幼馴染みの黒魔術で異世界にやって来たが、この世界も案外悪くないかもしれなくはないのかもしれないこともない。その弐
前回のあらすじ、
従順なメイドを手に入れ、美味い飯を腹いっぱい食った♪
(なんて幼稚なあらすじなんだ……)
てなわけで城下町を探索。
うむ、立派、立派。
さすが大陸全土を支配している国の首都ということはある。
……だよね?この解釈あってるよね?
だって女王が居る王城があるのだからここが首都だよね?
俺、社会科や人文科学は嫌いだから全く分からない。
「意外に立派だね。この世界の技術ってどういう感じなのかな?」
忍も俺と同じように立派と思ったようだ。
「技術レベルは知っておきたいな。特に電気の有無はパソコン、スマホ、テレビにゲームに関わる。それらは我々現代人にとって必要不可欠である」
「『である』と言ってるけどさ、電気が有っても無くてもネットは繋げられないだろうけどね」
「はぁ……。なんだよね……」
現代人にとってネットは引きこもりにもリア充にも不可欠。
あ、勘違いしてるバカが多いけど『リア充』と言うのは『リアルが充実』の略であって決して『恋人が居る人間』と言う意味じゃないんだよ?
引きこもりの対義語みたいなものであって友達が1人でも居ればそれは充実してると解釈される。
だいたい『恋人』ってなんだよ?無性愛者は常に非リア充か?
居るよね。自分の価値観を絶対だと信じきってる奴。
俺、嫌いなんだよ。言葉の原義を無視して意味を改変して拡散したがるバカ。最近だと『リア充』『中2病(原義は中学2年生に見られる背伸びしたがる傾向のこと)』『~厨(原義は中坊のような幼い言動のこと)』など色々あるよな。……『腐女子』は……あれを『女オタ』として使ってるアホは少数派か。
こういうのを誤用してるマンガとかラノベとか見ると吐き気がする。間違った知識をドヤ顔で公開してる奴ね。
運動方程式とか熱力学第二法則とかその辺り。
特に『シュレディンガーの猫』をただの可能性の問題と勘違いしてる奴とかって多そうだ。
あれは量子力学論の思考実験であって、あのアインシュタイン博士が『神はサイコロを振らない』と言って否定したんだぞ?
これは物理法則は絶対だと信じてアインシュタイン博士がシュレディンガー博士の言った確率論は間違っていると指摘したのである。
こんな偉そうなことをいっているが俺は量子力学なんて理解できてない。あんなもの意味が分からない。ラマンスペクトルだのレッドシフトだの耳にたこが出来そうだ。全く分からない!
あえて言おう!バカであると!
そんなアホなことを考えてる内に服屋さんにたどり着いた。
「いらっしゃいませ。何かようですか?」
と女店員が話しかけてくる。
異世界でも服屋さんの店員さんは馴れ馴れしいのか。
なんで美容院と服屋はあんなにフランクなのかね?
そんなにおしゃべりしたいの?
それともこっちの好みをリサーチしてるの?
前者なら仕事舐めんなだけど、後者なら大変だな。
同情するけど金はやらん。
そういえば『いらっしゃいませ』は英語では「May I help you?」と言うと英語の授業で習ったな。それと同じなのか?
「実はこの寝巻きしか今持ってないので何か良い服を探してまして」
「そうなのですか。しかしお客様、こちらは貴族様も来店するので比較的お値段高くなりますがよろしいですか?」
俺が寝巻きしか持ってないという奇妙な発言を気にしてか店員さんがそんなことを言ってくれる。
「高くなるって……いかほど?」
「最高級品一式をまとめてのご購入ですと、だいたい50万ダラーくらいになるかと」
大丈夫だ、問題ない。
「一番良いのを頼む」と言っても大丈夫そう。
なぜなら100万もあるから!
