表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【未完】二人の時空間転移者 〜DOUBle Travelers~ 第1版  作者: ダブトラ企画。
二年生篇 PART-1
20/23

第14話 ハワイ奪還作戦

本日は、折笠悠平側ストーリー最新話です!

よろしくお願いします!


作文:けん


5/12:『時に~』の表現を追加

5/20:後書き変更

1. 〜空間転移(ジャンプ)



「魔法力伝導開始、エネルギー充填!」


エネルギーの充填が始まり、エンジン音が高まってきた。


発進、そして空間転移航法の全てを担う高橋大地は、手に汗を握りメーターパネルを見つめた。


「エネルギー充填、80……85……90……95、100!」


「まだだ」点火レバーを握りかけた高橋を、艦長が制する。


「エネルギー、臨界点を突破」


艦長は、そこで初めて深呼吸をし、全員を見回した。


「総員ベルト着用。対ショック用意。転移座標確認」


「確認。ハワイ沖、ポイントA-701の海域」


「折笠……行けるか?」


八神の声に、悠平は心臓の動悸をより強く感じる。そして静かに頷き、計器を見つめ直した。


「行けます!!」



「秒読み省略、メインエンジン接続!」


八神は声を張り上げた。

そして大地がレバーを倒す。


エンジンに、火が入った。


「点火ぁ!」


「発進!!」


ちひろの強い声が、艦橋へと響き渡った。そして、武蔵は海上へと滑り出した。


船が海を蹴り進むのが、大地にはよく分かる。

父は護衛艦"やまと"の航海長として、海上自衛隊に所属していた。高橋大地は、幼き頃から、海、そして船に慣れ親しんで生きてきたのだ。だからこそ、船が『走る』感覚を理解できた。


「両舷前進強速! 空間転移航法シーケンスへ入る」


大地の声を聞き、悠平は機関のエネルギーを魔法力エンジンへ傾注させた。エンジンの音は低音から、風の吹き抜けるようなスマートなサウンドへと変化し、船の揺れも少なくなった。


空間転移航法。漢字の読みは、"じゃんぷこうほう"。テレポート能力者が世界で初めて発見された時、その能力者の身体を分析して完成された技術だ。近年の新しい科学技術開発は大抵このやり口。魔法科学とよばれる。悠平が飛行能力を持つ能力者を探し求めているのは、この為だ。


武蔵は、さらに速度を上げた。


悠平にとって、空間転移航法は初めての体験。いや、皆にとっても初めてだ。まさに、船が『跳ぶ』この航法は、外から見たことのある者はいても、体験したことのある者などほんの僅かである。


空間(くうかん)転移(てんい)カウント・ダウン。魔法陣展開」


武蔵の艦首正面に、大きな魔法円、もとい魔法陣が広がった。それはまるで大きなブラックホールの類のように、武蔵の艦体を吸い込まんとしていた。


「ジャンプ、10秒前」


9.8.7.6.5.4.3.2...1!


空間転移(ジャンプ)!!」


ちひろの大きな声を聴き、悠平と大地はほぼ同時に魔法力エンジンの制御レバーを強く押した。


それから悠平が艦橋から見たものは、この世のものとは思えぬ事象の連続であった。


武蔵の船体がまるで砂で出来た細工を壊したかのように、粉々になり、魔法陣に吸い込まれていく。しかし、悠平は衝撃を感じることもない。痛みもない。自らの体も、粉々となって吸い込まれているというのに。


周囲に突然、光が満ちた。だがその刹那、悠平は、武蔵ごとどこかへ引かれる感覚を覚えた。武蔵は虹色に輝くトンネルをくぐり、透明感のある緑色の海を越え、光を目指して"走った"。


空が明るく光る。


時に、系歴百二十八年。


海条学園の戦艦"武蔵"は、その巨体を、ハワイの沖へと滑り込ませた。



----------------

2. 〜三英連合艦隊〜


杉谷香奈は、不安に苛まれていた。


「敵巡洋艦、轟沈!」


所謂『囮』である三英連合艦隊は、次々と敵艦を沈めている。敵の科学力が劣っているのではない。その数が少ないのだ。


ハワイ基地からは、敵艦の反応は一切消えたというのに。


"偶然、敵が他基地へ退いていたのでは"


