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【未完】二人の時空間転移者 〜DOUBle Travelers~ 第1版  作者: ダブトラ企画。
二年生篇 PART-1
14/23

第10話 眠る歴史

今回も、よろしくお願いします!


作文:けん



〜改稿メモ〜

12/4:ボツ案のころの台詞が残ってたり、色々ミスがあったので直しました。

12/6:設定ミスがありました

12/7:改稿メモを前書きへ移転。次回予告を追加しました。

12/18:次回が少し変更になったので、予告と後書きを変更しました。

1/8:誤字があったので、直しました。そして、パート分けを調節しました。

1/11:杉谷祐武の日記を微調整。記名の位置を変えたぐらいです。

3/2:初期案の腕時計のくだりを追加しました。

4/21:誤字を直しました

5/20:推敲

時に系歴百二十七年五月一日、午前零時。杉谷祐武・杉谷香奈・折笠悠平の三人は、海条学園に向かっていた。辺りは当然だが真っ暗であり、外を歩く人もあまり見られない。


「父さん、海条学園に何があるって言うんだ?」


誰もいない夜道なのだ。少し不安げに香奈が言った。香奈も、ファーストコンタクトの事を聞くのは初めてなのだろう。


「今に分かる」


三人は海条学園に到着した。暗闇にぼんやりと浮かぶその校舎を横目に、祐武は海条学園の旧校舎へと向かった。これには、ここまで割と冷静であった悠平も、少し不安になった。



--------------------

4. 〜旧校舎図書室~


古びた北校舎。普段は立ち入り禁止になっている場所だ。そこを奥へと進むと、月明かりに照らされて、薄輝く扉があった。


「ここだ。図書室」


祐武に導かれ、二人は旧校舎図書室へと入った。中には無数の本があり、カウンターと思われる所の近くには返却用の棚が置いてあった。祐武は上から三番目の段を、まるで指で埃を取り除くかのように軽くなぞった。


<"やまと"旧乗組員 戦術科 杉谷(すぎたに) 祐武(ひろむ)>


埃の取り除かれた木の板から、微かな文字が書かれたパネルが浮き上がった。その文字だけ、妙にデジタルな様相。


<同伴者をエントリーしてください>


次々とパネルが起き上がり、辺りが少し明るくなる。祐武は<同伴者:2人>と入力し、二人の同伴者を振り返った。


「君達が"やまと"旧乗組員の関係者であることを証明しなければならない。指紋認証、それからDNA鑑定の為に髪の毛が必要だ」


何故、そんなことを証明しなければならないのだろう。悠平は、この下に何があるのか、図りかねていた。香奈との間に、若干の沈黙が走る。


「――仕方ない」


まず素直に従ったのは、香奈だった。少し痛みに備える表情をして、直ぐに髪の毛を抜いた。それを見て、悠平もならう。


<"やまと"旧乗組員 家族 杉谷(すぎたに) 香奈(かな)>


<"やまと"旧乗組員 遺族 折笠(おりかさ) 悠平(ゆうへい)>


二つのパネルが起き上がった。


「君たちの名前は登録されている。近しい家族だからな。DNA鑑定は何故か長年義務付けられている。俺は指紋だけでも十分だと思うのだが」


そう言って、『エントリー完了』のパネルをタッチする祐武。すると、カウンター内の床が開き、下へと降りる階段が現れた。



やばかろう。


そう悠平は思った。この下に何があるのだろう。旧校舎を訪れること自体、海条学園の生徒にとっては不安で仕方のない事なのだ。こんな怪しい図書室からこんな怪しい階段を降りる事など、考えたくもなかった。


