幼馴染の黒魔術のおかげで人としての尊厳を失ったと思ったらおかしな世界に来てしまったらしい
前回のあらすじ。
公衆の面前の前でエロマンガを朗読させられて死にたくなった。
「おい、向こうの奴の縄も解いてやれ」
女王様のおかげで忍の簀巻きが解かれる。
俺としては後5時間くらいは簀巻きにされて欲しかったな。
「ふぅ……助かったよ、ミコト。……あと、あれを感情を込めて読むのはどうかと思うよ?」
「込めてねぇ!」
「ボク女の子なのに、なんだかイケない気持ちになってきたよ……」
「なるな!」
「は、初めての相手はミコトが良いなってずっと前から思ってたんだ……♪」
我慢できずに忍の頬を殴ってしまった。
だが反省はしていない、後悔もしていない。
むしろこいつがすべきだ。
「ぶったね!親父にもぶたれたことないのに!」
「せめて女が言うようなことを言え」
「えっと……」
数秒考え込みだした、嫌な予感しかしない。
「ひ、酷い!あんなに乱暴なことをするなんて!!私、初めてだったのに……」
「誤解しか招かない表現をするな!」
再度、怒りを抑えきれずに頬に右ストレート。
「か、顔はやめて、ボディボディ」
ボディも殴って欲しいらしいのでついでにボディも殴っておく。
水月に入ったらしく黙って苦しみだした。
ネタをしない所を見るとどうやらマジで苦しいらしい。
「悪い、大丈夫か?」
「……そ、そうやって暴力の後に優しくする人ってヒモの才能があるって聞いた事あるよ?」
大丈夫なようなので放置しておこう。
心配した俺がバカだった。
「そっちのアホ丸出しの方は相手にならないようだが再度訊こう。貴様等が住んでいたと言う「にほん」と言う街はどんな街なのだ?」
「街ではなく国なのですが……」
「国だと……?」
女王と周りの兵士が少々ざわめき出した。
やがて兵の1人が地図のような大きな紙を持ってきた。
広げられた地図はどうやら島の地図らしい。
「これが我々の世界であり、国である」
「……世界?」
「その通りだ。貴様が言う国はこの世界には1つしか存在しない。ゆえに貴様が言っていることは異常なのだ」
どうやらこいつらは未知の島国か何かなのだろう。
そうでもなければ説明が……。
いや、もしもこいつらが未知の島国だとしても日本語をしゃべってる理由が解明できてない。
「ふっふっふ、あなた方はまだ気付いてないのですね。我々が何者なのか」
腹部の苦しみを乗り越えた忍がなにやら調子に乗り出した。
もう1発くらい殴ったほうがいいのかな?
「……貴様にマトモな答えを期待していない。黙っていていいぞ」
女王も俺と同じようなことを思っているらしい。冷たくあしらった。
あしらわれた忍はダンボールに入れられて雨に打たれている子犬のような目をしている。
あ、この顔はマジだ。ふざけてない時にふざけていると思われた時の顔だ。
「……言うだけ言ってみろ」
ぱぁっと分かりやすく顔が明るくなる。本当に分かりやすい。
「簡潔に言いましょう。我々は異世界人です」
…………はぁ?
「女王様、考えてみてください。あなた方は我々同様に日本語を話しておられる。なのに平仮名、片仮名、漢字を読むことが出来ない。これは日本語をしゃべることはできる外国人でない限りありえないとは思わないでしょうか?」
懇切丁寧に解説しているが女王は何を言っているのか伝わってないらしい。単語の意味が理解できてないと見た。
「お前の理論は分かった。けれどそんなとんでもはっぷんな展開……」
「ミコト、実はボクが行った黒魔術は異世界渡航の術式なんだ」
…………は?
「ボクは日本が嫌いだった。毎日毎日辛い勉強の日々、将来役に立たないにもかかわらず延々と溜まっていく課題の山、自分のことしか考えてないような大人に従うことを強いる社会、汚職している政治家、全く良くなる気配が無い経済、その他諸々がボクは大嫌いだった。だから、ボクは異世界に行こうと思ったんだ!」
純粋無垢な夢でも語るように恥じていないその振る舞いが憎い。こいつが現代社会に失望するのは勝手だ。しかし、俺を巻き込む理由が分からん。
あれか?電車に身投げして人身事故起こして不特定多数に迷惑をかけるような死に方をするようなクズか?死ぬなら勝手に鳥葬とかで死んでくれよ。
「どうかな!ミコト!」
「どうもこうもあるか!このボケ!」
自信に満ち溢れた顔をしていた忍に蹴りを入れる。
「ちょ!ちょっと!なんで!?なんでこんな展開になるの!?」
「やかましい!勝手に俺を異世界に飛ばして、俺を女にして、俺からいつもの日常を奪っておいて何かっこつけてんだ!このタワケ!!」
「しゃ、謝罪ならさっきしたじゃないか!」
「テメェが詫びてもこの状況は変わらねぇだろが!」
加減をしながら何度も蹴りつけた。
このバカを蹴ったところで状況が変わらないのは分かっている。
だからこれはただの八つ当たりだ。
「……終わったか?」
蹴るのを止めて肩で息をしだした俺に蚊帳の外だった女王様が訊いてくる。
「……一応」
「で、貴様等は本当に異世界から来たと?」
「……それで大体この状況が説明できるんじゃないですか?」
ぶっちゃけ、ここが異世界だと信じることなんて不可能と言って良い、けれど状況からみてかなりそれっぽい……。
えっと……つまり?
幼なじみの黒魔術に付き合ったら女にさせられた挙げ句、異世界に飛ばされてしまった?
おいおい、夢なら覚めてくれよ……こんな悪夢マジかよ……。