二人の時空間転移者
作文:けん
「お父さん、雨だね」
「ああ。今晩はひどくなりそうだな」
少女はゆっくりとカーテンを閉めた。
「ねぇ、お父さん」
「ん?」
「ホントに、戦争やってるの?」
「どういう意味だ?」
「だってお父さん、軍では偉い人なんでしょ? なのに、どうしてうちは平和なの?」
「それはね――」
父親の言葉を遮るように、爆発音がした。
電話が慌ただしく鳴った。
「何事だ!」
<……どうやら、そちらが米軍に察知されたようです! 今すぐ避難を――>
また、爆発音がした。
「どうしてここが!?」
父親が、外を見上げた。
彼らの自宅を照らすように、ヘリコプターが上空を旋回している。
『デテコイ』ヘリコプターが片言で叫んだ。
――ご丁寧に日本語使いやがって!
『ツギノコウゲキハ、イカクデハナイゾ』
だが、彼とて覚悟はできていた。
第三次世界大戦、こうやって日本が優勢に立っているのは、まぎれもなく、彼のおかげなのだ。
彼は国に命を捧げる覚悟を持っていた。
国家に強要されたわけではない。彼の信念である。
「逃げようよお父さん!」
しかし、娘だけは――
「お父さん!?」
「お前は、生きろ。俺と母さんの分まで」
ああ、俺の魔法は、この為にあったのかもしれない。
一瞬、彼はそう思った。
「お父さん、ちょっ……何言ってるの……!?」
一発目の爆弾が、家のバリアーを破った。
家が激しく揺れる。
次は、ひとたまりもない……
「お父さん!? お父さん!?」
娘は、逃げようとしない父を引っ張った。
しかし彼は、まっすぐに娘を見つめるのみだった。
「どこでもいい……死ぬなよ!!」
彼は神に祈るように言った。
そして、娘へ手を伸ばした。
「お父さ――」
突然、少女はどこかへ引っ張られた。目の前の景色は一瞬で消え去り、頭の中に電流が走った。
ここは、どこ……?
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「ただいま」
ここにも別の少女がいる。
彼女は、暗い顔をしていた。
「お父さんは?」
「帰ってないわ」
母は冷たく言い放つ。
「最近、帰ってこないね」
「知らないわ。勝手な人だもの」
「仕事が忙しいんだよ」
「そう、家族より、仕事の方が大切なんだわ」
「そんな……そこまでじゃ」
「ねぇ」
母親は、娘の正面に立った。
よく似ている二人である。
「申し訳ないけど、離婚することになったから」
母は、驚くほど冷淡に言った。
その冷たさに、娘は事態をのみ込めなかった。
「ど……どうして……?」
「もう、あの人にはついていけないのよ。お前は私が引き取るから、安心しなさい」
彼女が事態を理解したのは、自分の部屋で一人になってからだった。
確かに、近頃は仲が悪かったけれど。
まさか、そこまでになっていたなんて。
考えを巡らせるにつれ、涙が溢れてくる。
みんな、どこで間違ったのだろう。
「……?」
目の前が光った。
『ごめんなさい。上手くできなかった』
頭の中で、誰かの声が響いた。
『あなたを死なせたくない』
突然、少女はどこかへ引っ張られた。目の前の景色は一瞬で消え去り、頭の中に電流が走った。
ここは、どこ……?
〜2015〜
2/7:リニューアル