第14話 ハワイ奪還作戦
本日は、折笠悠平側ストーリー最新話です!
よろしくお願いします!
作文:けん
5/12:『時に~』の表現を追加
5/20:後書き変更
1. 〜空間転移〜
「魔法力伝導開始、エネルギー充填!」
エネルギーの充填が始まり、エンジン音が高まってきた。
発進、そして空間転移航法の全てを担う高橋大地は、手に汗を握りメーターパネルを見つめた。
「エネルギー充填、80……85……90……95、100!」
「まだだ」点火レバーを握りかけた高橋を、艦長が制する。
「エネルギー、臨界点を突破」
艦長は、そこで初めて深呼吸をし、全員を見回した。
「総員ベルト着用。対ショック用意。転移座標確認」
「確認。ハワイ沖、ポイントA-701の海域」
「折笠……行けるか?」
八神の声に、悠平は心臓の動悸をより強く感じる。そして静かに頷き、計器を見つめ直した。
「行けます!!」
「秒読み省略、メインエンジン接続!」
八神は声を張り上げた。
そして大地がレバーを倒す。
エンジンに、火が入った。
「点火ぁ!」
「発進!!」
ちひろの強い声が、艦橋へと響き渡った。そして、武蔵は海上へと滑り出した。
船が海を蹴り進むのが、大地にはよく分かる。
父は護衛艦"やまと"の航海長として、海上自衛隊に所属していた。高橋大地は、幼き頃から、海、そして船に慣れ親しんで生きてきたのだ。だからこそ、船が『走る』感覚を理解できた。
「両舷前進強速! 空間転移航法シーケンスへ入る」
大地の声を聞き、悠平は機関のエネルギーを魔法力エンジンへ傾注させた。エンジンの音は低音から、風の吹き抜けるようなスマートなサウンドへと変化し、船の揺れも少なくなった。
空間転移航法。漢字の読みは、"じゃんぷこうほう"。テレポート能力者が世界で初めて発見された時、その能力者の身体を分析して完成された技術だ。近年の新しい科学技術開発は大抵このやり口。魔法科学とよばれる。悠平が飛行能力を持つ能力者を探し求めているのは、この為だ。
武蔵は、さらに速度を上げた。
悠平にとって、空間転移航法は初めての体験。いや、皆にとっても初めてだ。まさに、船が『跳ぶ』この航法は、外から見たことのある者はいても、体験したことのある者などほんの僅かである。
「空間転移カウント・ダウン。魔法陣展開」
武蔵の艦首正面に、大きな魔法円、もとい魔法陣が広がった。それはまるで大きなブラックホールの類のように、武蔵の艦体を吸い込まんとしていた。
「ジャンプ、10秒前」
9.8.7.6.5.4.3.2...1!
「空間転移!!」
ちひろの大きな声を聴き、悠平と大地はほぼ同時に魔法力エンジンの制御レバーを強く押した。
それから悠平が艦橋から見たものは、この世のものとは思えぬ事象の連続であった。
武蔵の船体がまるで砂で出来た細工を壊したかのように、粉々になり、魔法陣に吸い込まれていく。しかし、悠平は衝撃を感じることもない。痛みもない。自らの体も、粉々となって吸い込まれているというのに。
周囲に突然、光が満ちた。だがその刹那、悠平は、武蔵ごとどこかへ引かれる感覚を覚えた。武蔵は虹色に輝くトンネルをくぐり、透明感のある緑色の海を越え、光を目指して"走った"。
空が明るく光る。
時に、系歴百二十八年。
海条学園の戦艦"武蔵"は、その巨体を、ハワイの沖へと滑り込ませた。
