幽霊少女の共犯者のおかげで一発逆転のチャンス到来!?その壱
前回のあらすじ、
テレッテレー♪ 幽霊少女が仲間になった。
「は? 賭けポーカーですか?」
「そそ、そういうのやってる場所知らないかなと思って」
俺とミシェルが仲間になった次の日の朝、俺は朝食を作っているパティにこの国に賭けポーカーをやってないかと訊いてみた。
俺は最強の助っ人、ミシェルのおかげで必勝法を思いついたので、賭けポーカーの存在が非常に気になった。
勝つためには手段は選ばない、それが俺のやり方だ!
「はぁ、私は知りませんが、調べろと言うのなら調べてきますけど……?」
「なら大至急で!もちろん最優先事項でな!朝飯も俺が作るからお前は出かける支度をしろ」
「お嬢様は?」
「俺に任せろ。お前はメイドらしく言われた仕事をこなせ。5000ダラー出すから文句を言うな」
「……非常に腹立たしい物言いですが、他の雇い主に比べれば良い方なので私は支度しますね」
パティが軽口を叩きながらキッチンを出て行った。
「ミシェル?居るか?」
(呼んだ?)
うにょっと壁から頭を出してくる。
幽霊の伝統的な出現パターンだな。86点あげよう。
意外性がないのが減点対象である。
「パティにはお前が見えないみたいだから先に忍に紹介するよ」
(忍ちゃんって昨日の夜、盛大にお漏らしして気絶しちゃった娘?)
「そうだ」
とりあえず忍が寝ている部屋に(一応)ノックしてから入る。
返事が来ないことが分かっているのにノックをするのは俺が紳士だからだ。
俺が俺を褒めるのは誰も俺を褒めないからであって自惚れでは無い。
断じて俺はナルシストではない。
釘を打っておく必要がある。
「うにゃ~♪ うにゃにゃ~♪」
なにやら奇妙な鳴き声を発しながら寝ている阿呆をベッドから転がして落とすことで無理矢理起こす。
「痛い!な、なに!?何が起きたの!?地震?」
何が起きたのか分からなかった忍は狼狽している。
非常に滑稽な女だ。
(おはよ~、忍ちゃん。よく眠れた?)
「ぎゃぁーーー!!!!おばけーー!!!!」
俺は朝食を食べながら幽霊少女を見て予想通りのリアクションをしたアホに事情を説明する。
「はぁ、本物の幽霊にしては怖くないんだね」
(ありがと~♪)
昨日、泡吹いて失禁してた奴のセリフとは思えないな。
「しかし、胸がデカイ」
(ほぇ!?)
「揉みたい、揉みたい、揉み揉みしたい……」
(そ、そういう目でみないでよぉ)
この阿呆に初めて「グッジョブ!!」って言ってやりたくなった。
「じゃあ、ミコトの胸を揉みたいな♪」
「黙れ、ナイフを投げるぞ?」
「ごめんなさい、調子に乗りすぎてました」
まったく、少し甘やかすとスグこれだ。
調子に乗っちゃダメー。
「……それで?これから具体的に何をするつもりなの?ひょっとしなくてもポーカーで一攫千金するつもり?」
「ザッツライ。俺はこれから自分の部屋から使えそうな本と道具を手に入れてくる。その間、お前はパティがするはずだった仕事をして、仕事が終わったら五十音表を作ってもらいたい」
「前半のことは良いとして、最後のはどういう意味?」
「この国の文字は平仮名でも片仮名でも漢字でもない。だからミシェルに本を朗読してもらってこの国の文字を五十音表に当てはめてもらいたい。そういうわけだ」
パティには今以上に仕事をされては困る。
彼女の給料は俺が働いて得た金がそのまま変換されている。
1000万ダラーがあるから約10年は大丈夫な計算なのだが、そうなると10年後がヤヴァイ!
「あいあいさ~」
サラダを頬張りながら元気良く返事をしてきたのだが、付き合いが長いからだろうか、空返事のような気がする。大丈夫か?
