなかったのか……。
と言っても年に1本も金の延べ棒を手に入れられれば生涯安泰ですけどね。
「ところでミコト、誰それ?」
と忍が俺に質問してきたのだが、こいつはなぜかダチョウの卵よりも一回り以上大きな卵を持っていた。気になる、なぜこんなデカい卵を持っているのだろうか?
さっきの怪鳥の卵か?捨てなさい、今すぐ捨てなさい。
「マスターのお知り合いですか?」
ダナーが忍という珍獣のことに対して質問する。
「あぁ、自己紹介してもらうとありがたい」
「了解、私は人造人間製造計画の第三号機、型式番号ZX-F003『ダナー』と申します。以後よろしくお願いします」
「人造人間?へぇ~、本当に居たんだ」
「……ん?ちょっと待て、お前は知っていたのか?」
「もちろんだよ?」
俺の質問に即答した忍は『むしろ君は知らなかったの?』と言いたそうであった。やはりこいつは壁の文章を理解していたのだろう。殴りたい、俺がこいつが消えた時にどのような辱めにあったのか説明して同じ目に合わせてやりたい。
「……まぁいい、なら俺からも2,3質問させてもらう。1つ目はなぜお前はそんな卵を持っている?」
「これ?なんか落ちてたから拾ってみた。なんか動いてるし」
そんなRPGの宝箱を開ける感覚で落ちてるものを拾うな。
拾い食いだけはやめろよ?そこまで行くと本当に絶縁したくなる。
「あ♥動いた♪」
そんな妊婦がお腹の子に対して「あ♥蹴った♪」みたいなトーンで言うな。
お前のそういう発言には頭が痛くなる。
「マスター、あれはおそらくハーピィの卵です」
「ハーピィ?」
なんだ?それ。
「肯定、人間に似た姿をした変わった鳥類です。飛行能力を持ち雑食であり人間の言葉を教えると覚えます。成体でも人間の5歳児くらいの知能しかない上、食用でもないため基本的にペットとなっています」
「マーモセットって言う小型のサルみたいなのか?」
「否定、サイズは本当に人間サイズです。見てください、あの卵の大きさを。乳幼児と同じくらいと思いませんか?」
確かに、赤子と同じくらいな気がしないでもない……。
しかし、そうなるとこいつは飼うつもりか?
別にこの錬金術があれば後2,3人メイドを雇うくらいの金は手に入りそうだから良いけど♪
カネ金かね~♪
「じゃあ次の質問だ。壁の文章の意味を教えてくれ」
「そっちのダナーさんに訊いたら?ボクより詳しそう」
こいつにしては的を得た発言で驚いた。
「というわけでダナー、この壁の文章について教えてくれ」
「申し訳ありません、マスター。マスターには情報にアクセスする権利がございません。権利を手に入れるにはアクセスキーを発行する必要があります」
「アクセスキー?」
「はい、先代のマスターによってプロテクトをかけられておりパスワードを提示してもらわなければアクセスキーを発行することは出来ません」
面倒なことを……。
バカな未来人のために技術を残しておいてくれても良いじゃないか。
失われし技術とか願い下げです。
「パスワードってもしかして2億6538万7491のこと?」
忍がいきなり9桁の数字を言い出した。
「……認証完了、アクセスレベルを0から2まで上げます」
どうやら今の9桁の数字がパスワードのようであった。
しかし、やっぱりダナーは人造人間って言うよりもガノロイドだよな。
でも、これ言うとマジギレするからなぁ……。
メイドロボって男の夢だと思うけど、実現できなかったか?
「というか忍、なんでお前は今のパスワードを知っていたんだ?」
「壁にヒントは書いてあったからね。アナグラムにしては簡単な問題だったよ」
こ、こいつ……アナグラムなんて知ってたのか。
パスワードが分かったってのよりもそっちに驚く。
「では、ご主人様。何について話しましょうか?」
「まずは古代人、お前の前の主人がどうやってこの世界に来たのかってこと」
たしか遺跡の入り口に『異世界からやって来た』って書いてあった。
だからこの壁に俺達の世界の文字が使われていることも納得なのである。
「私はこちらで作られたので詳しくは存じませんが、西暦2594年ほどにこちらの世界に黒魔術を応用した渡航機を発明してこちらの世界にやって来たと記憶しております」
「あぁ~やっぱりそういうことなの」
ダナーの説明に忍がうんうんと首を縦に振る。
この辺りは俺もなんとなく予想できていた。
だが、分からないのはそこではない。
「なぜこの世界に来たんだ?そいつらの世界が滅んだのは俺も知ってる、けどなぜ滅んだかが分からない」
「そこはボクも知らないから教えて欲しいな」
忍もそれについては知らなかったらしい。
どうやら本当にダナーに聞くのが正しかったらしい。
ダナーが知らないで忍が知ってることが有ったならホテルに戻った時に聞けばいい。
報告書には書かせない、これは俺達が女王に勝つために必要なことなのである。
もしも、あのボンクラババァに錬金術の存在がバレたら俺達が甘い汁を吸えなくなる。
確実にこの遺跡を封鎖して俺達に1億くらい渡して黙らせようとするだろう。
「そうですね……しかし、私もマスター達についてあまり知らないのでどう説明したら良いのか分からないのですが?」
そういえば、俺達がこの世界の人間じゃなく古代人にとっての古代人であるって説明してなかったな。
……ややこしいな、俺は古代人にとっては未来人であるけど、俺達にとっては古代人は未来人でもある。ややこしい……。
「シルヴィア、俺達は西暦2014年からやって来たんだ。この世界に」
「2014年?そんな昔から黒魔術での異世界渡航は可能だったのですか?」
「忍、どうなんだ?」
黒魔術に関しては俺は全く理解していない。
理解しようとしたことすらないからこのことに関しては忍に任せる。
忍にまかせっきりだな。
忍の気まぐれで調査隊に入らなかったらどうなっていたのだろうか?