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2. 〜三英連合艦隊〜
杉谷香奈は、不安に苛まれていた。
「敵巡洋艦、轟沈!」
所謂『囮』である三英連合艦隊は、次々と敵艦を沈めている。敵の科学力が劣っているのではない。その数が少ないのだ。
ハワイ基地からは、敵艦の反応は一切消えたというのに。
"偶然、敵が他基地へ退いていたのでは"
香奈が副長として乗船した駆逐艦"はつはる"の若い艦長は、そう考察したが、いまいち香奈は納得ができていなかった。
戦場において『偶然』の出来事はよくある。しかし、香奈にはそうでない予感がしていたのだ。
そんな中、通信士が待望の知らせを口にする。
「レーダーに反応! 戦艦武蔵、作戦海域に空間転移完了!」
不安だ。
だが、今我々は優勢に立っている。
死ぬなよ。悠平。
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3. 〜陽電子砲発射準備〜
「陽電子エネルギー供給機、内圧力上げろ。非常弁閉鎖、陽電子砲への回路開け!」
武蔵はハワイ島を目の前にして、作戦行動に入っていた。
作戦の概要はこうだ。
既に、ハワイ基地の敵主力艦隊は三英連合艦隊が引きつけている。その隙に、島の反対側、敵艦隊の射程外へとジャンプアウトした武蔵が、反射幕を使用し基地に対して陽電子砲を放つ、という算段だ。
「陽電子砲薬室内、圧力上昇!」
悠平はメーターを見つめ、さらに続ける。
「陽電子砲エネルギー、第一主砲へ! 強制注入機作動!」
八神は頷いた。
「陽電子砲、安全装置解除!」
「安全装置解除!」
その頃、将は陽電子砲が装備された第一主砲内の制御室にいた。
「"safety lock:zero" 圧力、発射点へ上昇中。後0.2!」
将はメーターを見ながら報告。その声と共に、データが艦橋へ続々届いた。
「最終セーフティ解除! 内圧、限界へ!」
悠平も将に応える。
「反射幕射出位置、確認しました! 山崎さん、データ転送します」
ユイも必死に加わり、発射準備は着々と進められていた。
「将、頼むぞ。うまくやれ!」
悠平は将に声をかけた。
「まかしとけ!」
将も悠平に応える。
八神は低く頷き、纏めにかかった。
「エネルギー充填。総員対ショック用意!」
艦内の電気が一気に暗く落ちた。赤い非常灯がサイレンのように灯り、ブザーが低く響く。
「"TARGET SCOPE open"」
「反射幕射出、15びょうまえ! 陽電子砲発射、30びょうまえ!」
CICから、奈津子が声を上げた。
「エネルギー充填、完了!」
悠平がゲージを読み上げ、叫ぶ。
「反射幕、射出!」
悠平の声と共にまず第一副砲から飛び出したのは、陽電子砲を敵基地へ向けて屈折させる反射幕だ。大きな弧を描いて光点が飛んでいく。そして目的の空域、反射幕がその大腕を開いた。
「発射5秒前――対閃光防御!」
八神の指示で、艦橋の窓が一斉に閉まった。
「5……4……3……」
第一主砲の将は発射レバーを握り、ターゲット・スコープを見つめ、慎重にカウントを減らしていく。
その時だ。
「左舷より敵の攻撃! 直撃コースです!」
ユイの声が艦橋に響き、将も発射を一瞬躊躇した。
うっ……!