てなわけで俺はサンダーボルト(愛馬)を走らせて王城へ向かう。
ここにまだ俺の私物が大量に有るのだが、危険物でないと証明できれば返してもらえる。今のところ帰ってきたのはマンガと小説くらいだが……。
既に門番を顔パスで通り抜けることが出来るほどの関係になり、自室に戻る。これがまた面倒くさくて自室に何人も人が立っている。事件現場の警察がロープを張って立ち入り禁止になっているみたいな感じである。
軽く会釈して自室に入る。
必勝法のためにここで取り返したい物は3つ。
とりあえずそれが危険でないことを証明し(いや、実は1つは超がつくほど危険な品なのだが)取り戻した。これも何度も繰り返しているので相手も面倒になっているようでこちらのことを油断しているみたいで助かる。
計画の必需品の奪還には成功したのだが、問題はこれからだ。
しかし、最近は酷い目にあっていないな。
平和的で何よりである。
平和が一番。
失くしてから初めて気付く有り難さとはよく言うよ。
平和ボケしていた自分が恥ずかしい。
「もぐぐ。あ、おかえり~」
帰宅するとホットケーキのようなものを幸せそうに食べている阿呆が俺に挨拶してくるのだが、忍が仕事をした様子は見られない。
俺はこいつの脳天に手刀を振り下ろす。
「ぎょえへ!?」
「仕事はどうした?」
「い、いや~。腹が減っては戦は出来ないと言うけどさ……あれって適切だよね?」
もう一度振り下ろした。
屋敷と王城の往復に慣れたとはいえ5時間は経っている。
なのになんでこいつは仕事もせずにオヤツを食べてるんだ?
「痛い! なんで無言なの?」
「働かざるもの食うべからずって聞いたことあるか?」
「な、ないこともないかもしれない……」
もぐら叩きのように何度も振り下ろした。
ボンボンッボボンと音が奏でる。
「否定なのか肯定なのか分からないような多重否定は使うな」
「ご、ごめんって……」
こいつが役に立たないことは薄々気付いていたが、まさかここまでとは……。ウスラトンカチって言うのかね?死語だから分からんけど。
(それで、ミコトくん。何を取りに言ってたの?)
「あぁ、この3つだ」
そして俺は3つをテーブルの上に並べた。
「えっと……『誰でもできる隠し芸!トランプ編』にミコトのスマートフォン(充電80パーセント)で、最後のこの黒いのって……え?なんでこんなの持ってるの?買ったの?」
「お前は触らなくて良いぞ。俺が俺のために使うんだから」
「その言い方が果てしなく怖いんだけど……。で?その隠し芸のマニュアルで何かインチキでもするの?」
「もちろんだ。この本には色々と手品の手ほどきが書いててな……見てろ」
そうしてトランプをマニュアルに書いてある通りにシャッフルする。
「忍、上から5枚引いてみろ」
「ほいほい」
忍が言われるがままに5枚引く。
「右から順番に当ててやろう。ハートの7、スペードの7、ダイヤの7、クローバーの7、そしてジョーカーだ」
(おぉ……)
忍は退屈そうにしているのだが、ミシェルは感心しているようである。
「つまんない」
と言い放って、トランプを宙に放った。
「こんなの簡単な手品じゃん。小学生だってできるよ?」
「でもこれが相手にバレなければ必勝だろ?」
「そんな簡単に上手く行くわけないっしょ?ちょっとこの世界のことをバカにしてない?」
「だけど、こちらが『こういう技を持っているんだぞ?』とプレッシャーを放つことが出来ればそれなりに戦えるとは思わないか?」
「こんなので戦えると思うの?」
「なわけねぇだろ」
と鼻であざ笑ってやった。この程度で勝てるならとっくに勝負している。
「お前はここに俺たち異世界人にしか見えない最強の助っ人の存在の重要性に気付かないのか?」
「……そんなに使えるの?」
「あぁ、少なくともポーカーなら俺とミシェルのコンビが負ける要素はない。というわけで練習試合しようぜ」
数分後。
「つまんない!! つまんない!! つまんないぃ!! 決定的に面白くないよ!! 違うゲームしようよ!! パティが帰ってきたら4人でババ抜きとかをやろうよ!!」
俺にボッコボコにされて不機嫌度マックスの忍が切れだした。
「帰ってきたらな。で、お前は俺に勝てると思うか?」
「勝たせてくれないじゃんか!! だってミコトのかけ方気持ち悪いもん!」
「そうだぞ。これがミシェルのおかげだ」
「分かった、確かにミコトの言いたいことは分かった。だからもう止めようよ!」
試合結果は俺の圧勝。
お互いポーカー初心者だがこれなら誰が相手でも負ける気がしない。
もう何も怖くない!