きっと、まだ寒い外でドイツ語とにらめっこしてただろうな。
俺の無能っぷりが酷い。
「ここに着たばかりのときも説明したけど、異世界渡航なんてボクも成功するなんて思わなかったんだ。第一、冷静に考えてほしい。異世界渡航の技術は存在しないんだ」
「どういうこっちゃ?」
「仮にボクらのように一方的に異世界渡航ができたとしても、また異世界渡航して元の世界、元の時代に渡航しないと異世界渡航したって証明にはならないんだ。けど、それに成功した人類は向こうの世界には居ない。となると異世界渡航なんて技術は存在しない」
「あぁ、だからお前は『黒魔術が成功するなんて思ってなかった』って言ったのか」
「そういうこと、ダメ元って言うかダメが当然ってね。よく『1パーセントでも可能性があるなら』とか言うけど、1パーセントもない、0.0001パーセント未満さ」
ダメ元も『ダメで元々』の略だと思うんだけどな。
「恐れながら、26世紀末の技術でも異世界渡航の成功確率は3割程度のようです」
ダナーが俺達の会話に割り込み指摘してくる。
「……ん?10回に7回も失敗するのか?」
「はい、データによればそのようです」
あらら、600年後の未来でも成功確率はたったの3割なのね。
そうなると『唯一の希望の光』って表現も分かる。
きっと藁にもすがる思いだったのだろう。
しかし、こちらからすれば関係ない。
俺は逆に世界を滅ぼして自業自得だろと思う。
核戦争でもしたのかね?
未来人って俺等よりも野蛮人じゃね?
「でも成功確率が低い理由って何なの?」
忍が疑問があったのか質問する?
「トンネル効果です」
忍の疑問にダナーが回答する。
あぁ、そういうことね。
「トンネル効果?」
もちろんそんな単語については理解できていないらしい。
「トンネル効果ってのは超低確率で粒子が障壁を通り抜ける現象のことだ」
「……は?」
「だから、粒子が障壁を通り抜けるんだよ。簡単に言うと壁を超高速で連打すると何兆分の1の確率で通り抜けることが出来るってわけだ」
「そんなのがあるの?マンガ理論でしょ?」
「残念ながらこれは量子力学の1つの理論なんだ」
「……うそでしょ?」
「嘘じゃない、障壁にトンネルのような穴が存在するような現象だからトンネル効果って言うんだ。もちろん、お前が今思ってるように古典論では説明できない現象の1つなんだよ」
「……古典論?」
「……もういいわ、お前は」
時間の無駄だ。つまり黒魔術の超効果で自然現象が起こり得る可能性を上げることで異世界へ転移する確率を上げたってわけだな。
そして俺の自室が空間ごと異世界に飛んでしまったってわけか。
この現象も科学で説明できるのか……科学すげぇな。
いや、待て。俺が性転換してしまった理由がそれじゃあ説明できないぞ?
「性転換ですか?その技術はあまり報告されてませんね」
「できないのか?」
「錬金術を応用すれば不可能ではないかもですが、成功確率は先の黒魔術よりも可能性は低いと思われます」
「クソッ!」
「ミコト、どういうこと?」
話についてこれないバカ幼馴染が俺に質問してくる。
こういうのでこいつは無知だから自分がダメでないって安心するが、それでも俺が雑魚なのには変わりない。実際、科学の知識よりも外国語の知識の方が実際生活では役に立つだろうからさ。
「人間の性決定ってどういう風になっているか知ってるか?」
「えぇ~と、染色体だっけ?」
「そうだ、生物学的にはY染色体が存在する個体が男になるらしい。となると何らかの方法でY染色体を体の中に作り出せれば男になれるんじゃないか、と思ったが」
ダナーに目線を向け、意図を読み取ったダナーが発言する。
「人間の体組織が性転換に耐えられる可能性は高くないと思われます」
まとめてみよう。
おそらく異世界渡航の際にY染色体が何らかの理由で消滅、対になっていたX染色体が消滅したY染色体の分を埋めたってことなのだろう。
しかも、これらの性転換の成功率自体が低いから俺が今生きていること自体が奇跡ってわけ?生きてることに感謝しろって?
うん、まず異世界渡航なんかが失敗して欲しかったな。