武蔵の船体が一瞬大きく傾き、すぐに大きな爆発音が響き渡る。悠平が恐る恐る目を開けると、艦橋の外には黒煙が舞い上がっていた。
「状況報告!」
「第一主砲に直撃弾! 」
悠平は、思わず立ち上がる。
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4. 〜1人目の科学者〜
数分前のこと。
「ここまで派手な陽動とは。ちひろも妙な作戦を考える」
ルドは感心していた。
ちひろの考えた作戦は決して優れたものではない。しかし、"猪突猛進"と称されたかつての彼女からは、考えられないような作戦をやっている。
「例の艦がきた」
副官が静かに呟いた。モニターには、"BB-MUSASHI"と映し出され、続いて駆逐艦二隻も表示される。
「反射幕を使ってのロングレンジ陽電子砲撃か。猪突猛進さがまだ抜けていないところもあるな。"勇猛果敢"くらいか。成長だ」
「ルド、叩こう」
「当然だ」
会話の内容を聞いた長年の部下達は、命令を待たずして攻撃準備を始めた。
「次元空間歪曲急げ!」
「準備よぉーし!」
「目標軸線!」
矢継ぎ早の準備も終わりに差し掛かると、ルドの前にターゲット・スコープが現れた。
「目標、武蔵第一主砲。ミサイル撃てっ!」
次元の狭間から、マルツ海軍のミサイルが放たれた。
空間を歪め、次元の壁を超えたその群れは、魔法陣の先、通常空間へと飛び出す。
そして真っ直ぐに武蔵を目指し、群れは襲いかかった。
「敵主砲に全弾命中」
報告を聞き、ルドは満足そうにターゲットスコープを仕舞った。
「後は、奴さんの動きを待つだけだ。退けば叩く」
さぁちひろ、お前はどうする?
ルドは、不敵に笑った。
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5. 〜海戦という名の惨劇〜
歴史は、時として残酷だ。
どれだけ多くの人間が犠牲となっても、文字は、それを縮小し、軽くして、石拳の勝ち負けのようにその記録を記す。そして人々は、それを学問として習う。
だから悠平は、呆然としていた。
『甲板損傷』
『第二主砲中破』
『第一副砲小破』
『第一主砲に直撃弾。応答なし』
『敵弾頭の発射位置特定不可』
あの衝撃から30秒もの間に、一気にこれだけの報告が雪崩のように押し寄せた。
加えて、
『主砲副砲中心に負傷者多数』
『戦術長の安否不明』
ここまでの知らせが艦橋に届く。
悠平は、何も口に出すことができない。将を心配していいのかすらわからない。
なんなんだこれは?
これが、海戦なのか?
ハワイを奪われた時は、こんなことはなかったのに。
……いや、それは違う。
ハワイ防衛戦で、三笠海軍は第三艦隊の13隻を失い、敗れた。海条学園は、援護としてロングレンジ砲撃を行ったに過ぎない。艦隊壊滅後、直ぐに三笠撤退命令が出され、軍事要塞学園都市三笠は、ミッドウェー沖まで後退を余儀なくされたのだ。
そう、あの時も、失った13隻、その一隻一隻に乗組員がいて、その人たちには家族もいた。
でも、彼らの多くは、戦死したんだ。
目を背けていただけだ。
人の命は、数字なんかじゃない。
「折笠!」
八神先生の声がする。
「間違いない。相手はルドだ。ルド・フォンシュトランだ。ここは退く。体制を立て直す。考えろ、お前が頼りだ」
先生の声に、心臓がぐっと揺れた。
黒煙をあげる武蔵が、大きく面舵をきったのがわかった。先の攻撃の射程外へと逃げるためか。
「右舷よりミサイル!」
艦橋が悲鳴に包まれる。今回も、発射位置特定不可。
『右舷ファランクス砲大破』
『ダメージコントロール』
そうか。これは、戦争だ。
ならば僕にも、この状況の中で、すべきことが、あるではないか。
将、俺が仇を取る。無事でいろ。
『機関長、意見具申』
艦長席を振り返る悠平。
「艦長、指揮権を僕にください」
八神を見つめるというよりむしろ、睨む。懇願の目で。
「先生は、相手がルド・フォンシュトランであると確信して、そう仰りました」
そこまで言った時、もう一発、今度は左舷からミサイルが直撃した。だがこの折笠は、微動だにしない。
「この魔法科学の時代、科学者は、科学者にしか倒せません」
今度は後方からの一撃。
機関長、微動だにせず。
「先生の仰った通り、相手がルドならば、僕が、科学者として対峙します」
「そして、倒します」
つづく
ありがとうございました!
次回14.0も折笠悠平側ストーリーです!
作文:けん
よろしくお願いします!