「よし!レッツ!ショッピング♪」
トラブルメーカー改めネガティブイベントメーカーの忍がテンションを上げ出して来た。
「黙れ、そして黙れ」
「さすがにその二重コンボは酷くない!?」
「ならば言い直そう。腐れ、そして燃えろ」
「遠まわしに死ねって言われた!?」
「真面目な話、お前には選ばせない。今回は俺が今後最も着るであろう服を選ぶわけだからな」
「でも、女物には疎いでしょ? まさか本当に男物を買うの?それはどうかと?」
『大丈夫だ、問題ない。』と返したかったが、ちゃんとレディースを買っておいた方が何かと都合が良いかもしれない。
『何かと』だ。その何かは今後考える。
……違うぞ?
人に言えないようなことを企んでいるんじゃないぞ?
ウソじゃないよ、ホントだよ。
「そんなわけで俺が選んだのはこれだ!」
俺は上半身は白のYシャツ、黒のタイに黒のレザージャケット。
下半身は白のショートパンツに茶のブーツ。
まさにボーイッシュ。
これが男の印象を備えつつ女性らしさも孕んでいる中性的なファッションである。今の俺にもっとも相応しい。
「う~ん。なんか可愛くないけどなぁ……」
何を言う! ボーイッシュは可愛いだろ!いい加減にしろ!
……いや、今のはボーイッシュに対する弁明であって、俺自身が可愛くないと言われたことに腹を立てたのではない。
ホントだぞ?ホントだからな?
信じてくれ!
「後、一応そこのキャスケット帽を頂こうか。店員さん、合計でいくらになります?」
「……ミコト、下着を忘れてるよ」
店員に値段を尋ねようとしたのだがミコトが聞き流したいセリフを言ってきた。
「下着くらい男物で良いだろ」
「良くないよ!ミコトの胸はそれなりにあるじゃん!ブラは?ブラはどうする気なの?」
「問題ない」
「問題だよ!」
「問題外だ」
「大問題だよ!」
五月蝿い女だ。魂が男の俺が下着まで女物を履いてみろ。
ただの変態じゃないか。
最近はメンズブラなんかが流行っているらしいがあれは一体全体なんなんだろうか?
ただの女装癖のある変態だと思うな。
否定はしないが肯定もしない。
……いや、男物を履き続けていれば、傍から見れば男装癖のある変態に見えるかもしれない。
世間体を気にするのならば女物を履く方が良いが、俺にだって意地がある。
意地があるんだよ、男の子には!!
「分かった。じゃあ冷静に考えてみよう。ボクも君も昨日から下着を変えてない。お風呂から上がった時もまた同じのを履き直したわけだよ。じゃあどうする? やっぱり予備を買わないと。衛生的な意味で」
「新しい下着を買うのは分かる。が、女物を買う必要性がないだろ?」
「ぐぬぬ……」
勝った!これで俺はちゃんと男物の下着が……。
「お客様、非常に言い難いのですが、女性に男性用の下着を無許可で売ることは出来ないのですが……」
な、なんだってー!!
「…………本当ですか?」
無意識に訊き返す。
おいおい、この国の法律はどうなってるんだ?もうちょっと大らかになろうじゃないか。
「えぇ、買うことを許されてるのは母子家庭の女性が幼い息子のためだったりした場合くらいです。……申し訳ありません。基本的に異性の下着を購入することはできません」
…………………数秒、俺の体内時間は停止した。思考が麻痺したせいか、体中が虚無感に包まれている。
「ミコト、どんまい」
慰められるが、まったく慰められていない。
心は抉られる。
俺はこれから自分の部屋が戻ってくるまで女物の下着を強制的に履かされることになったわけだ。
女装癖がない俺にとってこれ以上の屈辱感はない。
……お願いだから俺に平穏をくれ。
「店員さん、ということはどのような思想、性癖があろうと女性は女性用の下着を身に着けなければならないと言うことですか?」
「そうなりますね」
「見てのとおり、この人はブラを着けたこともなく、測ったこともありません。なので採寸お願いします」
「分かりました。それでは失礼します」
そんなやり取りを忍と店員さんがした後で俺のYシャツの中に手を忍ばせてくる。
「ちょ!?何するんですか!?」
「え?バストを測らないとブラは選べませんよ?トップとアンダーの違いで合うブラジャーは違いますから」
そんなことを言われても女性に直に胸を触られるのは色んな意味で危ない。ここで性的興奮を感じてしまっては俺は人としてアウトである。
んひゃああ!だから、そこは……はぅ!ん!はぁ……はぁ……だからやめてくださ……ひゃう!や、んん……。ら、らめぇ~~!!
