5-夢
――怖いよ。
妹が空を見上げてそう言った。
妖しい濃紺。暈た陽光。滲む宙。
怖くないよ。
そう答えた。
でも。
本当は怖かった。
避難所のような場所で、わたしと妹は空を見上げていた。母は父に連絡を取り続けている。
――なんで出ないの?
父はいつも肝心な時に連絡がつかなくなる。
妹が高熱を出した時も、祖父が亡くなった時も、父はいつも仕事でいなかった。
そういう時は携帯電話に掛けても職場に掛けても捕まらない。
父はタイミングが悪い人間なのだ。決して悪気があるわけじゃない。ただタイミングが悪いだけ。
わかっているけど、今日に限っては母だけじゃなくわたしだってイライラする。
――怖いよ。不安だよ。
本当は怖いんだよ、心細いんだよ。なんで傍にいてくれないの?
誰か知らない子供が泣いた。
避難所には続々と街の住人が集ってくる。その群れに父の姿を探した。
でもいなかった。
妹を見る。
妹は空を見る。見続けている。
怖いなら、見なければ良いのに。
「お父さん繋がった!」
母が大きな声でそう言った。嬉しいのはわかるけど、安心したのはわかるけど、そんなに大きな声を出されたら、わたしたちが恥ずかしいよ。
父はここに向かっているらしい。
わたしも安心した。妹も空を見るのを止めて笑っている。
これでもう安心だ――。
「あっ」
「どうした姉ちゃん」
まだ――ダメだ。
安心しちゃ――ダメだ!
わたしは駆け出した。母がどこへ行くのと叫んでいる。
――お婆ちゃん!
祖母がまだ――いない。全員が揃っていない。
いないのは――ダメだ。
わたしは走った。
祖母のところへ。
誰かがいないのは――厭だ!