2本目 夢・占い
俺はどこか不思議な場所にいた。霧が立ちこめたように薄ぼんやりとしていて、白くぼやけた向こうに色とりどりの建物が並んでいる。そう、街、だと思う。どこかレトロな様式なのに、派手な配色の、古めかしい町並みだ。
コツ……
地面を踏むと、硬質な音がした。石畳、のようだ。赤や青、黄色の石が採れるのなら、石畳なのだろう。
極彩色、色の氾濫の中、俺はまぶしくなって、でも目を瞑る事が出来ずに隠れるところを探した。すると光を拒むかのような真っ黒い小さなテントが、路地にひっそりと建っている。ハイテンションな景色でそのテントだけが唯一陰鬱な雰囲気を出していた。
僕は光から逃げるように、自然とテントに足を向ける。何故か体が重く、後ろに引っ張られるような感覚に抗いながら、なんとか入り口にたどり着く。
テントの入り口を覆っていた扉代わりのカーテンを引くと、後ろに引っ張られる力は無くなり、逆に吸い込まれるように俺はテントに入っていった。
テント内は狭く、暗い。中央に置かれた机の両端に付いた豆電球と入り口からの光、そして燭台に直接注がれた油に火口をおいただけという粗末な灯りによって照らされているが、十分な光量ではないのは確かだ。
机の向こう側にはローブを纏いフードをしっかりと被った人が座っている。
「お客さんかね……」
しわがれた、年老いた女性の声。ローブから出て机に置かれた水晶玉に翳された両手もしわだらけでか細く節くれ立っている。老婆、だろう。
水晶玉を見たことがきっかけなのか、俺は初めてテント内の装飾が神秘的なものが溢れていることに気付いた。この老婆は占い師、だろうか。
「よかろ。占ってしんぜよう」
「あ、いや……」
何か嫌な予感がして、俺は右手のひらを前に出した。やめてくれ、という意思表示。だが老婆は「ふぇっふぇふぇ……」という気味の悪い笑い声を上げて、水晶玉に翳した手を小刻みに動かした。
「金はとらんよ……勝手に占うだけだからね……」
迷惑、なはずなのに、俺は何故か、占われなければならない気がしている。老婆を止めずに、結果だけ聞けるだろうか。
「……見えたよ。お前、このままだと遅刻するね」
「はっ?」
見慣れた天井だ。ゆるりと温とい布団が俺の首から下を覆っていて心地よい。窓から朝日、というには角度が付いた日が差してきていて、俺の顔に直接当たってとてもまぶしい。
目を閉じて起き上がる。寒い。体を捻ってベッドの枕元にある時計を見た。急げば講義に間に合いそうな時間だ。
部屋中央にある机の上を見ると、昨日買った夢占いの本が置いてある。書店で発見してビビっと来たので購入したモノだ。昨夜はこれが出てくるとこういう意味だ、という感じの記述が面白くてつい読みふけってしまった。
いくら夢占いの本を読んだからといって…………。
ああ、これが本当の夢占い、か。