…………もう男としての大事なものを失ってる。
……完全に感じちゃってるわ……おっぱいで。
「え~っと、トップが85でアンダーが73ですね。ということはC70ですか」
「うわ、意外にある……私のバスト、小さすぎ……?Cで見た目このくらいなの……」
上記のようなことを思ってる中、隣のバカは自分の胸の小ささを気にしているらしい。
でも、よく言うよね。
男が思ってるDというのは実際はEかFくらいだって。
妄想は妄想であって現実とは違う。
しかし、胸が大きければそれ相応にくびれが太いはずだ。
ボンキュッボンってそんなパーフェクトボディはそこまで多くないだろ。
多分、シリコンとか詰めてそうだ。
別に良いけどね、偽乳でも天然でもスタイルさえ良ければ。
けど、それは俺が童貞だからかね?
本物の女性のおっぱいを揉んでみたい!
女性のだ。自分の胸とか揉みたくない。
だってそうだろ?
胸部の脂肪を触りたいならデブの男の胸でも揉んどけ。
同性だから性犯罪にならないぞ。きっとな。
「というわけでC70のブラがこちらで、ウエストの方から見てショーツはこちらをどうぞ」
「あ、じゃあボクはこっちのを。ミコト、良いよね」
「好きにしろ……。で、値段は?」
「えっと……下着がそれぞれ6組の計12点、帽子が1点、それからお客様が着用されてる物を含めると……64万ダラーになります」
ちょっと高くね?この国の平均年収が100万だろ?その6割強?
さっきは『最高級一式で50万』って言ってなかった?
「ちょっと高くないです?いや、決して値切ろうとしているのではなく、相場が分からないから聞いてるのです」
「こちらの商品は貴族様向けの商品なので全て材質は超一級品でございます。拘りぬいた素材を匠の手で丁寧に仕上げられています。オーダーメイドのオリジナルばかりなので少々お高くなっておりますことに関してはご了承ください」
「なるほど、この世界じゃ衣服の量産がまだ出来ていないのか」
「どゆこと?」
俺の独り言が理解が出来てない忍が訊いてくる。
「この世界は毛織物は出来ていても工場のように大量に生産する施設等は存在しないらしい。やっぱりこの国の技術は俺たちの世界よりもかなり遅いっぽい」
「そういうこと、でもそれってかなりピンチじゃない?」
「だな、少なくとも発電システムくらいは欲しいな」
一応、太陽電池等は自室にはあるがそれで半永久にやっていく自信はない。何か都合よく便利グッズが発明されたりしねぇかな……。
64万ダラーを支払って店を後にする。
他に買うものって何かあるかな?
「不必要かもだけど、バッグと腕時計くらいは勝っておいた方が良いんじゃない?」
「バッグは要らんな。部屋にあるから。けど、時計か。この国の仕様にあってないかもだから買っても良いかも」
「仕様って?」
「暦」
「はいはいはい、理解……あ、ミコト、ボクの分の服がないよ」
「お前の分?今着てるので十分だろ?」
「不十分だよ!!ボクに一日中これを着せるつもり!?君と違ってボクにはクローゼットすらないんだ」
それはお前が身支度せずに異世界渡航なんてバカな術を発動させたからだ、と言ってやると黙った。
こうやって黙らせたが、やはり一日中、というか毎日同じ服と言うのも悪い。
とりあえず部屋着だけでも買ってやろう。
私服に関してはまた後日にでも今の店にお世話になればよい。




