幼馴染みの黒魔術で異世界にやって来たが、この世界も案外悪くないかもしれなくはないのかもしれないこともない。その参
前回のあらすじ、
高級な服屋でセクハラに合う。
※ご褒美なんかではありません。
時計屋の前に安物が売ってそうな服屋に入る。
「ぃらっしゃいませ~」
店主らしきオバサンが本を読みながら適当に挨拶してくる。
さっきの店とはまるで違う。完全に庶民向けのようである。
「失礼、こちらの商品はだいたいいくらですか?」
「うちは800から1200くらいだよ」
オバサンに相場を尋ねたがまさかのタメ口。
俺をそこらのガキと思っているそうだ。
ここはチップ込みで金をチラつかせるのも面白いかもしれない。
「こちらは適当な部屋着をさがしてまして。これ1枚で適当に見繕ってもらえます?5,6つほど」
そう言って俺はオバサンに1万ダラー札を手渡す。
この国の平均年収が100万ということは1ヶ月辺り8万ちょっと。
5000ダラー分の買い物をしたとしても5000ダラー分のチップが手に入る。
1ヶ月8万なんだから5000は大金に違いない。
月8万だから……5000ダラーってのはおよそ2日分の日給じゃないか?
「こちらの白のワンピースなんてどうですかね!」
さっきの態度がウソの様な満面の笑顔である。
やっぱ金の力って凄い、笑いが止まらない。
「わぁ~♪見てよ、この白のワンピース。可愛いね♪とりあえず購入~♪」
どうやら忍はオバサンのオススメのワンピースが気に入ったようだ。
しかし、俺は嫌だ。
スカートなんて履かない!絶対にだ!
「あ、こっちの花柄も良い感じ♪ハワイアンな雰囲気で良いね!こっちもお願いします!」
「ありがとうございます!」
オバサンも嬉しいらしい。
そりゃ大量に買ってくれる客というのは店にとっては有難いだろう。
……混雑している食事処以外は。
俺はワンピースなんて着たくないので青のタオル地のパーカーとハーフパンツのセットをキープ。
「あ!ミコト、良いモノを選ぶね。じゃあボクもそれと同じののピンクを」
「別に良いが、これで3つだ。今回はこれで終わりな」
「え~、もうちょっと待ってよ!じゃあ、せめてこの黒のベビードールまで」
「分かった。それ以上は却下だ。また今度な。……この5点の合計は1万で足りるか?」
「十分でございます。またのお越しを」
礼儀正しい態度を最後まで崩さずに店主が丁寧に挨拶してくれる。
やはり金の力はデカい。
『金は命よりも重い』って名言(迷言?)があるくらいだし。
忍はこの店が気に入ったのか「また来るよ~」と言っていた。
これ以上は買わせんぞ?
庶民派の服屋を後にして次に時計屋に向かう。
時計屋は流石に時間かからないだろ?
と思ったのだけど、そんなことは無かった。
「どうも!いらっしゃいませ!本日はどのような商品をご所望ですか!!」
最初の服屋の店員以上に馴れ馴れしくオジサン店員が騒がしく話しかけてきた。
本当に何なんだろうかね?冷やかし対策?ちゃんと買い物に来てるからもう少し大人しくしてくれよ。
「この店で1番安いのを……」
「安い!?とんでもない!貴方様のような淑女にはこちらのような立派な時計がお似合いだと思いますよ」
このクソ店員め。客のリクエストを無視して高そうな腕時計を勧めてきやがった。
「へぇ~、綺麗ですね。」
と忍がうっとりと惹かれている様だ。
「さっすが!御目がお高い!こちらのは宝石を盤上の隅々に配置して……」
「いらん!もっと安そうなのを見せろ!」
「……では、逆にお尋ねしますが……予算は?」
えっと……64万と1万使ったから……残りは35万だ。
けれど残り35万全て使う必要はない。
20万から25万ほどだな。
「20万くらいで2つ」
「はぁ、今さっきのですが、あれで15万ダラーなのですが?」
「買った!」
「買わせねぇよ!」
忍が調子に乗っているようなので俺が主導権を握らなければならない。
「申し訳ないが、もっとシンプルなものを頼む」
「そうでございましたか、それならこちらの金の腕時計なんてどうでしょう?
こちらは13万ダラーになります。銀の腕時計の方は11万ダラーでお売りできますが」
どこにでもありそうなシンプルでありながら金の美しさが存在している高そうな(実際高い)腕時計が出されてきた。
これを四六時中付けていたら気分良さそうだ。
「……じゃあ、この金と銀をそれぞれ頂こうか」
「毎度!ありがとうございます!」
ハゲおやじがニパっと笑って挨拶してくる。
マイナス24万ダラーなのでこれで残金11万ダラー。
買いたいものリストの品は買ったのでパティと合流するために王城に戻った。
「お帰りなさいませ、ご主人様、それからお嬢様」
「ただいま」「よきにはからえ~♪」
俺と同時にまたさっきと同じようなことを言っている。
こいつはこれをお約束にしたいのだろうか?
アホっぽいから止めた方が良いぞ?
これ以上のアホになったらシャレにならない。
「すでに屋敷のリフォームは開始させております」
「ご苦労様」
「恐れ入ります。こちらが食料と魔除けの領収書でございます」
パティが手渡してきて領収書を見て驚愕!?
な、なんだと!?
そこに記されていた料金は約2800万ダラー!!
さきほど使った89万ダラーと合わせると約2900万ダラーになる。
つまり初日から1億円の内の3割も消費してしまったことになる。
どういうことじゃ!!
「え?あれ?女王様に『この1億ダラーは本日消費してもらって構わんから彼らを存分に満足させてやれ』と言われたのですが何か問題がありましたか?」
な、なんだとぉぉおおおお!!!!!!
あのクソ女王!!全てあのBBAの手の中だったのか!!
「ど、どういうことだ!このドジっ娘メイド!!テメェ!まさかと思うがこの調子でリフォームを頼んだんじゃねぇよな!?」
「え?はい、もちろん……。6000万ほど」
…………………………………………え?
「い、いいいいいい今なんと?6000万…………?それってつまり残りはたった1000万?」
「ははは、ご主人様は冗談が下手なのですね。1000万はたったと思われるほどの端金ではありませんよ」
こ、この女……自分が何をしたのか分かってるのか?
俺たちの金銭感覚は既に麻痺っている。
それなのにたった1000万?
俺たちは麻薬末期中毒者のように女王たちの奴隷のようになってしまう。
そんな展開認められるかーーー!!!
俺は今から怒るぜ!
「俺は全力で屋敷に戻る! お前らもなるたけ早く来い!」
俺は昨日から世話になっているサンダーボルト(馬の名前)に跨り、手綱で激しく命令して疾駆した。間に合えぇーー!!
屋敷に到着するとドワーフのようなオッチャンたちが100人近く仕事をしていた。
「これはこれは依頼人様、今回はふとっぱらなお仕事ありがとうございます。前払いで6000万なんて、いやはや素晴らしい。
え?キャンセル?もう無理ですよ。既に家具も入れ替え作業は終わりましたし3日後には壁紙の張替え、外壁に纏わりついている蔓の除去、浴室、寝室、その他全てのリフォームも終了すると思いますが」
また、間に合わなかった……。
いや、前払いで受け取っていたようなのでどれだけ頑張っても手遅れだろう。
材料を揃えた時点でキャンセル料で酷いことになってそうだ。
この世界は……やっぱり最悪だ……。