「さて……行くか」


何の躊躇もなく、祐武は階段を降りて行く。思わず、悠平と香奈は顔を見合わせた。


さすがの香奈も、父親には勝てないようだ。



----------------

5. 〜二人にとっての父の艦〜


長いな……。


最初はまっすぐ下りだった金属のこの階段も、次第に螺旋構造をとるようになった。三人はこの間、ずっと無言である。祐武は懐中電灯を持っているが、後方の悠平・香奈には、先導する祐武の他に見える物はない。時計の明かりを一瞬だけ灯し、時刻を確認する悠平。もう一時を回っている。本当に幽霊が出そうな時間だ。


悠平が螺旋構造に目を回してきた頃、周囲にはある変化が訪れていた。それは、音だ。


「海、ですか?」


そうだ、と祐武は返した。海岸を思わせる波打ちの音が、次第に大きくなっている。しかしすぐに、


「いや、正確にはそうではない」


と、祐武は自らの言を撤回した。


「ここは――」


螺旋階段は最後の段を終えた。一際大きな扉に手をかけ、祐武はさらに続ける。


「人の手で造られた海だからな」


コンクリート製の湿った床と、錆びた扉の擦れる音が耳に入る。


扉が、開いた。



巨大な、鋼鉄の、かたまり?


最初は、この目の前にある巨大な物が何であるか、悠平には理解が出来なかった。


「私と大悟は、共にこの船に乗っていた」


そうか、これは船だ。


悠平が生まれる前の時代のフォルム。多くがコンピュータ化されたこの(ふね)は、戦うためではなく『護る為』の艦であった。


「これが、"やまと"だ。日本(にっぽん)の、護衛艦だ」



---------------

回想. 〜17年前~


<日記 年:K110 月:10 日:29


護衛艦"やまと"は、新人研修航海にて、米国からの帰路についている。非番であった13時~22時の間に、ハワイ米軍基地に立ち寄り、燃料の補給を行ったそうだ。当直となる22時~6時の間に、本艦は日付変更線を西向き通過する見込み。天気・波、共に荒れ模様。引き継ぎ完了次第、以降は航海日誌に記すものとする。


杉谷祐武>


これで良し、と。もう夜10時か。そうだ、ご飯まだだったな。


祐武は船員室のベッドから降りた。この部屋は同期の折笠大悟と相部屋であるが、彼は現在当直なので、艦橋に詰めている。


そろそろ大悟は当直が終わった頃だろう。久々に、食堂で食うか。


(すぎ)(すぎ)!」


食堂へ行くと、やはり大悟は居た。当直を終えたためか、機嫌がやたらに良い。祐武を見つけてすかさず近寄ってきた。


「なあ、聞いてくれ」


「今日はえらく機嫌が良いんだな」


そう。大悟がこんなに機嫌の良いことは滅多にないのだ。祐武は、定食を見ていた視線を少し上げた。


「ちょうど当直も終わったしな。で、大ニュースだ」


「もったいぶるなよ」


大悟は精一杯間をためて、ためて、そして一気に言った。


「子どもが生まれたんだ!」


「美里にか?!」


大悟は嬉しそうに頷く。


「やったな! お前もようやく、父親になったか」


祐武は大悟の肩を叩いて笑った。



「男の子だ、名前は決めた」


「ユウサク、か?」


祐武が、お椀のお米を食べながら言う。


「いや、ユウヘイにしようと思う。悠長の『(ゆう)』に、『(たいら)』」


大悟は空中に指で『悠平』と書き、そう言った。


「香奈と仲良くなれればいいが」


折笠(おりかさ)大悟(だいご)杉谷(すぎたに)祐武(ひろむ)は同期であるが、年齢は祐武の方が一つ上で、既に一歳の娘・香奈(かな)と妻・侑子(ゆうこ)がハワイに移住している。数年後に、沢山の日本人を住まわせる人工島がハワイ沖に出来る計画で、杉谷家はそこで暮らす予定なのだ。