香奈が副長として乗船した駆逐艦"はつはる"の若い艦長は、そう考察したが、いまいち香奈は納得ができていなかった。


戦場において『偶然』の出来事はよくある。しかし、香奈にはそうでない予感がしていたのだ。


そんな中、通信士が待望の知らせを口にする。


「レーダーに反応! 戦艦武蔵、作戦海域に空間転移(ジャンプ)完了(アウト)!」


不安だ。

だが、今我々は優勢に立っている。


死ぬなよ。悠平。



--------------------

3. 〜陽電子砲発射準備〜


「陽電子エネルギー供給機、内圧力上げろ。非常弁閉鎖、陽電子砲への回路開け!」


武蔵はハワイ島を目の前にして、作戦行動に入っていた。


作戦の概要はこうだ。


既に、ハワイ基地の敵主力艦隊は三英連合艦隊が引きつけている。その隙に、島の反対側、敵艦隊の射程外へとジャンプアウトした武蔵が、反射幕を使用し基地に対して陽電子砲を放つ、という算段だ。


「陽電子砲薬室内、圧力上昇!」


悠平はメーターを見つめ、さらに続ける。


「陽電子砲エネルギー、第一主砲へ! 強制注入機作動!」


八神は頷いた。


「陽電子砲、安全装置解除!」


「安全装置解除!」


その頃、将は陽電子砲が装備された第一主砲内の制御室にいた。


「"safety lock:zero" 圧力、発射点へ上昇中。後0.2!」


将はメーターを見ながら報告。その声と共に、データが艦橋へ続々届いた。


「最終セーフティ解除! 内圧、限界へ!」


悠平も将に応える。


「反射幕射出位置、確認しました! 山崎さん、データ転送します」


ユイも必死に加わり、発射準備は着々と進められていた。


「将、頼むぞ。うまくやれ!」


悠平は将に声をかけた。


「まかしとけ!」


将も悠平に応える。


八神は低く頷き、纏めにかかった。


「エネルギー充填。総員対ショック用意!」


艦内の電気が一気に暗く落ちた。赤い非常灯がサイレンのように灯り、ブザーが低く響く。


「"TARGET SCOPE open"」


「反射幕射出、15びょうまえ! 陽電子砲発射、30びょうまえ!」


CICから、奈津子が声を上げた。


「エネルギー充填、完了!」


悠平がゲージを読み上げ、叫ぶ。


「反射幕、射出!」


悠平の声と共にまず第一副砲から飛び出したのは、陽電子砲を敵基地へ向けて屈折させる反射幕だ。大きな弧を描いて光点が飛んでいく。そして目的の空域、反射幕がその大腕を開いた。


「発射5秒前――対閃光防御!」


八神の指示で、艦橋の窓が一斉に閉まった。


「5……4……3……」


第一主砲の将は発射レバーを握り、ターゲット・スコープを見つめ、慎重にカウントを減らしていく。



その時だ。


左舷(ひだりげん)より敵の攻撃! 直撃コースです!」


ユイの声が艦橋に響き、将も発射を一瞬躊躇した。



うっ……!