夕刻に帰ってきたパティに一応、ミシェルを紹介したのだがパティには何がなんだか理解できていないようだった。「……ぅあ?うぅん?あ、なんとなく理解しました」と歯切れの悪い言い方であったのだが、別に駄メイドに理解してもらわなくても良い。
昨夜、ミシェルと色々あって忘れていたが、風呂に入っていなかったので一番風呂を頂く。
「良い湯だなぁ♪最高だねぇ♪」
我が屋敷は6000万ダラー(日本円だとおそらく3億円超)を勝手に使われたのだが、その分の価値があるだけの屋敷になっている。
この屋敷の風呂は半径1mの円形で作られているためかなりゆったりとはいることができる。
しかも、このお湯は地下水を汲み上げて沸かしているので金額はほぼ掛からないわけである。
これで問題だったのがあのバカが一緒に入りたがったということだったが、基本的にパティを人柱になってもらうことで何とか乗り切った。昨日は俺もパティも家事をしていたから1人で入ってもらった。
……まるで駄々っ子の親みたいな対処の仕方だな、なんで俺はこんなに不遇なんだろうか?
だが、俺はこのまま終わるつもりはない!
最後の最後でどんでん返しをする!
野球だと、9回裏の時点で点数が多かったチームがその試合に勝てるのであり、その間に何点取っても勝敗には関係しない。
すなわちスポーツでは試合終了時に相手チームよりも1点でも多く取ってしまえば試合で勝つことが出来る。
最終的に、勝てばよかろうなのだァァァァッ!!
(なんだか気分良さそうだね♪)
「もちろんさ。俺は勝負するんじゃなくて、詐欺をしに行くわけだから」
(いやぁ、決戦前夜って感じでハラハラするねぇ~)
「なぁ~」
……ん?俺は和んでるけど、誰と会話してるんだ?と思い声の主の方を見てみたが、そこには素っ裸のミシェルが横になっていた。
「っぼゎ!?」
思わず吹いてしまった。
久しぶりに不幸展開が訪れたのかと怖くなってくる。
(どうかした?)
「い、いや、べ、べつに……」
周りを確認してみるが忍は居ないらしい。
忍が居ないのなら酷い展開にはならないだろう。
しかし、彼女は俺のことをどう見てるのだろうか?
昨日の内にちゃんと俺が男だってことは伝えたはずだけど……。
そこの辺りははっきりとしておくべきだろう。
なぜなら俺は紳士だから!
変態紳士ではない、ただの紳士だから!
「ミシェル、一応言ったけど、俺はこんな体でも男なんだけど?」
(分かってるよ。……でもこうして男の人と仲良くなれたのって初めてだから)
何この娘!超かわいいんですけど!
こんなかわいい娘が近くに居たら告白してるね、スグに。
振られる?分かってるさ、そんなこと。
けど、男には負けると分かってても戦わなければならないときもある。
はぁ……。
忍がこんくらい可愛かったら俺の人生はどれだけ楽しかったことか……。
多分、幼い頃に結婚の約束とかしたのだけど、お互い覚えてなくて、タイムカプセル的なものを見つけて……こんな妄想しても事実は変わらないんだよな……。恋がしたい……。
いや、待て。恋なら今でもできる。
相手ならミシェルが居る。
幼馴染と駄メイドは論外だったが、彼女はどうだ?幽霊少女と恋をする恋愛モノというのも別に珍しくない。
「ミシェル」
(なぁに?)
「好きだ!」
ミシェルを押し倒そうとしたのだが、俺はミシェルの体に触れることができずに湯船の縁に顔面をぶつけてしまった。
……この展開は予想外だった……。