「その件だが、我が家はハワイに行かないことにしたんだ。すまないな。どうも美里(みり)との折り合いがつかなくて」


大悟は手を合わせて謝罪のポーズをとった。


「そうか……構わんよ。気軽に会えなくなるのは寂しいがね」


祐武は腕時計を見て、ゆっくりと立ち上がる。


しかしすぐに、異変に気がついた。


「参ったな。時計が止まってる。さっきまでは動いていたのに」


祐武の使う腕時計は電波式だ。たまにはこういうこともある。しかし、これを直すには再起動をしなければならず、手間がかかるのだ。


「じゃ、俺の使えよ。電波式じゃないけど」


大悟は自らの腕から時計を外し、祐武に差し出した。


「良いのか?」


「ああ、しばらく非番だしな。再起動は俺がしておくよ」


祐武は『ありがとう』と言って、時計を腕につけた。大悟はそれを見て、


「じゃ、当直頑張ってな」と笑った。


「うん。大悟、ゆっくり休めよ」


祐武も手を軽く上げて微笑み、食器を持ち、そして大悟の元を去った。大悟は軽く敬礼で返し、食券売り場へと歩き出す。



しかし、あいつが父親とはね。


艦橋へ向かう通路を歩きながら、祐武は思う。


子育て、下手そうだけどな、大。


祐武は苦笑いし、艦橋入口の前へ立った。



「杉谷、入ります!――高橋航海長、交代のお時間です」


「おお、しっかり頼むぞ」


祐武は艦橋に入り、先輩の航海長と交代した。計器は全て良好な数値を示していたが、艦橋から見る視界は悪い。相も変わらず、雨粒が強化ガラスを叩く。


「進路そのまま。ようそろ」


艦はゆっくりその足を踏み出し、着実に日本へと、長い海の道を歩んでいく。


引き継ぎを終え、祐武は軽く息をついた。


その時だった。


「レーダーに感! 未確認落下物体、本艦へ接近!」


レーダー士の声が突如響き渡った。艦橋は慌ただしくなり、


「避けられるか?!」


と焦った艦長が叫ぶほどであった。


「取り舵いっぱい、回避行動!」


"やまと"はすぐに艦首を左に向けたが、物体の落下速度はそれ以上ある。



祐武の耳に、艦橋乗組員の悲鳴が響き、一瞬、全てが闇に包まれた。



-----------------

6. 〜海底にそれは眠る~


「それからどれくらい経ったのか分からない。しかし気づいた時には、私は、いや、この艦の乗組員全員が"やまと"から投げ出されていた」


祐武は、二人を右舷側へと案内した。すると、艦橋後方へ刺さった、マルツの槍型兵器と見られる落下物体がよく見えた。


「その後、マルツの人型兵器が飛来して、アメリカを占領した。そして、日本の海上自衛隊は、"やまと"をそのまま持ち帰って調査しようとしたんだ。しかし、この艦は、それを拒否した」


祐武の言葉に、香奈は、


「この船に、意識があるって言うの?」


と不思議がった。


「それは私にも分からない。だが、この艦はただの沈没船のスクラップではない。それは断言出来る。ここにわざわざこうやって『保存』されているんだからな」


悠平は、槍型兵器が刺さった艦橋後方を見上げた。


ここで、父さんが……。



「――折笠、悠平君」


「私はこの目で、大悟が海へと沈んで行くのを見た。親友が目の前で死んでいくのに、何もできなかった」


祐武は視線を落とし、拳を握った。


「君もハワイへ赴くのだろう、だが、これだけは肝に命じておいて欲しい」


祐武は悠平を振り返り、まっすぐな視線で親友の息子を見つめた。


「ハワイ奪還作戦は、これまで防衛戦ばかりだった我々にとって、一つのチャンスだ。しかし、これは戦争に勝利するためのチャンスではない」


祐武は、香奈の方へも向き、さらに言葉を強めて言った。


「我々の最終目標は、一刻も早いマルツとの講和だ。三笠海軍も、海条学園も、民を護るためにあるのだ」



つづく

ありがとうございました。


次回は少し変則的で、初の共同作文です。



次回:内示

作文・設定:ダブトラ企画。

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