武蔵の船体が一瞬大きく傾き、すぐに大きな爆発音が響き渡る。悠平が恐る恐る目を開けると、艦橋の外には黒煙が舞い上がっていた。


「状況報告!」


「第一主砲に直撃弾! 」


悠平は、思わず立ち上がる。



--------------------

4. 〜1人目の科学者〜


数分前のこと。



「ここまで派手な陽動とは。ちひろも妙な作戦を考える」


ルドは感心していた。


ちひろの考えた作戦は決して優れたものではない。しかし、"猪突猛進"と称されたかつての彼女からは、考えられないような作戦をやっている。


「例の艦がきた」


副官が静かに呟いた。モニターには、"BB-MUSASHI"と映し出され、続いて駆逐艦二隻も表示される。


「反射幕を使ってのロングレンジ陽電子砲撃か。猪突猛進さがまだ抜けていないところもあるな。"勇猛果敢"くらいか。成長だ」


「ルド、叩こう」


「当然だ」


会話の内容を聞いた長年の部下達は、命令を待たずして攻撃準備を始めた。


「次元空間歪曲急げ!」


「準備よぉーし!」


「目標軸線!」


矢継ぎ早の準備も終わりに差し掛かると、ルドの前にターゲット・スコープが現れた。


「目標、武蔵第一主砲。ミサイル()てっ!」


次元の狭間から、マルツ海軍のミサイルが放たれた。

空間を歪め、次元の壁を超えたその群れは、魔法陣の先、通常空間へと飛び出す。


そして真っ直ぐに武蔵を目指し、群れは襲いかかった。


「敵主砲に全弾命中」


報告を聞き、ルドは満足そうにターゲットスコープを仕舞った。


「後は、(やっこ)さんの動きを待つだけだ。退けば叩く」


さぁちひろ、お前はどうする?



ルドは、不敵に笑った。



----------------

5. 〜海戦という名の惨劇〜



歴史は、時として残酷だ。


どれだけ多くの人間が犠牲となっても、文字は、それを縮小し、軽くして、石拳(じゃんけん)の勝ち負けのようにその記録を記す。そして人々は、それを学問として習う。


だから悠平は、呆然としていた。


『甲板損傷』


『第二主砲中破』


『第一副砲小破』


『第一主砲に直撃弾。応答なし』


『敵弾頭の発射位置特定不可』


あの衝撃から30秒もの間に、一気にこれだけの報告が雪崩のように押し寄せた。

加えて、


『主砲副砲中心に負傷者多数』


『戦術長の安否不明』


ここまでの知らせが艦橋に届く。

悠平は、何も口に出すことができない。将を心配していいのかすらわからない。



なんなんだこれは?


これが、海戦なのか?


ハワイを奪われた時は、こんなことはなかったのに。


……いや、それは違う。



ハワイ防衛戦で、三笠海軍は第三艦隊の13隻を失い、敗れた。海条学園は、援護としてロングレンジ砲撃を行ったに過ぎない。艦隊壊滅後、直ぐに三笠撤退命令が出され、軍事要塞学園都市三笠は、ミッドウェー沖まで後退を余儀なくされたのだ。



そう、あの時も、失った13隻、その一隻一隻に乗組員がいて、その人たちには家族もいた。

でも、彼らの多くは、戦死したんだ。


目を背けていただけだ。


人の命は、数字なんかじゃない。



「折笠!」


八神先生の声がする。


「間違いない。相手はルドだ。ルド・フォンシュトランだ。ここは退く。体制を立て直す。考えろ、お前が頼りだ」


先生の声に、心臓がぐっと揺れた。

黒煙をあげる武蔵が、大きく面舵をきったのがわかった。先の攻撃の射程外へと逃げるためか。


右舷(みぎげん)よりミサイル!」


艦橋が悲鳴に包まれる。今回も、発射位置特定不可。


『右舷ファランクス砲大破』


『ダメージコントロール』



そうか。これは、戦争だ。


ならば僕にも、この状況の中で、すべきことが、あるではないか。


将、俺が仇を取る。無事でいろ。


『機関長、意見具申』


艦長席を振り返る悠平。


「艦長、指揮権を僕にください」


八神を見つめるというよりむしろ、睨む。懇願の目で。


「先生は、相手がルド・フォンシュトランであると確信して、そう仰りました」


そこまで言った時、もう一発、今度は左舷からミサイルが直撃した。だがこの折笠は、微動だにしない。


「この魔法科学の時代、科学者は、科学者にしか倒せません」


今度は後方からの一撃。


機関長、微動だにせず。


「先生の仰った通り、相手がルドならば、僕が、科学者として対峙します」


「そして、倒します」




つづく

ありがとうございました!

次回14.0も折笠悠平側ストーリーです!


作文:けん


よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